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第七章「いざ、双子同士の対決へ!」
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「どうか……、どうかオリビアだけは見逃してやってください……!」
「オリバー?な、何言って……」
肌触りの良い絨毯に顔を擦り付け、声にならない声を絞り出す。まるで物乞いのように必死に体を丸めて、何度も何度もオリビアの名を呟いていた。
「だ、だめだよそんなことしちゃあ!君が汚れちゃう!」
ルシフォードが慌てて駆け寄ろうとするが、レオニルがそれを許さない。投げ捨てられたナイフをさらに遠方へ蹴り飛ばすと、剣の切先をぴたりとオリバーの首筋にあてがった。それでも彼は動揺を見せず、がさがさの唇を微かに歪める。
「は……っ、ご冗談を。俺なんかより、このご立派な敷物の方を心配するべきでしょうね」
「そんな……っ」
「俺は……、俺はどうなっても構わない。どうせ今夜、死ぬつもりだったんだ」
吐き捨てるような台詞の後、金切り声を上げたのはオリビアだった。両親に気付かれてしまうと大変だと、ケイティベルはとっさに彼女に抱き着く。拘束され身動きの取れないまま、それでもオリビアは抵抗を止めない。
「離せ白豚、ぶっ殺すぞ!」
「いけないわそんな台詞、女の子には似合わない」
「黙れ、何も知らないくせに……!」
似合わない?それはお前のような高貴な令嬢が使える言葉だと、オリビアは彼女を睨め付ける。所詮自分は非力な女で、これまで体を汚すことなく生きてこられたのはすべてオリバーのおかげ。あの骨ばった体には、オリビアを守った無数の傷が散らばっている。
「どういうことよオリバー!話が違うじゃない!!」
いまだ蹲り微動だにしない彼を、オリビアは悲痛な声で責める。どうやら二人の思惑は、初手から異なっていたようだった。無様に許しを乞う姿も許し難いが、それよりも解せないのはその後のオリバーの言動だった。
――まさか私を救う為、最初から自分だけが犠牲になるつもりで……?
彼女の不吉な予感はまんまと的中する。今にもレオニルに切り捨てられてしまいそうな状況にも関わらず、オリバーがしきりに口にするのはオリビアのことだけ。自身の命など、これっぽっちも守ろうとしていない。
「な、なんでよ?だって本当なら、金で雇ったアイツらが……」
「雇ってなんかない。もともと俺だけで実行する予定だった。あの金は、今夜お前を逃がせるよう数人の給仕係に握らせてある」
「ふ、ふざけないでよ!アンタ私を残して、自分は死ぬつもりだったってわけ!?」
ずっとずっとどんな時も、二人は一緒だった。産まれつきのこの痣のせいでどれだけ不幸な目に遭っても、オリビアにとっては大切な兄との絆の証だった。だから一度も隠したりせず、堂々と曝け出していたのに。
エトワナ家の双子を手に掛けた後、万が一上手く逃げられなかったとしたら。というよりもそちらの可能性の方がよほど高いと、オリビアは分かっていた。
その時はオリバーと共に、潔く命を経とうと思っていた。そして次も、必ず双子として生まれ変わりたいとオリビアは強く願った。たとえ再び痣持ちだったとしても構わないと、そう思うほど。
「……酷い、酷いよオリバー」
彼女の瞳からは、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。それを拭ってくれるのはいつだってオリバーだったのに、それが今はこんなにも憎い双子の片割れに縋っているなんて。
ケイティベルはハンカチを取り出すことも忘れて、ただオリビアをぎゅうっと抱き締める。レモンイエローのドレスの肩口が濡れても、ちっとも気にしていない。
痩せぽちでごつごつした兄とは違う、ふくよかで温かい体。腹が立って仕方がないのに、なぜか力が抜けていく。
兄に捨てられたという事実が、彼女の心に土砂降りの雨を降らせる。そのせいで前が見えず、もう誰にナイフを向けたら良いのかも分からない。
しゃくり上げながら涙を流す妹を見ても、オリバーは決して姿勢を変えようとはしない。当初の予定ではオリビアだけを逃し、全ての罪を自信が被り自害する手筈だった。
オリバーの人生にとって最も重要なのは、エトワナ家の愛され双子に見当違いの復讐をすることではない。たった一人の大切な妹を、どんな形であろうと守り抜くことだけ。
まさかこんな展開になるとは、彼も予想していなかった。だが、金で雇ったごろつきよりも世間知らずのお人好しな子どもの方が、きっとなんとかしてくれる。
穢れを知らない空色の瞳には、自分達は随分と哀れに映っていることだろう。同情だろうと哀れみだろうと、オリビアが救われるなら構わない。
