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最終章「仲直りのエガオ」
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私達は近所の小さな公園にやってきた。甘崎君の髪は朝見たボサボサのままで、表情がよく見えない。夕方を少し過ぎたこの場所には誰もいなくて、私達は古びたベンチに並んで座った。二人の間には少し距離があって、私はそれを寂しいと感じた。
「ごめんね、忙しい時間に」
「…いや、いいよ」
「お弁当、ホントにおいしかった。ありがとう」
私の言葉に、甘崎君の視線が下がる。
「別にいつでもよかったのに」
「えっ?あ…」
どうやら彼は、私が持っている紙袋の中身が空のお弁当箱だと思ったみたいだ。
「違うのこれ、お弁当箱じゃないよ。ごめんね、さっき帰ったばっかりでまだ洗えてないから、また今度返すね」
「そうなんだ。俺はてっきり」
「…これは、甘崎君へのプレゼントだから」
顔が熱い。手も震えるし、心臓も痛いくらいにドキドキしてる。自分の作ったものを誰かに渡すのって、こんなに勇気のいることだったんだ。
「もらって、くれますか?」
おずおずと紙袋を差し出すと、甘崎君の膝に乗せる。彼は戸惑ったような手つきで、紙袋の中身をを取り出した。
「これ…」
「クッキー、昨日作ったんだ。甘崎君に教わった通りにしたのに、やっぱり味は違っちゃったけど。でも、前より全然おいしくできたから」
「何で?だってこれは…」
甘崎君はクッキーの入った包みを握りしめながら、驚いた表情で私を見つめる。
彼はやっぱり、今朝私が言った言葉を誤解しているみたいだった。
「王寺先輩にはあげてないんだ。私が手作りクッキーをあげるのは、甘崎君が初めて。あ、この間持って帰ってくれたのも含めてね?」
「せっかく上手くできたのに、何で俺なんかに…」
「私が甘崎君に、渡したいと思ったから」
甘崎君の顔から顔をそらさないでそう言ったけど、恥ずかしさと緊張ですぐにうつむいてしまう。すると今度は甘崎君の方が、私の顔を覗き込んだ。
普段は前髪に隠れてちゃんと見えない彼の瞳が、今はハッキリと分かる。
「白石は今日、先輩に渡す為に作ったんだと思ってた」
「甘崎君に渡す為に作ったんだよ」
「…そっか」
嬉しそうに目を細めた甘崎君の頬っぺたは少し赤くて、心臓が何個もあるんじゃないかと思うくらいドキドキして、どうしようもない。
いつもよりずっと近い距離の甘崎君からは、フワッと甘い香りが漂ってきた。
「私最近ね?部屋に一人でいても寂しいって思うことがなくなったんだ。気付いたら甘崎君のことばっかり考えてて、それで頭がいっぱいになっちゃって」
「俺も、一緒。すぐ白石の笑ってるが浮かんで、会いたい…とか思う」
「甘崎、君」
ベンチに置いた手に、甘崎君の指先が触れる。それだけでどうしようもなく緊張して、心臓が跳ねた。
「王寺先輩のことは、確かに憧れてた。でも甘崎君のことを知っていくうちに、優しいところとか家族思いのところとか、そういうの全部素敵だなって思ったんだ」
「どうしよう、めちゃくちゃ嬉しい」
もう夕陽は出てないのに、お互いの顔は真っ赤だ。今、こんなに甘崎君の近くにいられることが私も嬉しい。
もう私はとっくに、彼に惹かれてたんだ。
「頑張り屋なのも、一生懸命なのも、おいしそうに食べてくれるのも、凄く可愛いって思うし、そういう白石を知ってるのが俺だけだったらいいのにって、いつも思ってた」
「私が素直になれるのは、甘崎君だけだよ」
もうほんの少しだけ、私達の距離が近付く。私は触れている手に少しだけ力を入れて、フニャッと笑った。
「甘崎君、いつもありがとう」
「…白石。俺、白石のこと」
「あぁ!二人ともこんなところにいたぁ!」
突然聞こえた大きな声に、私達の肩がビクッと大げさに震える。すぐにミドリ君とアオ君がこっちに駆け寄ってきた。
