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再調査
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暖かくて絶好のお出掛け日よりの日。
黒色を貴重とした制服に身を包んだユズリハは椅子に腰を下ろし、窓の縁に頬杖をついて綺麗な青空を眺めていた。
ここは、アレンが所有している別荘の一つ。
大きな屋敷だが、人目に付かない静かな場所に作られている。
周りは自然に囲まれているが、街も近くにあるので、不自由さはない。
各部屋も用意されていて、いつでも泊まることが出来るのだ。
その屋敷をアレンの申し出により、隠密部隊黒影の住み処として使わせて貰っている。
その屋敷にユズリハは呼ばれた。
来てみれば、屋敷にいる使用人に、ここで待つように言われたのだ。
用意されていた部屋には、壁側に本棚や絵画が飾られ、中央には長い机と椅子が用意されていた。
初めは、本棚にあった蔵書に目を通していたが、途中で止めて、今に至る。
前回の依頼のことを思い出してしまい、文章を読む気にならなかったのだ。
依頼の遂行中、想定外の事態が起きた。
それが、ロット公爵の死。
何者かによって命を奪われた。
犯人はまだ捜索中。ロット公爵の屋敷もしばらくの間、対応に追われ慌ただしいようだ。
銀色の仮面の男の行方も分からず、王子暗殺を計画し実行しようとしていたロット公爵も消え、ユズリハは行き詰まっていた。
何か分かるかと思い、レイが調べた他の首謀者として挙げられていた男爵や子爵の所にも潜入したが、銀色の仮面の男の情報はおろか、ロット公爵の計画も関係ないことがわかった。
「これで王子暗殺はなくなる?ううん…私なら…」
「俺なら、次の実行者を探すな」
声のする方を見れば、いつの間にかユズリハの近くに黒色を貴重とした制服に身を包んだジークが立っていた。
「ジーク…」
「何、黄昏てんだよ?お前らしくねぇ」
「…私だって黄昏る時くらいあります」
「あっそ」
ユズリハの隣に立ち、ジークも窓の外を見る。
小鳥が二羽仲良さげに飛び交っていた。
「やっぱり、ジークも実行者がいなくなった場合、次の実行者を探しますよね?」
「まぁな。それに俺なら、計画の邪魔をした奴も許さない」
「…王子暗殺を計画したであろう銀色の仮面の男と実行者だったロット公爵を殺害したのはそれぞれ違う人…ってことですか?」
「そうじゃないと、辻褄が合わないだろ?」
王子暗殺計画を遂行出来たのは、実行者のロット公爵だけ。
銀色の仮面の男が、ロット公爵を殺すとなると、ユズリハ達が聞いた会話がおかしいことになる。
次で最後。
そう銀色の仮面の男は、ロット公爵に告げていた。次で、ということは、まだチャンスがあるということだ。
チャンスを与えていたのに、その日に殺すのは、確かに辻褄が合わない。
なら、他にロット公爵に手をかけた人物がいると考えた方がしっくりくるのだ。
「でも…一体誰がロット公爵を?」
「いろんな奴に恨まれてたみたいだからな。誰がやっていてもおかしくない」
「…………………」
あの夜はたくさんの人で賑わっていた。
誰が抜けようが、分かるものはほとんどいないだろう。
(ちょっと待って……誰かが抜けようが分からない…?)
「待たせたな」
思考を遮るかのように、そう言って部屋の中に入ってきたのは、黒色を貴重とした制服に身を包み、濃い茶色の短髪にガッシリとした体躯、薄茶色の瞳を持つ三十代半ばの男―リューグ・フォレストだった。
隠密部隊黒影の隊長を務めながら、洋食屋を営んでいる。
「隊長…」
「どうでした?上からの連絡は?」
リューグはここに来る前に、アレンの所へ現時点の報告をしに出ていた。
「…引き続き依頼の続行を命じられた。ユズリハ、アレン様が前回のことは気にするなと仰っていた。引き続き、お前が担当しろ」
「はい…」
「何も依頼が失敗した訳じゃない。首謀者も健在、セデン様も狙われてはいないんだ。早急に見つけ出して捕らえろ。大丈夫だ、お前なら」
リューグに言われ、ユズリハが力強く頷いて見せた。
「ジークも引き続き、ユズリハのサポートを頼む」
「はい」
「そして、これがジークが持ち帰った証拠を再確認した結果だ」
リューグがジークにまとめた書類の束を渡す。
そこには、不正に関わっていた者達のリストがあげられていた。
男爵、子爵と名の知れた人物も載っている。
「それに載っている男爵、子爵達は騎士達が直接赴いて事情を聞いている。直に何かしらの処分が決まるだろう」
「ん?隊長、この線が引かれた人物はなんですか?」
名前が連なる書類の中に、一つだけ真っ直ぐ線が引かれたところがあった。
オリバー・ネッセル
位は男爵と書かれている。
「その人は、行方が分からない。不正が発覚して騎士達が捕らえようとしたそうだが姿を眩ましている。家族を置いて、一人だけな」
「家族を置いて…?」
「ひでーな…」
男爵の位を剥奪され、仕事も家も何もかも失った。置いていかれた家族は、周りの批判を浴びながら街を出たという。その後の足取りは分かっていない。
「オリバーは妻と子供二人の四人家族。不正に手を出していなければ、名の知れた人物だったかもな。貿易も商談も何でも上手くいっていたそうだ。人望が厚かっただけに、不正がバレたときの周りからの反応は酷いものだったらしい」
批判を浴び続けられた家族は、苦しい思いを強いられたことだろう。
その汚名は一生家族に付きまとうのだから。
「…隊長。この人のこと少し調べてもいいですか?」
ジークが少し考えてから言う。
「どうした?いつもの勘か?」
ジークの勘はかなりの確率で的中することが多い。今までの依頼も、実力はもちろんだが、勘も冴え渡っていた。
「勘っていうか…気になるんですよ。どっかで聞いたか…見たような感じがするんです」
どこかは覚えていない、とのことだった。
だが、ジークがいうのなら何かしらの手がかりが見つかるだろう。
今回の依頼の件と関わりがあるかもしれない。
「分かった。調べてみろ」
「ありがとうございます」
「ユズリハはどうする?」
「私は、もう一度ロット公爵の周りを調べ直します。何か見落としてるかもしれないので」
もう一度、一から調べ直すことにした。
引っ掛かったことも含めて。全て。
(必ず銀色の仮面の男の手がかりを見つけて見せる)
ユズリハは内心で強く誓った。
黒色を貴重とした制服に身を包んだユズリハは椅子に腰を下ろし、窓の縁に頬杖をついて綺麗な青空を眺めていた。
ここは、アレンが所有している別荘の一つ。
大きな屋敷だが、人目に付かない静かな場所に作られている。
周りは自然に囲まれているが、街も近くにあるので、不自由さはない。
各部屋も用意されていて、いつでも泊まることが出来るのだ。
その屋敷をアレンの申し出により、隠密部隊黒影の住み処として使わせて貰っている。
その屋敷にユズリハは呼ばれた。
来てみれば、屋敷にいる使用人に、ここで待つように言われたのだ。
用意されていた部屋には、壁側に本棚や絵画が飾られ、中央には長い机と椅子が用意されていた。
初めは、本棚にあった蔵書に目を通していたが、途中で止めて、今に至る。
前回の依頼のことを思い出してしまい、文章を読む気にならなかったのだ。
依頼の遂行中、想定外の事態が起きた。
それが、ロット公爵の死。
何者かによって命を奪われた。
犯人はまだ捜索中。ロット公爵の屋敷もしばらくの間、対応に追われ慌ただしいようだ。
銀色の仮面の男の行方も分からず、王子暗殺を計画し実行しようとしていたロット公爵も消え、ユズリハは行き詰まっていた。
何か分かるかと思い、レイが調べた他の首謀者として挙げられていた男爵や子爵の所にも潜入したが、銀色の仮面の男の情報はおろか、ロット公爵の計画も関係ないことがわかった。
「これで王子暗殺はなくなる?ううん…私なら…」
「俺なら、次の実行者を探すな」
声のする方を見れば、いつの間にかユズリハの近くに黒色を貴重とした制服に身を包んだジークが立っていた。
「ジーク…」
「何、黄昏てんだよ?お前らしくねぇ」
「…私だって黄昏る時くらいあります」
「あっそ」
ユズリハの隣に立ち、ジークも窓の外を見る。
小鳥が二羽仲良さげに飛び交っていた。
「やっぱり、ジークも実行者がいなくなった場合、次の実行者を探しますよね?」
「まぁな。それに俺なら、計画の邪魔をした奴も許さない」
「…王子暗殺を計画したであろう銀色の仮面の男と実行者だったロット公爵を殺害したのはそれぞれ違う人…ってことですか?」
「そうじゃないと、辻褄が合わないだろ?」
王子暗殺計画を遂行出来たのは、実行者のロット公爵だけ。
銀色の仮面の男が、ロット公爵を殺すとなると、ユズリハ達が聞いた会話がおかしいことになる。
次で最後。
そう銀色の仮面の男は、ロット公爵に告げていた。次で、ということは、まだチャンスがあるということだ。
チャンスを与えていたのに、その日に殺すのは、確かに辻褄が合わない。
なら、他にロット公爵に手をかけた人物がいると考えた方がしっくりくるのだ。
「でも…一体誰がロット公爵を?」
「いろんな奴に恨まれてたみたいだからな。誰がやっていてもおかしくない」
「…………………」
あの夜はたくさんの人で賑わっていた。
誰が抜けようが、分かるものはほとんどいないだろう。
(ちょっと待って……誰かが抜けようが分からない…?)
