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第五章「運命が動き出す音がする」
①
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「キャンキャン!」
「お前こっち来んなよ」
「アハハッ、ココアは一心君のことが好きみたいだね」
「別に嬉しくないし」
足のケガとロン君の一件があってから、一心君がココアの散歩についてきてくれるようになった。それは凄く嬉しいことだけど、あんまり外に出ると【ウルフマン】に一心君の居場所がバレるんじゃないかって、心配でもある。
だからなるべく回数を減らしてその分庭で遊ばせたり、お母さん達とドッグランに行ったりしてココアがストレスを溜めないようにしてる。
もうすっかり足も治ったし一人でも大丈夫だよって言ったけど、一心君は譲らなかった。
「こんな風に一心君とココアで遊べる日が来るなんて、なんだか夢みたい」
夕暮れ時、家に帰る道すがらわたしは茜色に染まった空を見上げる。ようやく梅雨の空気から抜け出して、日もずいぶん長くなったように感じる。夏はもう、すぐそこだ。
「大げさだな」
「そんなことないよ。ココアをウチに迎えてから、何度も想像したもん。もしあの頃ココアが居たら、一心君怖がったかな~って」
「おい、なんでそうなるんだ」
「アハハッ、ごめんごめん」
わたしが笑うと、彼の眉間にギューッとシワが寄った。
「昔も怖がりじゃなかったし」
「えっ!なにか思い出したの!?」
「いや、想像だけど」
「なんだぁ」
「なんだとはなんだ」
ますますシワが深くなってきたので、わたしは笑ってごまかす。最近、一心君ともこうして普通に話せるようになってきたし、彼の口から「人間は嫌い」って言葉も聞かなくなった気がする。
基本的には無表情か不機嫌そうかのどっちかなんだけど、だんだん可愛く見えてくるから不思議だ。
不器用でも本当は優しい一心君を、知ってるからかもしれない。
「あ…っ、ココア!」
ふいに駆け出したココアに驚いて、一瞬リードが手から外れそうになる。
その瞬間、一心君がわたしの手を握ってそれを防いでくれた。
ドクンッ
「あ、ありがとう」
「気をつけろよ」
彼の手はすぐに離れたけど、温もりはここに残ったまま。全力ダッシュしたみたいに心臓が跳ねて、ドキドキがおさまらない。
この間からずっと、こんな感じだ。自分じゃちっともコントロールできなくて、一心君に気づかれないようにいつも必死で抑えてる。
「そ、そろそろ帰ろっか」
「ああ」
わたしの様子がおかしいことは、幸い彼には気付かれてないみたい。ホッと胸を撫でおろしながら、わたしはココアのリードを強く握りなおした。
それから数日経った、朝のホームルーム。ウチのクラスの担任・汐留(シオドメ)元気(ゲンキ)先生の隣に立つ人物を見て、わたしはあんぐりと口を開ける。
「今日からこのクラスの一員になる、紅虎(ベニトラ)ロン君だ。台湾出身らしいぞ」
汐留先生はその名の通り、声の大きい元気でパワフルな先生だ。担当教科は体育で、サッカー部の顧問でもある。大ざっぱでよくプリントを配り忘れたりしてるけど、大らかで優しくて、生徒からも慕われるいい先生だと思う。
…って、今はそんなこと考えてる場合じゃなかった!
「どうも、紅虎ロンです。台湾出身って言っても日本での生活の方が長くて、むしろほぼ日本語しかしゃべれないくらいで。変に気つかったりしないで、仲良くしてもらえると嬉しいでーす。あ、ちなみにこの髪色は地毛だから、怖がらないでね」
この間見たのと同じ、優し気に細められた目と人当たりの良さそうな笑顔。スラッとした体型に、白いシャツがよく似合う。
太陽みたいな金髪を、後ろで一括りにしてる。
「ちょっと、めっちゃイケメンじゃない?」
「なかなかいないタイプだよね、正統派王子月森君とはまた違った感じの」
「危なそうな雰囲気がなんかいい!」
女子達のヒソヒソ声は、わたしの耳には届かない。ジッと彼を見つめていると、ふいに視線がぶつかる。
ほんの一瞬だけ、ロン君のカタチのいい薄い唇から赤い舌がのぞく。明らかにわたしに向けられた、いわゆる「ベーッ」ってやつ。
「う、ウソでしょ…?」
ぐうぜんなんかじゃない。彼はわたしがここにいるって分かってて、わざわざやってきた。一心君を、連れ戻すために。
考えがまとまらないまま、無意識に唇をギュッと噛む。そんなわたしを、ロン君が冷ややかな目で睨んでいることなんて、気づく余裕はなかった。
「お前こっち来んなよ」
「アハハッ、ココアは一心君のことが好きみたいだね」
「別に嬉しくないし」
足のケガとロン君の一件があってから、一心君がココアの散歩についてきてくれるようになった。それは凄く嬉しいことだけど、あんまり外に出ると【ウルフマン】に一心君の居場所がバレるんじゃないかって、心配でもある。
だからなるべく回数を減らしてその分庭で遊ばせたり、お母さん達とドッグランに行ったりしてココアがストレスを溜めないようにしてる。
もうすっかり足も治ったし一人でも大丈夫だよって言ったけど、一心君は譲らなかった。
「こんな風に一心君とココアで遊べる日が来るなんて、なんだか夢みたい」
夕暮れ時、家に帰る道すがらわたしは茜色に染まった空を見上げる。ようやく梅雨の空気から抜け出して、日もずいぶん長くなったように感じる。夏はもう、すぐそこだ。
「大げさだな」
「そんなことないよ。ココアをウチに迎えてから、何度も想像したもん。もしあの頃ココアが居たら、一心君怖がったかな~って」
「おい、なんでそうなるんだ」
「アハハッ、ごめんごめん」
わたしが笑うと、彼の眉間にギューッとシワが寄った。
「昔も怖がりじゃなかったし」
「えっ!なにか思い出したの!?」
「いや、想像だけど」
「なんだぁ」
「なんだとはなんだ」
ますますシワが深くなってきたので、わたしは笑ってごまかす。最近、一心君ともこうして普通に話せるようになってきたし、彼の口から「人間は嫌い」って言葉も聞かなくなった気がする。
基本的には無表情か不機嫌そうかのどっちかなんだけど、だんだん可愛く見えてくるから不思議だ。
不器用でも本当は優しい一心君を、知ってるからかもしれない。
「あ…っ、ココア!」
ふいに駆け出したココアに驚いて、一瞬リードが手から外れそうになる。
その瞬間、一心君がわたしの手を握ってそれを防いでくれた。
ドクンッ
「あ、ありがとう」
「気をつけろよ」
彼の手はすぐに離れたけど、温もりはここに残ったまま。全力ダッシュしたみたいに心臓が跳ねて、ドキドキがおさまらない。
この間からずっと、こんな感じだ。自分じゃちっともコントロールできなくて、一心君に気づかれないようにいつも必死で抑えてる。
「そ、そろそろ帰ろっか」
「ああ」
わたしの様子がおかしいことは、幸い彼には気付かれてないみたい。ホッと胸を撫でおろしながら、わたしはココアのリードを強く握りなおした。
それから数日経った、朝のホームルーム。ウチのクラスの担任・汐留(シオドメ)元気(ゲンキ)先生の隣に立つ人物を見て、わたしはあんぐりと口を開ける。
「今日からこのクラスの一員になる、紅虎(ベニトラ)ロン君だ。台湾出身らしいぞ」
汐留先生はその名の通り、声の大きい元気でパワフルな先生だ。担当教科は体育で、サッカー部の顧問でもある。大ざっぱでよくプリントを配り忘れたりしてるけど、大らかで優しくて、生徒からも慕われるいい先生だと思う。
…って、今はそんなこと考えてる場合じゃなかった!
「どうも、紅虎ロンです。台湾出身って言っても日本での生活の方が長くて、むしろほぼ日本語しかしゃべれないくらいで。変に気つかったりしないで、仲良くしてもらえると嬉しいでーす。あ、ちなみにこの髪色は地毛だから、怖がらないでね」
この間見たのと同じ、優し気に細められた目と人当たりの良さそうな笑顔。スラッとした体型に、白いシャツがよく似合う。
太陽みたいな金髪を、後ろで一括りにしてる。
「ちょっと、めっちゃイケメンじゃない?」
「なかなかいないタイプだよね、正統派王子月森君とはまた違った感じの」
「危なそうな雰囲気がなんかいい!」
女子達のヒソヒソ声は、わたしの耳には届かない。ジッと彼を見つめていると、ふいに視線がぶつかる。
ほんの一瞬だけ、ロン君のカタチのいい薄い唇から赤い舌がのぞく。明らかにわたしに向けられた、いわゆる「ベーッ」ってやつ。
「う、ウソでしょ…?」
ぐうぜんなんかじゃない。彼はわたしがここにいるって分かってて、わざわざやってきた。一心君を、連れ戻すために。
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