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第五章

新じゃがのコロッケと、本当の気持ち⑬

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自慢じゃないが、俺は料理ができない。

大学時代、何度か挑戦しようとしたこともあった。が、俺には向いてないと早々に諦めた。

山田さんの料理は、食べると安心する。素朴で温かくて、彼女自身の人柄が滲み出ているような、そんな味がする。

俺にとって彼女は、魔法使い。

きっと、本人に言えば「大げさです」なんて照れながら否定するんだろうけど。

見てみたいから、いつか言ってみよう。






「お帰りなさい、お疲れ様でした。あれ、いい匂いがする」

宣言通り、仕事を調整し早めに帰途に着いた。途中、肉屋で惣菜を買って。

「ここのコロッケ、肉の味もしっかりしてうまいんだよ」

「見るからにずっしりしてて食べ応えがありそうですね」

なにを買って帰ろうか迷って、結局自分の好みのものにしてしまった。山田さんのキラキラした瞳を見て、内心ホッとする。

「サラダなんかも買ってるから、一緒に食べよう」

「本当にすみません」

「大丈夫」

「私、お皿に移し替えてきます」

「適当でいいよ」

「せめてこのくらいはさせてください」

「ありがとう」

なぜか彼女は、嬉しそうだった。

支度を済ませ、二人で手を合わせてほぼ同時にコロッケをかじる。目をまん丸にさせる山田さんが、凄く可愛い。

「じゃがいももお肉も、ほんのり甘くて凄くおいしいです」

「そういえば、今の時期は新じゃがを使うから特に自信作だって、肉屋の奥さんが言ってたな」

「なるほど、だから余計に甘くてしっかり風味を感じるんですね」

確かに、うまい。だからこそ食べてもらいたかったんだし、俺自身も昔は常連といっても過言じゃないほど通ってた。

「うまいな」

それは、事実。

だけどどこかで物足りなさを感じている俺は、すっかり欲張りになってしまったようだ。
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