夜明けのひかり

湯殿たもと

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1章 一年目の七月

夜明けのひかり その2

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「俺は人を探しているんだ」


夜明けのひかり その2


夏休みの一番はじめの朝。学校は無いのに普段と同じ時間に起きてしまう。穏やかな朝だった。お客さんのいるお父さんの部屋の扉を開けてみる。彼は熟睡していた。

台所に立つ。普段はそこまで難しいものは作らないけれど、お客さんのためにしっかりと料理を作ろうと思う。

「・・・・・・」

冷蔵庫の中は荒涼とした風景だった。やっぱり簡単なものしか作れなそうだった。それでも朝ごはんを誰かと一緒に食べるだけで美味しく感じられるかもしれない。


「何ていう人を探してるの?」

朝ごはんの後、東海くんに聞いてみた。人を探しているというのだから、少しでも協力出来れば、と思う。

「湯殿たもと」

「・・・・・・ごめんね、わからない」

「いや、すぐ見つかるとは思っていないからな。このあたりに住んでいることは間違いないと思うんだけどさ」

「どんな感じの人なの?」

「今十五歳で、この前見たときはショートヘアだった。性格は明るい感じだな」

「あったことないと思うけど私も探すよ」

「何から何まで申し訳ないな」

まず私はこの町を案内することにした。探すのに役に立つだろうし、もしかしたら住んでいる家が分かるかもしれない。それにしても東海くんは私より年上に見えたがいくつなのか。高校生っぽいけどなんでこんなに自由気ままに人探しをしているのだろう。何か事情があるのかもしれない。

「こっちはスーパー、あそこは温泉旅館。あの向こうには郵便局と神社があるよ」

「郵便局、神社・・・・・・その神社に案内してくれないか?」

「いいよ」


温泉街を見渡す一段高いところにある神社。崖にへばりつくようなところで、普段は静か。お祭りの時くらいしかほとんど来ないけれど。階段を上がると予想に反して一人の巫女さんが立っていた。見覚えのある顔、別のクラスの荒海さんだった。せっせと竹箒で落ち葉などを掃いている。とりあえずお願い事をする。

東海くんは荒海さんにいろいろ話しかけていた。会話の内容はよく解らないけれど、ふたりは知り合いのようだった。口調がそれっぽい。

結構細かく案内しているうちにもう夕方。二人で浜辺で夕暮れを見つめていた。夕日が海に沈んでいき、夏の穏やかな海がそれを映す。

「東海くん」

「どうした?」

「探している人とはどんな関係なの?」

「そうだなぁ、命を助けてもらった恩人ってところだな」

「そうなんだ」

「なんか胡散臭いだろ」

「胡散臭いってわけじゃないけど・・・・・・私は直接人に命を助けてもらったってことは無いから」

「そうだよな」

東海くんの探している時の目は真剣だった。だからきっと本当に大事な人なんだろう。

夕御飯は野菜炒め。いつもより気合いが入って野菜の量も多い。そこまで料理は上手じゃないけど美味しくできたと思う。東海くんの食べっぷりがそれを証明してくれた。嬉しい。


続きます

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