「待たせたな」
思考を遮るかのように、そう言って部屋の中に入ってきたのは、黒色を貴重とした制服に身を包み、濃い茶色の短髪にガッシリとした体躯、薄茶色の瞳を持つ三十代半ばの男―リューグ・フォレストだった。
隠密部隊黒影の隊長を務めながら、洋食屋を営んでいる。
「隊長…」
「どうでした?上からの連絡は?」
リューグはここに来る前に、アレンの所へ現時点の報告をしに出ていた。
「…引き続き依頼の続行を命じられた。ユズリハ、アレン様が前回のことは気にするなと仰っていた。引き続き、お前が担当しろ」
「はい…」
「何も依頼が失敗した訳じゃない。首謀者も健在、セデン様も狙われてはいないんだ。早急に見つけ出して捕らえろ。大丈夫だ、お前なら」
リューグに言われ、ユズリハが力強く頷いて見せた。
「ジークも引き続き、ユズリハのサポートを頼む」
「はい」
「そして、これがジークが持ち帰った証拠を再確認した結果だ」
リューグがジークにまとめた書類の束を渡す。
そこには、不正に関わっていた者達のリストがあげられていた。
男爵、子爵と名の知れた人物も載っている。
「それに載っている男爵、子爵達は騎士達が直接赴いて事情を聞いている。直に何かしらの処分が決まるだろう」
「ん?隊長、この線が引かれた人物はなんですか?」
名前が連なる書類の中に、一つだけ真っ直ぐ線が引かれたところがあった。
オリバー・ネッセル
位は男爵と書かれている。
「その人は、行方が分からない。不正が発覚して騎士達が捕らえようとしたそうだが姿を眩ましている。家族を置いて、一人だけな」
「家族を置いて…?」
「ひでーな…」
男爵の位を剥奪され、仕事も家も何もかも失った。置いていかれた家族は、周りの批判を浴びながら街を出たという。その後の足取りは分かっていない。
「オリバーは妻と子供二人の四人家族。不正に手を出していなければ、名の知れた人物だったかもな。貿易も商談も何でも上手くいっていたそうだ。人望が厚かっただけに、不正がバレたときの周りからの反応は酷いものだったらしい」
批判を浴び続けられた家族は、苦しい思いを強いられたことだろう。
その汚名は一生家族に付きまとうのだから。
「…隊長。この人のこと少し調べてもいいですか?」
ジークが少し考えてから言う。
「どうした?いつもの勘か?」
ジークの勘はかなりの確率で的中することが多い。今までの依頼も、実力はもちろんだが、勘も冴え渡っていた。
「勘っていうか…気になるんですよ。どっかで聞いたか…見たような感じがするんです」
どこかは覚えていない、とのことだった。
だが、ジークがいうのなら何かしらの手がかりが見つかるだろう。
今回の依頼の件と関わりがあるかもしれない。
「分かった。調べてみろ」
「ありがとうございます」
「ユズリハはどうする?」
「私は、もう一度ロット公爵の周りを調べ直します。何か見落としてるかもしれないので」
もう一度、一から調べ直すことにした。
引っ掛かったことも含めて。全て。
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ユズリハは内心で強く誓った。
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