14 / 33
第四章「キケンな男の子と、二人の思い出」
③
しおりを挟む
♢♢♢
そんな出来事があってから約一週間後、晴天に恵まれた太陽の下で、今日は中学校に入学してから初めての体育祭の。小学校の運動会とは違う空気感に、なんだか緊張する。
ちなみに、あれからロン君も【ウルフマン】の人達もうちにやってくることはない。言葉の通り、彼は一心君がここにいることを伝えてないみたいだった。
「晴れてよかった」
「ホントだよね。わたし楽しみで楽しみで、てるてる坊主とか作っちゃった」
「じゃあ、そのおかげだ」
幼馴染のコマちゃんとそんな会話で笑いながら、私達は手を振り合う。
「コマちゃん、応援団頑張ってね」
「うん、ありがとう!日向もケガしないようにしなよ?」
「アハハ、頑張る」
わたしが運動オンチなことを知ってるコマちゃんはそう言いながら、自分のクラスのテントに戻っていった。
リレーのアンカーにクラブ対抗合戦に応援団に、あと他にもいくつか競技に出るらしい。一年生ながらすごい活躍ぶりのコマちゃんは昔からスポーツ万能で、カッコよくて憧れる。
さっそうと駆けていく彼女の背中を見つめていると、体育祭開始の放送がグラウンドに響いた。
わたしが出場するのは、二人三脚と玉入れ。二人三脚はエッコちゃんと一緒だ。出場しない時には、みんなテントで応援する。
お父さんとお母さんはランチタイムだけ店を休んで、観に来てくれるらしい。一心君にもそれとなく今日のことを伝えたけど「行くわけないだろ」ってハッキリ言われてしまって、少しだけ落ち込んだ。
最近の一心君は、ご飯の時はわたしが呼びにいかなくても下に降りてきてくれるようになった。基本的には無言でもくもくと食べてるけど、絶対完食してくれるから嬉しい。
早く記憶の手掛かりが見つけられるように、もっと頑張らなくちゃ。
「位置に着いて、よーい!」
パァン!
ピストルの音が心臓に響いた瞬間、わたしとエッコちゃんはハチマキでピッタリくっついた足を踏み出した。
「いっちに、いっちに!」
お互い掛け声を合わせながら、焦らないように気をつけて走る。何回も練習したから、息はピッタリだ。
正直言って、順位は気にしてる余裕がない。わたしが転けたらエッコちゃんまで道連れにしてしまうから、そうならないように必死だ。
「よし、あと半分っ!」
途中でカラーコーンが置いてあって、そこをグルッと回って折り返す。わたしたちも順調にそこを回って、後はゴールに向かって走るだけ。
「あ……っ!」
急にエッコちゃんが声を上げたと思ったら、彼女の体が大きく前につんのめる。
そのままわたし達はもつれながら思いっきり転けてしまった。
「ちょっと二人とも大丈夫!?」
テントの方からハルちゃんの叫び声が聞こえる。わたしは素早く起き上がって、エッコちゃんの体を支える。
「エッコちゃん平気!?ケガした!?」
「いたた…っ、ちょっと擦りむいただけだから」
「大変、血が出てる!」
「大丈夫、最後まで走れるよ」
エッコちゃんの膝は砂だらけで、薄く血が滲んでる。痛むのか眉間にシワを寄せながら、それでも走りたいって口にする。
「ホントに?無理してない?」
「あと少しだから、最後まで頑張りたい」
「そっか…分かった。じゃあ掴まって!」
わたしはエッコちゃんの体についた砂を手で払うと、気遣いながら彼女の体を支えた。
「思いっきりわたしに寄りかかっていいから!」
「サンちゃん…ありがとう!」
エッコちゃんの表情が明るくなる。わたしまちはゆっくり立ち上がって、そのままゴールを目指した。
「頑張れー!」
「もうちょいだよ!」
ハルちゃんやコマちゃんの声援が聞こえる。わたし達が無事ゴールテープを切ると、敵味方関係なくみんなが拍手を送ってくれた。
「エッコちゃんゴールだよ!」
わたしはすぐさま二人を繋いでる足のハチマキをほどく。駆け寄ってくれた担任の先生とエッコちゃんの体を支えながら、救護テントに急いだ。
「サンちゃん、巻き込んじゃってごめんね」
治療を受けたエッコちゃんは、暗い顔でうつむく。
