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最終話 双子の離別
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「死分けは魂の輪廻の中核。人類を、引いては世界を救う必須業務。絶対に誰かが現世に行く必要があります」
あ、と全員が目を見合わせた。
やりたいと立候補できるかというと、この世界生まれの人間には抵抗があった。
累と結がこちらに連れてこられて困惑したのと同じように、まったく違う世界に行く事になる。こちらの生活もあり身内や友人もいる。
それを全部捨てるのだ。
依都は初めて累があれほど必死に弟を求めたのか身を持って分かり、ふいっと目をそらし神威の袖をぎゅっと握りしめた。
そしてそれは他の誰もがそうで、即決できるわけはない。それはもちろん結にも分かっていたし、だからといってこの世界の見知らぬ誰かを派遣するにはあまりにも未知数の挑戦だ。
結はぎゅっと手を握りしめた。そして、その手を累がぽん、と優しく包んだ。
「結」
「累……」
累はぎゅうと結を抱きしめた。
いつもと同じ双子の兄の腕の心地よさに、ぽすんと身を預ける。
「僕のせいでこんなところまで付き合わせちゃったね」
「馬鹿言うな。俺は一人で生きるくらいならお前と死にたい」
あまりにも重い言葉に、普段の依都と神威ならぎゃいぎゃいとからかっただろう。
けれど双子が一分一秒を惜しむようにお互いを抱きしめている姿に何も言う事が出来なくなっていた。
「結のわがままは全部俺が叶えてやる」
累はもう一度強く結を抱きしめた。
ぐす、とどちらかが鼻をすする音が聞こえて、少しすると二人は身体を放し手を繋いだ。
「俺が現世で金魚屋をやる。お前は鯉屋を継ぐんだ」
「……うん」
別れを惜しむように抱き合っていた累がそう言うだろう事は誰もが感じ取っていた。
けれど紫音は自分が代わりにと言うのは恐ろしかったし、大旦那を名乗っていた男はまったく揺らぐことなく黒曜を見つめている。そしてその黒曜は結を監視するようにじいっと睨んでいた。
胸中は様々だが誰も何も言えず、けれどそれは違うと思った依都は飛び出し累の着物を引っ張った。
「駄目です!だって、そしたら結様と離れ離れですよ!誰が結様を守るんですか!」
「旦那方が守ってくれるよ。大事な跡取りだからな」
「でも!!」
じゃあどうするんだと言われたら依都にも回答は無いけれど、それでも依都はじゃあお願いしますとは言えず涙を浮かべた。
累はべそをかく依都の頭をぽんっと軽く撫でた。
「喜べ!みんなが地道にやってきた金魚掬いが世界を救うんだぞ!」
累は金魚屋は凄いんだ、と笑って依都の頭をわしゃわしゃと掻き回した。
依都は口をぎゅっと結んでぶるぶると震えると、はいっ、と大きく手を上げた。
「僕も行きます!金魚屋の当主は僕です!手柄横取りされちゃたまんないですよ!」
「駄目だ。出目金と争う可能性が高い。俺は普通の人間だから噛まれて痛いで終わるけど依都は消えるかもしれない」
「なら俺も行く。よりを守るのは俺の役目だ」
「神威君?」
「よりのために神威になった。俺はよりと一緒にいる」
神威はひょいと依都を抱き上げた。
依都はうう、と小さく唸ったけれど神威にぎゅうっと抱き着いた。累は困ったように、けれど嬉しそうに微笑んだ。
そして最愛の弟に向き直り、そうっとその真っ白な頬を両手で包み込む。結はその手を握り、二人はコツンと額を合わせた。
「俺は金魚屋で」
「僕は鯉屋で」
「こっちの事は頼んだからな」
「現世の事は任せたよ」
二人はそのまましばらく強く抱きしめ合っていた。
が――
「……旦那。錦鯉がいれば往復できるんだろ?」
