2 / 33
第一章「この世界は、ヒトとジンロウが暮らしている」
②
しおりを挟む
実際わたしも小さい頃、専用区なんて関係ない家の近くの川で溺れかけたところを人狼に助けてもらったことがある。
お母さんが高い熱を出したことがあって、リンゴを食べさせてあげたい思ったわたしはスーパーへ行こうと一人で家を出てしまった。
わたしが風邪を引いた時は、いつもそうしてもらってたから。
だけど途中で迷子になって泣きながらウロウロしていた時、運悪く河川敷で足を滑らせて川に落ちてしまった。
そこまで深かったわけじゃないけど、まだ小さかったわたしはパニックになった。暴れれば暴れるほど、鼻や口から水が入ってきてどうすることも出来なくて、何も考えられなくなった。
そんなわたしを助けてくれたのが、人狼だった。女のヒトで、多分お母さんと同じくらいの年齢だったと思う。
震えながら大泣きするわたしを抱っこして、ウチまで連れて帰ってくれた。
後から知ったことだけど、そのヒトは体が弱くて、他の人狼みたいに耳やシッポを隠すことが出来なかったらしい。帽子を被っていたみたいだったけど、わたしを助ける時に落としてしまったって。
怖がらせてごめんねって謝られたけど、その時のわたしは、怖がるよりも触ってみたいと思う気持ちの方が大きかった。快く触らせてくれたそれは、とてもふわふわであったかかった。
そのヒトの名前は、心(ココロ)さん。キレイで優しくて、おっとりしたステキな女性だった。
心さんには子どもがいて、わたしと同い年だったと思う。その子は一心(イッシン)君という名前で、心さんと一緒にしばらくウチに住んでいた。
お母さん達はきっと、事情を聞いていたんだと思う。まだ子供わたしは深く考えず、二人と居られることがただ嬉しかった。
一心君は、ピカピカに光る銀色のキレイな色の髪の毛をしていた。瞳は金色で、まん丸のお月様みたい。笑うと片方だけ小さな八重歯が覗いて、それが可愛かった。
わたしは二人のことがすぐに大好きになって、いつも家の中で一緒に遊んだ。
最初はわたしのことを怖がっているような雰囲気の一心君だったけど、そのうちすぐに仲良くなった。
彼はウチのオムライスを特に気に入っていて、店休日にはいつもお店の奥の席に二人で座って、お父さんが作ってくれたそれを食べた。
「このオムライス、本当においしいね。日向ちゃんのお父さんはすごいや」
「一心君のお父さんは、今どこにいるの?」
「今、お仕事で旅に出てるんだ。日向ちゃんみたいに、まいにちは会えない」
オムライスを食べる一心君の手が止まる。今にも泣き出しそうなその顔を見て、私は一心君の手をギュッと握った。
「そんな顔しないで!いつかわたしがお父さんよりもっとすごくておいしいオムライスを作るから、そしたら一心君がいちばんにわたしのおきゃくさんになってね!」
「わぁ!ぼく、すごくたのしみ!」
一心君は、嬉しそうに笑ってくれたっけ。
「日向ちゃんなら絶対なれる」って言ってくれた言葉を、今でも覚えてる。
あと、わたしはことあるごとに、一心君の耳を触りたがっていた気がする。ふわふわで柔らかくて、ずっと触っていられそうなくらいお気に入りだった。
一心君は恥ずかしそうに頬っぺたをピンク色に染めながら、いつもわたしのお願いを聞いてくれた。
「日向ちゃんは、じんろうがこわくないの?」
「全然こわくないよ!わたし、心さんのことも一心くんのことも、だいすきだもん」
胸を張ってそう言うと、彼は本当に嬉しそうに笑った。
「ずっとここにいればいいのに」
「ぼくもそうしたいけど、それはムリだってお母さんが」
ふわふわの耳が、悲しげにペタンと下がる。
「じゃあ、また遊びにおいでよ」
「大きくなっても、日向ちゃんはぼくのこと忘れない?」
「忘れないよ!一心くんこそ、わたしのこと忘れちゃダメだからね」
そう言って、彼の目の前に立てた小指を突き出す。一心君は、不思議そうに首を傾げた。
「ゆびきりげんまんしよう」
「ゆびきりげんまん?」
「これをしたら、ぜったいにやくそくを守りますって意味なんだよ!」
彼も、真似して小指を出す。わたし達は、それをギュッと絡ませあった。
それからしばらくして、心さんと一心君はウチを出ていくことになった。わたしは悲しくて、いっちゃ嫌だと泣きながら駄々をこねた。
「日向ちゃん」
「一心くん…」
「やくそくしたから、だからだいじょうぶ。ぼく、ぜったいにまた会いにくるから」
金色のキレイな瞳に涙をいっぱい溜めて、一心君はわたしにギュッと抱きつく。
「ほんとだよ、ぜったいだよ?わたしが作ったオムライス、ちゃんと食べにきてね?」
「うん、ぜったい。だから、泣かないで」
ふわふわの耳が顔に当たって、ちょっとくすぐったかった。だけどあったかくて、不思議と涙が引いていく。
「ぼくは、日向ちゃんのこと忘れないよ。ぜったいまたあいにくるから、そしたら……」
その続きは、遠い記憶の中に閉じ込められたまま。いつか会えると信じて、今もまだ心の真ん中に彼がいる。