「緊張してたみたいで、つい体が先走っちゃって…」
「ううん、謝ることないよ!緊張してたのはわたしも同じだし、ちょっとペースが早かったかもしれない。ごめんね」
「サンちゃんは悪くないよ!わたしが…」
「はいはい、ストップ!」
謝り合うわたし達を、ハルちゃんが手の平をパッと前に出して止めた。
「二人とも一緒懸命頑張ってたんだから、どっちも悪くないって!謝るのはもう終わりでいいじゃん」
「うん、ハルちゃんの言う通りだ。わたし達頑張ったよね、エッコちゃん」
「フフッ、そうだね。頑張ったよね」
わたし達は、顔を見合わせて笑い合った。
お昼休みに入り、生徒達は一旦教室でお弁当タイム。応援に来てくれている保護者も、みんなお昼を食べに行った。
いつも通りハルちゃんエッコちゃんと食べて、午後の部の為にグラウンドに出る。わたしとエッコちゃんは玉入れ、ハルちゃんはコマちゃんと同じく応援団に入ってるから、その演目も残ってる。
エッコちゃんのヒザには大きめのバンソウコウが貼られてるけど、もう平気みたいで一安心だ。
テントに戻る前、わたしは二人に「トイレに行くから」と声をかけて、人気のない花壇の端っこに腰掛ける。
「いったぁ……っ」
実はあの時、わたしは足首を捻ってしまった。ものすごく申し訳なさそうなエッコちゃんを前にして、どうしても言い出せなかった。そのうち引くだろうと思ってたけど、時間が経つにつれてどんどん痛みが増してる気がする。
「帰るまで我慢できるかな…」
右の足首にソッと触ると、ピリッとした痛みが走る。あともう少しだし、できればこのまま隠し通したいんだけどなぁ。
「あれ、三ツ星さん?」
「月森君」
声を掛けられた方を向くと、月森君が目を丸くして立っていた。
「どうしたの?こんなところで」
「あ、えっと…ちょっとだけ疲れちゃって」
「大丈夫?気分悪いなら救護テントに」
「そこまでじゃないから、ホントに大丈夫!ありがとう」
心配そうにこちらを覗き込む月森君に、わたしは慌てて両手を振って否定する。嘘吐いてごめんね、月森君。
「月森君はクラス委員の仕事?」
「そうなんだ。基本的には体育委員が主導だから、細々とした雑用をね」
月森君は、ウチのクラスのクラス委員だ。入学してすぐの委員決めで、満場一致で決まった。
「そっか、大変だね。クラスリレーのアンカーもにも選ばれてるし、月森君はホント凄いよ」
笑いながらそう言うと、月森君が一歩わたしに近づく。色素の薄い瞳がキラキラ光ってるみたいに見えて、思わず見入ってしまった。
「さっきの二人三脚の時、本当に大丈夫だった?」
「あ、うん。エッコちゃんがすりむいちゃったけど、わたしは平気」
「もしなにかあったら、僕に言って」
「ありがとう」
優しい月森君に嘘ばっかりついて、さっきから胸が痛い。
「リレー、頑張るから」
「うん、応援してるね」
「僕が勝つところ、見てて」
矢継ぎ早にそう言うと、月森君はパッと顔を隠して、そのまま行ってしまった。応援するって約束したんだから、足のことは気にしないで早く戻らないと。
もう一度立ち上がろうと足首に力を入れる。その瞬間、ズキンと痛みが走った。
「い、いた…っ」
「やっぱり、ケガしたの隠してたんだな」
「え……っ、い、一心君!?」
パッと顔を上げると、眉間にシワを寄せた一心君が不機嫌そうにわたしの前に立っている。
「どうしたの?なんで学校にいるの?」
「…お前が来いって行ったんだろ?」
確かにそうだけど、まさかホントに見に来てくれるなんて思ってなかったから、驚いてしまった。
「もしかして、午前中の二人三脚も見てた?」
「派手に転けてたな」
「あ、アハハ」
仕方ないこととはいえ、ちょっと恥ずかしい。笑いながら誤魔化してみても、一心君の眉間のシワは取れないままだ。
「足、痛いんだろ」
「あ…うん、ちょっとだけ」
「見せて」
一心君はわたしの足元にしゃがむと、足首をそっと持ち上げる。急に距離が近づいて、心臓がドクンと音を立てた。
「あ、あの一心君」
