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episode6-2
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そして翌日、早くも美咲の自宅にアンドロイドの配送専門の宅急便BOXが届いた。
アンドロイドやパソコンのように繊細な機器には専用の梱包資材があるのだ。
美咲は丁寧にアンドロイドを梱包し会社へ配送すると翌日には会社に届いたようで、メール室からインターンのフリーアドレス席付近まで配達されていた。
ここまでやってくれるのか、と美咲はメール室のある方向へ手を合わせ拝むように頭を下げた。
「何の宗教?」
「漆原さん! 見て下さい! 出勤したら届いてました! メール室って持って来てくれるんですね!」
「そらそーだろ。そういう部署だ」
「あー、感謝の気持ちが無い。毎日の事だから当然と思ってたら罰あたりますよ」
「はいはい。で? それが拾ったアンドロイド?」
「です。開けよう開けよう」
専用梱包なだけに、揺れ動いても大丈夫なようにガッチリ固定され隙間なく緩衝材が詰められているから取り出すのも一苦労だ。
梱包した時は気付かなかったが取り出すのは力仕事で、ふんぎぎぎぎ、と美咲は引っ張り出そうとしたがそれでも出てこない。
「力任せに引っ張るな。壊れるだろ。こっち外すんだよ」
「え? あ、そうなんですか。先に言って下さいよ」
「開封方法の説明書付いてんだろ。まずは説明を読め」
漆原は同封されていた紙を拾って美咲の額にぺんっと貼り付けた。
普通に渡してくれよとブツブツ文句をこぼすが、その間に漆原はするすると開封を続けあっという間にアンドロイドを取り出した。そしてアンドロイドをすぐ隣のフリースペースに寝かせると、何も見ずに解体をし始めた。
「あ、あの、そんな適当に開けちゃって大丈夫ですか」
「適当なわけねえだろ。設計図通りやってる」
「嘘ですよ。明らかに何も見ずにやってるじゃないですか」
「んなの覚えたに決まってんだろ」
「うえっ!?」
自分が作った物ならまだしも、他人の、それもチーム複数名で検討した設計図を暗記するなんて普通は無理だ。いや、自作であっても全て暗記は無理だ。
それをこの数日で全て記憶したなんて到底美咲には考えられない。
「……実は漆原さんがアンドロイドですか?」
「寝ぼけるのは寝起きだけにしろ。ほら。俺の作業独占なんてレアだからガン見しとけ」
「は、はいっ!」
他の社員も見せてくれと群がっていたが、個人情報が詰め込まれているであろうアンドロイドを一般人に見せるわけにはいかないと追い払われた。
いいなー、と羨む視線を浴びるのは得した気分で美咲は優越感に浸った。
「ニヤついてないで見ろよ。ここ。これが型番だ」
漆原は解体した首正面内部を指差した。
そこには三センチメートル四方ほどの小さなプレートがはめこまれていて、長い英数字が刻まれている。
「AR-139-3-6293-0」
「これが型番な。これを購入情報と照合すれば持ち主が分かる。はい、じゃあ購入情報データベース開いて」
「どこにあるんですか?」
「管理画面あんだろ。マニュアルを開けよ」
美咲とて読んでいないわけではない。
だが作業に必要な管理画面は目的別に計六個も存在する。
「管理画面多すぎですよ。もうちょいスマートな管理方法無かったんですか。運用コスト高すぎですよ」
「……お前そういう目の付け所は良いな」
「だって明らかに手間じゃないですか。ユーザーがどう感じるかを踏まえて開発して下さいよ」
美咲が面倒くさいなあ、と文句ばかり言う様子をじいっと見て、漆原は何かを考えたようだった。
「なんですか?」
「いや、別に。気にするな」
「はあ」
美咲は言われた通り気にせず管理画面にアクセスした。
すると、画面に表示されたのは真っ白な背景に検索ウィンドウと、作業目的を選択するチェックボックスが三つ並ぶだけのシンプルなウェブブラウザだ。
管理画面というには操作する場所が少なくて不安になるが、逆にこれならやるべき事が検索であると分かるのでいいかもしれない。
「ええと、型番で検索。AR-139-3-6293-0……」
