上 下
61 / 91
4章

妹?

しおりを挟む
1.突然告げられた意味不明な話に、裕次郎は困惑していた。
 遺伝子? 妹? いきなりそんなこと言われても意味わかんないし。俺はハーレム作るためにこの世界に転生しただけで、妹作るためじゃないし・・・・・・。
 そんなことを考えていると、角っ子さっちゃんが口を開いた。
「で、お兄ちゃんに話があるのじゃ! さっそく今日から世界征服を始めようと思う。手始めにこの国を焼き尽くすのじゃ!」
 さっちゃんはぎらぎらと光っている角を振り回しながらそう言った。
 裕次郎は話に全くついていけていなかった。
「ちょっと待ってよ! 何で世界征服するの! っていうか俺に妹なんていないし! もう意味わかんない!」
「あー、分かったのじゃ。一から説明しよう。お兄ちゃんがこの世界に来る前に天界であったじゃろう? 白いローブを着た変な声の奴に。あれが私の父であり、『    』なのじゃ」
「え? なんて? 誰が父なの?」
 裕次郎はさっちゃんの言葉が聞き取れなかった。話が頭に入ってこない。
「『    』っていうてるじゃろが!」
「だから聞こえないんだって!」
「聞こえないなら聞こえないんじゃろう。なら『やっちゃん』と呼ぶか。そのやっちゃんが自分の遺伝子をお兄ちゃんに組み込み、この世界に転生させたのじゃ」
「・・・・・・え? 俺ハーレム作るためにこの世界に来ただけで世界征服するつもりなんてないんですけど?」
「それはそうじゃろう。やっちゃんは別に世界征服するためにお兄ちゃんをこの世界に送ったわけではないからの」
「は?」
 裕次郎は首をひねった。ついさっき『世界征服を始めよう』とかなんとか言ってなかったか? この子少しバカなんじゃないかな?
 しかし、さっちゃんはすぐに裕次郎の疑問に答える。
「やっちゃんはこの世界の問題を平和的に解決したいと言っていたんじゃ。でも、私は背信者を全て消滅させるつもりだった。意見の食い違いで喧嘩になり、私は地上に落とされてしまったんじゃ。この角もその時に生えたんじゃよ! かっこいいじゃろう!」
 さっちゃんは二本の角を撫でた。裕次郎はその角を眺めながら訊いてみた。
「えっと・・・さっちゃんはお父さんと喧嘩してここに来たってこと?」
「そうじゃ! あのわからず屋はもう知らん! そもそもよく考えてみれば、私がやっちゃんに代わってこの世界を支配すればなにも問題はない! そうじゃろう!」
「・・・・・・そう・・・なのかな? でも俺は世界を征服したりするつもりはないかな」
「なぜじゃ!! 世界を支配して神の座に君臨したくはないのか! そうじゃ! もし世界を支配できれば私とお兄ちゃんで半分こにしよう! どうじゃ?」
「あのねさっちゃん。俺は世界が欲しいんじゃなくてハーレムが欲しいの。仮に世界を支配したらハーレムを作れるかもしれない。でもそれは違うんだよ」
 裕次郎は大きく息を吸い込み、口を開く。
「だって世界を支配した時点で俺と女の子の立場が対等じゃなくなるじゃん! 例えば、偶発的破廉恥行為ラッキースケベとかしても女の子怒れなくなるじゃん! だって俺『神』になっちゃうんでしょ! 絶対そんなの嫌!」
「な、ならば対等の女を創造すればいい。神になれば全て思いのままじゃ! 一緒に世界征服しようよ!」
「いや、ダメだ。俺はこの世界でハーレムを作るって決めたんだ。自分で女の子創ってもなんの意味もない」
 裕次郎はキッパリと言い放った。視線を向けると、さっちゃんはプルプルと震えながら目に涙を溜めていた。
「お兄ちゃんのバカ! もういい! 私一人で世界征服する!」
 さっちゃんはそう言い放ち、ドアへ向かって走り出した。しかし、途中に落ちていたベルに足が取られ、そのままずっこけてしまう。
「うわぁ!」
大きな声と共にさっちゃんは宙を舞う。そしてその頭に生えていた角がドアに直撃する。
『バキャッ!』
 さっちゃんはドアに突き刺さり、しばらくして床に落ちた。ドアには穴が二つ空き、その片方には黒い立派な角が刺さったままだった。


 続く。






しおりを挟む

処理中です...