サキュバスの伴侶は少年兵~残念美人なショタコンお姉さんとの異世界冒険譚~

あまみや

文字の大きさ
19 / 51

19.転生した後輩

しおりを挟む
「とりあえず……戻りましょう……」

「うん……」

 今、僕たちがするべきことは何か? そう、日が落ちる前に町へ戻って調査結果を報告することだ。ひとまずは森を抜けることを優先しないと。

 僕はそそくさと服を正し、カオルもまた予備の服を着直して、来た道を戻ることにした。


 ~~~~~


「しかし、何をどう報告したものか」

 道すがら話す内容は専らそれだった。説得力のある嘘をつくのはどうにも難しい。それに

「六道のことは伝えるべきだと思う?」

 元老院に魔法に、という言葉。あの男のことが、ある意味一番の収穫といえるかもしれない。

「そこなんだよなぁ~、ほんとどうしようあのロリコン。いっそボロクソに貶してやろうかね」

「それはやめた方がいいかと思います……」

 カオルの冗談混じりの言葉を、マルカがどこか重たい口ぶりで諌めた。

「ん? どうして?」

「あの人が使っていた技、あれはきっと魔法……ですよね。その力が使えるのは、使うことを許されたのは、貴族のようなごく一部の選ばれた人々だけだと言われています。だから彼も……あぁ~! 私はなんてことを! 状況が状況だったとはいえ、貴族に切りかかってしまった……っ!」

「貴族か、なら確かに、これ以上事を荒立てるのは避けたいね。出会ったことも秘密にしておくのが得策かもしれない。幸い、あっちは敵になるつもりは無いらしいし」

「はい。何もかも嘘になってしまいますが、そういう形で支部長には報告しましょう、そうしましょう」


 下手をすれば極刑ものの事件を隠蔽するということで話は決まった。「アニキ」の時といい、マルカは土壇場なら悪事に手を染めてしまう胆力がある。
 僕とカオルは、この少女の内に眠る闇を苦笑いで見守りつつ、再び歩を進めた。

 戦闘の後にも関わらず、僕たちが森を進む速度は行きも帰りも同じくらいだった。気が立っているおかげで疲れの感覚が麻痺しているのかもしれない。

(ありがたいけど、これは宿についてからが怖いな)


 ~~~~~


「そういえば、マルカは魔法の存在を知っていたんだね。もしかして、一般常識だったりする?」

 あと少しで森を抜けるかという辺りで、カオルが思い出したように切り出した。

「常識とまで言っていいかは分かりませんが、知っている人は多いと思います。そうそう、ギルドのカウンターに置かれている水晶、あれも魔法の力で動いているらしいですよ。詳しい原理は支部長も知らないと言ってましたけど」

「使い方はあまり広まっていないんだね」

 確認するように内容をまとめる。この世界での魔法の概念が、少しずつ分かってきた。

「そういうことです、ユウくん。だからカオルさんが能力を使ってみせたときは内心ドキドキしてたんですよ、『え⁉ まさかお忍びで来た貴族のお嬢様⁉』 なんて」

 マルカが「ようやく吐き出せた」という表情で胸中を告白する。まさかお嬢様と思っていたなんて。

 僕はドレスを着たカオルの姿を想像して、そのシュールさについ吹き出してしまった。
(綺麗だし似合ってるけど、なんか……ね)

「お嬢様~? ないない! 私がそんなタマに見えるかい? 一応、私の先祖がそうだった可能性はあるけどね。──そしてユウくんには後でお話しがあります」

「ま、まあまあ……けど、ご先祖が貴族というのは有り得ますね。ですが、それほどの方がなぜ追い出されてしまったのでしょうか」

「う~ん、派閥争いに負けたとか? 今持ってる情報だけで考えるなら、元老院との間に何かあったってことになるけど……どっちにしろ異世界へ追放なんてよっぽどだよねえ、どんだけ嫌われてたんだサティアさんは。まあ私も人間界じゃ嫌われまくってたけど」

