【キャラ文芸大賞 奨励賞】変彩宝石堂の研磨日誌

真野蒼子

文字の大きさ
6 / 12
一人目 矢野硝子~アレキサンドライトとクリソベリル~

第五話 死んだ尖との再会

しおりを挟む

 「ど、どう、なに、なんで、尖、うそ、だってうちに遺骨が」
 「たしかに俺の骨は家にある。でも肉はここにある」
 「ひいっ!」

 硝子は尖に腕を掴まれ、殴るようにその手を振り払った。
 いてっ、と尖は口を尖らせて、その拗ねた顔は生きていた頃の尖そのものだった。

 「どうして、なんで生きてるの、あの時、あの時、たしかに」

 確かに尖は死んだのだ。
 その遺体を確認して火葬もし、だから遺骨がある。当時の姿でそのまま闊歩するはずが無いのだ。
 しかも少し成長しているように見える。尖が死んだのはまだ幼さの残る容姿をした十二歳の頃だったが、目の前の少年はもう少し上で十五歳かそこらに見える。

 顔がどんどん土気色になっていく硝子を見て、尖はくくっとあくどい笑みを浮かべた。
 そしてガツガツと乱暴な歩き方で硝子を壁まで追いつめ、ずいっと顔を近づけて硝子の顎を掴み上げた。硝子は、あうっ、とうめき声をあげた。
 そして尖はにいっ、と口角を吊り上げ気味悪く笑った。

 「ごめんな。せっかく殺したのに出てきちまって」
 「……は?」

*

 尖が入院していた病院の傍には崖があった。
 断崖絶壁というわけではないが、落ちたら大怪我をするか海に呑まれてしまうのは確実で、投身自殺や落下事故もあり立ち入り禁止となっていた。
 しかしそれも柵があるだけで侵入は可能だ。
 そして硝子は尖を連れて崖に立ち、ぶつぶつぶつぶつと呟いていた。

 「もう無理なんだね……もう無理なの……」

 尖はお姉ちゃん、お姉ちゃん、と硝子の手を掴んでいた。これ以上後ろに下がれば落ちてしまう。それなのに硝子はじりじりと歩を進めてくる。
 お姉ちゃん、と尖は叫んだ。何度も叫んだ。そして硝子は――

 「うわあああああああああああ!!!」

 尖の手を振り払ったのだ。
 そしてその十日後その場所で、尖の遺体が発見された。


 「俺を見つけたのは警察だった。それも死後十日も経ってからだ。そしてあんたは捜索願を出してなかった。理由は気が動転して頭が回らなかったから?いいや、違う」

 硝子は迫りくる尖の向こうに金緑の姿を見つけた。
 恐怖に顔を歪めて助けを求める硝子に手を振った。そして尖はガアンと音を立てて硝子の顔の真横を踏みつけた。

 「せっかく殺したお荷物を見つけてほしくなかったんだよな!」
 「いやあああっ!!」

 硝子は耳を塞いで床に転がった。
 ははは、と尖は声を上げて笑っていたけれど、さすがに見かねたようで、金緑が後ろからぺんっと尖の頭を叩いた。

 「いじめるのはそれくらいにしたらどうだい」

 いつも通りの穏やかで美しい声に硝子は勢いよく金緑を見上げた。
 硝子が手を伸ばすと金緑はその手を取り立ち上がらせてくれる。ほっと一息つき金緑の背に隠れようとしたけれど、金緑は硝子を掴んで尖の前に突き出した。

 「ほら、すっかり怯えてしまった。これからまた二人で一緒に暮らすのに、これでは気まずいじゃないか」
 「……一緒、に、暮らす?」
 「何を鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてるんだい?当然じゃあないか。弟の面倒はお姉ちゃんが見てあげないと」
 「ま、まって。まってよ。あなたが連れて来たんでしょ。あなたがどうにかしてよ!」
 「ええ?僕は連れてきてないよ。勝手に来たんだよ」
 「姉さんは俺と一緒は嫌なのかよ。まあそうか。殺したいほど憎い弟だもんな」
 「ちが」
 「違う?憎くない?じゃあよかった!一緒に帰ろう!」
 「え、え、ええ、え」

 事態に頭が付いていかない硝子はきょろきょろと辺りを見回す。
 誰かがいるわけはないのに、誰か、誰か、と唇を震えさせた。もう金緑に助けを求める事すらできない。
 裏切られた、硝子は心の中で泣き叫んだ。あれほど楽しい毎日は全て嘘だったのだ。こうして尖に差し出すために繋ぎとめていただけだったのだ。

 硝子はぼろぼろと涙を流した。
 しかし金緑は何も言わず、尖はふうん、とつまらなそうに眉をひくりと動かした。
 そして硝子の耳元に唇を寄せてこそっと呟いた。

 「金緑さんが好きなの?駄目だろ。姉さんは弟殺しの罪悪に苦しみながら生き続けるんだから」

 硝子はぎょっと驚いたような顔をして、ふるふると首を振って尖から距離を取った。
 しかしそんな事を尖が許すはずも無くて、硝子は尖に抱え込まれた。

 「俺と引き換えに入れたものを見せてくれよ、姉さん」

 そう言って尖はひょいっと硝子を抱き上げた。
 硝子はなすすべなく、震えながら抱き上げられるしかなかった。

 「君のアレキサンドライトはどんな二面性を持っているのか、磨きあがりが楽しみだね。罪悪の姫」

 金緑はただ美しく微笑んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

月の綺麗な夜に終わりゆく君と

石原唯人
恋愛
ある日、十七才の春に僕は病院で色のない少女と出会う。 それは、この場所で出会わなければ一生関わる事のなかった色のない彼女とモノクロな僕の 秘密の交流。 彼女との交流によって諦観でモノクロだった僕の世界は少しずつ色づき始める。 十七歳、大人でも子どもでもないトクベツな時間。 日常の無い二人は限られて時間の中で諦めていた当たり前の青春へと手を伸ばす。 不器用な僕らの織り成す物語。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...