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第五章「運命の双子」
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♢♢♢
愛する双子の誕生日まで、残り半月もない。いまだ明確な対策は出来ておらず、リリアンナの焦燥感は日に日に募るばかりだった。
「おーい、お姉様ぁ!」
「見てみて、上手く乗れたわ!」
からりと晴れた青空の下、現在王宮内にある草原にて、ルシフォードとケイティベルと共に乗馬を楽しんでいる。二人の指導者には、第二王子であるがレオニル直々に当たっている。彼もリリアンナと同様随分と丸くなり、僅かではあるが感情を面に出すようになった。
双子の温かな優しさと無邪気な笑顔は、見ているだけで幸せな気分にさせてくれる。彼女はこの穏やかな時間が永遠に続けば良いのにと思いながら、少し離れたベンチに座り二人に向かって手を振った。
助産婦エマーニーの話は、本当に衝撃的だった。自分自身がどれだけ恵まれた境遇なのかを、改めて実感させられた。両親から疎まれることより、周囲から嫌われることより、苦しんでいる家族を救えないという絶望は、味わった者にしか分からない。
もしもその双子が今も生きているとするならば、どれだけの業と哀しみを背負っているのだろうと、リリアンナは心を痛める。同時に、この先の未来がもしも本当にルシフォードとケイティベルの言う通りになったら、大切な弟妹にも同じ思いをさせることになってしまう。
――たとえこの命を投げ打ってでも、必ず二人を救ってみせる。
「……そんなものは、ただの自己満足でしかなかったのね」
リリアンナは自らの愚かさを嘆くとともに、どこか勇気付けられるような気分にもなっていた。
そんな風に考えられるほど、弟妹との距離が縮まっているのだと。これまでならば、きっと「私などいなくなったところで」と、卑屈な感情しか浮かばなかっただろうから。
「どうかされましたか?」
「エドモンド殿下」
背後からぽんと肩を叩かれたリリアンナは、内心びくりと肩を振るわせる。相変わらず双子以外の前で鉄仮面は健在であるが、エドモンドはすでに彼女の本性を知っていた。立ち上がろうとするリリアンナを柔らかく目で制すると、彼はその隣に腰を下ろした。
「なんとなく、後姿に哀愁が漂っているように見えて」
「……ふふっ、そうですか」
彼女もまた、エドモンドが素直で優しい人物だと分かっている。互いにかなりの変わり者ではあるが、だからこそ通ずるものもあるのだろう。
本心を隠しながら生きてきた二人は、本当の自分を知られることが怖かった。けれど今は、なんとなく心が軽い。ルシフォードとケイティベルは意識せずすんなりと受け入れているが、臆病な人間にとってそれがどれだけ嬉しいことか。
「リリアンナ嬢は本当に、弟妹想いの素敵な方ですね」
「……いいえ。私などいつまで経っても、自分本位の不甲斐ない姉です」
いざとなったら身を挺して……、などという考えこそが、あの二人を傷付ける大きな要因のひとつとなる。だからこそ、もっと真剣に考えなければ。
「僕と兄なんかは、些細なことでよく喧嘩をします。後から思えば、腹を立てるほどではなかったんですけれど、その時はどうしても引けなくて」
「喧嘩、ですか。少し憧れます」
「そうですか?やはり、貴女は変わっていらっしゃいますね」
思わずそう口にして、エドモンドは慌てて口を押さえる。リリアンナにはばっちり聞こえていたが、特に気分を害したりはしない。
「それはお互い様でしょう?」
「ははっ、おっしゃる通りだ」
王子らしい爽やかな笑みを浮かべる彼に、リリアンナは妙な気分を覚える。まるで二人目の弟が出来たような、そんな可愛らしさをエドモンドに感じた。
愛する双子の誕生日まで、残り半月もない。いまだ明確な対策は出来ておらず、リリアンナの焦燥感は日に日に募るばかりだった。
「おーい、お姉様ぁ!」
「見てみて、上手く乗れたわ!」
からりと晴れた青空の下、現在王宮内にある草原にて、ルシフォードとケイティベルと共に乗馬を楽しんでいる。二人の指導者には、第二王子であるがレオニル直々に当たっている。彼もリリアンナと同様随分と丸くなり、僅かではあるが感情を面に出すようになった。
双子の温かな優しさと無邪気な笑顔は、見ているだけで幸せな気分にさせてくれる。彼女はこの穏やかな時間が永遠に続けば良いのにと思いながら、少し離れたベンチに座り二人に向かって手を振った。
助産婦エマーニーの話は、本当に衝撃的だった。自分自身がどれだけ恵まれた境遇なのかを、改めて実感させられた。両親から疎まれることより、周囲から嫌われることより、苦しんでいる家族を救えないという絶望は、味わった者にしか分からない。
もしもその双子が今も生きているとするならば、どれだけの業と哀しみを背負っているのだろうと、リリアンナは心を痛める。同時に、この先の未来がもしも本当にルシフォードとケイティベルの言う通りになったら、大切な弟妹にも同じ思いをさせることになってしまう。
――たとえこの命を投げ打ってでも、必ず二人を救ってみせる。
「……そんなものは、ただの自己満足でしかなかったのね」
リリアンナは自らの愚かさを嘆くとともに、どこか勇気付けられるような気分にもなっていた。
そんな風に考えられるほど、弟妹との距離が縮まっているのだと。これまでならば、きっと「私などいなくなったところで」と、卑屈な感情しか浮かばなかっただろうから。
「どうかされましたか?」
「エドモンド殿下」
背後からぽんと肩を叩かれたリリアンナは、内心びくりと肩を振るわせる。相変わらず双子以外の前で鉄仮面は健在であるが、エドモンドはすでに彼女の本性を知っていた。立ち上がろうとするリリアンナを柔らかく目で制すると、彼はその隣に腰を下ろした。
「なんとなく、後姿に哀愁が漂っているように見えて」
「……ふふっ、そうですか」
彼女もまた、エドモンドが素直で優しい人物だと分かっている。互いにかなりの変わり者ではあるが、だからこそ通ずるものもあるのだろう。
本心を隠しながら生きてきた二人は、本当の自分を知られることが怖かった。けれど今は、なんとなく心が軽い。ルシフォードとケイティベルは意識せずすんなりと受け入れているが、臆病な人間にとってそれがどれだけ嬉しいことか。
「リリアンナ嬢は本当に、弟妹想いの素敵な方ですね」
「……いいえ。私などいつまで経っても、自分本位の不甲斐ない姉です」
いざとなったら身を挺して……、などという考えこそが、あの二人を傷付ける大きな要因のひとつとなる。だからこそ、もっと真剣に考えなければ。
「僕と兄なんかは、些細なことでよく喧嘩をします。後から思えば、腹を立てるほどではなかったんですけれど、その時はどうしても引けなくて」
「喧嘩、ですか。少し憧れます」
「そうですか?やはり、貴女は変わっていらっしゃいますね」
思わずそう口にして、エドモンドは慌てて口を押さえる。リリアンナにはばっちり聞こえていたが、特に気分を害したりはしない。
「それはお互い様でしょう?」
「ははっ、おっしゃる通りだ」
王子らしい爽やかな笑みを浮かべる彼に、リリアンナは妙な気分を覚える。まるで二人目の弟が出来たような、そんな可愛らしさをエドモンドに感じた。
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