だけどこれは仲良しのコマちゃんにさえ内緒の、わたしだけの秘密なんだ。
お母さんが高い熱を出したことがあって、リンゴを食べさせてあげたい思ったわたしはスーパーへ行こうと一人で家を出てしまった。
わたしが風邪を引いた時は、いつもそうしてもらってたから。
だけど途中で迷子になって泣きながらウロウロしていた時、運悪く河川敷で足を滑らせて川に落ちてしまった。
そこまで深かったわけじゃないけど、まだ小さかったわたしはパニックになった。暴れれば暴れるほど、鼻や口から水が入ってきてどうすることも出来なくて、何も考えられなくなった。
そんなわたしを助けてくれたのが、人狼だった。女のヒトで、多分お母さんと同じくらいの年齢だったと思う。
震えながら大泣きするわたしを抱っこして、ウチまで連れて帰ってくれた。
後から知ったことだけど、そのヒトは体が弱くて、他の人狼みたいに耳やシッポを隠すことが出来なかったらしい。帽子を被っていたみたいだったけど、わたしを助ける時に落としてしまったって。
怖がらせてごめんねって謝られたけど、その時のわたしは、怖がるよりも触ってみたいと思う気持ちの方が大きかった。快く触らせてくれたそれは、とてもふわふわであったかかった。
そのヒトの名前は、心(ココロ)さん。キレイで優しくて、おっとりしたステキな女性だった。
心さんには子どもがいて、わたしと同い年だったと思う。その子は一心(イッシン)君という名前で、心さんと一緒にしばらくウチに住んでいた。
お母さん達はきっと、事情を聞いていたんだと思う。まだ子供わたしは深く考えず、二人と居られることがただ嬉しかった。
一心君は、ピカピカに光る銀色のキレイな色の髪の毛をしていた。瞳は金色で、まん丸のお月様みたい。笑うと片方だけ小さな八重歯が覗いて、それが可愛かった。
わたしは二人のことがすぐに大好きになって、いつも家の中で一緒に遊んだ。
最初はわたしのことを怖がっているような雰囲気の一心君だったけど、そのうちすぐに仲良くなった。
彼はウチのオムライスを特に気に入っていて、店休日にはいつもお店の奥の席に二人で座って、お父さんが作ってくれたそれを食べた。
「このオムライス、本当においしいね。日向ちゃんのお父さんはすごいや」
「一心君のお父さんは、今どこにいるの?」
「今、お仕事で旅に出てるんだ。日向ちゃんみたいに、まいにちは会えない」
オムライスを食べる一心君の手が止まる。今にも泣き出しそうなその顔を見て、私は一心君の手をギュッと握った。
「そんな顔しないで!いつかわたしがお父さんよりもっとすごくておいしいオムライスを作るから、そしたら一心君がいちばんにわたしのおきゃくさんになってね!」
「わぁ!ぼく、すごくたのしみ!」
一心君は、嬉しそうに笑ってくれたっけ。
「日向ちゃんなら絶対なれる」って言ってくれた言葉を、今でも覚えてる。
あと、わたしはことあるごとに、一心君の耳を触りたがっていた気がする。ふわふわで柔らかくて、ずっと触っていられそうなくらいお気に入りだった。
一心君は恥ずかしそうに頬っぺたをピンク色に染めながら、いつもわたしのお願いを聞いてくれた。
「日向ちゃんは、じんろうがこわくないの?」
「全然こわくないよ!わたし、心さんのことも一心くんのことも、だいすきだもん」
胸を張ってそう言うと、彼は本当に嬉しそうに笑った。
「ずっとここにいればいいのに」
「ぼくもそうしたいけど、それはムリだってお母さんが」
ふわふわの耳が、悲しげにペタンと下がる。
「じゃあ、また遊びにおいでよ」
「大きくなっても、日向ちゃんはぼくのこと忘れない?」
「忘れないよ!一心くんこそ、わたしのこと忘れちゃダメだからね」
そう言って、彼の目の前に立てた小指を突き出す。一心君は、不思議そうに首を傾げた。
「ゆびきりげんまんしよう」
「ゆびきりげんまん?」
「これをしたら、ぜったいにやくそくを守りますって意味なんだよ!」
彼も、真似して小指を出す。わたし達は、それをギュッと絡ませあった。
それからしばらくして、心さんと一心君はウチを出ていくことになった。わたしは悲しくて、いっちゃ嫌だと泣きながら駄々をこねた。
「日向ちゃん」
「一心くん…」
「やくそくしたから、だからだいじょうぶ。ぼく、ぜったいにまた会いにくるから」
金色のキレイな瞳に涙をいっぱい溜めて、一心君はわたしにギュッと抱きつく。
「ほんとだよ、ぜったいだよ?わたしが作ったオムライス、ちゃんと食べにきてね?」
「うん、ぜったい。だから、泣かないで」
ふわふわの耳が顔に当たって、ちょっとくすぐったかった。だけどあったかくて、不思議と涙が引いていく。
「ぼくは、日向ちゃんのこと忘れないよ。ぜったいまたあいにくるから、そしたら……」
その続きは、遠い記憶の中に閉じ込められたまま。いつか会えると信じて、今もまだ心の真ん中に彼がいる。
だけどこれは仲良しのコマちゃんにさえ内緒の、わたしだけの秘密なんだ。
20
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる