夜明けのひかり

湯殿たもと

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4章 一年目の七月、再び

夜明けのひかり その22

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夜明けのひかり その22



粘りに粘り続けて台風のころまで粘った。この間何をしていたというと温泉での掃除のバイトであった。湯船をごしごしとこすり時間を過ごす。この仕事なら時間を潰せる上にひーくんに見つかることもない。

台風が来たころに決戦を迎えるはず。少なくともふたりのこころが近づくのはこの頃だ。縄の手入れをして時計を細かく見る。記憶通りの時間に行こうと思うと難しい。多少はずれてもいいのだろうと思うけれど、どのくらいが許容範囲なのかはっきりしない。かりに失敗したら私はどうなるのだろうか。もしかしたら消えてしまうかもしれない。そして気がかりなことは他にもあった。実は私の県での高校野球の甲子園出場校が変わっていることだ。もちろん私は野球の結果に介入したりなんてしない。つまり、私がしらないところで運命が変わっているかもしれない。これは恐怖だった。そのせいで私の作戦が上手くいかないかもしれない。・・・・・・しかし決行するしかない、それは間違いないのだ。

台風の夜、私はひーくんを取り返す行動に出た。記憶通りに過去の私の前でひーくんを縄で縛り連れ去る。取り敢えず神社の倉に閉じ込めておく。ひーくんは一言「悪かった」と言った。それ以上何かを問い詰めるということはなかった。ひーくんのやろうとしていることがどのような結果を招くのかは知っている。でもそれでも私のことを考えた行動であることを知っていた以上強くは言えなかったのだった。

さて、あとやらなければいけないことは過去の私の死亡を確認すること。滑って転んで派手に頭を打って死んだのだけど、それは確率からいって本当にまぐれな死に方だと思う。しかし・・・・・・仮に死んでいなかったとしたら、私が直接手を下しても良いのだろうか。いや、そしたら私の認識が変わるから未来も変わる?

「ちょっと待ちな、そこの妖怪」

「・・・!」

「何を企んでいるのかしらないけれど、私の土地で横暴は許さないよ」

まずい。ここで吹浦さんに目をつけられるとは。神様対妖怪。九尾さんのような強い妖怪ならともかく私の腕で神様に勝てるとは思えない。でもここで邪魔される訳にはいかないのだ。

御札が猛スピードで飛んでくる。当たったら痛いとかじゃなくて除霊タイプのものだったら命に関わる。まわりは暗いので避けるので精一杯。雨で地面も滑りやすい。危ない。そして何より私は反撃できるような武器を持っていなかった。縄はさっき使ってしまったし持っているのは身分証と「かえり券」だけ。よっと。しかしここで負けたらすべてがおしまいなのだ!御札がチチチチとかすり、このままでは負けると思い捨て身で吹浦さんの懐に入る。

「なっ?!」

かえり券が発動した。吹浦さんの姿とかえり券が消滅する。二年後に送られたのだろう。私はその場にへたりこんでしまった。足がガクガクしてたてない。かえり券を使ってしまったということは私は自力では帰れないし、それに目的をすべて綺麗に果たすことが不可能となってしまったのだ。・・・・・・しばらくしてよこちゃんがやって来て手を貸してくれてやっと立てた。そして傘を手渡される。きょろきょろしていたよこちゃんは私に尋ねる。

「吹浦は」

「二年後に飛ばした」

「二年後に・・・・・・?」

絶句して私と同じように立ち尽くした。私もしばらくたっていたのだが本来の目的を思い出す。そして私は夜の道を海岸の方へ駆け出していた。雨も風もますます強くなり傘が邪魔になってきた。とにかく駆ける。そして目的地の手前の路地に入る。

「きゃっ!」

ちょうど自転車がそこから出てくる。私はかわしたけど自転車は派手に転ぶ。

「すみませんっ!」

そういってまた駆け出そうとしたけど、転んだ人の顔が目に入る。私だった。しかもその私は何も言わなかったのだ。

「・・・・・・」

その代わりに流れ出る赤い液体がすべてを語っていた。

このまま放置すれば私の夢は叶う。細部は違えど現在の私がそのまま生まれてくるだろう。そして私はその場から駆け出したのだった。


続きます。
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