「異世界と言えば」

「ん? どしたユウくん。」

 カオルに合わせて、僕も切り出すことにした。──六道が去り際に通話していた相手のことを。

「カオルって、仲の良い後輩とか?」

 少しの逡巡の後、一つの問いを投げかける。

 あの時の通話相手は、カオルに対してとても好意的だったように思う。姿は見えなくても、ほんの少し聞いただけでも、好意が伝わるような、そんな声色だった。

「うぐっ、その質問は私に効く……まず仲の良い人が少なかったからね。でも学生時代に1人、やけに声をかけてくれる子がよ、その子のことは今でも覚えてる……それが?」

 カオルの雰囲気が、重く暗いものになる。

「その人が、この世界にいるかもしれないんだ。六道が最後に誰かと喋っていて、相手はカオルを知っている風だった。そして、カオルのことを『先輩』って呼んでた。だから、きっと!」

 正直なところ、言うべきか迷った。僕の考えている通りなら、その人は一度……

 だけど、この情報はカオルにとって心の支えになるかもしれないとも思った。告げることでどう転ぶかは分からなくても、早く伝えておきたかった。

「え、いや、彼女はずっと前に……事故で…………っ、まさか」

「──

 予想通り、その後輩は故人だった。

 あの時、六道が言った「君も転生してきたの?」というセリフが気にかかっていたんだ。
 つまり、この世界には『転生者』がいるということだから。そして「薫先輩」という言葉で、通話相手がその転生者だと自分の中で確信した。

「ユウくん、それは本当なんだね?」

「うん」

 真っ直ぐにカオルを見つめて、誠心誠意返事をする。

 彼女を怒らせることになると思った。僕が今やったのは、自分が思い込んでいるだけの情報を真実のように伝え、悪戯に後輩の死を想起させる行為だ。
 異世界転生などという俄には信じがたい現象、そこに現実の故人を当て嵌めて語るのは、死者の冒涜にも等しい。

 それでも僕は、あの後輩の、カオルを慕う声を聞いた。
 彼女にどれだけ軽蔑されようと、その事実を否定はしない。

 そう覚悟してカオルと向かい合った。

 すると、彼女の顔はみるみる綻んで

「そうか……そうか!  あの子はここにいるんだね。  あぁ、良かった。あんなに優しい子が事故なんかで死んでいいはずがないって、ずっとそう思ってたんだ。そっか、良かった……っ」

 目尻に少しだけ涙をためて、無邪気な子どものように、心からの笑顔を見せた。

「信じて……くれるの?」

 僕の覚悟と相反する様子見せられて、安心するよりも戸惑いを感じてしまう。

「もちろん!  私の後輩のことなんて知らないはずのユウくんがここまで言ってくれてるんだぞ、信じるに決まってる! それに私たちだって『転移』してここにいるんだし、『転生』する人がいたって驚きはしないよ」

 カオルはこれ以上ないくらいにキッパリと、僕が奥底で求めていた応えを断言してくれた。

(伝えてよかった)

 僕はお礼の代わりに、精一杯の笑みを向けた。その瞬間カオルは頬を赤くして、熱のこもった目で僕を見たけど、小声で「いかんいかん」と呟いてから元の表情に戻った。

「あ、あの!  話はよく分かりませんが、カオルさんのご友人がこの世界のどこかにいるってことですよね! なら、ぜひ一度お会いするべきかと!」

 置いてけぼりだったマルカが我慢できずに声を上げる。必死についてこようとする姿がちょっとかわいい。

「あ、ごめんマルカ。えーと、確かにカオルの知り合いではあるんだけど……六道とも関わりがあるっぽいんだよね」

「え……? あの方と……? それって大丈夫なんでしょうか……」

 六道の名を聞いた瞬間、マルカは一気に青ざめた。あのいやらしい目つきに狙われたトラウマは思ったより根深いらしい。

「だいじょーぶ、だいじょーぶ。六道は知らないけどあの子はすっごくイイ子だから。そんなことより、ほら、町が見えてきたぞー。さ~て、うまい具合に報告書を捻じ曲げようか!」

「は、はい!」


 なんとか日没には間に合い、堂々と公文書偽造の宣言をしてから、僕たち3人はアグトスへ帰還した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...