怪しいバイト、行ってみた

濃霧

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番外編

悪い夢(2)△※

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 Kの作ったカレーを平らげ、Nが買ってきていた酒を飲んだ。中身のない会話をしつつ、夜はゆっくりと更けていく。

「さて」

 食器を流し台へ運んだNは、戻ってくるなりKの手を取った。

「おいで」

「どこに?」

 Kは気の抜けた声で聞いた。赤く染まった目元を指先で撫でられても、普段のように振り払ったりしない。くすぐったそうに目を細めるだけだ。
 人知れず、Nの喉が鳴った。

「来ればわかるよ」

 Kは数秒考えて、それからこくんと頷いた。素直に手を引かれて歩く姿はあどけない。

 前を歩くNは、迷うことなくその扉を開けた。部屋の電気を点けずに入っていくものだから、Kは暗闇に呑まれていくような感覚に陥った。

 ぼうっとしていると、とんと押されて、やわらかい何かに体が沈んだ。馴染みのある感覚だ。

「もう寝るの?」

 そう尋ねると、暗闇からくすっと笑う声が聞こえた。声の方を見つめると、だんだん人の形が見えてくる。

「寝ないよ。もう少し起きていなきゃね」

「うん……?」

 パチッと音がして、ベッドの傍の間接照明が点いた。淡い光に映し出されるNの顔は、いつもよりも妖しく見えた。

 右手を指を絡めて握られる。次は左手も。Kは戸惑い、潤んだ瞳を微かに揺らした。

 焦れったくなるほどゆっくりと顔が近づいてくる。Kはただぼうっとそれを見つめ、やがて唇が重なった。

「ん……」

 顔が離れ、確かめるような視線がKをなぞる。その顔に抵抗や嫌悪の色がないのを見ると、再び唇を寄せた。

 角度を変えて何度も重ねては、吸いつく。リップ音が静かな寝室にやけに響いて聞こえた。

 唇が溶けてなくなってしまうのではないかというほど、何時間も唇を吸われた気がした。弾んだ息の拍子に口が少し開いたのを逃さず、舌が割り込んでくる。

「んっ、ふっ、んんぅ」

 鼻にかかった甘い声が漏れる。堪らえようと意識しても堪えられない。あまりに気持ちよくて涙が滲んだ。

 口の端からどちらのものともつかない唾液が溢れた。熱い舌がそれを舐め取っていく。舌はそのまま首筋を辿り、吸いついて跡を残した。

「ばんざいして」

「ん」

 さっと部屋着を脱がされ、火照った身体に触れる空気がちょうどよかった。

「こら、まだ寝ちゃだめ」

 心地よさにつられて目を瞑ったKの頬を、冷たい手がぺちぺちと叩く。

「ねむい……」

「眠いね。でも寝ないよ」

 Kは「なんで?」と思ったが声には出さなかった。熱い舌に胸の尖りを舐められて、それどころではなくなったからだ。

「んっ、やっ、やだぁ」

「痛い?」

 Kはふるふると首を横に振った。痛くはない。ただ変な感じがした。

 片方を舌で、もう片方を指先で執拗に弄られる。そのうちに変な感じが気持ち良さに変化してくる。

「腰揺れてる。イきたい?」

「うん……」

 その声とほぼ同時に、下も脱がされた。露わになった肌を手のひらが擦る。しかし、にはなかなか触れてくれない。

 耐えきれなくなって伸ばした手は、あっけなく阻まれた。両手を束ねるようにして頭の上で抑えられ、もどかしさが募る。

「なんでっ……」

「イきたい? ならお願いして」

「お願い?」

「イかせてって」

 酒が回った頭がぐるぐるして、羞恥ともどかしさが同時にKに襲いかかってくる。

 迷う隙を与えないように、赤く熟れた尖りがつままれる。指の先で捏ねられ、答えを急がせる。

「んっ……ぁんっ、んんぅ……」

「言えない? ならこのままだよ」

 見下ろす顔は言葉の割にやさしかった。その顔を見て、もういいかとタガが外れた。

「……お願い。イかせて」

 その言葉にNは目をみはってから、薄く微笑んだ。

「いいよ」

 待ちに待った快感が訪れ、思わず腰が浮いた。自分のものではない手が中心を包み、緩急をつけて扱く。Kは声を上げて果てた。

「んぅ……」

「よくイけたね。偉い」

