死に戻りぽっちゃり双子、悪役お姉様を味方につける。

清澄 セイ

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第五章「運命の双子」

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 少し肌寒い秋風が二人の間を吹き抜け、足下の芝生をざあっと鳴らす。それはまるで緞帳が上がる合図のように、やけに大きく響いていた。
「きっと、大丈夫です」
 エドモンドは、これまでの人生で得た知識がすべてどこかへ吹き飛んでいったのだと、そんな錯覚を覚えた。その場しのぎの耳障りの良い言葉を繕うのは、得意な方だと思っていたのに。
「なんとかなります。貴女がそう、信じる限り」
 もっと上手い励まし方があるだろうにと、今さら後悔してももう遅い。
「……殿下のおっしゃる通りです」
 飾り気のない台詞は、リリアンナの心を柔らかく解してくれた。自身とは違い分かりやすい彼の表情や仕草を見れば、いかに真摯に向き合っているのかが伝わってくる。突拍子もないことを言い出したにも関わらず、エドモンドはそれを流したりしなかった。
 ただでさえ知り合って間もない、それも周囲から疎外されている自分を受け入れてくれた事実が、リリアンナにとってどれだけ嬉しいか。噂よりも、自身を見て信じてくれたのだと。
 たとえ心とは裏腹だとしても、これまでそれを隠そうと努力してくれる者は僅かだった。どんな形であれ、リリアンナは彼の気遣いに心の底から感謝した。
「ありがとうございます、殿下」
 ふわりと微笑む彼女を見たエドモンドは、途端にぱっと顔を逸らす。鏡で確認せずとも、今自分がどれだけ赤面しているのかすぐに分かったからだ。いまだに流れる冷たい風も、その熱を冷ましてはくれそうにない。
 リリアンナもまた、彼をただの食いしん坊ではなく心の綺麗な人だと認識しているわけだが、いかんせん彼女は恋愛経験など皆無。脳内のほとんどすべてが弟妹で埋め尽くされており、そこにはほんの僅かな隙間しか残っていない。
 それにエドモンドはケイティベルの婚約者となる男性で、弟妹の話ではリリアンナがそれを奪うような構図となるらしい。いくら妹の為とはいえ、他にやりようがあっただろうと見知らぬいつかの自分を責めたくなる。

――二人の婚約が上手く経ち消えたとしても、彼が私と婚約を結び直す必要はまったくないわ。もっと相応しい女性と、幸せになってほしい。

 と、自己肯定感の低いリリアンナはそんな風に思っていたのだった。
「お姉様!こっちへ来て一緒に馬に乗りましょう!」
「僕が撫でたら気持ち良さそうに鳴くんだよ、見て!」
 双子はまん丸もちもちの白い頬っぺたを膨らませながら、興奮気味に姉を呼ぶ。彼女はそちらへぱっと視線をやると、伸びそうになる鼻の下を即座に掌で覆い隠した。
「よろしければ殿下もご一緒にいかがですか?」
「えっ?ああ、喜んで」
 最初はほんの配慮からくる気持ちだったのに、気付けば彼女の相談に乗るよりも自分がぼうっと惚けてしまっていた。エドモンドはそのことを情けなく思いながら、リリアンナに続いて立ち上がる。その瞬間、どこかで誰かがホラ貝でも吹いたのかと思うほど、彼の腹の虫が盛大に暴れ鳴いた。
「あ、あはは!これは失礼、緊張するとどうしても……」
 整った眉をふにゃりと下げ、誤魔化すように後頭を掻いている。先ほどの熱が引いていない上にさらに羞恥が襲いかかり、彼の頬はそれはもう真っ赤だった。
「緊張などと、私相手にそんな」
「貴女だからこそです……」
 もうどうにでもなれと、半ばやけになりながらエドモンドはぽつりと本音を漏らす。恋愛に関しては赤子よりも鈍いリリアンナにその真意が伝わるはずもなく、彼女は「私の顔が怖いせいだわ」と、申し訳なささえ感じた。
「申し訳ございません、殿下」
「は、はい?なぜ謝るのですか!」
「あら?」
 驚くエドモンドに、違ったのかときょとんとするリリアンナ。見事に話の噛み合わない二人の間に割って入ったのはルシフォードで、いつまで経っても来てくれない姉の腕をぐいぐいと引っ張る。
「お姉様、こっちだよ!」
「ええ、今行くわ」
 弟の手はふかふかで柔らかく、彼女の心はたちまちそちらに持っていかれる。完敗のエドモンドは「あまり役に立てなかったな」と無意識にしょんぼりと肩を落とすが、リリアンナは話を聞いてくれた彼に感謝していた。
 その意を込めて、彼女はエドモンドに向けて控えめに微笑んでみせる。その直後、まるで雷鳴かのような腹の音が辺りに鳴り響いたのだった。
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