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第1話
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「入江美月ちゃんはさぁ、とにかくすごいんだよー! 歌詞とかメロディーはもちろんそうだけどね、私がいちばんすごいと思うのは、歌い方が妙に色っぽいってことだよ。同性の私でさえも、耳の奥の方が、くすぐったい気がするからさぁ、あんなふうに囁かれたら、思春期の男の子はひとたまりもないね。イチコロだよ、きっと。ねぇ良樹、聞いてる?」
映像が次から次へと切り替わっていくスマホの画面を眺めていた僕は、七海が肩を揺らすまで、すっかり彼女の存在を忘れていた。
ネットで放送されている動物番組が意外と面白くて、最初は意識の大半を七海の音楽談義に傾けていたはずなのに、いつの間にか、猫たちが街中を闊歩する映像にとってかわられていた。
猫・猫・猫、
頭の中は猫一色と化した。
「ごめん、たしか入江さんの話だったよね。入江明日香」
僕は言った。
「違う、入江美月。入江明日香はアイドル歌手」
七海はそう言い、入江明日香が所属するラピスラブリのと思われる曲を鼻歌で歌い始めた。
話を全く聞いてなかったのだから、てっきり機嫌を損ねただろうな、と思っていたら、何だ、先ほどより上機嫌じゃないか。
よかった。
なんだかよくわからないけれど、ラピスラブリさまさまだ。
スマホの中の猫たちもみな喜んでいる。
ところで僕、藤本良樹は今、大学生になってはじめてできた彼女、町田七海の部屋にいる。
ピンク色の、いかにもガーリーな四角いテーブルの前に座った僕と七海の間には隔たりなどなく、いつでも体を密着できるほどに、接近していた。
開け放った窓から初夏の風が吹き込み、レースのカーテンが気持ちよさげに揺れている。
その動きとシンクロするように、七海の肩にかかったゆるふわな髪や、テーブルの上にある音楽雑誌、そしてそれらを眺める僕の心も揺れる。
大学の図書館で、七海とはじめて出会った時、この子が僕の彼女だったらどんなにいいだろうと思った。
それは、七海の外見の美しさに惹かれたということばかりではなく、彼女が放つ独特な雰囲気に、他の子にはない魅力を発見したからだった。
他の男たちは、七海の整った顔立ちやスタイルには色めき立っていたものの、肝心な部分に目を向けたのは僕がはじめてではないか、と少し得意になった。
幸運にも、僕の友達の中に、七海の友達と同じ高校だったヤツがいて、そのつながりをうまく利用して、彼女に近づくことができた。
思いきって声をかけてみると、想像していたよりも、親しみやすいキャラだったので、僕らの距離はあっという間に縮まった。
映像が次から次へと切り替わっていくスマホの画面を眺めていた僕は、七海が肩を揺らすまで、すっかり彼女の存在を忘れていた。
ネットで放送されている動物番組が意外と面白くて、最初は意識の大半を七海の音楽談義に傾けていたはずなのに、いつの間にか、猫たちが街中を闊歩する映像にとってかわられていた。
猫・猫・猫、
頭の中は猫一色と化した。
「ごめん、たしか入江さんの話だったよね。入江明日香」
僕は言った。
「違う、入江美月。入江明日香はアイドル歌手」
七海はそう言い、入江明日香が所属するラピスラブリのと思われる曲を鼻歌で歌い始めた。
話を全く聞いてなかったのだから、てっきり機嫌を損ねただろうな、と思っていたら、何だ、先ほどより上機嫌じゃないか。
よかった。
なんだかよくわからないけれど、ラピスラブリさまさまだ。
スマホの中の猫たちもみな喜んでいる。
ところで僕、藤本良樹は今、大学生になってはじめてできた彼女、町田七海の部屋にいる。
ピンク色の、いかにもガーリーな四角いテーブルの前に座った僕と七海の間には隔たりなどなく、いつでも体を密着できるほどに、接近していた。
開け放った窓から初夏の風が吹き込み、レースのカーテンが気持ちよさげに揺れている。
その動きとシンクロするように、七海の肩にかかったゆるふわな髪や、テーブルの上にある音楽雑誌、そしてそれらを眺める僕の心も揺れる。
大学の図書館で、七海とはじめて出会った時、この子が僕の彼女だったらどんなにいいだろうと思った。
それは、七海の外見の美しさに惹かれたということばかりではなく、彼女が放つ独特な雰囲気に、他の子にはない魅力を発見したからだった。
他の男たちは、七海の整った顔立ちやスタイルには色めき立っていたものの、肝心な部分に目を向けたのは僕がはじめてではないか、と少し得意になった。
幸運にも、僕の友達の中に、七海の友達と同じ高校だったヤツがいて、そのつながりをうまく利用して、彼女に近づくことができた。
思いきって声をかけてみると、想像していたよりも、親しみやすいキャラだったので、僕らの距離はあっという間に縮まった。
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