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エイルダイアンの感謝祭
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「聖女様だ…この国をお救いくださった、聖女イザベラ様だ…」
「なんと神々しいお姿…正に清廉な聖女様に相応しい」
「輝くような銀の髪に優しげな瞳…きっと慈悲深くお優しい心に溢れた素晴らしい方だ」
(…とっても居心地が悪い)
本来のイザベラとは全く違う聖女像を囁かれ、まるで騙しているかのようで申し訳なくなってしまった。
ーー本日は感謝祭。エイルダイアンで開かれている数々の祭ごとの中でも、一番の大きなイベントらしく、粉雪が舞う寒空の中でも城下町は活気に溢れていた。
アレイスター様は国王陛下や王妃陛下の警護及び指揮に加え、式典参列や勲章授与式などなどとても忙しそう。
そんな中私だけが祭りを楽しんでも良いものなのかと悩んだのだが、アレイスター様の「初めての祭りを満喫しておいで」という優しいお言葉に甘え、アザゼル様達と街へ繰り出した。
までは良かったのだけれど、正直に言って私達はとても目立った。流石にパレードに参加した際の輝く白銀のドレスは着ていないが、それでも王室が用意してくださったドレスは上質で少々派手で、目を引いてしまう。
行く先々で、まるで私に触れてはならないかのようにザッ!とそこだけ人の波が引き、拝んでいる人さえいる始末。
出店に立ち寄れば「聖女様からお金など受け取れるはずない」と言われ、ほとほと困っていた。
(国が違うとこうも反応が違うのね)
違う国から来たと邪険にされないのはありがたいけれど、これはこれで落ち着かないと思ってしまう。
「イザベラ、大丈夫か?」
「レイリオ?」
「顔色が良くない」
レイリオが私の頬に指を伸ばし、心配そうな声を上げる。彼はいつもこんな風に、人の機微に敏感だ。
「ありがとう、レイリオ。大丈夫」
「ちっ。うっとうしい」
アザゼル様の機嫌が明らかに悪くなっていく。このままでは彼が街の人達に怖がられてしまうと、私は慌ててアザゼル様の外套を引く。
(私の所為でアザゼル様の評判が)
かつては“深林の魔王”などと恐れられていた人だけれど、私にとっては世界で一番優しくて愛おしい人だ。出来ることならば、他の人にも誤解してほしくない。
「私の我儘に付き合わせてごめんなさい。もうお屋敷に帰りましょう」
「は?まだ何もしてねぇだろ」
「雰囲気を味わえただけでも充分です」
心配させないようにこりと微笑んでみたものの、アザゼル様は全く納得いかない様子。
「ちょっと来い、イザベラ」
「えっ、ええ…っ?」
彼はその表情のまま、私の手を掴みずんずんと進んでいく。そうするうちに辿り着いたのは、こじんまりとしたお店だった。
「ここは?」
「仕立て屋だろ、多分」
「仕立て屋…?」
「入るぞ」
アザゼル様に手を繋がれたまま、私達は店内へ続く扉をくぐった。
「いらっしゃいま…まぁ貴女様はもしや聖女イザベラ様では!」
「あっ、あの私は…」
「何も言わずに適当な服を見繕ってくれ。なるべく目立たないものがいい」
アザゼル様の要望に、ふっくらとした優しい笑顔を浮かべていた初老の女性は、驚いたように目を見開く。けれどそれはすぐに、全てを理解したような笑顔に変わった。
「まぁまぁまぁ!私には分かりますよ。美しい聖女様がこんなドレスを着て街を歩いていらっしゃるなんて、おちおちデートもできませんものね!」
「で…っ!」
「この仕立て屋ピエリにお任せを!すぐにご用意できるものはあいにく古着しかございませんが、聖女様にぴったりの上質で素敵で目立たない普通のお洋服をご用意致しますわ!」
ピエリと名乗るその女性は、まるで少女のように瞳をきらきらと輝かせながら、私の手を引いた。
「なんと神々しいお姿…正に清廉な聖女様に相応しい」
「輝くような銀の髪に優しげな瞳…きっと慈悲深くお優しい心に溢れた素晴らしい方だ」
(…とっても居心地が悪い)
本来のイザベラとは全く違う聖女像を囁かれ、まるで騙しているかのようで申し訳なくなってしまった。
ーー本日は感謝祭。エイルダイアンで開かれている数々の祭ごとの中でも、一番の大きなイベントらしく、粉雪が舞う寒空の中でも城下町は活気に溢れていた。
アレイスター様は国王陛下や王妃陛下の警護及び指揮に加え、式典参列や勲章授与式などなどとても忙しそう。
そんな中私だけが祭りを楽しんでも良いものなのかと悩んだのだが、アレイスター様の「初めての祭りを満喫しておいで」という優しいお言葉に甘え、アザゼル様達と街へ繰り出した。
までは良かったのだけれど、正直に言って私達はとても目立った。流石にパレードに参加した際の輝く白銀のドレスは着ていないが、それでも王室が用意してくださったドレスは上質で少々派手で、目を引いてしまう。
行く先々で、まるで私に触れてはならないかのようにザッ!とそこだけ人の波が引き、拝んでいる人さえいる始末。
出店に立ち寄れば「聖女様からお金など受け取れるはずない」と言われ、ほとほと困っていた。
(国が違うとこうも反応が違うのね)
違う国から来たと邪険にされないのはありがたいけれど、これはこれで落ち着かないと思ってしまう。
「イザベラ、大丈夫か?」
「レイリオ?」
「顔色が良くない」
レイリオが私の頬に指を伸ばし、心配そうな声を上げる。彼はいつもこんな風に、人の機微に敏感だ。
「ありがとう、レイリオ。大丈夫」
「ちっ。うっとうしい」
アザゼル様の機嫌が明らかに悪くなっていく。このままでは彼が街の人達に怖がられてしまうと、私は慌ててアザゼル様の外套を引く。
(私の所為でアザゼル様の評判が)
かつては“深林の魔王”などと恐れられていた人だけれど、私にとっては世界で一番優しくて愛おしい人だ。出来ることならば、他の人にも誤解してほしくない。
「私の我儘に付き合わせてごめんなさい。もうお屋敷に帰りましょう」
「は?まだ何もしてねぇだろ」
「雰囲気を味わえただけでも充分です」
心配させないようにこりと微笑んでみたものの、アザゼル様は全く納得いかない様子。
「ちょっと来い、イザベラ」
「えっ、ええ…っ?」
彼はその表情のまま、私の手を掴みずんずんと進んでいく。そうするうちに辿り着いたのは、こじんまりとしたお店だった。
「ここは?」
「仕立て屋だろ、多分」
「仕立て屋…?」
「入るぞ」
アザゼル様に手を繋がれたまま、私達は店内へ続く扉をくぐった。
「いらっしゃいま…まぁ貴女様はもしや聖女イザベラ様では!」
「あっ、あの私は…」
「何も言わずに適当な服を見繕ってくれ。なるべく目立たないものがいい」
アザゼル様の要望に、ふっくらとした優しい笑顔を浮かべていた初老の女性は、驚いたように目を見開く。けれどそれはすぐに、全てを理解したような笑顔に変わった。
「まぁまぁまぁ!私には分かりますよ。美しい聖女様がこんなドレスを着て街を歩いていらっしゃるなんて、おちおちデートもできませんものね!」
「で…っ!」
「この仕立て屋ピエリにお任せを!すぐにご用意できるものはあいにく古着しかございませんが、聖女様にぴったりの上質で素敵で目立たない普通のお洋服をご用意致しますわ!」
ピエリと名乗るその女性は、まるで少女のように瞳をきらきらと輝かせながら、私の手を引いた。
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