「…腫れてる。なんですぐ診てもらわなかったんだ」
「それは…」
エッコちゃんはなにも悪くない。ただわたしが、彼女の悲しむ顔を見たくなかっただけ。
「あとからケガしてたなんて知ったら、そっちの方がショックだよね…わたし、酷いとこしちゃった」
「……」
俯くわたしに、一心君は掛けてたボディバッグをゴソゴソする。
「家からテーピングテープ借りてきた。出来るだけ目立たないように巻くから。靴と靴下脱いで」
「あっ、わたし自分で…」
「いいから早く」
ピシッとそう言われてしまうと、反論できない。わたしは言われるがまま、大人しく従った。
一心君の指先が足首に触れると、なんだかすごく恥ずかしい。ただテーピング巻いてもらってるだけなのに、今絶対顔赤くなってるよ…
「はい、終わり」
「えっ、もう?」
ホントにあっという間で、巻き方もキレイだ。靴下を履くとほとんど目立たなくて、テーピングが巻いてあるなんて気付かないくらいだ。
「足首に回してみて」
そう言われて、ゆっくり足首を何度か回す。
「さっきより全然痛くない…」
「でも無理したら意味ない」
「あとは玉入れだけだから大丈夫」
わたしの言葉に、一心君は頷いた。
「どうしてこんなに上手なの?」
「…ロンがしょっちゅうケガするから。なぜかいつも俺が手当させられてた」
「そうなんだ」
きっと二人は仲が良かったんだろうなって、一心君の言い方で分かる。
「ありがとう、一心君」
「…別に」
「観に来てくれたのも嬉しいよ」
「ヒマだっただけだし」
ふんと鼻を鳴らしながら言う彼を見て、思わず笑みが溢れる。
やっぱり一心君は、昔からずっと優しいままだ。
その時午後の競技の始まりを告げるアナウンスが流れて、わたしはゆっくりと立ち上がる。テーピングで固定してもらったおかげで違和感もなくなった。
「終わったら病院行けよ」
「うん、そうする」
「じゃあ、帰る」
それ以上声を掛けるヒマもなく、一心君は行ってしまった。その姿はすぐに見えなくなったけど、わたしはしばらくそこから動かないで、彼が去った方向をジッと見つめていた。
「…一心のバカ。あんな人間、どこがいいんだ」
そのせいで、向けられている敵意にも気づけないまま。
そんな出来事があってから約一週間後、晴天に恵まれた太陽の下で、今日は中学校に入学してから初めての体育祭の。小学校の運動会とは違う空気感に、なんだか緊張する。
ちなみに、あれからロン君も【ウルフマン】の人達もうちにやってくることはない。言葉の通り、彼は一心君がここにいることを伝えてないみたいだった。
「晴れてよかった」
「ホントだよね。わたし楽しみで楽しみで、てるてる坊主とか作っちゃった」
「じゃあ、そのおかげだ」
幼馴染のコマちゃんとそんな会話で笑いながら、私達は手を振り合う。
「コマちゃん、応援団頑張ってね」
「うん、ありがとう!日向もケガしないようにしなよ?」
「アハハ、頑張る」
わたしが運動オンチなことを知ってるコマちゃんはそう言いながら、自分のクラスのテントに戻っていった。
リレーのアンカーにクラブ対抗合戦に応援団に、あと他にもいくつか競技に出るらしい。一年生ながらすごい活躍ぶりのコマちゃんは昔からスポーツ万能で、カッコよくて憧れる。
さっそうと駆けていく彼女の背中を見つめていると、体育祭開始の放送がグラウンドに響いた。
わたしが出場するのは、二人三脚と玉入れ。二人三脚はエッコちゃんと一緒だ。出場しない時には、みんなテントで応援する。
お父さんとお母さんはランチタイムだけ店を休んで、観に来てくれるらしい。一心君にもそれとなく今日のことを伝えたけど「行くわけないだろ」ってハッキリ言われてしまって、少しだけ落ち込んだ。
最近の一心君は、ご飯の時はわたしが呼びにいかなくても下に降りてきてくれるようになった。基本的には無言でもくもくと食べてるけど、絶対完食してくれるから嬉しい。
早く記憶の手掛かりが見つけられるように、もっと頑張らなくちゃ。
「位置に着いて、よーい!」
パァン!
