恋愛禁止条項の火消し屋は、子会社社長を守る側に立つ

swingout777

文字の大きさ
9 / 80
第2章 ホテル写真の裏:男を匿う社長

早朝・社長動線の洗い出し

しおりを挟む
朝の空気は、夜の脅しをいったん洗い流す。――洗い流したふりをするだけで、底には残るけれど。

私は子会社の会議室に一番乗りして、机の上に写真をプリントアウトした。社内共有のスクショ。拡散されたコメント付き。雑音が多いほど、火は広がる。だから私は雑音を剥ぐ。火消し屋の仕事は、火元の特定から始まる。

「ホテル密会」

その五文字の下にあるのは、光と影と、角度と、時間。写真の右下に印字されたタイムスタンプは、21:47。外灯の影の伸び方、濡れた路面の反射、背後の看板の明るさ。撮影位置は二階以上、斜め――向かいの立体駐車場か、隣のビルの非常階段。いずれにせよ、一般の通行人が偶然撮れる高さじゃない。

私は地図アプリを開き、ホテル周辺の航空写真にピンを落とす。立体駐車場、空き地、裏口、死角。昨夜、社長が私に見せた「22:30 ホテル裏口」のピンと、同じ場所に重なる。偶然じゃない。ここを狙って撮っている。

次に見るのは、社長の動線だ。昨日の社長は昼まで工場ラインに立っていた。袖をまくり上げたまま、人の目の前に立ち続けるタイプ。こういう人は、嘘が下手だ。下手だからこそ、写真の“紳士的な動作”が効く。ドアを押さえて相手を先に入れる――あの仕草は、作れる人がいる。でも、昨日の彼には“作る余裕”がなかった。

私は総務の出勤記録を呼び出した。社長車の入出庫記録、ゲートの通過ログ。時刻は、写真の前後で矛盾がない。
問題は“誰と”“なぜ”“誰が見ていたか”だ。

コピー機の起動音が部屋に響いたとき、私はふと、廊下の近い距離を思い出した。

「触った奴から消される」

あの言い方は脅しというより、経験則だった。守りたい人ほど、燃え方を知っている。

デスクに戻り、ホテルの公式サイトで館内図を確認する。正面玄関のカメラ位置、裏口の動線、ロビーの見通し。――ここまでやっても、ホテル側の防犯カメラが見られるわけじゃない。でも、“見られたくない動き”は、館内図だけでも読める。

写真の一枚目で二人が歩いている位置は、正面玄関へ向かう角度じゃない。あれは「裏口へ回る」角度だ。つまり、撮影者は“裏口に向かう動き”を知っていた。

知っていたのは、社長か。告発者か。――違う。社長は「見られるな」と言った。見られることを恐れていた。恐れていた人が、わざわざ最適な見られ方を選ぶはずがない。

私は紙に線を引く。

・裏口へ向かう予定を知っていた人物
・撮影位置(高所)を確保できた人物
・拡散の導線(社内共有の最初の投下先)を持つ人物

最初の投下先は、子会社の“全社連絡”じゃない。総務の小さなグループチャットだ。そこから現場の班長たちへ、瞬く間に落ちた。総務に、火種を運ぶ人がいる。

その瞬間、会議室のドアがノックされた。

「……福本さん」

昨日、封筒を渡してきた吉岡が、青い顔で立っている。

「今朝、社長が怒ってまして。『誰が漏らした』って」

吉岡は唇を震わせ、声を落とした。

「それと……ホテルの駐車場、今朝から“立ち入り禁止”になりました。誰かが、鍵を替えたみたいです」

鍵を替える。証拠を消す動きが早すぎる。

私はプリントアウトした写真を一枚、指先で叩いた。火は、もう燃えている。――なら、燃えているうちに、火元まで走るしかない。

「吉岡さん。立ち入り禁止にしたの、誰の指示ですか」

そう訊いた私に、吉岡は一瞬だけ目を逸らし、絞り出すように言った。

「……本社、です」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛

春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜

みかん桜
恋愛
身長172センチ。 高身長であること以外ごく普通のアラサーOL、佐伯花音。 婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。 「名前からしてもっと可愛らしい人かと……」ってどういうこと? そんな男、こっちから願い下げ! ——でもだからって、イケメンで仕事もできる副社長……こんなハイスペ男子も求めてないっ! って思ってたんだけどな。気が付いた時には既に副社長の手の内にいた。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

先輩、お久しぶりです

吉生伊織
恋愛
若宮千春 大手不動産会社 秘書課 × 藤井昂良 大手不動産会社 経営企画本部 『陵介とデキてたんなら俺も邪魔してたよな。 もうこれからは誘わないし、誘ってこないでくれ』 大学生の時に起きたちょっとした誤解で、先輩への片想いはあっけなく終わってしまった。 誤解を解きたくて探し回っていたが見つけられず、そのまま音信不通に。 もう会うことは叶わないと思っていた数年後、社会人になってから偶然再会。 ――それも同じ会社で働いていた!? 音信不通になるほど嫌われていたはずなのに、徐々に距離が縮む二人。 打ち解けあっていくうちに、先輩は徐々に甘くなっていき……

距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」 そう言ってグッと肩を抱いてくる 「人肌が心地良くてよく眠れた」 いやいや、私は抱き枕ですか!? 近い、とにかく近いんですって! グイグイ迫ってくる副社長と 仕事一筋の秘書の 恋の攻防戦、スタート! ✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼ 里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書 神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長 社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい ドレスにワインをかけられる。 それに気づいた副社長の翔は 芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。 海外から帰国したばかりの翔は 何をするにもとにかく近い! 仕事一筋の芹奈は そんな翔に戸惑うばかりで……

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

処理中です...