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第五章
新じゃがのコロッケと、本当の気持ち⑤
ソファの前のローテーブルに、山田さんが丸っこいシルエットのマグカップを二つ置く。彼女の家から持ってきたらしい、白地にニッコリと笑顔が描かれた可愛らしいものだ。
「ありがとう。これはなに?」
「カフェインレスのジンジャーティーです。私ずっと前からこれが好きで、眠れない夜にはいつも飲むんです」
「言われてみれば、確かに生姜の香りがする」
「お嫌いじゃなかったですか?」
「嫌いじゃないよ」
「よかったです」
改めて思う。俺達はまだ、お互いのことをなにも知らないんだと。
紅茶を一口、ゆっくりと口に含む。生姜独特の風味と、スッと鼻を抜けるほのかなレモンの香り。スッキリとした味わいで、素直にうまいと感じた。
「あのさ、山田さん」
「…」
「山田さん?」
「あ…はい、なんでしょう」
彼女は、両手でマグカップを包み込んでいる。だけどその中身は、ほとんど減っていないように見えた。
「この前の夜のことなんだけど」
そう口にした瞬間、山田さんの表情がサッと曇る。彼女にとってはなかったことにしたい出来事なのかと、胸が痛んだ。
「付き合う前にあんなことをして、本当に悪かったと思ってる。信じろって方が無理かもしれないけど、俺はそういうつもりで山田さんに同居を提案したんじゃないんだ」
「…分かっています。大澤係長は優しい人ですから、あの日会社の前で立っていた私を哀れに思って助けてくださったんですよね?」
俺が優しいなんて、そんなこと初めて言われた。自分でも、打算的でずる賢い人間だと思っているし、きっと周囲からもそう見られているだろう。
いやそんなことよりも、俺は山田さんのことを哀れだなんて、微塵も思っていないのに。
自分がどれだけ言葉足らずだったのかを、今さら痛感する。
彼女の傷を癒すどころか増やしてどうするんだと、情けなくて堪らなくなった。
「ありがとう。これはなに?」
「カフェインレスのジンジャーティーです。私ずっと前からこれが好きで、眠れない夜にはいつも飲むんです」
「言われてみれば、確かに生姜の香りがする」
「お嫌いじゃなかったですか?」
「嫌いじゃないよ」
「よかったです」
改めて思う。俺達はまだ、お互いのことをなにも知らないんだと。
紅茶を一口、ゆっくりと口に含む。生姜独特の風味と、スッと鼻を抜けるほのかなレモンの香り。スッキリとした味わいで、素直にうまいと感じた。
「あのさ、山田さん」
「…」
「山田さん?」
「あ…はい、なんでしょう」
彼女は、両手でマグカップを包み込んでいる。だけどその中身は、ほとんど減っていないように見えた。
「この前の夜のことなんだけど」
そう口にした瞬間、山田さんの表情がサッと曇る。彼女にとってはなかったことにしたい出来事なのかと、胸が痛んだ。
「付き合う前にあんなことをして、本当に悪かったと思ってる。信じろって方が無理かもしれないけど、俺はそういうつもりで山田さんに同居を提案したんじゃないんだ」
「…分かっています。大澤係長は優しい人ですから、あの日会社の前で立っていた私を哀れに思って助けてくださったんですよね?」
俺が優しいなんて、そんなこと初めて言われた。自分でも、打算的でずる賢い人間だと思っているし、きっと周囲からもそう見られているだろう。
いやそんなことよりも、俺は山田さんのことを哀れだなんて、微塵も思っていないのに。
自分がどれだけ言葉足らずだったのかを、今さら痛感する。
彼女の傷を癒すどころか増やしてどうするんだと、情けなくて堪らなくなった。
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