「二人だけで遊んでずるいよ!」
「マシロにぃばっかり、ツバサちゃんひとりじめしないでっ」
「それにお腹空いた!」
「僕も!」
手足をバタつかせてる二人を見ながら、私と甘崎君は目を見合わせる。それからお互い、力が抜けたように笑った。
「ごめんね、忙しい時間に」
「…いや、いいよ」
「お弁当、ホントにおいしかった。ありがとう」
私の言葉に、甘崎君の視線が下がる。
「別にいつでもよかったのに」
「えっ?あ…」
どうやら彼は、私が持っている紙袋の中身が空のお弁当箱だと思ったみたいだ。
「違うのこれ、お弁当箱じゃないよ。ごめんね、さっき帰ったばっかりでまだ洗えてないから、また今度返すね」
「そうなんだ。俺はてっきり」
「…これは、甘崎君へのプレゼントだから」
顔が熱い。手も震えるし、心臓も痛いくらいにドキドキしてる。自分の作ったものを誰かに渡すのって、こんなに勇気のいることだったんだ。
「もらって、くれますか?」
おずおずと紙袋を差し出すと、甘崎君の膝に乗せる。彼は戸惑ったような手つきで、紙袋の中身をを取り出した。
「これ…」
「クッキー、昨日作ったんだ。甘崎君に教わった通りにしたのに、やっぱり味は違っちゃったけど。でも、前より全然おいしくできたから」
「何で?だってこれは…」
甘崎君はクッキーの入った包みを握りしめながら、驚いた表情で私を見つめる。
彼はやっぱり、今朝私が言った言葉を誤解しているみたいだった。
「王寺先輩にはあげてないんだ。私が手作りクッキーをあげるのは、甘崎君が初めて。あ、この間持って帰ってくれたのも含めてね?」
「せっかく上手くできたのに、何で俺なんかに…」
「私が甘崎君に、渡したいと思ったから」
甘崎君の顔から顔をそらさないでそう言ったけど、恥ずかしさと緊張ですぐにうつむいてしまう。すると今度は甘崎君の方が、私の顔を覗き込んだ。
普段は前髪に隠れてちゃんと見えない彼の瞳が、今はハッキリと分かる。
「白石は今日、先輩に渡す為に作ったんだと思ってた」
「甘崎君に渡す為に作ったんだよ」
「…そっか」
嬉しそうに目を細めた甘崎君の頬っぺたは少し赤くて、心臓が何個もあるんじゃないかと思うくらいドキドキして、どうしようもない。
いつもよりずっと近い距離の甘崎君からは、フワッと甘い香りが漂ってきた。
「私最近ね?部屋に一人でいても寂しいって思うことがなくなったんだ。気付いたら甘崎君のことばっかり考えてて、それで頭がいっぱいになっちゃって」
「俺も、一緒。すぐ白石の笑ってるが浮かんで、会いたい…とか思う」
「甘崎、君」
ベンチに置いた手に、甘崎君の指先が触れる。それだけでどうしようもなく緊張して、心臓が跳ねた。
「王寺先輩のことは、確かに憧れてた。でも甘崎君のことを知っていくうちに、優しいところとか家族思いのところとか、そういうの全部素敵だなって思ったんだ」
「どうしよう、めちゃくちゃ嬉しい」
もう夕陽は出てないのに、お互いの顔は真っ赤だ。今、こんなに甘崎君の近くにいられることが私も嬉しい。
もう私はとっくに、彼に惹かれてたんだ。
「頑張り屋なのも、一生懸命なのも、おいしそうに食べてくれるのも、凄く可愛いって思うし、そういう白石を知ってるのが俺だけだったらいいのにって、いつも思ってた」
「私が素直になれるのは、甘崎君だけだよ」
もうほんの少しだけ、私達の距離が近付く。私は触れている手に少しだけ力を入れて、フニャッと笑った。
「甘崎君、いつもありがとう」
「…白石。俺、白石のこと」
「あぁ!二人ともこんなところにいたぁ!」
突然聞こえた大きな声に、私達の肩がビクッと大げさに震える。すぐにミドリ君とアオ君がこっちに駆け寄ってきた。
「二人だけで遊んでずるいよ!」
「マシロにぃばっかり、ツバサちゃんひとりじめしないでっ」
「それにお腹空いた!」
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