ピストルの音が心臓に響いた瞬間、わたしとエッコちゃんはハチマキでピッタリくっついた足を踏み出した。
「いっちに、いっちに!」
お互い掛け声を合わせながら、焦らないように気をつけて走る。何回も練習したから、息はピッタリだ。
正直言って、順位は気にしてる余裕がない。わたしが転けたらエッコちゃんまで道連れにしてしまうから、そうならないように必死だ。
「よし、あと半分っ!」
途中でカラーコーンが置いてあって、そこをグルッと回って折り返す。わたしたちも順調にそこを回って、後はゴールに向かって走るだけ。
「あ……っ!」
急にエッコちゃんが声を上げたと思ったら、彼女の体が大きく前につんのめる。
そのままわたし達はもつれながら思いっきり転けてしまった。
「ちょっと二人とも大丈夫!?」
テントの方からハルちゃんの叫び声が聞こえる。わたしは素早く起き上がって、エッコちゃんの体を支える。
「エッコちゃん平気!?ケガした!?」
「いたた…っ、ちょっと擦りむいただけだから」
「大変、血が出てる!」
「大丈夫、最後まで走れるよ」
エッコちゃんの膝は砂だらけで、薄く血が滲んでる。痛むのか眉間にシワを寄せながら、それでも走りたいって口にする。
「ホントに?無理してない?」
「あと少しだから、最後まで頑張りたい」
「そっか…分かった。じゃあ掴まって!」
わたしはエッコちゃんの体についた砂を手で払うと、気遣いながら彼女の体を支えた。
「思いっきりわたしに寄りかかっていいから!」
「サンちゃん…ありがとう!」
エッコちゃんの表情が明るくなる。わたしまちはゆっくり立ち上がって、そのままゴールを目指した。
「頑張れー!」
「もうちょいだよ!」
ハルちゃんやコマちゃんの声援が聞こえる。わたし達が無事ゴールテープを切ると、敵味方関係なくみんなが拍手を送ってくれた。
「エッコちゃんゴールだよ!」
わたしはすぐさま二人を繋いでる足のハチマキをほどく。駆け寄ってくれた担任の先生とエッコちゃんの体を支えながら、救護テントに急いだ。
「サンちゃん、巻き込んじゃってごめんね」
治療を受けたエッコちゃんは、暗い顔でうつむく。
「緊張してたみたいで、つい体が先走っちゃって…」
「ううん、謝ることないよ!緊張してたのはわたしも同じだし、ちょっとペースが早かったかもしれない。ごめんね」
「サンちゃんは悪くないよ!わたしが…」
「はいはい、ストップ!」
謝り合うわたし達を、ハルちゃんが手の平をパッと前に出して止めた。
「二人とも一緒懸命頑張ってたんだから、どっちも悪くないって!謝るのはもう終わりでいいじゃん」
「うん、ハルちゃんの言う通りだ。わたし達頑張ったよね、エッコちゃん」
「フフッ、そうだね。頑張ったよね」
わたし達は、顔を見合わせて笑い合った。
お昼休みに入り、生徒達は一旦教室でお弁当タイム。応援に来てくれている保護者も、みんなお昼を食べに行った。
いつも通りハルちゃんエッコちゃんと食べて、午後の部の為にグラウンドに出る。わたしとエッコちゃんは玉入れ、ハルちゃんはコマちゃんと同じく応援団に入ってるから、その演目も残ってる。
エッコちゃんのヒザには大きめのバンソウコウが貼られてるけど、もう平気みたいで一安心だ。
テントに戻る前、わたしは二人に「トイレに行くから」と声をかけて、人気のない花壇の端っこに腰掛ける。
「いったぁ……っ」
実はあの時、わたしは足首を捻ってしまった。ものすごく申し訳なさそうなエッコちゃんを前にして、どうしても言い出せなかった。そのうち引くだろうと思ってたけど、時間が経つにつれてどんどん痛みが増してる気がする。
「帰るまで我慢できるかな…」
右の足首にソッと触ると、ピリッとした痛みが走る。あともう少しだし、できればこのまま隠し通したいんだけどなぁ。
「あれ、三ツ星さん?」
「月森君」
声を掛けられた方を向くと、月森君が目を丸くして立っていた。
「どうしたの?こんなところで」
「あ、えっと…ちょっとだけ疲れちゃって」
「大丈夫?気分悪いなら救護テントに」
「そこまでじゃないから、ホントに大丈夫!ありがとう」
心配そうにこちらを覗き込む月森君に、わたしは慌てて両手を振って否定する。嘘吐いてごめんね、月森君。
「月森君はクラス委員の仕事?」
