1 / 33
第一章「この世界は、ヒトとジンロウが暮らしている」
①
しおりを挟む
──わたし達の暮らすこの世界には、【人狼】と呼ばれるトクベツな存在がいる。
どうして生まれたのか、どんな風にどこからやってきたのか、詳しいことは今もまだ解明されていない。
空想の存在だと思っていたモノが、ある日突然目の前に現れる。それはきっと、とても怖いことなんだろう。実際歴史の教科書には、人と人狼はかつては相容れない存在だったと書いてある。
それでも少しずつ歩み寄り、お互いを知り合い、共存の道を歩もうと努力する。そうして生まれたのが、人狼保護団体や人狼保護法で、日本にも人狼が暮らす専用区があるのだと、いつかの授業で先生が話していた。
人狼は人間よりも身体能力が高く、そして貴重な存在だ。誰かが独占したり、酷いことをしたり、争いが起こったり。そういうことを防ぐ為に、人狼を守るたくさんの法律や手段が出来たんだとも。
人狼には美形が多いらしく、最近では人狼が俳優やアイドルとしてテレビで活躍することも増えて、テレビでもよく特集が組まれてる。
当たり前だけど人狼にもみんなそれぞれ性格があって、働いたり遊んだり家族を作ったり。人間と変わらない毎日を過ごしていて、今はもうほとんどの人は人狼っていう存在に対して好意的だ。
普段の見た目は、私たちと何も変わらない。狼みたいなケモノの耳とシッポ、それに牙は、自由自在に出し入れできる人もいれば、コントロールできない人もいるらしい。
ちなみに、昔の映画でよく見たりする「満月を見ると変身する」は作り話なんだって。
とまぁそんな少し変わった世界で、今日も私の普通の一日が始まるのです。
♢♢♢
わたしの名前は三ツ星日向。お母さんとお揃いの長い黒髪が自慢の、ごく普通の中学一年生。ウチの家は小さな洋食屋で、一階がお店で二階と三階が居住スペース。
お父さんの作る料理はどれも世界で一番おいしいって、胸を張って言える。
「おはよう日向!」
「コマちゃん。おはよう」
「今日も蒸し暑いね」
季節は六月。制服も夏服に変わり、毎日ジメジメとした日が続いている。明日には梅雨入りするって、テレビ越しのお天気お姉さんが言っていた。
今わたしに声をかけてくれたのは、コマちゃんこと生駒夏海(イコマナツミ)ちゃん。小学校から仲がよくて、家族でウチの店の常連さんでもある。
さっぱりしたショートヘアで運動神経もよくて、明るいムードメーカー。小学校の時には、わたしが男の子からからかわれているといつも助けてくれた、優しい子だ。
それからコマちゃんにはもう一つ、大のアイドル好きという特徴もある。
それも【人狼】限定の。
「ねぇ日向、昨日のミュージックスター観た!?もう最高だったね!さすが《ルプス》だよねぇ~」
彼女は頬をピンク色に染めながら、トロンとした瞳でそう言った。
今彼女の口から出てきた《ルプス》というのは、人狼で結成された四人組男性アイドルグループ。最近、テレビで一日一回は必ずと言っていいほど目にする、大人気グループだ。
彼らはコマちゃんの”推し“で、この話をしている時のコマちゃんの目は、いつもキラキラと輝いている。
「日向だって思うでしょ?かっこいいって」
「うん、確かにカッコいいよね。歌もダンスも上手だし」
「だよね!ルックスだけじゃなくて歌もいいしダンスもキレキレだし、ああもう本当に推せる!」
「コマちゃんはメンバーみんな好きなんだっけ?」
「そう、私は“ハコ推し“派なの!」
コマちゃんの言う”ハコ推し”とは、アイドルグループの誰か一人が好きというわけではなく、そのグループみんなを応援する人のことなんだって。
わたしはアイドルに詳しくないけど、コマちゃんのおかげで人並みの知識は持っていると思う。
「あんまり有名じゃない頃からこつこつ努力してきて、今やライブのチケットなんてファンクラブ入ってても入手困難!全部がカンペキだしずば抜けてるし、なのにファンとのイベントも頻繁に企画してくれるし、それにそれに」
「分かったから、ちょっと落ち着いてコマちゃん」
「あ、日向ちょっと飽きてるでしょ!」
「そんなことないよ。私も人狼は好きだし、もっと認められるといいよね」
拗ねたように唇を尖らせるコマちゃんをなだめつつ、それは本心から出た言葉だった。
「人と人狼が最高に仲良くできる世界にしたいって、日向の夢だもんね」
「ちょっと壮大過ぎるかな」
「そんなことないって!日向なら出来るよ、料理上手だしさ!」
明るい口調でそう言ってパシッと背中を叩くコマちゃんに、わたしも笑顔を返した。
【人も人狼も関係ない、楽しく過ごせる場所を作ること】
これは、わたしの小さな頃からの夢。あんまり人に話したことはないけど、大の仲良しであるコマちゃんにだけは話していた。
今はまだほとんどの人狼が専用区で生活をしているらしくて、ウチの学校にも人狼を公表して通ってる生徒は一人もいない。
専用区がある理由は、耳やシッポを隠すのがめんどうだとか、専用の医療機関が少ないだとか、まだなにも分からない小さな子どもが差別されるのは可哀想だからとか、色々あるみたい。要は、専用区の方が暮らしやすいからだってことなんだろう。
特に出入りの規制はされていないって話だから、専用区の中で働いている人間だっているかもしれないし、あくまで人狼が傷つかないための場所ってことだとわたしは思う。
人狼は絶対にそこで生活しなきゃいけないってわけじゃないし。
どうして生まれたのか、どんな風にどこからやってきたのか、詳しいことは今もまだ解明されていない。
空想の存在だと思っていたモノが、ある日突然目の前に現れる。それはきっと、とても怖いことなんだろう。実際歴史の教科書には、人と人狼はかつては相容れない存在だったと書いてある。
それでも少しずつ歩み寄り、お互いを知り合い、共存の道を歩もうと努力する。そうして生まれたのが、人狼保護団体や人狼保護法で、日本にも人狼が暮らす専用区があるのだと、いつかの授業で先生が話していた。
人狼は人間よりも身体能力が高く、そして貴重な存在だ。誰かが独占したり、酷いことをしたり、争いが起こったり。そういうことを防ぐ為に、人狼を守るたくさんの法律や手段が出来たんだとも。
人狼には美形が多いらしく、最近では人狼が俳優やアイドルとしてテレビで活躍することも増えて、テレビでもよく特集が組まれてる。
当たり前だけど人狼にもみんなそれぞれ性格があって、働いたり遊んだり家族を作ったり。人間と変わらない毎日を過ごしていて、今はもうほとんどの人は人狼っていう存在に対して好意的だ。
普段の見た目は、私たちと何も変わらない。狼みたいなケモノの耳とシッポ、それに牙は、自由自在に出し入れできる人もいれば、コントロールできない人もいるらしい。
ちなみに、昔の映画でよく見たりする「満月を見ると変身する」は作り話なんだって。
とまぁそんな少し変わった世界で、今日も私の普通の一日が始まるのです。
♢♢♢
わたしの名前は三ツ星日向。お母さんとお揃いの長い黒髪が自慢の、ごく普通の中学一年生。ウチの家は小さな洋食屋で、一階がお店で二階と三階が居住スペース。
お父さんの作る料理はどれも世界で一番おいしいって、胸を張って言える。
「おはよう日向!」
「コマちゃん。おはよう」
「今日も蒸し暑いね」
季節は六月。制服も夏服に変わり、毎日ジメジメとした日が続いている。明日には梅雨入りするって、テレビ越しのお天気お姉さんが言っていた。
今わたしに声をかけてくれたのは、コマちゃんこと生駒夏海(イコマナツミ)ちゃん。小学校から仲がよくて、家族でウチの店の常連さんでもある。
さっぱりしたショートヘアで運動神経もよくて、明るいムードメーカー。小学校の時には、わたしが男の子からからかわれているといつも助けてくれた、優しい子だ。
それからコマちゃんにはもう一つ、大のアイドル好きという特徴もある。
それも【人狼】限定の。
「ねぇ日向、昨日のミュージックスター観た!?もう最高だったね!さすが《ルプス》だよねぇ~」
彼女は頬をピンク色に染めながら、トロンとした瞳でそう言った。
今彼女の口から出てきた《ルプス》というのは、人狼で結成された四人組男性アイドルグループ。最近、テレビで一日一回は必ずと言っていいほど目にする、大人気グループだ。
彼らはコマちゃんの”推し“で、この話をしている時のコマちゃんの目は、いつもキラキラと輝いている。
「日向だって思うでしょ?かっこいいって」
「うん、確かにカッコいいよね。歌もダンスも上手だし」
「だよね!ルックスだけじゃなくて歌もいいしダンスもキレキレだし、ああもう本当に推せる!」
「コマちゃんはメンバーみんな好きなんだっけ?」
「そう、私は“ハコ推し“派なの!」
コマちゃんの言う”ハコ推し”とは、アイドルグループの誰か一人が好きというわけではなく、そのグループみんなを応援する人のことなんだって。
わたしはアイドルに詳しくないけど、コマちゃんのおかげで人並みの知識は持っていると思う。
「あんまり有名じゃない頃からこつこつ努力してきて、今やライブのチケットなんてファンクラブ入ってても入手困難!全部がカンペキだしずば抜けてるし、なのにファンとのイベントも頻繁に企画してくれるし、それにそれに」
「分かったから、ちょっと落ち着いてコマちゃん」
「あ、日向ちょっと飽きてるでしょ!」
「そんなことないよ。私も人狼は好きだし、もっと認められるといいよね」
拗ねたように唇を尖らせるコマちゃんをなだめつつ、それは本心から出た言葉だった。
「人と人狼が最高に仲良くできる世界にしたいって、日向の夢だもんね」
「ちょっと壮大過ぎるかな」
「そんなことないって!日向なら出来るよ、料理上手だしさ!」
明るい口調でそう言ってパシッと背中を叩くコマちゃんに、わたしも笑顔を返した。
【人も人狼も関係ない、楽しく過ごせる場所を作ること】
これは、わたしの小さな頃からの夢。あんまり人に話したことはないけど、大の仲良しであるコマちゃんにだけは話していた。
今はまだほとんどの人狼が専用区で生活をしているらしくて、ウチの学校にも人狼を公表して通ってる生徒は一人もいない。
専用区がある理由は、耳やシッポを隠すのがめんどうだとか、専用の医療機関が少ないだとか、まだなにも分からない小さな子どもが差別されるのは可哀想だからとか、色々あるみたい。要は、専用区の方が暮らしやすいからだってことなんだろう。
特に出入りの規制はされていないって話だから、専用区の中で働いている人間だっているかもしれないし、あくまで人狼が傷つかないための場所ってことだとわたしは思う。
人狼は絶対にそこで生活しなきゃいけないってわけじゃないし。
20
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる