器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。

武雅

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Sランクポーションの効果

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竜の牙との事を聞いた後、渋るバイルさんをスラムの人にも協力してもらい半ば強引に、連れて宿に戻った。
スラムの人は最初反対したものの今日来た3人組はバイルさんが生きていると都合が悪い人に雇われた人で、バイルさんを殺す為なら次は数を揃えてまた来るなり深夜襲撃される可能性があると伝えると、今度は反対にバイルさんの身の安全を確保できるならとこぞって説得に当たってくれた。

スラムの人達にはバイルさんの居所を聞かれたら、ルイーズさんの所に行ったと言うようにお願いし無駄に抵抗したり口を閉ざしたりしないようにとお願いした。
これもスラムの人達の多くは反対したが、Aランク冒険者の所に行ったと言えばチンピラごときでは手を出せなくなり、スラムにも被害が出ないからと説得をした。
うん、勝手にルイーズさんの名前を使ったけど、どうせ今朝竜の牙にはギルドで絡まれ嫌悪感丸出しだったからまあ、竜の牙の思い通りにならないようになると知ったらそこまで怒らないだろう…、と思ってた。

ゴッツ!!
宿に戻り、事情をカトレアとルイーズさんに説明したら、有無を言わさずルイーズさんから拳骨を落とされた…。
いや、昼間っから酒飲んでもう寝てるからルイーズさんには明日の朝説明と思ってたのに、カトレアと二人で早々に宿の食堂にある酒を飲み尽くし、その後はお茶を飲みながらカトレアの昔話を聞いていたらしい。

拳骨を落とされた頭をさすりながら、バイルさんは自分がルミナ村に居た時に親身になって面倒を見てくれた冒険者のパーティーのリーダーで、竜の牙によって嵌められてレーナさん以外を殺された被害者だと言うと、ルイーズさんが、盛大にため息をついたもののそれ以上怒る事も無かった。

「それで、竜の牙とあたしを争わせる気かい?」
「いや、争わせるとかじゃなくって、バイルさんの安全を確保するというか、竜の牙に諦めさせるというか…」

「カツヒコ、あなたが言ってること自体がルイーズと竜の牙を争わせることになるのよ! 少しは考えなさい」
「既にスラムには竜の牙に雇われたであろうチンピラが来たし、バイルさんをどうやって守るかって考えたらここが安全かと…」

カトレアとルイーズさん、2人から視線を向けられ、しどろもどろに答えていると、それを見ていたバイルさんは迷惑はかけられないと言って宿を出て行こうとする。

「待ちな!!! あんたのことを抜きにしても、あたしらはアイツらに喧嘩を吹っ掛けられてるんだ、今更あんたが転がり込んだ所で、良くも悪くも変わりゃしないから気にせずここに居な!」
「だが俺が居れば、アイツらに命を狙われるぞ?」

「ふん、あたしがあんなだまし討ちしか出来ないような盗賊まがいの冒険者に負けるとでも? 向こうからやってきたら二度と冒険者を名乗れないようにしてやるさ!」

ルイーズさんがそう息巻いているのを確認し、宿を出て行こうとするバイルさんを押すようにして連れ戻し椅子に座らせる。

「それで、俺を囲ってどうするんだ? 見ての通り右腕も無い、左腕も右足も傷のせいで満足に動かせない、そんな状態の俺はあなた達の足手まといにしかならないぞ」
「そうだね~、確かにあたしらが受けてる依頼を一緒にこなすのは無理だね、ただ街周辺で薬草採取するんなら問題ないだろ?」

そう言ってニヤリと笑うルイーズさんにバイルさんは驚いたような顔をしている。
比較的安全な街の周辺での薬草採取をAランク冒険者がするとは思ってなかったみたいだ。

「ところでカトレア、ダンジョンの100階層にあったSランクポーションって使ってもいい?」
「女神の血…、今はSランクポーションって言ってたわね…。 好きに使えば良いんじゃない? カツヒコの物なんだし好きにすれば」

全く興味が無いかのようなカトレアの反応に、一瞬怒っているのかと思ったけど、様子を伺う限り、全く興味が無いと言う感じの為、アイテムバッグからSランクポーションを1本取り出してバイルさんに渡す。

「これは? Sランクポーションなんて話に聞くぐらいで本当にあるものなのかも分からないと言われてるものだろ? 本物だったら一生遊んで暮らせるどころか一族十代以上に渡って遊んで暮らせるぐらいの金になるんじゃないのか? そんなものを俺に使うなんておかしいだろ。 確かに俺達はファインに剣や魔法を教えたりもしたが、ここまでして貰えるような事はしてないんだ、これは受け取れない!」
「う~ん、自分にとってはルミナ村で色々教えて貰ったりしたことで今があるんでSランクポーションをバイルさんに使う理由になるんですけど…。 それにまだ沢山あるし」

まだ沢山あるとの言葉に何故? という表情のバイルさんに、Sランクポーションを半ば強引に飲ませる。

実際はあと残り3本だけど、それを言うと飲まなさそうだから沢山って言ったけど、頑張ってヒールを鍛えればSランクポーション同等の効果を出せるとカトレアに聞いていたので要はSランクポーションが無くなる前にヒールを極めれば良いだけだから特に問題は無いはずだ…。
うん、明日からヒールを鍛えよう!!

そしてSランクポーションの効果はバイルさんが飲み干した直後に現れる。
肩の下あたりから無くなっていた腕から肉が湧き出るように右腕が再生されていく。
うわぁ~、バイルさんには悪いけど、これ結構えぐい絵面だ…。

腕が再生される光景を若干引き気味で見ている自分とは異なり、バイルさんはまるで夢でも見ているかのような表情で再生される腕を見つめている。
そして再生が終わると、右腕や右手の感触を確かめるように動かし、その後自身の身体中を触り身体の状態を確かめている。

「こ、これがSランクポーションの効果なのか? 腕どころか身体中の傷も治っているどころか、動かしにくかった左腕も自由に動くようになるなんて…」
バイルさんはそう言うと、目に涙を浮かべ、そして泣き出してしまった。

自分の身体が動くようになった喜びと、竜の牙に殺されてしまった仲間達、そしてレーナさんの事を思って自分だけがって思っているような涙に見える。

「ほぉ~、これがSランクポーションの効果か、噂に尾ひれがついて誇張されてるもんだと思ってたけど、本当に体の欠損部位まで再生するんだな~」
泣き出しているバイルさんを他所に再生を目にしたルイーズさんが珍しい物を見たと言う感じの目で見ている。

当然と言う顔をしているカトレア、昔は高いけどお金を出せば買えるような代物だったらしく見慣れていたんだろうな、全く効果に驚くどころか興味も無いと言った感じだ。
今は作れる人が居るかどうかも分からないっぽいから、効果も分かった事だし大切に使わないと…。
そしてなにより身体が全快したバイルさんは昔みたいに動けるし剣も振るえるから、勘を取り戻しさえすればチンピラ程度なら自分で追い払えるし、街の周辺以外でも活動できるし足手まといにはならない。

バイルさんの今の姿を見た竜の牙の奴らどんな顔をするのかな…。
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