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優しい仕立て屋さん

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「どうですか聖女様?気になるところはございませんか?」
「とっても素敵です!それに軽い…」
「今日は感謝祭ですからね。存分に楽しんで頂く為に、動きやすいものを選ばせていただきました」

ピエリさんが用意してくれたワンピースに身を包み、私は姿見の前で何度かスカートの裾をひらひらとひるがえしてみせる。黒地に金の刺繍が施され、手触りもとても滑らかだ。腰からにかけての膨らみが少ない為に、軽くて歩きやすい。

ワンピース自体のデザインも無理に胸元を締め付けていないので、コルセットで締めずともシルエットがおかしくならない。サイズが合わなかった部分は、ピエリさんがあっという間に縫製し直してくれた。

そうこうしているうちにお店の奥から現れた彼女の娘さんが、私の髪を可愛らしく編み込んでくれたのだ。

これにつばの広い帽子を被り、完成だと言わんばかりに二人が頷く。

「まっすぐに流れる銀髪も素敵ですが、こんな髪型もとても可愛らしいです」
「感謝祭、存分に楽しまれてくださいね」
「あのっ、本当にありがとうございます!」

何度もそう言って、お辞儀を繰り返す。その拍子にぱさりと落ちた帽子を拾ってくれたのは、アザゼル様。

金色の瞳でこちらを見つめ、ふっと頬を緩める。

「似合ってる」

一言そう口にして、彼は優しい手つきで私に帽子を被せてくれた。




心優しい仕立て屋の一家と別れ、私達は再び感謝祭の波へと身を投じる。先程お店を出る直前、ピエリさんとその娘さんに挟まれながら耳元で「恋人の方、とっても素敵」と微笑まれたことで、私の顔は熱く火照っている。

また後程あのお店に預かってもらっているドレスを取りに行かないといけないのに、妙に恥ずかしい。

そんなことを考えている私とは違いアザゼル様は手をしっかりと握り、人混みの中私を守るようにして背に隠しながら歩いている。

(本当に、素敵)

歩く度に、後ろで一括りにされた黒髪がゆらゆらと揺れる。逞しい腕と、すらりとした身体つき。自身も目立たないよう先程の正装を脱ぎ、白シャツに黒のスラックス、同じ色のベストと外套を羽織っている。

(何を着てもかっこいい)

アザゼル様はいつどんな時でも、きらきらと輝いている。それはあの日、初めて出会ったその瞬間から。

(そういえば私は、この方の裸も…)

ふと、オーロの正体が自身だと明かしてくれた夜のことが脳裏に浮かんでくる。アザゼル様とオーロが同一だったということにもとても驚いたのだけれど、あの時のアザゼル様は何も身につけていなかった。

窓から差し込む月明かりに照らさた身体はまるで繊細な芸術品のようで…

「私の馬鹿!」
「っ!」

自分が存外しっかりと彼の裸を目に焼き付けていたことにも驚きつつ、羞恥が脳内だけでは収まらなくなり、私は唐突に叫ぶ。アザゼル様が驚いたように振り返り、私を見つめた。

「どうしたイザベラ、ぶつかったか?痛かったのか?」
「あっ、ちっ、違います!」

ただ彼の美しい後ろ姿を見つめていただけなのに、とんでもないことを思い出している自分が恥ずかしくて仕方がない。

同時に、人混みの中ただ純粋に私の身を案じてくれているアザゼル様を見て、とても申し訳ない気持ちになってしまった。
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