37 / 37
エピローグ
しおりを挟む
涙の別れを経て、累が現世に戻って数か月が経過した。
けれどそこにあるのは変わらぬいつもの光景だ。
「結~!元気だったか~!」
「一昨日も会ったじゃない」
「毎日会いたいんだ俺は~!会えない日があるとか耐えられない……」
「生きてた時より今の方がずっと会ってるよ」
累は錦鯉を十数匹連れて現世に戻り、それからは錦鯉を連れて行く事で鯉屋を往復をしていた。
輪廻回廊が出入り口になっているのだが、出た先は街から徒歩で一時間ほど離れた場所だった。そこには大正時代を思わせる内装の小さな一戸建てが建っていて、なんでも黒曜が現世に来た時に使っているらしい。
今日は結が累の金魚屋を訪れていてるのだが、これにはちゃんと目的があった。
「いちゃつくの後にして納品数確認してよね!」
「え~」
ガンッと累の椅子を蹴飛ばしたのは飴屋の新菜だ。
出目金を除去する装置の燃料となる飴をこうして持ってきてくれている。
成分と製法を教えてくれと頼んだけれど頑として頷いてくれず、その謎は解明できないまま今に至る。
結はぶつぶつ不満そうにしていたが、こうして納品にくる必要があれば結に会う理由にもなるので累は嬉しかった。
「依都、神威。数えて」
「はーい」
「あんた自分で数えなさいよ。当主なのよ、依都は」
「いいのいいの。結様との時間を満喫させないとこの後使い物にならなくなるから」
依都と神威は宣言通り累に付いてきた。
金魚屋の看板は任せられません、と依都は当主の仕事だと言い切った。今まで依都がやってきた金魚屋は他の人間に任せ、今はたまに顔を出しながら引継ぎをしている。
神威は相変わらず依都にくっついていて、この二人は何も変らない。
相変わらずだなあと結はクスクスと笑った。
「そっちはどうだ?出目金片付いたのか?」
「厳しい。思ってたよりあの世界広いんだよ」
出目金の新規出現は無くなったものの、既に発生している出目金は手作業で消していく必要がある。
だが神威のように戦える人間は少なく、破魔屋は思うほど戦力にならなかった。銃があるとはいえ、襲われたら怖い事に変わりはない。
これは黒曜率いる破魔屋が引っ張ってくれると期待していたが、神威がいなくなったというのが想像していた以上に打撃が大きかった。
それは戦闘能力ではなく『最強である神威が見切りをつけた頼りない組織だ』という見方をされる事が多く、協力してくれる人間が一気に減ったのだ。
特に鉢は累と依都までもが神威と共に行ってしまったショックが大きく、新たなリーダーとなる人材が必要となっていた。
いくら経済や経営を改革してもこればっかりはどうしようもなく、見込みのある人間がいれば片っ端からスカウトしている段階だ。
「累は問題無いの、金魚屋」
「ある。出目金て現世でも人間襲うんだよ」
「え!?何それ。どうやって?」
「なんつーか、こう、身体に入り込んで魂食うみたいな」
「うげえ。それどうなるの?意識が戻らないとか?」
「精神疾患になるみたいだな。人によるけど」
「こっちの出目金問題精神版だね」
「ほんとだよ。しかも生者は俺らの事も見えないからどうしようもないし」
累は死んだわけではないから現世に戻れば普通の人間に戻るのだろうと思われていたが、どういうわけか誰の目にも映らないようだった。
あちら生まれの依都と神威はそうなるだろうと予想していたが、これは予想外だった。
結は、戻ったら大学に通って普通の生活もして欲しいと思っていただけにこれには相当落ち込んでいた。
けれど累はこれからの時間を全て結のために使えるのが嬉しかったし、何よりも自分だけが年老いて先に死ぬことは無いのが嬉しかった。
だから気にするなと言っても結は落ち込んだ顔をしていて、それ以来累は今が最高に幸せだと分からせるため、以前にも増して結にべったりになっていた。
「そういやあれは?金魚屋に迷い込んで来る生者」
「結の言う通り、金魚の未練の対象みたいだな。見つめ合ったかと思えば連れて帰る。何なんだろうなあれ」
「未練の対象ねー……」
金魚は未練を持った魂だ。
それが鯉屋にやって来て鯉屋は輪廻転生を見送るわけだが、現世ではどういう物なのかは依都も知らなかった。金魚屋といっても金魚の生態に詳しいわけではない。
累達は出目金の事しか考えていなかったのでそこに手を出すかどうするかはあまり考えておらず、一先ず出目金に食われないよう今まで通り水槽にいれている。
放って多くと消えていくのでおそらく鯉屋に移ったのだろうと思われるが、ここはまだ解明できていない。
結は金魚帖という物を作って金魚を管理し始めているが、あまり先は見えていない。
黒曜には意味無いから止めろといわれたようだが、元大旦那の提案で続行となった。というのも、仕事を増やして鉢の人間の働き口にしてやろうという、累のやっていた方法を受け継いだようだった。今は一刻も早く全てを結に引継ぎ鯉屋を継いでもらおうと二人で頑張っている。
するとその時、依都がぶんぶんと手を振って慌てた様子で走って来た。
「累さーん!結様ー!来たよ!来た!」
ガタッと二人は同時に立ち上がった。ぎゅっと手を繋ぎ深呼吸して、よし、と依都の方へと歩いて行く。
あっちです、と依都は店を出て外へと連れ出した。すると、依都の指差した先には一組の男女が並んでいた。
ぼうっと店を眺めていたけれど、累と結を見てひどく驚いたようだった。女性はがたがたと震えて膝から崩れ落ち、男性は慌てて抱きかかえた。
累と結は顔を見合わせて二人に近づき、累は金魚屋の店長として手を差し伸べた。
「ようこそ金魚屋へ。待ってたよ。父さん、母さん」
けれどそこにあるのは変わらぬいつもの光景だ。
「結~!元気だったか~!」
「一昨日も会ったじゃない」
「毎日会いたいんだ俺は~!会えない日があるとか耐えられない……」
「生きてた時より今の方がずっと会ってるよ」
累は錦鯉を十数匹連れて現世に戻り、それからは錦鯉を連れて行く事で鯉屋を往復をしていた。
輪廻回廊が出入り口になっているのだが、出た先は街から徒歩で一時間ほど離れた場所だった。そこには大正時代を思わせる内装の小さな一戸建てが建っていて、なんでも黒曜が現世に来た時に使っているらしい。
今日は結が累の金魚屋を訪れていてるのだが、これにはちゃんと目的があった。
「いちゃつくの後にして納品数確認してよね!」
「え~」
ガンッと累の椅子を蹴飛ばしたのは飴屋の新菜だ。
出目金を除去する装置の燃料となる飴をこうして持ってきてくれている。
成分と製法を教えてくれと頼んだけれど頑として頷いてくれず、その謎は解明できないまま今に至る。
結はぶつぶつ不満そうにしていたが、こうして納品にくる必要があれば結に会う理由にもなるので累は嬉しかった。
「依都、神威。数えて」
「はーい」
「あんた自分で数えなさいよ。当主なのよ、依都は」
「いいのいいの。結様との時間を満喫させないとこの後使い物にならなくなるから」
依都と神威は宣言通り累に付いてきた。
金魚屋の看板は任せられません、と依都は当主の仕事だと言い切った。今まで依都がやってきた金魚屋は他の人間に任せ、今はたまに顔を出しながら引継ぎをしている。
神威は相変わらず依都にくっついていて、この二人は何も変らない。
相変わらずだなあと結はクスクスと笑った。
「そっちはどうだ?出目金片付いたのか?」
「厳しい。思ってたよりあの世界広いんだよ」
出目金の新規出現は無くなったものの、既に発生している出目金は手作業で消していく必要がある。
