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第1章 左遷と「雇用を守る」嘘
本社・会議室
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「君には、子会社統合プロジェクトの人事責任者として、現地常駐を任せる」
会議室の白い壁に、冬の午後の光が冷たく跳ね返っていた。空調の乾いた風が喉を刺す。私はペン先を止めない。火消しは、反射でやる。驚いた顔を見せたら負けだ。
長机の向こう、人事部長の佐伯は、いつも通り穏やかに微笑んでいる。穏やかすぎて、怖い。隣の課長が気まずそうに視線を外し、紙コップのコーヒーを両手で包んだ。私だけが、最初から燃えている前提で座らされている。
配布資料の一枚目には大きくスローガン――『雇用を守るための統合』。その下に、私の名前と、異動先。子会社名の横に「常駐」の二文字が黒く太い。
「本社の顔として頼むよ。現場は荒れている。噂も、感情も、全部燃料だ」
燃料。言い方がもう、火事だ。
「…理由は」
「適任だから。君は規程を盾にも剣にもできる。恋愛禁止条項を作ったのも、運用してきたのも君だろう?」
胸の奥が、わずかに痛む。あれは守るための条項だった。社内恋愛が“口の軽さ”に変わり、買収計画が外へ出かけた夜――正しさで誰かを壊した。救急車のサイレン、夜更けの病院、私の署名。二度と、同じことを起こさないために。
佐伯は私の痛みを知っている顔で、さらに言う。
「雇用は守る。…建前としてね」
一瞬、笑みの縁が歪んだ。私は書類を受け取り、判を押す。震えは、紙の上で止める。
「明日から現地入り。社長が手強いらしいよ」
「人は手強い方が、燃え方が綺麗です」
口にしてから、自分の声が冷たすぎて笑えなかった。
会議室のドアを出た瞬間、スマホが震えた。差出人は“現地総務”。件名は短い。
――『到着前に確認願います。統合関連・内部資料あり』
会議室の白い壁に、冬の午後の光が冷たく跳ね返っていた。空調の乾いた風が喉を刺す。私はペン先を止めない。火消しは、反射でやる。驚いた顔を見せたら負けだ。
長机の向こう、人事部長の佐伯は、いつも通り穏やかに微笑んでいる。穏やかすぎて、怖い。隣の課長が気まずそうに視線を外し、紙コップのコーヒーを両手で包んだ。私だけが、最初から燃えている前提で座らされている。
配布資料の一枚目には大きくスローガン――『雇用を守るための統合』。その下に、私の名前と、異動先。子会社名の横に「常駐」の二文字が黒く太い。
「本社の顔として頼むよ。現場は荒れている。噂も、感情も、全部燃料だ」
燃料。言い方がもう、火事だ。
「…理由は」
「適任だから。君は規程を盾にも剣にもできる。恋愛禁止条項を作ったのも、運用してきたのも君だろう?」
胸の奥が、わずかに痛む。あれは守るための条項だった。社内恋愛が“口の軽さ”に変わり、買収計画が外へ出かけた夜――正しさで誰かを壊した。救急車のサイレン、夜更けの病院、私の署名。二度と、同じことを起こさないために。
佐伯は私の痛みを知っている顔で、さらに言う。
「雇用は守る。…建前としてね」
一瞬、笑みの縁が歪んだ。私は書類を受け取り、判を押す。震えは、紙の上で止める。
「明日から現地入り。社長が手強いらしいよ」
「人は手強い方が、燃え方が綺麗です」
口にしてから、自分の声が冷たすぎて笑えなかった。
会議室のドアを出た瞬間、スマホが震えた。差出人は“現地総務”。件名は短い。
――『到着前に確認願います。統合関連・内部資料あり』
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