8 / 30
第一章
第六話 犠牲
しおりを挟む
ひよちゃんを追って騒ぎの中心へ向かうと、そこは異常な事態に陥っていた。
「な、何あれ!」
「出目金です。共食いを続けるとああなります」
「完璧にモンスターじゃない……」
暴れているのはゆうに一メートルはあろうかとう出目金だった。口は大きく裂けていて巨大な牙が剥き出しになっている。自由自在に宙を飛び、獲物を見つけては飛び掛かる。獲物となっているのは何にも守られない鉢の人々だった。
「助けないと!」
「駄目です! これが出目金退治なんです!」
「は!? 何が退治よ! これじゃ死ぬのは人の方よ!」
「そうです。でもそうしなきゃ出目金を消すことはできないんです!」
「必要犠牲だとでも言いたいの!? ありえないわ!」
「じゃあどうするんですか! 瑠璃さんが代わりに死んであげますか!? 生者がいる限り出目金はどんどん出てきます!」
ひよちゃんの剣幕に私は無意識に身体が震えて動けなくなった。
確かにその通りだ。今ここで私が躍り出たところで死ぬ人間が変わるだけで、何が終結するわけでもない。
「……人を食べると消えるのはどうして? 共食いで大きくなるんでしょ?」
「鉢の人は出目金じゃないですもん。出目金は出目金以外を食べると消化不良で消えるんです」
必要犠牲だ。自分で言っておいて私はそう思ってしまった。そう思うと生贄同然の彼らを助けに行こうとした脚は震えて途端に動かなくなってしまう。
どうしよう、どうしよう。そう震えるしかなかったが、そんな私を突き飛ばして躍り出た者がいた。
「どけ雛依! 戦う気のない奴は邪魔だ!」
「楓さん!?」
楓を筆頭に数名の男女がどこからともなく飛び出てきた。
全員がレザーのパンツで、和服ばかりのこの世界には似つかわしくない。だが目を引いたのは手に持っている物だ。それは私が良く知っている物だった。
網! お父さんのだわ!
彼らは皆西洋剣か銃を携えながら、連携して出目金に網をかぶせていく。すると出目金の皮膚がじゅうじゅうと焼け、次第に出目金は動かなくなっていった。動かなくなったところに銃を打ち込み西洋剣で少しずつ切っていく。決して無茶苦茶に飛びつくようなことはせず、一歩ずつ着実に息の根を止めていくようだった。
「あれも破魔矢にカウントされるのかしら」
「もちろんです。破魔屋さんは黒曜様の破魔矢をもってる人の集まりなんです」
「なるほど。出目金退治組織なわけだ。ならもっと大々的に活動すればいいじゃない」
「破魔屋さんは数人しかいないんです。破魔矢も消耗すればいずれ使えなくなる」
「……そうよね。特に銃は弾丸が必要だし」
「僕らだってこれが良いと思ってるわけじゃありません。だから結様は出目金を退治する方法を探しているんです。そしてようやく瑠璃さんを見つけた」
「わ、私?」
「お願いです! 破魔矢を作って下さい! 僕らにはまだ黒曜様の力が必要なんです!」
ひよちゃんは涙を堪えながら訴えた。その後ろではまだ出目金が何匹か飛んでいて、破魔屋の数人では対処が追い付いていないようだった。人々は泣き叫び逃げ続けている。
ポケットを撫でると、そこには父の作ってくれた数珠が――破魔矢が入っている。これは父の形見だ。現世に戻れない今、父の形見はもうこれしかない。
けれど私はポケットからそれを取り出しひよちゃんの眼前に突き出した。
「破魔矢!」
「使って良いわ。ただし飴と交換よ!」
「は、はい! あります! あげます!」
「ならいいわ」
私はぐっと数珠を握った。黒いもやだったあれらにぶつけると弾け飛び粉々になってしまった。きっとこれはもう手元には戻ってこないだろう。
けれど私はそっとひよちゃんの手に握らせた。
「どうするかはひよちゃんの自由よ」
「は、はい! 有難うございます!」
ひよちゃんは数珠を引っ掴んで走り出した。出目金が恐ろしくないのか一直線に向って行き、片っ端から数珠で殴っていく。ただそれだけなのに出目金は消え、何匹か消した時に数珠はついに砕け散ってしまった。
けれどその頃には出目金も全て消えていて、辺りは安堵のため息と喜びの声でにぎわっていた。それを聞くと父の形見を失くした寂しさよりも、必要犠牲などと思った自分の醜さが許されたような気がした。
破魔屋の人々はまだ警戒しよう、見回りだ、と警備に向かうようだった。若旦那の側仕えという地位にあるひよちゃんを守ることもなく散っていく。その手にはしっかりと西洋剣――破魔矢が握りしめられている。
納品先は鯉屋で破魔屋じゃなかった。けど彼らは破魔矢を持っている。つまり破魔屋は身内で、鯉屋から独立した一組織なんだ。なら若旦那と交換交渉をすれば私は生きていける。
遠くでひよちゃんがきゃっきゃとはしゃいでいた。鉢の人とも仲が良いようだ。
ポケットを撫でると空だった。父のくれた数珠はもうない。けれど作り方は覚えている。
……それに放ってはおけない。こんなのは間違ってる!