「できる」
「シッ!邪魔しちゃ駄目!」
二度と会え無いわけじゃないと伝える雰囲気になったのは一時間後だった。
あ、と全員が目を見合わせた。
やりたいと立候補できるかというと、この世界生まれの人間には抵抗があった。
累と結がこちらに連れてこられて困惑したのと同じように、まったく違う世界に行く事になる。こちらの生活もあり身内や友人もいる。
それを全部捨てるのだ。
依都は初めて累があれほど必死に弟を求めたのか身を持って分かり、ふいっと目をそらし神威の袖をぎゅっと握りしめた。
そしてそれは他の誰もがそうで、即決できるわけはない。それはもちろん結にも分かっていたし、だからといってこの世界の見知らぬ誰かを派遣するにはあまりにも未知数の挑戦だ。
結はぎゅっと手を握りしめた。そして、その手を累がぽん、と優しく包んだ。
「結」
「累……」
累はぎゅうと結を抱きしめた。
いつもと同じ双子の兄の腕の心地よさに、ぽすんと身を預ける。
「僕のせいでこんなところまで付き合わせちゃったね」
「馬鹿言うな。俺は一人で生きるくらいならお前と死にたい」
あまりにも重い言葉に、普段の依都と神威ならぎゃいぎゃいとからかっただろう。
けれど双子が一分一秒を惜しむようにお互いを抱きしめている姿に何も言う事が出来なくなっていた。
「結のわがままは全部俺が叶えてやる」
累はもう一度強く結を抱きしめた。
ぐす、とどちらかが鼻をすする音が聞こえて、少しすると二人は身体を放し手を繋いだ。
「俺が現世で金魚屋をやる。お前は鯉屋を継ぐんだ」
「……うん」
別れを惜しむように抱き合っていた累がそう言うだろう事は誰もが感じ取っていた。
けれど紫音は自分が代わりにと言うのは恐ろしかったし、大旦那を名乗っていた男はまったく揺らぐことなく黒曜を見つめている。そしてその黒曜は結を監視するようにじいっと睨んでいた。
胸中は様々だが誰も何も言えず、けれどそれは違うと思った依都は飛び出し累の着物を引っ張った。
「駄目です!だって、そしたら結様と離れ離れですよ!誰が結様を守るんですか!」
「旦那方が守ってくれるよ。大事な跡取りだからな」
「でも!!」
じゃあどうするんだと言われたら依都にも回答は無いけれど、それでも依都はじゃあお願いしますとは言えず涙を浮かべた。
累はべそをかく依都の頭をぽんっと軽く撫でた。
「喜べ!みんなが地道にやってきた金魚掬いが世界を救うんだぞ!」
累は金魚屋は凄いんだ、と笑って依都の頭をわしゃわしゃと掻き回した。
依都は口をぎゅっと結んでぶるぶると震えると、はいっ、と大きく手を上げた。
「僕も行きます!金魚屋の当主は僕です!手柄横取りされちゃたまんないですよ!」
「駄目だ。出目金と争う可能性が高い。俺は普通の人間だから噛まれて痛いで終わるけど依都は消えるかもしれない」
「なら俺も行く。よりを守るのは俺の役目だ」
「神威君?」
「よりのために神威になった。俺はよりと一緒にいる」
神威はひょいと依都を抱き上げた。
依都はうう、と小さく唸ったけれど神威にぎゅうっと抱き着いた。累は困ったように、けれど嬉しそうに微笑んだ。
そして最愛の弟に向き直り、そうっとその真っ白な頬を両手で包み込む。結はその手を握り、二人はコツンと額を合わせた。
「俺は金魚屋で」
「僕は鯉屋で」
「こっちの事は頼んだからな」
「現世の事は任せたよ」
二人はそのまましばらく強く抱きしめ合っていた。
が――
「……旦那。錦鯉がいれば往復できるんだろ?」
「できる」
「シッ!邪魔しちゃ駄目!」
二度と会え無いわけじゃないと伝える雰囲気になったのは一時間後だった。
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