金魚すくいは世界をすくう!~双子が廻る魂の世界~

真野蒼子

文字の大きさ
36 / 37

最終話 双子の離別

しおりを挟む
 「死分けは魂の輪廻の中核。人類を、引いては世界を救う必須業務。絶対に誰かが現世に行く必要があります」

 あ、と全員が目を見合わせた。
 やりたいと立候補できるかというと、この世界生まれの人間には抵抗があった。
 累と結がこちらに連れてこられて困惑したのと同じように、まったく違う世界に行く事になる。こちらの生活もあり身内や友人もいる。
 それを全部捨てるのだ。
 依都は初めて累があれほど必死に弟を求めたのか身を持って分かり、ふいっと目をそらし神威の袖をぎゅっと握りしめた。
 そしてそれは他の誰もがそうで、即決できるわけはない。それはもちろん結にも分かっていたし、だからといってこの世界の見知らぬ誰かを派遣するにはあまりにも未知数の挑戦だ。
 結はぎゅっと手を握りしめた。そして、その手を累がぽん、と優しく包んだ。

 「結」
 「累……」

 累はぎゅうと結を抱きしめた。
 いつもと同じ双子の兄の腕の心地よさに、ぽすんと身を預ける。

 「僕のせいでこんなところまで付き合わせちゃったね」
 「馬鹿言うな。俺は一人で生きるくらいならお前と死にたい」

 あまりにも重い言葉に、普段の依都と神威ならぎゃいぎゃいとからかっただろう。
 けれど双子が一分一秒を惜しむようにお互いを抱きしめている姿に何も言う事が出来なくなっていた。

 「結のわがままは全部俺が叶えてやる」

 累はもう一度強く結を抱きしめた。
 ぐす、とどちらかが鼻をすする音が聞こえて、少しすると二人は身体を放し手を繋いだ。

 「俺が現世で金魚屋をやる。お前は鯉屋を継ぐんだ」
 「……うん」

 別れを惜しむように抱き合っていた累がそう言うだろう事は誰もが感じ取っていた。
 けれど紫音は自分が代わりにと言うのは恐ろしかったし、大旦那を名乗っていた男はまったく揺らぐことなく黒曜を見つめている。そしてその黒曜は結を監視するようにじいっと睨んでいた。
 胸中は様々だが誰も何も言えず、けれどそれは違うと思った依都は飛び出し累の着物を引っ張った。

 「駄目です!だって、そしたら結様と離れ離れですよ!誰が結様を守るんですか!」
 「旦那方が守ってくれるよ。大事な跡取りだからな」
 「でも!!」

 じゃあどうするんだと言われたら依都にも回答は無いけれど、それでも依都はじゃあお願いしますとは言えず涙を浮かべた。
 累はべそをかく依都の頭をぽんっと軽く撫でた。

 「喜べ!みんなが地道にやってきた金魚掬いが世界を救うんだぞ!」

 累は金魚屋は凄いんだ、と笑って依都の頭をわしゃわしゃと掻き回した。
 依都は口をぎゅっと結んでぶるぶると震えると、はいっ、と大きく手を上げた。

 「僕も行きます!金魚屋の当主は僕です!手柄横取りされちゃたまんないですよ!」
 「駄目だ。出目金と争う可能性が高い。俺は普通の人間だから噛まれて痛いで終わるけど依都は消えるかもしれない」
 「なら俺も行く。よりを守るのは俺の役目だ」
 「神威君?」
 「よりのために神威になった。俺はよりと一緒にいる」

 神威はひょいと依都を抱き上げた。
 依都はうう、と小さく唸ったけれど神威にぎゅうっと抱き着いた。累は困ったように、けれど嬉しそうに微笑んだ。
 そして最愛の弟に向き直り、そうっとその真っ白な頬を両手で包み込む。結はその手を握り、二人はコツンと額を合わせた。
 
 「俺は金魚屋で」
 「僕は鯉屋で」
 「こっちの事は頼んだからな」
 「現世の事は任せたよ」

 二人はそのまましばらく強く抱きしめ合っていた。

 が――

 「……旦那。錦鯉がいれば往復できるんだろ?」
 「できる」
 「シッ!邪魔しちゃ駄目!」

 二度と会え無いわけじゃないと伝える雰囲気になったのは一時間後だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

処理中です...