父の遺してくれた物はもう何も無い。けれど父の全ては私の中にあった。
「な、何あれ!」
「出目金です。共食いを続けるとああなります」
「完璧にモンスターじゃない……」
暴れているのはゆうに一メートルはあろうかとう出目金だった。口は大きく裂けていて巨大な牙が剥き出しになっている。自由自在に宙を飛び、獲物を見つけては飛び掛かる。獲物となっているのは何にも守られない鉢の人々だった。
「助けないと!」
「駄目です! これが出目金退治なんです!」
「は!? 何が退治よ! これじゃ死ぬのは人の方よ!」
「そうです。でもそうしなきゃ出目金を消すことはできないんです!」
「必要犠牲だとでも言いたいの!? ありえないわ!」
「じゃあどうするんですか! 瑠璃さんが代わりに死んであげますか!? 生者がいる限り出目金はどんどん出てきます!」
ひよちゃんの剣幕に私は無意識に身体が震えて動けなくなった。
確かにその通りだ。今ここで私が躍り出たところで死ぬ人間が変わるだけで、何が終結するわけでもない。
「……人を食べると消えるのはどうして? 共食いで大きくなるんでしょ?」
「鉢の人は出目金じゃないですもん。出目金は出目金以外を食べると消化不良で消えるんです」
必要犠牲だ。自分で言っておいて私はそう思ってしまった。そう思うと生贄同然の彼らを助けに行こうとした脚は震えて途端に動かなくなってしまう。
どうしよう、どうしよう。そう震えるしかなかったが、そんな私を突き飛ばして躍り出た者がいた。
「どけ雛依! 戦う気のない奴は邪魔だ!」
「楓さん!?」
楓を筆頭に数名の男女がどこからともなく飛び出てきた。
全員がレザーのパンツで、和服ばかりのこの世界には似つかわしくない。だが目を引いたのは手に持っている物だ。それは私が良く知っている物だった。
網! お父さんのだわ!
彼らは皆西洋剣か銃を携えながら、連携して出目金に網をかぶせていく。すると出目金の皮膚がじゅうじゅうと焼け、次第に出目金は動かなくなっていった。動かなくなったところに銃を打ち込み西洋剣で少しずつ切っていく。決して無茶苦茶に飛びつくようなことはせず、一歩ずつ着実に息の根を止めていくようだった。
「あれも破魔矢にカウントされるのかしら」
「もちろんです。破魔屋さんは黒曜様の破魔矢をもってる人の集まりなんです」
「なるほど。出目金退治組織なわけだ。ならもっと大々的に活動すればいいじゃない」
「破魔屋さんは数人しかいないんです。破魔矢も消耗すればいずれ使えなくなる」
「……そうよね。特に銃は弾丸が必要だし」
「僕らだってこれが良いと思ってるわけじゃありません。だから結様は出目金を退治する方法を探しているんです。そしてようやく瑠璃さんを見つけた」
「わ、私?」
「お願いです! 破魔矢を作って下さい! 僕らにはまだ黒曜様の力が必要なんです!」
ひよちゃんは涙を堪えながら訴えた。その後ろではまだ出目金が何匹か飛んでいて、破魔屋の数人では対処が追い付いていないようだった。人々は泣き叫び逃げ続けている。
ポケットを撫でると、そこには父の作ってくれた数珠が――破魔矢が入っている。これは父の形見だ。現世に戻れない今、父の形見はもうこれしかない。
けれど私はポケットからそれを取り出しひよちゃんの眼前に突き出した。
「破魔矢!」
「使って良いわ。ただし飴と交換よ!」
「は、はい! あります! あげます!」
「ならいいわ」
私はぐっと数珠を握った。黒いもやだったあれらにぶつけると弾け飛び粉々になってしまった。きっとこれはもう手元には戻ってこないだろう。
けれど私はそっとひよちゃんの手に握らせた。
「どうするかはひよちゃんの自由よ」
「は、はい! 有難うございます!」
ひよちゃんは数珠を引っ掴んで走り出した。出目金が恐ろしくないのか一直線に向って行き、片っ端から数珠で殴っていく。ただそれだけなのに出目金は消え、何匹か消した時に数珠はついに砕け散ってしまった。
けれどその頃には出目金も全て消えていて、辺りは安堵のため息と喜びの声でにぎわっていた。それを聞くと父の形見を失くした寂しさよりも、必要犠牲などと思った自分の醜さが許されたような気がした。
破魔屋の人々はまだ警戒しよう、見回りだ、と警備に向かうようだった。若旦那の側仕えという地位にあるひよちゃんを守ることもなく散っていく。その手にはしっかりと西洋剣――破魔矢が握りしめられている。
納品先は鯉屋で破魔屋じゃなかった。けど彼らは破魔矢を持っている。つまり破魔屋は身内で、鯉屋から独立した一組織なんだ。なら若旦那と交換交渉をすれば私は生きていける。
遠くでひよちゃんがきゃっきゃとはしゃいでいた。鉢の人とも仲が良いようだ。
ポケットを撫でると空だった。父のくれた数珠はもうない。けれど作り方は覚えている。
……それに放ってはおけない。こんなのは間違ってる!
父の遺してくれた物はもう何も無い。けれど父の全ては私の中にあった。
0
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く
液体猫
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/
香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。
ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……
その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。
香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。
彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。
テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。
後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。
シリアス成分が少し多めとなっています。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる