一心君は、人狼です!

清澄 セイ

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第六章「ロン君のズルい作戦」

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 ♢♢♢

「三ツ星さんって、ロン君と付き合ってるの?」

 …ついに、女子の先輩達に呼び止められてしまった。人気のない校舎のうらに連れてこられたわたしは、震えてしまわないようギュッとこぶしを握った。

「つ、付き合ってません」
「じゃあ、彼女ヅラするのやめてくれないかな。この子が、ロン君のこと好きだって言ってるんだよね」
「わ、わたしは別に…っ」

 こういう時って、どうしたらいいんだろう。一心君にえらそうなこと言ったくせに、実際囲まれると正直怖い。

「紅虎君は、わたしの友達の友達で、だから知り合いだったってだけで…」
「そういえばこの子って、月森君にもちょっかい出してるらしいよ」
「ええ、イケメンばっかりじゃん。言っちゃ悪いけど、ちょっとつり合ってないよね」

 話してるだけなのに、ただの友達なのに、どうしてこんなことになるんだろう…ロン君はわざと他の人が嫉妬するようにしてたけど、月森君はただ巻き込まれただけだ。

「イケメンと付き合いたいなら、人狼の専用区にでも住んだらいいのに。あそこって別に、絶対人が住んじゃいけないってわけでもないんでしょ?」

 先輩の一人が、おもしろがるような口調でそう言う。

「いいよね、人狼。イケメンばっかりらしいし」
「ちょっと優しくしてあげたら、案外いけたりして」
「でも付き合うの怖くない?」
「そうなったら逃げればいいんだよ。適当に、おそわれた~とか言ってさ」

 さっきまで感じていた怖いって気持ちを押しのけて、怒りの感情がブワッとわたしの真ん中から湧きあがった。

「人狼をバカにするのはやめてください!」

 今までうつむいていたのに、急に大きな声を上げたわたしに、先輩達は驚いた表情を見せる。

「別に関係ないでしょ?近くにいるわけじゃあるまいし」
「だからって、そんな風に言うのはおかしいと思います」
「な、なに急に。そんなに怒るってことは、もしかして三ツ星さん、人狼だったりして」

 先輩達が、バカにしたように笑う。もう、呼び出された理由なんてどうだってよくなった。

 変な反応しちゃいけないって分かってるけど、モヤモヤした気持ちを止められない。

「三ツ星さんは人狼だってウワサ流されたくなかったら、ロン君から離れてよ」
「う、ウワサなんてどうだっていいです…っ」
「はぁ?」
「これからもわたしは、わたしのやりたいようにやります!変な誤解は、め、迷惑です…っ!」

 キッパリと言いきった後、自分がとんでもないことをしてしまったんじゃないかと思うと、心臓がギュウッと絞られる。

 だけど、後悔はしてない。

 もう、なるようになれ…っ!

 先輩達の顔が、みるみるうちに赤くなって、眉が吊り上がる。一歩わたしに距離を詰めてきたから、覚悟を決めて目をつむる。

 その瞬間、予鈴のチャイムが辺りに鳴り響いて、昼休みの終了を告げた。

「後輩のくせに、生意気すぎ!」
「アンタ、ホントに人狼なんじゃないの!」
「どうなっても知らないからね!」

 それぞれに強い言葉をわたしに投げつけながら、バタバタと去っていく。ガチガチだったわたしの体から、一気に力が抜けていった。

「こわかったぁ……」
「バカだねぇ、日向ちゃん」
「……っ!」

 突然のんびりした声が聞こえて、パッと顔を上げる。少し離れた場所から、ロン君が腕組みをしながらわたしを見下ろしていた。

「み、見てたの!?」
「見てたよ?最初から最後までぜーんぶ」
「…いじわるだ」

 まぁ、助けてくれるわけないよね。わたしは、ロン君に嫌われてるし。

「俺のせいで大変だねぇ、日向ちゃん」
「ホントだよ、もう…」
「一心に近づかないでくれれば、すぐやめてあげるのに」

 わたしは、ロン君に向かって思いっきりプイッと顔を背ける。一心君が悩んでることも知らないくせに、勝手な考えで彼を困らせるのはやめてほしい。

 そう思いながらも、ロン君はロン君なりの気持ちがあるんだろうって思うと、強く否定もできない。

 だって、ロン君のお母さんは……

「なに、その顔。一心からなに聞いたか知らないけど、同情とかいらないからね」
「…そういうのじゃ、ないけど」
「ホント、日向ちゃんみたいなタイプが一番嫌いなんだよ。俺は」

 ロン君は、いつも通りおだやかに目を細めたまま。だけど雰囲気は真逆で、わたしはどんな顔をしていいのか分からない。

「ていうか、自分が人狼だってウワサ流されるくらいなら、俺のことバラせばいいのに」
「そんなことするわけないよ!一心君まで巻き込むかもしれないのに」
「巻き込まれてるのは、アンタでしょ」
「わたしは、自分がしたいと思うことをしてるだけ」

 鼻で笑われても、意見を曲げたりしない。

「それに、人狼だってウワサが広まったとしても、それはただ事実とは違うってだけで、嫌な思いをするわけじゃないし」
「は?人間じゃないって思われるのに?」
「人狼も人も、対等だもん」

 ロン君の表情が、一瞬くもる。だけどまたすぐに、いつものなに考えてるんだか分からない笑顔に戻った。

「俺は助けないからね。早く一心の前から消えてよ」
「助けなくていいよ!あと、何回言われても無理だから!」
「はぁ…バカだなぁ」
「いいですよーだ!」

 ふんふんと鼻を鳴らしながら、ロン君に背を向けてその場から歩いていく。

「…ホントに、どうなっても知らないよ」

 そんな彼の言葉は、小さ過ぎてわたしには届かなかった。



 それからまた数日後。放課後、部活のないコマちゃんと教室の前で落ち合って、昇降口まで並んで歩く。

「あーもう、あっつい!」
「ホント、急に暑くなったよね」
「まぁ、地獄のテストも終わったし、あとは夏休みを待つだけよ」

 手うちわで自身をパタパタと仰ぎながら、コマちゃんは顔をしかめた。

 わたしも、夏休みは思いっきり好きな料理に時間がかけられるから、毎年楽しみにしてる。

 それに今年は、なんといっても一心君がいてくれるし。

 コマちゃんと話しをしながら、下駄箱の靴に手をかける。その時、なにかがヒラリと足元に落ちた。

「あれっ、なんだろう」
「ちょっと、もしかしてラブレ…!」

 それを拾ったわたしの手元を、コマちゃんがニヤニヤしながら覗き込んでくる。小さく折られた、ノートの切れ端みたいな白い紙。オモテ側にはなにも書かれていない。

 わたしはそれを、ゆっくりと広げた。

【今すぐ手を引け。後悔する前に】

「……っ!」

 読んだ瞬間、わたしはそれをすぐ胸に隠す。心臓がバクバクして、うまく息ができない。

「日向…今のって……」
「あ、アハハ!ひどいイタズラするよね、気にしないから大丈夫!」

 カラカラと笑いながらごまかそうとしたけど、コマちゃんには通用しない。

 ロン君のことでわたしが色々言われてることも知ってるし、いつもかばってくれる。

 それを申し訳なく思うけど、コマちゃんはいつだって「当たり前でしょ」って笑う。

「もうさ、先生に相談した方がいいんじゃない?だってこんなの、もうキョーハクじゃん」
「でも犯人分かんないし、直接イジワルされたわけじゃないから」

 先輩達の件は、誰にも言ってない。

「日向…ホントに大丈夫?」
「大丈夫!ありがとう、コマちゃん」
「わたしは全然納得できないけど…」
「こんな手紙は、相手にしない方がいいんだよ」

 クシャッと丸めて、スカートのポケットに突っ込む。

 なぜだが、やけに重たく感じた。

 それからは平静をよそおって、コマちゃんと途中まで一緒に帰った。家まで送るっていう申し出を断って、わたしは一人トボトボと歩みを進める。

「この手紙……」

 ポケットの上から、そっと手をおく。書かれていた言葉を思い出すと、無意識に背筋がゾクッと震えた。

 ーー今すぐ手を引け。

 この書き方、ロン君のファンじゃないと思う。確証はないけど、なんとなくそう感じる。

 じゃあ、一体誰がこんなこと……

 そう考えた瞬間、ロン君の顔が思い浮かんだのを、わたしはあわてて首を振って消した。

 ロン君のことはよく知らないし、わたしのことを嫌ってるのも分かる。だけど彼は、一心君の友達だ。わざとわたしに声をかけてくるのはイジワルだと思うけど、こんな手まで使うような人じゃない。

「……よしっ」

 ウジウジ考えてるヒマがあったら、今はとにかく自分にできることをやろう。

 手紙のことは一心君には伝えておかないと、また前みたいに悲しませることになったら嫌だ。

 ロン君との仲がこじれないように、上手く話そう。もし万が一彼が犯人だったら、その時は…

 ああ、もう。やめやめ!

 マイナスな思考を振り払うように、わたしは思いっきり首を横に振る。それから、残りの道のりを一気に駆けだした。
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