狼の巫女

湯殿たもと

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狼の巫女 9 (完)

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狼の巫女9

辛そうな顔から悪代官の企み顔になった雪音と共に山に入る。この前の窪みに向かってみると、この前の少女は狼と眠っていた。僕はその少女を起こして、捜索隊がここにやってくることを伝えた。本当かどうか疑っているようだったので、

「もし嘘だったら毎日松阪牛を五頭プレゼントする」

という。するとのりのりで少女は応じた。うーん、現金な奴だ。

「あの娘もテレパシー使えるんだね」

「確かにそうだなぁ」

雪音は初めて見る狼にも動揺せず、落ち着いていた。狼を逃がすのも協力してくれた。

翌日早朝。捜索隊を先回りして山に入る。窪みには狼達はおらず、ちゃんと逃げてくれたようだ。雪音は山の中に入るのにあまり適していないと思われる巫女装束で来ていた。訳を尋ねると作戦に必要だという。

六時を回った頃、捜索隊が入ったとかおる君から連絡があった。雪音は目を閉じて何やら祈っている。集中しているので話しかけないでおくが、いったい何を始めるのか。

捜索隊が近づいてきた。雪音は気配でそれを悟ったのか、目を開き、大幣を天にかざし、魔方陣を展開した。ちょっと待て、巫女さんが魔方陣を展開するなんて聞いたことないぞ。魔方陣の中から霧のようなものが発生し、それは素早く集まって全長十メートルほどの狼の姿になった。捜索隊に向かって走っていった。捜索隊は驚き、霧に向かって銃を撃ち始めた。しかし霧なので全く効かず、外れた弾丸の一発が木の枝を切り、枝が落下すると捜索隊はパニックに陥った。一日中山中に悲鳴が響き渡っていたのだった。


夏の終わり。僕はこの村を去ることにした。雪音たちが見送り、村長の車で駅まで送ってもらった。

「この村のシンボルは狼なんですよ、昔から狼の信仰が在りまして。シンボルを守ってくれてありがとう」

「え、いえいえ、僕だけでは何もできませんでしたよ。雪音さんのお陰です」

「ははは、謙遜しなくてもいいのに」

しばらくいた村が遠くに去ってゆく。僕は冬にもこの村に来ようと誓った。気のせいだろうけど、狼たちに見送られてる気がした。


狼の巫女 完


おまけ

狼と暮らしていた少女。その娘を「雪香」と名付け、藤島家で引き取ることにした。今は人の言葉を教えている。テレパシーで意志疎通はできるが、言葉は教えなくては。

「これが「あ」だ」

「あ」

「こっちが「い」」

「い」

「ただいまーっ、雪香っ」

「ふみゅーっ」

雪音は帰ってくるなり雪香を抱きしめ、髪を撫でる。雪香はちょっと苦しそうだ。

「あんまり触ってると怒られるぞ」

「ふーん、羨ましいだけでしょ」

「ぁったりめーだ!よし、俺ももふもふするぞ!」

そして俺の体は飛んだ。見たか、ライト兄弟。これが飛ぶってことだ。ははは。


本当に完。
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