美咲は購入者名・購入日時・型番というチェックボックスから型番を選んでAR-139-3-6293-0を入力する。
すると画面にこれまたシンプルなテーブルが表示され、そこには購入者名と購入日時、住所、電話番号など様々な情報が並んでいた。漆原はモニターを覗き込む。
「購入者は藤堂小夜子。この時代の女性でA-RGRYを買いメンテナンス続けてるって事は十中八九アンドロイド依存症だな」
「やっぱそうですよね。やばくないですか? 末期だったら自殺の可能性ありますよ」
「ああ。捜索願出て無いか見てみるか」
アンドロイドの捜索願は警察ではなく販売元にも通知がされ、その情報管理とカスタマーサポートはメール室が行っている。
漆原はメール室への問い合わせ専用チャットで調査を依頼すると、秒で回答が届いた。
「メール室凄いですね」
「俺の部署なんだから当然。捜索願出てるな。持ち主の住所も載ってるし、これなら届けてわりだ」
「あ、そうなんですね。よかった。じゃあメール室に配送頼んでおきます」
インターンだし開発部の業務内の事は終わりだ。
アンドロイドの配送ならメール室がやってくれるから自分はこれで終わりだろう、と美咲は席を立った。しかし漆原に後ろからゴンッと叩かれた。
「何で叩くんですか!」
「終わりじゃねえんだよ。返却はお前も行くんだよ」
「何でですか。配送はメール室なんですよね」
「アホ。所有権がお前に移ってるから権利譲渡手続きが必要なんだよ。お前がやるの」
漆原は共用キャビネットに設置されている書類に手を伸ばして美咲に渡した。
そこには『権利譲渡承諾証明書』と記載がされている。
「持ち主不明の所有権はメーカーに戻るんじゃないんですか?」
「お前マンションの管理人として保護したんだろ? 私有地で保護したらその時点で所有権がその土地の代表者に移る」
「へ!? 何で!?」
「権利問題回避策という名の押し付け政策だ。管理人やるなら覚えとけ。お前は権利譲渡者として行く必要があるんだよ」
「うえ~……」
「我慢しろ。俺も一緒に行ってやるから」
「え、本当ですか」
「お前はうちのインターンだからな。遺失物隠匿なんて企業としては本来あるまじきことだ。謝罪はしておきたい」
「隠匿……」
「明日行くからな。こっから車出してやるから」
「……は~い……」
結局そういう面倒な手続きはあるんだ、と美咲はがっくり肩を落とした。
アンドロイドやパソコンのように繊細な機器には専用の梱包資材があるのだ。
美咲は丁寧にアンドロイドを梱包し会社へ配送すると翌日には会社に届いたようで、メール室からインターンのフリーアドレス席付近まで配達されていた。
ここまでやってくれるのか、と美咲はメール室のある方向へ手を合わせ拝むように頭を下げた。
「何の宗教?」
「漆原さん! 見て下さい! 出勤したら届いてました! メール室って持って来てくれるんですね!」
「そらそーだろ。そういう部署だ」
「あー、感謝の気持ちが無い。毎日の事だから当然と思ってたら罰あたりますよ」
「はいはい。で? それが拾ったアンドロイド?」
「です。開けよう開けよう」
専用梱包なだけに、揺れ動いても大丈夫なようにガッチリ固定され隙間なく緩衝材が詰められているから取り出すのも一苦労だ。
梱包した時は気付かなかったが取り出すのは力仕事で、ふんぎぎぎぎ、と美咲は引っ張り出そうとしたがそれでも出てこない。
「力任せに引っ張るな。壊れるだろ。こっち外すんだよ」
「え? あ、そうなんですか。先に言って下さいよ」
「開封方法の説明書付いてんだろ。まずは説明を読め」
漆原は同封されていた紙を拾って美咲の額にぺんっと貼り付けた。
普通に渡してくれよとブツブツ文句をこぼすが、その間に漆原はするすると開封を続けあっという間にアンドロイドを取り出した。そしてアンドロイドをすぐ隣のフリースペースに寝かせると、何も見ずに解体をし始めた。
「あ、あの、そんな適当に開けちゃって大丈夫ですか」
「適当なわけねえだろ。設計図通りやってる」
「嘘ですよ。明らかに何も見ずにやってるじゃないですか」
「んなの覚えたに決まってんだろ」
「うえっ!?」
自分が作った物ならまだしも、他人の、それもチーム複数名で検討した設計図を暗記するなんて普通は無理だ。いや、自作であっても全て暗記は無理だ。
