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アザゼルの気遣い
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すっかりお祭りを満喫した私は、お腹も心も大満足で終始顔が緩みっぱなし。アザゼル様はふわふわと覚束ない足取りの私をしっかりと支えながら、露店がひしめく広場とは違う方向へ進んでいった。
「ここは…」
少し外れた、小高い草原。街から離れたこの場所は足元さえ見えない程に暗かったけれど、アザゼル様が側の石に触れると淡く発光し、そのおかげで辺りを見ることができた。
少し背伸びをすれば、遠くできらきらと光る景色が見える。あれはきっと…
「海、初めて見ました」
ぐるりと他国で囲まれていたスティラトールでは、見ることができなかった。例えそうでなかったとしても、きっとそんな余裕もなかっただろう。
遠方に広がる海はどこまでも際限なく繋がっているようで、端など見当たらない。海とは、どんな感触なのだろう。匂いは、味は?イアンは塩辛いと言っていたけれど、それは本当なのだろうか。
「冬が過ぎたら海の近くまで行ってみるか」
「はい、行きたいです!」
「分かりやすいなお前は」
アザゼル様の提案ににこにこと満面の笑みを浮かべる。彼は穏やかな声でそう言って、私の頭を撫でた。
「そういえば、どうしてこちらへ?それに先程、空に向かって手を掲げていましたけれど、あれは一体」
「ああ、いた!やっと見つけたわ!」
背後から声が聞こえ振り返ると、いつもの顔触れがこちらに向かってくるのが見えた。ロココさんは頬を膨らませ、イアンは至って普通、レイリオはほんのり嬉しそうな顔で私の側へと駆け寄ってきた。
「ロココさん、イアン、レイリオ!どうしてここに?」
「アザゼル様から合図がありましたから」
「合図?あっ、先程の…」
アザゼル様の行動に合点がいった。彼は魔術を使い、私達の居場所を知らせたのだ。
そんなことができるなんて、魔術とはなんと便利な…
(あれ?それができるのなら、もっと早く合流できたのでは)
ふと浮かんだ疑問は、アザゼル様が私に耳打ちをしたことで解消された。
「二人で回りたかったんだよ、許せ」
甘い声でそんな風に言われて、怒れるはずがない。というよりも、皆には申し訳ないけれど私もアザゼル様と二人でお祭りを楽しむことができて、本当に幸せだった。
「いきなりいなくなるから、私達すっごく探したのよ!」
「探したか?」
「大して探していませんね」
「お黙りそこの二人!」
レイリオはすっかり打ち解けたようで、私も嬉しい。
「イザベラがお前らとも楽しみたいだろうと思ったからな」
「アザゼル様…」
「はぐれて良かったです。祭りの間中これを見せつけられなければならないなんて、地獄ですから。特ににやけ面は見るに耐えない」
「おいイアン。それは誰のことだ」
「お気になさらず」
祭りだろうと変わらないイアンの態度に、くすくすと笑いが溢れる。ロココさんは瞳を潤ませながら「にやけ面のアザゼル様も推せるわ…」と呟いていた。
「今から花火が打ち上がるそうですよ」
「花火?花火とは…?」
「俺も知らない」
首を傾げる私とレイリオに、イアンが真剣な表情を見せた。
「花火とは高等魔術師だけが扱える秘術です。一歩間違えば命をも落としかねない、正に生死をかけた一世一代の大博打です」
「「そうなんだ…!」」
イアンの説明に、私とレイリオは驚きを隠せない。
するとロココさんがすかさず、イアンの脇腹を肘で突いた。
「ちょっとイアン!この子達に嘘吐いたら一生騙されたままじゃないの!」
「うっ、嘘?」
「当たり前に決まってるでしょう!」
どうしてそんなことも分からないのかと叱られてしまった私達は、しゅんと頭を垂れた。
「ここは…」
少し外れた、小高い草原。街から離れたこの場所は足元さえ見えない程に暗かったけれど、アザゼル様が側の石に触れると淡く発光し、そのおかげで辺りを見ることができた。
少し背伸びをすれば、遠くできらきらと光る景色が見える。あれはきっと…
「海、初めて見ました」
ぐるりと他国で囲まれていたスティラトールでは、見ることができなかった。例えそうでなかったとしても、きっとそんな余裕もなかっただろう。
遠方に広がる海はどこまでも際限なく繋がっているようで、端など見当たらない。海とは、どんな感触なのだろう。匂いは、味は?イアンは塩辛いと言っていたけれど、それは本当なのだろうか。
「冬が過ぎたら海の近くまで行ってみるか」
「はい、行きたいです!」
「分かりやすいなお前は」
アザゼル様の提案ににこにこと満面の笑みを浮かべる。彼は穏やかな声でそう言って、私の頭を撫でた。
「そういえば、どうしてこちらへ?それに先程、空に向かって手を掲げていましたけれど、あれは一体」
「ああ、いた!やっと見つけたわ!」
背後から声が聞こえ振り返ると、いつもの顔触れがこちらに向かってくるのが見えた。ロココさんは頬を膨らませ、イアンは至って普通、レイリオはほんのり嬉しそうな顔で私の側へと駆け寄ってきた。
「ロココさん、イアン、レイリオ!どうしてここに?」
「アザゼル様から合図がありましたから」
「合図?あっ、先程の…」
アザゼル様の行動に合点がいった。彼は魔術を使い、私達の居場所を知らせたのだ。
そんなことができるなんて、魔術とはなんと便利な…
(あれ?それができるのなら、もっと早く合流できたのでは)
ふと浮かんだ疑問は、アザゼル様が私に耳打ちをしたことで解消された。
「二人で回りたかったんだよ、許せ」
甘い声でそんな風に言われて、怒れるはずがない。というよりも、皆には申し訳ないけれど私もアザゼル様と二人でお祭りを楽しむことができて、本当に幸せだった。
「いきなりいなくなるから、私達すっごく探したのよ!」
「探したか?」
「大して探していませんね」
「お黙りそこの二人!」
レイリオはすっかり打ち解けたようで、私も嬉しい。
「イザベラがお前らとも楽しみたいだろうと思ったからな」
「アザゼル様…」
「はぐれて良かったです。祭りの間中これを見せつけられなければならないなんて、地獄ですから。特ににやけ面は見るに耐えない」
「おいイアン。それは誰のことだ」
「お気になさらず」
祭りだろうと変わらないイアンの態度に、くすくすと笑いが溢れる。ロココさんは瞳を潤ませながら「にやけ面のアザゼル様も推せるわ…」と呟いていた。
「今から花火が打ち上がるそうですよ」
「花火?花火とは…?」
「俺も知らない」
首を傾げる私とレイリオに、イアンが真剣な表情を見せた。
「花火とは高等魔術師だけが扱える秘術です。一歩間違えば命をも落としかねない、正に生死をかけた一世一代の大博打です」
「「そうなんだ…!」」
イアンの説明に、私とレイリオは驚きを隠せない。
するとロココさんがすかさず、イアンの脇腹を肘で突いた。
「ちょっとイアン!この子達に嘘吐いたら一生騙されたままじゃないの!」
「うっ、嘘?」
「当たり前に決まってるでしょう!」
どうしてそんなことも分からないのかと叱られてしまった私達は、しゅんと頭を垂れた。
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