月夜の椿

湯殿たもと

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月夜の椿

月夜の椿 1

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夜の森に魔女が飛ぶ。月明かりの中、コウモリやふくろうの棲む山を飛んでいく。もっともこうもりは冬眠中であるが。彼女は森のなかにあるモダンな小さな家に入っていく。

「お帰りっ」

「ただいま」

魔女は同居人に挨拶すると何かが煮えている大きな釜の前で作業し始めた。大きな帽子の中から材料を取り出す。

「わー、また派手に盗んできたね、そんなでっかい白菜。白菜今高いんだよ」

「いいの、肥料を精製してお返しすればいいの」

「まあそうだけどさぁ、見つからないように気を付けてね、最近警察がうろついてるって話だよ」

「大丈夫、それに空に逃げればいいから」

鍋の中身が十分煮えたのでそれを器に取り出す。まあまあの出来かな、という顔をしている。

「わ、白菜入れたのに跡形もないよ」

「白菜を使った薬ですよ」

「薬?」

「冬に食べると良いんですよ」

「ほんとに?」

と言って一口食べる。

「わ、これ美味しいね、レシピ教えてよ」

「牡丹はまだ魔法に慣れてないから作れないよ」

「魔法かぁ」


月夜の椿


「ふーっ、ギリギリセーフ」

「大丈夫、いつもこの時間だから」

「椿は落ち着いてるね、いや、いくら何でもまずいよあと一分だよ」

「大丈夫大丈夫」

八時二九分、泉宮東高校の昇降口に立つ二人の女子学生の姿があった。急いでいるのは須賀川牡丹、落ち着いているのは氷室椿。チャイムがなって駆け出すのは牡丹、落ち着いて歩くのは氷室。

「先生は三十三分に来るから大丈夫ですよ」

「本当に落ち着いてるよね」

氷室の言うとおり二人は間に合ってその一分後に先生が入ってくる。いつも繰り返されるこの景色。朝のホームルームが終わるとそこにイレギュラー。

「ねぇ須賀川さん」

「ん、委員ちょ、どうしたのさ」

須賀川の後ろの席のクラスの委員長、安達太良かすみはつんつんとつついて須賀川を振り向かせる。

「毎日遅刻してくるの、ちょっと直してほしいかな」

「まあ、やめたいんだけど、椿がゆっくりしててさ」

「ん、そんな感じに見えるけど、説得して欲しいかな、昨日先生に言われたのよ」

「え、先生にばれてるのか」

「隣のクラスの先生にね」

「あー、なるほど」

ゆっくりした氷室に直させるのは、まあ難儀なことだな、と須賀川は思った。


放課後。

「牡丹、栗原屋によって行きません?」

「栗原屋?良いねぇ、でもさ、もうすぐ試験だよ、試験終わったらにしない?」

「牡丹、おいしいものは食べたいときに食べるのが一番ですよ」

「うん、それはそうかも知れないけどさ」

「それなら行こう?」

説得は難しいな、とますます思う須賀川だった。そんなもやっとした気持ちは名物のモンブランを食べたら消えてしまったようだけど。

二人は他の人たちと生活リズムが違った。夜の七時には眠り、丑三つ時に起きて活動する。ちょっと仮眠をとって、また起きて学校へ。そんな暮らしをしているのは氷室が魔女だから。

「飛び回ってないで試験しないとまずいよ、来週だよテスト」

「大丈夫ですよ牡丹。私は直前に少しやれば大丈夫だから」

「はぁー、天才だからそうやって言うよ、私がまずいんだよ」

「勉強ができるお薬でも作る?この本の百二十三ページに・・・・・・」

「いいよいいよ」

氷室のことが心配になってくる須賀川はため息をつくのだった。


続きます。
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