それをこの数日で全て記憶したなんて到底美咲には考えられない。
「……実は漆原さんがアンドロイドですか?」
「寝ぼけるのは寝起きだけにしろ。ほら。俺の作業独占なんてレアだからガン見しとけ」
「は、はいっ!」
他の社員も見せてくれと群がっていたが、個人情報が詰め込まれているであろうアンドロイドを一般人に見せるわけにはいかないと追い払われた。
いいなー、と羨む視線を浴びるのは得した気分で美咲は優越感に浸った。
「ニヤついてないで見ろよ。ここ。これが型番だ」
漆原は解体した首正面内部を指差した。
そこには三センチメートル四方ほどの小さなプレートがはめこまれていて、長い英数字が刻まれている。
「AR-139-3-6293-0」
「これが型番な。これを購入情報と照合すれば持ち主が分かる。はい、じゃあ購入情報データベース開いて」
「どこにあるんですか?」
「管理画面あんだろ。マニュアルを開けよ」
美咲とて読んでいないわけではない。
だが作業に必要な管理画面は目的別に計六個も存在する。
「管理画面多すぎですよ。もうちょいスマートな管理方法無かったんですか。運用コスト高すぎですよ」
「……お前そういう目の付け所は良いな」
「だって明らかに手間じゃないですか。ユーザーがどう感じるかを踏まえて開発して下さいよ」
美咲が面倒くさいなあ、と文句ばかり言う様子をじいっと見て、漆原は何かを考えたようだった。
「なんですか?」
「いや、別に。気にするな」
「はあ」
美咲は言われた通り気にせず管理画面にアクセスした。
すると、画面に表示されたのは真っ白な背景に検索ウィンドウと、作業目的を選択するチェックボックスが三つ並ぶだけのシンプルなウェブブラウザだ。
管理画面というには操作する場所が少なくて不安になるが、逆にこれならやるべき事が検索であると分かるのでいいかもしれない。
「ええと、型番で検索。AR-139-3-6293-0……」
美咲は購入者名・購入日時・型番というチェックボックスから型番を選んでAR-139-3-6293-0を入力する。
すると画面にこれまたシンプルなテーブルが表示され、そこには購入者名と購入日時、住所、電話番号など様々な情報が並んでいた。漆原はモニターを覗き込む。
「購入者は藤堂小夜子。この時代の女性でA-RGRYを買いメンテナンス続けてるって事は十中八九アンドロイド依存症だな」
「やっぱそうですよね。やばくないですか? 末期だったら自殺の可能性ありますよ」
「ああ。捜索願出て無いか見てみるか」
アンドロイドの捜索願は警察ではなく販売元にも通知がされ、その情報管理とカスタマーサポートはメール室が行っている。
漆原はメール室への問い合わせ専用チャットで調査を依頼すると、秒で回答が届いた。
「メール室凄いですね」
「俺の部署なんだから当然。捜索願出てるな。持ち主の住所も載ってるし、これなら届けてわりだ」
「あ、そうなんですね。よかった。じゃあメール室に配送頼んでおきます」
インターンだし開発部の業務内の事は終わりだ。
アンドロイドの配送ならメール室がやってくれるから自分はこれで終わりだろう、と美咲は席を立った。しかし漆原に後ろからゴンッと叩かれた。
「何で叩くんですか!」
「終わりじゃねえんだよ。返却はお前も行くんだよ」
「何でですか。配送はメール室なんですよね」
「アホ。所有権がお前に移ってるから権利譲渡手続きが必要なんだよ。お前がやるの」
漆原は共用キャビネットに設置されている書類に手を伸ばして美咲に渡した。
そこには『権利譲渡承諾証明書』と記載がされている。
「持ち主不明の所有権はメーカーに戻るんじゃないんですか?」
「お前マンションの管理人として保護したんだろ? 私有地で保護したらその時点で所有権がその土地の代表者に移る」
「へ!? 何で!?」
「権利問題回避策という名の押し付け政策だ。管理人やるなら覚えとけ。お前は権利譲渡者として行く必要があるんだよ」
「うえ~……」
「我慢しろ。俺も一緒に行ってやるから」
「え、本当ですか」
「お前はうちのインターンだからな。遺失物隠匿なんて企業としては本来あるまじきことだ。謝罪はしておきたい」
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