「そうなんだ。基本的には体育委員が主導だから、細々とした雑用をね」
月森君は、ウチのクラスのクラス委員だ。入学してすぐの委員決めで、満場一致で決まった。
「そっか、大変だね。クラスリレーのアンカーもにも選ばれてるし、月森君はホント凄いよ」
笑いながらそう言うと、月森君が一歩わたしに近づく。色素の薄い瞳がキラキラ光ってるみたいに見えて、思わず見入ってしまった。
「さっきの二人三脚の時、本当に大丈夫だった?」
「あ、うん。エッコちゃんがすりむいちゃったけど、わたしは平気」
「もしなにかあったら、僕に言って」
「ありがとう」
優しい月森君に嘘ばっかりついて、さっきから胸が痛い。
「リレー、頑張るから」
「うん、応援してるね」
「僕が勝つところ、見てて」
矢継ぎ早にそう言うと、月森君はパッと顔を隠して、そのまま行ってしまった。応援するって約束したんだから、足のことは気にしないで早く戻らないと。
もう一度立ち上がろうと足首に力を入れる。その瞬間、ズキンと痛みが走った。
「い、いた…っ」
「やっぱり、ケガしたの隠してたんだな」
「え……っ、い、一心君!?」
パッと顔を上げると、眉間にシワを寄せた一心君が不機嫌そうにわたしの前に立っている。
「どうしたの?なんで学校にいるの?」
「…お前が来いって行ったんだろ?」
確かにそうだけど、まさかホントに見に来てくれるなんて思ってなかったから、驚いてしまった。
「もしかして、午前中の二人三脚も見てた?」
「派手に転けてたな」
「あ、アハハ」
仕方ないこととはいえ、ちょっと恥ずかしい。笑いながら誤魔化してみても、一心君の眉間のシワは取れないままだ。
「足、痛いんだろ」
「あ…うん、ちょっとだけ」
「見せて」
一心君はわたしの足元にしゃがむと、足首をそっと持ち上げる。急に距離が近づいて、心臓がドクンと音を立てた。
「あ、あの一心君」
「…腫れてる。なんですぐ診てもらわなかったんだ」
「それは…」
エッコちゃんはなにも悪くない。ただわたしが、彼女の悲しむ顔を見たくなかっただけ。
「あとからケガしてたなんて知ったら、そっちの方がショックだよね…わたし、酷いとこしちゃった」
「……」
俯くわたしに、一心君は掛けてたボディバッグをゴソゴソする。
「家からテーピングテープ借りてきた。出来るだけ目立たないように巻くから。靴と靴下脱いで」
「あっ、わたし自分で…」
「いいから早く」
ピシッとそう言われてしまうと、反論できない。わたしは言われるがまま、大人しく従った。
一心君の指先が足首に触れると、なんだかすごく恥ずかしい。ただテーピング巻いてもらってるだけなのに、今絶対顔赤くなってるよ…
「はい、終わり」
「えっ、もう?」
ホントにあっという間で、巻き方もキレイだ。靴下を履くとほとんど目立たなくて、テーピングが巻いてあるなんて気付かないくらいだ。
「足首に回してみて」
そう言われて、ゆっくり足首を何度か回す。
「さっきより全然痛くない…」
「でも無理したら意味ない」
「あとは玉入れだけだから大丈夫」
わたしの言葉に、一心君は頷いた。
「どうしてこんなに上手なの?」
「…ロンがしょっちゅうケガするから。なぜかいつも俺が手当させられてた」
「そうなんだ」
きっと二人は仲が良かったんだろうなって、一心君の言い方で分かる。
「ありがとう、一心君」
「…別に」
「観に来てくれたのも嬉しいよ」
「ヒマだっただけだし」
ふんと鼻を鳴らしながら言う彼を見て、思わず笑みが溢れる。
やっぱり一心君は、昔からずっと優しいままだ。
その時午後の競技の始まりを告げるアナウンスが流れて、わたしはゆっくりと立ち上がる。テーピングで固定してもらったおかげで違和感もなくなった。
「終わったら病院行けよ」
「うん、そうする」
「じゃあ、帰る」
それ以上声を掛けるヒマもなく、一心君は行ってしまった。その姿はすぐに見えなくなったけど、わたしはしばらくそこから動かないで、彼が去った方向をジッと見つめていた。
「…一心のバカ。あんな人間、どこがいいんだ」
そのせいで、向けられている敵意にも気づけないまま。
20
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる