27 / 45
第四章「スナオになりたい」
⑥
しおりを挟む
「はい、どうぞ」
誰もいない小さな公園の端にあるベンチに並んで座り、王寺先輩はガサガサと袋からラスクを取り出すと私に差し出した。
「いいんですか?」
「うん。一緒に食べよう」
「ありがとうございます!」
しっかりとお礼を言って、私はラスクを一口かじる。サクッという小気味いい音と共にバターの風味が口いっぱいに広がった。
「おいしい…ちょうどいい甘さで食感も軽くて、いくらでも食べられそうです!」
パァッと表情が明るくなるのが自分でも分かる。やっぱり、パン屋さんだからパン自体もおいしい。
あのお店は知ってたけど、ラスクが売ってるなんて知らなかった。食感もくせになって、ついつい夢中になって食べてしまう。
「ハハッ、白石さんハムスターみたい」
「ハ、ハムスターですか!?」
私の食べてる姿を見ながら、王寺先輩が笑う。私は恥ずかしくなって、残りのラスクを急いで食べた。
「可愛いってこと」
「あ、アハハ…ッ」
どうしよう。私今絶対顔真っ赤だ。王寺先輩に可愛いって言われる日が来るなんて、これって夢じゃないよねってまだちょっとだけ疑ってる。
「お、王寺先輩って本当に甘いものが好きなんですね」
手をうちわみたいにしてパタパタと顔を仰ぎながら、私は話題を変えた。
「男のくせにって思う?」
「思いませんよ。私も大好きだから、話ができるなって」
「そっか、よかった」
優しげに目を細める王寺先輩を見て、私もニコッと笑った。
「甘いものって、食べると元気になりますよね。王寺先輩のラスクのおかげで、私も元気をもらえました。本当にありがとうございます」
「いえいえ。白石さんが元気だと、俺も嬉しいから」
そんなこと言ってもらえるなんて、嬉しすぎる。やっぱり王寺先輩、心配してくれてたんだ。
ただ部活の後輩っていうだけの私のことまで気遣ってくれるなんて、王寺先輩ってどこまでいい人なんだろう。
暗い顔ばっかりしてちゃ、ダメだよね。
私はグッと拳を握りしめて、まっすぐに王寺先輩を見つめた。
「あの、王寺先輩…っ」
「どうしたの?」
本当は、凄く怖い。でもだからって、ずっと嘘をついたみたいになってるのもよくないから。王寺先輩に対しても甘崎君に対しても、不誠実でいたくない。
「この間先輩に食べてもらったクッキーのことなんですけど」
「クッキー?あ、うん。凄いおいしかった…」
「あれは、私が作ったものじゃないんです」
私の言葉に、王寺先輩の目が少しだけ見開かれる。
「実はクラスの人からもらったものだったんですけど、あの時はちゃんと説明できなくて…私が作ったみたいに誤解させてしまって、本当にごめんさない」
「白石さん…」
精いっぱいの気持ちを込めて、私は深く頭を下げた。もし呆れられたとしても、それは自業自得だから。
「そんな謝らないでよ!俺も勘違いしちゃって、なんか恥ずかしいな」
顔を上げると、笑顔の王寺先輩と目が合う。先輩は少し照れたように、手を頭の後ろにおいた。
「全然謝ることじゃないよ。ていうか、せっかく人からもらったものほとんど食べちゃって、俺の方こそごめん」
「そ、そんなことないです!」
安心して泣きそうになる。こんなに優しい言葉をかけてもらえるなんて。
「王寺先輩に嫌われなくてよかった…」
ホッとして、思わず心の声がもれてしまった。
「もしよかったら今度、白石さんの作ったお菓子が食べたいなーなんて、俺図々しいかな」
「で、でも私料理とか得意じゃなくて…きっとおいしくできないと思います」
「そんなの関係ないよ。白石さんの手作りなら、なんでも嬉しいから」
心臓がドキドキする。王寺先輩は気を遣って言ってくれてるだけなのに、茜色の空のせいなのか先輩の顔が赤く染まって見える。
しばらくしてそろそろ帰ろうかって言われて、先輩は家の近くまで送ってくれた。
その後もしばらく気分がボーッして、自分が何をしたのかもよく思い出せなかった。
誰もいない小さな公園の端にあるベンチに並んで座り、王寺先輩はガサガサと袋からラスクを取り出すと私に差し出した。
「いいんですか?」
「うん。一緒に食べよう」
「ありがとうございます!」
しっかりとお礼を言って、私はラスクを一口かじる。サクッという小気味いい音と共にバターの風味が口いっぱいに広がった。
「おいしい…ちょうどいい甘さで食感も軽くて、いくらでも食べられそうです!」
パァッと表情が明るくなるのが自分でも分かる。やっぱり、パン屋さんだからパン自体もおいしい。
あのお店は知ってたけど、ラスクが売ってるなんて知らなかった。食感もくせになって、ついつい夢中になって食べてしまう。
「ハハッ、白石さんハムスターみたい」
「ハ、ハムスターですか!?」
私の食べてる姿を見ながら、王寺先輩が笑う。私は恥ずかしくなって、残りのラスクを急いで食べた。
「可愛いってこと」
「あ、アハハ…ッ」
どうしよう。私今絶対顔真っ赤だ。王寺先輩に可愛いって言われる日が来るなんて、これって夢じゃないよねってまだちょっとだけ疑ってる。
「お、王寺先輩って本当に甘いものが好きなんですね」
手をうちわみたいにしてパタパタと顔を仰ぎながら、私は話題を変えた。
「男のくせにって思う?」
「思いませんよ。私も大好きだから、話ができるなって」
「そっか、よかった」
優しげに目を細める王寺先輩を見て、私もニコッと笑った。
「甘いものって、食べると元気になりますよね。王寺先輩のラスクのおかげで、私も元気をもらえました。本当にありがとうございます」
「いえいえ。白石さんが元気だと、俺も嬉しいから」
そんなこと言ってもらえるなんて、嬉しすぎる。やっぱり王寺先輩、心配してくれてたんだ。
ただ部活の後輩っていうだけの私のことまで気遣ってくれるなんて、王寺先輩ってどこまでいい人なんだろう。
暗い顔ばっかりしてちゃ、ダメだよね。
私はグッと拳を握りしめて、まっすぐに王寺先輩を見つめた。
「あの、王寺先輩…っ」
「どうしたの?」
本当は、凄く怖い。でもだからって、ずっと嘘をついたみたいになってるのもよくないから。王寺先輩に対しても甘崎君に対しても、不誠実でいたくない。
「この間先輩に食べてもらったクッキーのことなんですけど」
「クッキー?あ、うん。凄いおいしかった…」
「あれは、私が作ったものじゃないんです」
私の言葉に、王寺先輩の目が少しだけ見開かれる。
「実はクラスの人からもらったものだったんですけど、あの時はちゃんと説明できなくて…私が作ったみたいに誤解させてしまって、本当にごめんさない」
「白石さん…」
精いっぱいの気持ちを込めて、私は深く頭を下げた。もし呆れられたとしても、それは自業自得だから。
「そんな謝らないでよ!俺も勘違いしちゃって、なんか恥ずかしいな」
顔を上げると、笑顔の王寺先輩と目が合う。先輩は少し照れたように、手を頭の後ろにおいた。
「全然謝ることじゃないよ。ていうか、せっかく人からもらったものほとんど食べちゃって、俺の方こそごめん」
「そ、そんなことないです!」
安心して泣きそうになる。こんなに優しい言葉をかけてもらえるなんて。
「王寺先輩に嫌われなくてよかった…」
ホッとして、思わず心の声がもれてしまった。
「もしよかったら今度、白石さんの作ったお菓子が食べたいなーなんて、俺図々しいかな」
「で、でも私料理とか得意じゃなくて…きっとおいしくできないと思います」
「そんなの関係ないよ。白石さんの手作りなら、なんでも嬉しいから」
心臓がドキドキする。王寺先輩は気を遣って言ってくれてるだけなのに、茜色の空のせいなのか先輩の顔が赤く染まって見える。
しばらくしてそろそろ帰ろうかって言われて、先輩は家の近くまで送ってくれた。
その後もしばらく気分がボーッして、自分が何をしたのかもよく思い出せなかった。
0
あなたにおすすめの小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
【親子おはなし絵本】ドングリさんいっぱい(2~4歳向け(漢字えほん):いろいろできたね!)
天渡 香
絵本
「ごちそうさま。ドングリさんをちょうだい」ママは、さっちゃんの小さな手に、ドングリさんをのせます。
+:-:+:-:+
ドングリさんが大好きな我が子ために作った絵本です。
+:-:+:-:+
「ひとりでトイレに行けたね!」とほめながら、おててにドングリさんを渡すような話しかけをしています(親子のコミュニケーションを目的にしています)。
+:-:+:-:+
「ドングリさんをちょうだい」のフレーズを繰り返しているうちに、子供の方から「ドングリさんはどうしたらもらえるの?」とたずねてくれたので、「ひとりでお着がえできたら、ドングリさんをもらえるよ~」と、我が家では親子の会話がはずみました。
+:-:+:-:+
寝る前に、今日の「いろいろできたね!」をお話しするのにもぴったりです!
+:-:+:-:+
2歳の頃から、園で『漢字えほん(漢字が含まれている童話の本)』に親しんでいる我が子。出版数の少ない、低年齢向けの『漢字えほん』を自分で作ってみました。漢字がまじる事で、大人もスラスラ読み聞かせができます。『友達』という漢字を見つけて、子供が喜ぶなど、ひらがなだけの絵本にはない発見の楽しさがあるようです。
+:-:+:-:+
未満児(1~3歳頃)に漢字のまじった絵本を渡すというのには最初驚きましたが、『街中の看板』『広告』の一つ一つも子供にとっては楽しい童話に見えるようです。漢字の成り立ちなどの『漢字えほん』は多数ありますが、童話に『漢字とひらがなとカタカナ』を含む事で、自然と興味を持って『文字が好き』になったみたいです。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
パンティージャムジャムおじさん
KOU/Vami
児童書・童話
夜の街に、歌いながら歩く奇妙なおじさんが現れる。
口癖は「パラダイス~☆♪♡」――名乗る名は「パンティージャムジャムおじさん」。
子供たちは笑いながら彼の後についていき、歌を真似し、踊り、列は少しずつ長くなる。
そして翌朝、街は初めて気づく。昨夜の歌が、ただの遊びではなかったことに。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる