一心君は、人狼です!

清澄 セイ

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最終章「ずっとずっと、そばにいる」

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 家に帰って制服を着替えて、少し日が傾いてからココアの散歩に出かける。

 毎日暑いから、なかなかココアを外に連れて行ってあげられない。

「今日は風があるから、いつもより涼しく感じるね」
「いや、暑いだろ」
「一心君、夏は苦手だって言ってたもんね」

 となりにはキャップを目深にかぶった一心君がいて、ミケンにシワを寄せてる。

「人狼は暑いの嫌いなんだ。俺だけじゃない」
「ええ、ホントかなぁ」
「…なんだよ」
「フフッ」

 一心君がリードを持ってくれて、ココアは嬉しそうにはしゃいでる。

 コンクリートはココアの足が熱いかもしれないから、なるべく湿った土の多い道を選んだ。

 お父さんにも会えて、もうすぐ心さんも戻ってくる。ロン君だっているし、これから先の一心君の未来には、幸せがいっぱいつまってる。

 その中に、ほんの少しでもいいから、わたしを混ぜてくれないかなって。

 夕陽の沈んだ空を見上げながら、しんみりとしたこの気持ちを、ほんのり暗い空に向かって投げた。

「…なぁ」

 一心君はこっちを見ないまま、わたしと同じように空を見つめてる。

「なに?」
「なんで、俺のキオクのこと聞かないの?」

 そう言われて、思わず彼に視線を向ける。

 一心君はちゃんと、お父さんのことを思い出した。だからたぶん、わたしとここで過ごした頃のキオクも、思い出してるのかもしれない。

 だけどもしその思い出が、一心君にとって楽しいものじゃなかったら。

 わたしにとっては、すごく大切な宝物。

 だからって、一心君にとってもそうだとは限らないんだ。

「いや、俺から言い出すべきだった」
「一心君…」
「ずっとひどいこと言って、ごめん」

 ザアッと、わたし達の間に風が吹く。

 それは全然さわやかじゃなくて、夏のジメジメとした空気を含んだ、あったかい風だったけど。

 それでも、わたしのほてった顔を冷やすには、じゅうぶんだった。

「あの時の約束、守れなくてごめん」
「ううん」
「一人で頑張らせて、ごめん」
「ううん……っ」

 視界がグニャッとゆれて、心臓をギュウッとつかまれたような感覚になる。

 もっとちゃんと答えたいのに、うまく伝えられない。

 頭の中には、言いたいことがいっぱい浮かんでるのに、うまく言葉にならなかった。

 胸がいっぱいで、苦しい。

「ゆびきりげんまん、したのに」
「…うん」
「俺、最低だ…っ」

 いつもの、一心君の声じゃない。少しだけ震えてて、わたしもそれにつられてしまう。

「そんなことないよ!」

 それでもちゃんと、伝えたい。

 わたしはまっすぐ、一心君の目を見つめる。

 昔とは違う、真っ黒でキレイな瞳。その中にわたしのカゲが映っているみたいに見えて、それを嬉しいと感じる。

「確かに、一心君がわたしのことを忘れちゃったって知った時は、悲しかった。だけどね、キオクの中の一心君だけじゃなくて、わたしの目を見て、目の前で話してくれる、今の一心君がいてくれる。それが、すごく嬉しいんだよ」

 昔も今も、なにも変わらない。

 一心君はずっと、わたしの大切な人なんだ。

「…俺、本当は怖かった。お前は昔と変わらず俺に接してくれたのに、今の俺は違う。昔みたいに戻ってほしかったのにってゲンメツされたらって思うと、うまく言えなかった」
「ゲンメツなんてしないよ。だって、一心君は、一心君だもん」

 気持ちがあふれて、思わず前のめりになってしまう。

「そうだな。お前はそういうヤツだ」

 そんなわたしを見て、一心君は小さく笑った。

 わたしは、魔法使いじゃない。特別な存在なんかじゃないし、すごい力ももってない。

 だけどこれからも、自分にできることをせいいっぱい、全力で頑張りたいと思う。

 誰かの気持ちにちゃんと寄りそえる、そんな人になりたい。

「ありがとう、日向」

 一心君がわたしの目を見て、やわらかい表情でそう口にする。

 再会してはじめて、名前を呼んでもらえた。

 たったそれだけのことが、こんなにも嬉しいなんて。

 ーー日向ちゃん!

 あの頃の一心君とは、見た目も声も呼び方も、なにもかも違うけど。

「えへへ、どういたしまして」

 大好きの気持ちをいっぱいにのせて、わたしは思いきり笑った。

「……っ」

 一心君が、ブンッといきおいよく顔をそらす。

「どうしたの?」
「い、いや」

 彼はさっきと違って、なんだかモゴモゴしていた。

「…かわいいって、思ったから」
「!!」

 予想外のセリフにビックリしすぎて、今ちょっと体が浮いたんじゃないかって、おかしなことを考えてしまった。

 一瞬で顔が熱くなって、風が吹いても全然おさまらない。

 そりゃあ、嫌いだとか近づくなとかって言われるより、ずっとずっと嬉しいけど。

 急にそんなこと言われると、ドキドキしちゃって心臓がもたないよ。

「キャンキャン!」

 なんとも言えないむずがゆい空気が、わたし達の間に流れる。そんな時、ココアが急に一心君の持つリードをグイグイ引っ張りはじめた。

「あ、ご、ごめんねココア。歩くスピード遅かったよね」

 そうだった。散歩中だったの、すっかり忘れてた。

「か、帰ろっか」
「うん」

 わたし達はなんとなく、お互いに顔を見合わせる。

 それからふと視線を上に上げると、空にキラッと光るものが一瞬だけ流れてすぐに消えた。

「あ、今流れ星!一心君、見えた!?」
「見えない、どこ?」
「もう流れちゃったよ!」
「キャンキャン!」

 わたしと一心君と、それからココア。二人と一匹でそんな会話をしながら、わたし達は温かなあかりの灯る【キッチン サニープレイス】を目指して歩きはじめた。
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