――たとえ大好きな妹の憎しみの対象が、エトワナ家の双子から自分自身に変わってしまったとしても。
「オリバー?な、何言って……」
肌触りの良い絨毯に顔を擦り付け、声にならない声を絞り出す。まるで物乞いのように必死に体を丸めて、何度も何度もオリビアの名を呟いていた。
「だ、だめだよそんなことしちゃあ!君が汚れちゃう!」
ルシフォードが慌てて駆け寄ろうとするが、レオニルがそれを許さない。投げ捨てられたナイフをさらに遠方へ蹴り飛ばすと、剣の切先をぴたりとオリバーの首筋にあてがった。それでも彼は動揺を見せず、がさがさの唇を微かに歪める。
「は……っ、ご冗談を。俺なんかより、このご立派な敷物の方を心配するべきでしょうね」
「そんな……っ」
「俺は……、俺はどうなっても構わない。どうせ今夜、死ぬつもりだったんだ」
吐き捨てるような台詞の後、金切り声を上げたのはオリビアだった。両親に気付かれてしまうと大変だと、ケイティベルはとっさに彼女に抱き着く。拘束され身動きの取れないまま、それでもオリビアは抵抗を止めない。
「離せ白豚、ぶっ殺すぞ!」
「いけないわそんな台詞、女の子には似合わない」
「黙れ、何も知らないくせに……!」
似合わない?それはお前のような高貴な令嬢が使える言葉だと、オリビアは彼女を睨め付ける。所詮自分は非力な女で、これまで体を汚すことなく生きてこられたのはすべてオリバーのおかげ。あの骨ばった体には、オリビアを守った無数の傷が散らばっている。
「どういうことよオリバー!話が違うじゃない!!」
いまだ蹲り微動だにしない彼を、オリビアは悲痛な声で責める。どうやら二人の思惑は、初手から異なっていたようだった。無様に許しを乞う姿も許し難いが、それよりも解せないのはその後のオリバーの言動だった。
――まさか私を救う為、最初から自分だけが犠牲になるつもりで……?
彼女の不吉な予感はまんまと的中する。今にもレオニルに切り捨てられてしまいそうな状況にも関わらず、オリバーがしきりに口にするのはオリビアのことだけ。自身の命など、これっぽっちも守ろうとしていない。
「な、なんでよ?だって本当なら、金で雇ったアイツらが……」
「雇ってなんかない。もともと俺だけで実行する予定だった。あの金は、今夜お前を逃がせるよう数人の給仕係に握らせてある」
「ふ、ふざけないでよ!アンタ私を残して、自分は死ぬつもりだったってわけ!?」
ずっとずっとどんな時も、二人は一緒だった。産まれつきのこの痣のせいでどれだけ不幸な目に遭っても、オリビアにとっては大切な兄との絆の証だった。だから一度も隠したりせず、堂々と曝け出していたのに。
エトワナ家の双子を手に掛けた後、万が一上手く逃げられなかったとしたら。というよりもそちらの可能性の方がよほど高いと、オリビアは分かっていた。
その時はオリバーと共に、潔く命を経とうと思っていた。そして次も、必ず双子として生まれ変わりたいとオリビアは強く願った。たとえ再び痣持ちだったとしても構わないと、そう思うほど。
「……酷い、酷いよオリバー」
彼女の瞳からは、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。それを拭ってくれるのはいつだってオリバーだったのに、それが今はこんなにも憎い双子の片割れに縋っているなんて。
ケイティベルはハンカチを取り出すことも忘れて、ただオリビアをぎゅうっと抱き締める。レモンイエローのドレスの肩口が濡れても、ちっとも気にしていない。
痩せぽちでごつごつした兄とは違う、ふくよかで温かい体。腹が立って仕方がないのに、なぜか力が抜けていく。
兄に捨てられたという事実が、彼女の心に土砂降りの雨を降らせる。そのせいで前が見えず、もう誰にナイフを向けたら良いのかも分からない。
しゃくり上げながら涙を流す妹を見ても、オリバーは決して姿勢を変えようとはしない。当初の予定ではオリビアだけを逃し、全ての罪を自信が被り自害する手筈だった。
オリバーの人生にとって最も重要なのは、エトワナ家の愛され双子に見当違いの復讐をすることではない。たった一人の大切な妹を、どんな形であろうと守り抜くことだけ。
まさかこんな展開になるとは、彼も予想していなかった。だが、金で雇ったごろつきよりも世間知らずのお人好しな子どもの方が、きっとなんとかしてくれる。
穢れを知らない空色の瞳には、自分達は随分と哀れに映っていることだろう。同情だろうと哀れみだろうと、オリビアが救われるなら構わない。
――たとえ大好きな妹の憎しみの対象が、エトワナ家の双子から自分自身に変わってしまったとしても。
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