「えらい?」

「ん。偉いよ」

 よくわからないが褒められている。Kは気分が良くなって子どものように笑った。

 甘く気だるい余韻に浸っている横で、Nは吐き出された白濁を指に纏わせた。
 何をしているのかと思っていると、後孔に違和感が走った。

「んぇ……っ」

「痛くない? 痛かったら言って」

 指は縁をなぞるように動いた後、ぬぷっと侵入してきた。本来入る場所ではないため、尋常でない異物感だ。しかし痛いかと言われるとそうでないため、Kは耐えた。

「ここらへんの……これかな」

「ぁんっ」

 ある箇所をぐにっと押されると、腰がびくんと跳ねた。確認するように何度も刺激され、再び中心が熱を持つ。

「あっ、ああっ、まっ、むりっ、やぁっ」

「ここだね。気持ちいい?」

「きもちいっ、きもちいいいっ」

「ん。気持ちいいね。ずっとトントンしてあげるからね」

「まっ、ぁ、まって、もう、くるしっ、んっ」

 気持ち良いが、絶頂するまでには至らない。まさに快感地獄だった。涙がボロボロとこぼれる。
 Nはその様子に気づいているはずなのに、指を止める気配がなかった。
 トントン、トントンと規則的に動かされる指におかしくなってしまいそうだった。

「お願いっ……触って、もぅ、イきたいっ」

「よくできました」

 Nが満足そうに言う。中心を擦り上げられながらナカを刺激されるのは、得も言われぬ快感だった。Kはぶるりと身を震わせてイッた。

 ところが指は止まらず、それどころか2本、3本と増やされ、怪しげに動いた。

「ま、まだ……?」

「まだ。ちゃんと解れてからじゃないと」

 話が噛み合っていない気がして、Kの頭には大きなはてなマークが浮かんだ。

 埋め込んだ3本の指を好き勝手に動かし、やがてNは呟いた。

「もう入るね」

 ずるりと指を抜かれ、何ともいえない喪失感に眉を下げると、宥めるように鼻先にキスをされた。

「安心して。すぐ満たしてあげる」

 緩んだ後孔に熱い、硬いものが触れた。かと思うと、押し拡げながら入ってくる。

「うぁ、はっ、はぁ……」

「息止めないで、深く吐いて。そしたら自然に吸えるから」

「はぁー……すぅー……」

「そう、上手」

 体の中に、それが深く埋まっていく。
 まさに物理的に満たされるという感じだった。少しの隙間もない。言われた通りに息をしようとしても、圧迫感に息が浅くなってしまう。

 一緒懸命に呼吸を繰り返すKの下腹を、指の長い手がゆっくりと撫でた。

「全部入ったよ」

「う……」

「苦しい?」

「ちょっと」

 眉をひそめてそうこぼすと、下腹にあった手がKの手をとった。ガーゼに触れないように指を絡めてきつく握られる。途端に、なぜだか呼吸がしやすくなった気がした。圧迫感よりも、手の方に意識が向いたからだろうか。

「動くよ」

 馴染ませるように軽く揺らしたあと、Nは動き出した。長いストロークで、ギリギリまで抜いてから、最奥まで穿つ。Nは器用に、Kの弱いところを掠めていく。
 そうして違和感がじりじりと、快感に変わっていった。

「ぁあっ、んぁっ、ひぃ、あんっ、あああっ」

 トチュン、トチュン、トチュンとあられもない音が立つ。Kは普段いがみ合っている男の腕の下で、我を忘れて啼いた。

 次第にストロークが短く、小刻みに速くなっていく。もうすぐアレが来る。

「あっ、はやぃ、あぁっ、はぁっ……」

「ぐっ……」

 覆いかぶさる体の重みでより深く刺され、激しくイきながら注がれた。手は最後まで握られたままだった。

「N、おれ……」

 言いかけた口を人さし指がそっと押さえた。ぱちぱちと目を瞬かせると、目を細めた男は言った。

「それは、素面のときに聞かせてね」


  ✻


「また悪い夢だ……」

 薄明るくなった部屋で、Kは呟いた。その声が妙に掠れていることに気づく。加えて腰が怠い。

「え……?」

 隣で寝息を立てる背中を見つけ、Kは愕然とした。

「夢……じゃない…………?」

 Kは頭を抱え、ベッドの中に深く潜ると目を閉じた。これも悪い夢なのだと信じて。






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