一心君は、人狼です!

清澄 セイ

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第一章「この世界は、ヒトとジンロウが暮らしている」

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 ──わたし達の暮らすこの世界には、【人狼】と呼ばれるトクベツな存在がいる。

 どうして生まれたのか、どんな風にどこからやってきたのか、詳しいことは今もまだ解明されていない。

 空想の存在だと思っていたモノが、ある日突然目の前に現れる。それはきっと、とても怖いことなんだろう。実際歴史の教科書には、人と人狼はかつては相容れない存在だったと書いてある。

 それでも少しずつ歩み寄り、お互いを知り合い、共存の道を歩もうと努力する。そうして生まれたのが、人狼保護団体や人狼保護法で、日本にも人狼が暮らす専用区があるのだと、いつかの授業で先生が話していた。

 人狼は人間よりも身体能力が高く、そして貴重な存在だ。誰かが独占したり、酷いことをしたり、争いが起こったり。そういうことを防ぐ為に、人狼を守るたくさんの法律や手段が出来たんだとも。

 人狼には美形が多いらしく、最近では人狼が俳優やアイドルとしてテレビで活躍することも増えて、テレビでもよく特集が組まれてる。

 当たり前だけど人狼にもみんなそれぞれ性格があって、働いたり遊んだり家族を作ったり。人間と変わらない毎日を過ごしていて、今はもうほとんどの人は人狼っていう存在に対して好意的だ。

 普段の見た目は、私たちと何も変わらない。狼みたいなケモノの耳とシッポ、それに牙は、自由自在に出し入れできる人もいれば、コントロールできない人もいるらしい。

 ちなみに、昔の映画でよく見たりする「満月を見ると変身する」は作り話なんだって。

 とまぁそんな少し変わった世界で、今日も私の普通の一日が始まるのです。



 ♢♢♢

 わたしの名前は三ツ星日向。お母さんとお揃いの長い黒髪が自慢の、ごく普通の中学一年生。ウチの家は小さな洋食屋で、一階がお店で二階と三階が居住スペース。

 お父さんの作る料理はどれも世界で一番おいしいって、胸を張って言える。

「おはよう日向!」
「コマちゃん。おはよう」
「今日も蒸し暑いね」

 季節は六月。制服も夏服に変わり、毎日ジメジメとした日が続いている。明日には梅雨入りするって、テレビ越しのお天気お姉さんが言っていた。

 今わたしに声をかけてくれたのは、コマちゃんこと生駒夏海(イコマナツミ)ちゃん。小学校から仲がよくて、家族でウチの店の常連さんでもある。

 さっぱりしたショートヘアで運動神経もよくて、明るいムードメーカー。小学校の時には、わたしが男の子からからかわれているといつも助けてくれた、優しい子だ。

 それからコマちゃんにはもう一つ、大のアイドル好きという特徴もある。

 それも【人狼】限定の。

「ねぇ日向、昨日のミュージックスター観た!?もう最高だったね!さすが《ルプス》だよねぇ~」

 彼女は頬をピンク色に染めながら、トロンとした瞳でそう言った。

 今彼女の口から出てきた《ルプス》というのは、人狼で結成された四人組男性アイドルグループ。最近、テレビで一日一回は必ずと言っていいほど目にする、大人気グループだ。

 彼らはコマちゃんの”推し“で、この話をしている時のコマちゃんの目は、いつもキラキラと輝いている。

「日向だって思うでしょ?かっこいいって」
「うん、確かにカッコいいよね。歌もダンスも上手だし」
「だよね!ルックスだけじゃなくて歌もいいしダンスもキレキレだし、ああもう本当に推せる!」
「コマちゃんはメンバーみんな好きなんだっけ?」
「そう、私は“ハコ推し“派なの!」

 コマちゃんの言う”ハコ推し”とは、アイドルグループの誰か一人が好きというわけではなく、そのグループみんなを応援する人のことなんだって。

 わたしはアイドルに詳しくないけど、コマちゃんのおかげで人並みの知識は持っていると思う。

「あんまり有名じゃない頃からこつこつ努力してきて、今やライブのチケットなんてファンクラブ入ってても入手困難!全部がカンペキだしずば抜けてるし、なのにファンとのイベントも頻繁に企画してくれるし、それにそれに」
「分かったから、ちょっと落ち着いてコマちゃん」
「あ、日向ちょっと飽きてるでしょ!」
「そんなことないよ。私も人狼は好きだし、もっと認められるといいよね」

 拗ねたように唇を尖らせるコマちゃんをなだめつつ、それは本心から出た言葉だった。

「人と人狼が最高に仲良くできる世界にしたいって、日向の夢だもんね」
「ちょっと壮大過ぎるかな」
「そんなことないって!日向なら出来るよ、料理上手だしさ!」

 明るい口調でそう言ってパシッと背中を叩くコマちゃんに、わたしも笑顔を返した。

【人も人狼も関係ない、楽しく過ごせる場所を作ること】

 これは、わたしの小さな頃からの夢。あんまり人に話したことはないけど、大の仲良しであるコマちゃんにだけは話していた。

 今はまだほとんどの人狼が専用区で生活をしているらしくて、ウチの学校にも人狼を公表して通ってる生徒は一人もいない。

 専用区がある理由は、耳やシッポを隠すのがめんどうだとか、専用の医療機関が少ないだとか、まだなにも分からない小さな子どもが差別されるのは可哀想だからとか、色々あるみたい。要は、専用区の方が暮らしやすいからだってことなんだろう。

 特に出入りの規制はされていないって話だから、専用区の中で働いている人間だっているかもしれないし、あくまで人狼が傷つかないための場所ってことだとわたしは思う。

 人狼は絶対にそこで生活しなきゃいけないってわけじゃないし。
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