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第二章 アルフェーヴェ王国の咎人
四話 救世主―王を怯ませる少女―
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「神代、一夜」
「様をつけろと言いたいところだが、貴様には何を言っても無駄だろうな」
高圧的な雰囲気は変わらないが、先ほどのような敵意は感じなかった。
命令ではなく、話をする気があると捉えていいだろうか。
「俺の刀と鎧を返せ」
「とことんまで我が道を行くな」
「お前に言われたくないんだが」
「当たり前だ、俺は王だぞ。王が我が道を示さずしてどう民を導くというのか」
「ものは言い様だな、体よく利用しているだけだろう」
「それも当たり前だ。民をうまく使ってこそ国は潤う。ジジイだって村を脅せば勇者を差し出す」
「そんなのただの脅しじゃねえか。自由のない村に意味なんて――」
「自由というのは国の、すなわち王の示す道の範囲で享受すべきものだ」
ダメだこりゃ、話が進む気がしない。話をする気があるのかどうか、それすら疑問だ。
「言っておくが刀と鎧は返すつもりはない。拘束を解く気もな」
「なんだと?」
「貴様は魔王を討つための優秀な駒だ。来たるべきときにこの場にいられないようでは話にならないからな」
「ふざけるな、お前に言われなくても俺は魔王を討つ。3人と約束したんだからな」
「そういう我を通させないために今こうしているわけなんだが?」
そう言って一夜はニヤリと笑った。
くそ、正直これはやばい。真帆たちを捜すこともできなければ、真帆たちを捜すための装備もない。
「貴様が俺のために戦うのは義務として、もう一つやってもらわなければならないことがある」
「言っておくが了承するつもりは――」
「貴様の、師匠をここに連れてこい」
思いも寄らない言葉だった。だが、一夜の表情は今までになく真剣で、笑い上戸の影は見当たらない。
――しかし、それは限りなく無理に近い。
「不可能だ、あの人を戦場に駆り出したいと言うなら。魔物を嫌うのと同じくらい人を嫌っている。極端な話、人が滅ばせられようが動かない」
俺に修業をつけるのだって嫌がってたくらいだ。――間違いなく後半は愉しんでたけど。
「そいつの好き嫌いなどどうでもいい。勇者を育成できるほどの人材を野放しにするわけにいかない」
「理屈は分かるが、それでも――」
「貴様、何か勘違いしてないか?」
一夜は再び俺の方へ近づくと、顎の下を掴んで俺の顔を無理矢理上げた。
「一番優先されるべきは魔王を殺すことだ、貴様の師匠ではない」
「だとしてもあの人は来ない。たとえ俺が殺されてもだ」
「ならばいる場所を言え。こちらから迎えてやる」
「断る。わざわざ殺されにいく必要はない」
「なんだそれは。国が個人に負けるとでも思っているのか?」
分かっちゃいたけど、まるで聞いてはくれない。これでは俺の拘束を解いてもらうのに何年かかるって言うんだ。
師匠にだって迷惑をかけてしまう。これ以上は迷惑をかけるなと釘を刺されているのに。
「教えろ、貴様の師匠の居場所――」
そのときだった。
ガチャという音とともに、前方右側にある小さな扉が開いた。そこから現れたのは、一夜と同じ髪の色をした少女。落ち着いたドレスを身にまとった美しい少女。
「・・・・・・ちっ」
一夜が舌打ちをする。俺から手を放すと、少女の方へは目を向けずその場で立ち尽くした。
まさか、これは――
「お兄様、これはいったいどういうことでしょうか?」
――その場の空気が、変わるのを感じた。
「様をつけろと言いたいところだが、貴様には何を言っても無駄だろうな」
高圧的な雰囲気は変わらないが、先ほどのような敵意は感じなかった。
命令ではなく、話をする気があると捉えていいだろうか。
「俺の刀と鎧を返せ」
「とことんまで我が道を行くな」
「お前に言われたくないんだが」
「当たり前だ、俺は王だぞ。王が我が道を示さずしてどう民を導くというのか」
「ものは言い様だな、体よく利用しているだけだろう」
「それも当たり前だ。民をうまく使ってこそ国は潤う。ジジイだって村を脅せば勇者を差し出す」
「そんなのただの脅しじゃねえか。自由のない村に意味なんて――」
「自由というのは国の、すなわち王の示す道の範囲で享受すべきものだ」
ダメだこりゃ、話が進む気がしない。話をする気があるのかどうか、それすら疑問だ。
「言っておくが刀と鎧は返すつもりはない。拘束を解く気もな」
「なんだと?」
「貴様は魔王を討つための優秀な駒だ。来たるべきときにこの場にいられないようでは話にならないからな」
「ふざけるな、お前に言われなくても俺は魔王を討つ。3人と約束したんだからな」
「そういう我を通させないために今こうしているわけなんだが?」
そう言って一夜はニヤリと笑った。
くそ、正直これはやばい。真帆たちを捜すこともできなければ、真帆たちを捜すための装備もない。
「貴様が俺のために戦うのは義務として、もう一つやってもらわなければならないことがある」
「言っておくが了承するつもりは――」
「貴様の、師匠をここに連れてこい」
思いも寄らない言葉だった。だが、一夜の表情は今までになく真剣で、笑い上戸の影は見当たらない。
――しかし、それは限りなく無理に近い。
「不可能だ、あの人を戦場に駆り出したいと言うなら。魔物を嫌うのと同じくらい人を嫌っている。極端な話、人が滅ばせられようが動かない」
俺に修業をつけるのだって嫌がってたくらいだ。――間違いなく後半は愉しんでたけど。
「そいつの好き嫌いなどどうでもいい。勇者を育成できるほどの人材を野放しにするわけにいかない」
「理屈は分かるが、それでも――」
「貴様、何か勘違いしてないか?」
一夜は再び俺の方へ近づくと、顎の下を掴んで俺の顔を無理矢理上げた。
「一番優先されるべきは魔王を殺すことだ、貴様の師匠ではない」
「だとしてもあの人は来ない。たとえ俺が殺されてもだ」
「ならばいる場所を言え。こちらから迎えてやる」
「断る。わざわざ殺されにいく必要はない」
「なんだそれは。国が個人に負けるとでも思っているのか?」
分かっちゃいたけど、まるで聞いてはくれない。これでは俺の拘束を解いてもらうのに何年かかるって言うんだ。
師匠にだって迷惑をかけてしまう。これ以上は迷惑をかけるなと釘を刺されているのに。
「教えろ、貴様の師匠の居場所――」
そのときだった。
ガチャという音とともに、前方右側にある小さな扉が開いた。そこから現れたのは、一夜と同じ髪の色をした少女。落ち着いたドレスを身にまとった美しい少女。
「・・・・・・ちっ」
一夜が舌打ちをする。俺から手を放すと、少女の方へは目を向けずその場で立ち尽くした。
まさか、これは――
「お兄様、これはいったいどういうことでしょうか?」
――その場の空気が、変わるのを感じた。
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