だが神威のように戦える人間は少なく、破魔屋は思うほど戦力にならなかった。銃があるとはいえ、襲われたら怖い事に変わりはない。
これは黒曜率いる破魔屋が引っ張ってくれると期待していたが、神威がいなくなったというのが想像していた以上に打撃が大きかった。
それは戦闘能力ではなく『最強である神威が見切りをつけた頼りない組織だ』という見方をされる事が多く、協力してくれる人間が一気に減ったのだ。
特に鉢は累と依都までもが神威と共に行ってしまったショックが大きく、新たなリーダーとなる人材が必要となっていた。
いくら経済や経営を改革してもこればっかりはどうしようもなく、見込みのある人間がいれば片っ端からスカウトしている段階だ。
「累は問題無いの、金魚屋」
「ある。出目金て現世でも人間襲うんだよ」
「え!?何それ。どうやって?」
「なんつーか、こう、身体に入り込んで魂食うみたいな」
「うげえ。それどうなるの?意識が戻らないとか?」
「精神疾患になるみたいだな。人によるけど」
「こっちの出目金問題精神版だね」
「ほんとだよ。しかも生者は俺らの事も見えないからどうしようもないし」
累は死んだわけではないから現世に戻れば普通の人間に戻るのだろうと思われていたが、どういうわけか誰の目にも映らないようだった。
あちら生まれの依都と神威はそうなるだろうと予想していたが、これは予想外だった。
結は、戻ったら大学に通って普通の生活もして欲しいと思っていただけにこれには相当落ち込んでいた。
けれど累はこれからの時間を全て結のために使えるのが嬉しかったし、何よりも自分だけが年老いて先に死ぬことは無いのが嬉しかった。
だから気にするなと言っても結は落ち込んだ顔をしていて、それ以来累は今が最高に幸せだと分からせるため、以前にも増して結にべったりになっていた。
「そういやあれは?金魚屋に迷い込んで来る生者」
「結の言う通り、金魚の未練の対象みたいだな。見つめ合ったかと思えば連れて帰る。何なんだろうなあれ」
「未練の対象ねー……」
金魚は未練を持った魂だ。
それが鯉屋にやって来て鯉屋は輪廻転生を見送るわけだが、現世ではどういう物なのかは依都も知らなかった。金魚屋といっても金魚の生態に詳しいわけではない。
累達は出目金の事しか考えていなかったのでそこに手を出すかどうするかはあまり考えておらず、一先ず出目金に食われないよう今まで通り水槽にいれている。
放って多くと消えていくのでおそらく鯉屋に移ったのだろうと思われるが、ここはまだ解明できていない。
結は金魚帖という物を作って金魚を管理し始めているが、あまり先は見えていない。
黒曜には意味無いから止めろといわれたようだが、元大旦那の提案で続行となった。というのも、仕事を増やして鉢の人間の働き口にしてやろうという、累のやっていた方法を受け継いだようだった。今は一刻も早く全てを結に引継ぎ鯉屋を継いでもらおうと二人で頑張っている。
するとその時、依都がぶんぶんと手を振って慌てた様子で走って来た。
「累さーん!結様ー!来たよ!来た!」
ガタッと二人は同時に立ち上がった。ぎゅっと手を繋ぎ深呼吸して、よし、と依都の方へと歩いて行く。
あっちです、と依都は店を出て外へと連れ出した。すると、依都の指差した先には一組の男女が並んでいた。
ぼうっと店を眺めていたけれど、累と結を見てひどく驚いたようだった。女性はがたがたと震えて膝から崩れ落ち、男性は慌てて抱きかかえた。
累と結は顔を見合わせて二人に近づき、累は金魚屋の店長として手を差し伸べた。
「ようこそ金魚屋へ。待ってたよ。父さん、母さん」
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
面白かったです!
面白かったです。