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6章

なんかちがう?

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1.何だかんだで最前線に送られることになった裕次郎。嫌々支度し外へ出ると、家の前に変な乗り物が停まっていた。
 馬車・・・のような外見をしているが、肝心の馬がいない。その本来馬がいるべき場所にはピカピカ光る大きな宝石が二つはまっていた。
「え・・・これ何?」
 裕次郎は思わずそう呟いたが、答えてくれる人は誰もいなかった。
 とりあえずその乗り物の回りを一周してみることにした。
 てくてく歩きながら観察してみたが、やっぱり見た目は馬車にしか見えない。車輪? も四つついてるし、扉もある。どうやら中に入れる仕組みになっているようだ。
「おじゃまします・・・」
 裕次郎は何となくそう言いながら扉を開けた。
「おお、やっと準備が終わったのか」
「パパおそい~」
「こんな乗り物に乗るのは初めてなんじゃ~」
 イザベルとサキが向かって右側に、さっちゃんとベルは向かって左側に座っていた。
 あれ?
 裕次郎はもう一度中を見回したが、ヤコの姿が見当たらない。
『ヤコは連れていかないの?』
 そう訊いてみようとした瞬間、イザベルの足元にあった袋がモゾモゾと動いているのを発見し、裕次郎は訊くのをやめた。
「ほら、早く乗れ。時間がないのだ」
 イザベルが少し苛立ったようにそう言った。
「あっごめん」
 裕次郎は急いで馬車? に乗り込むと、さっちゃんの隣に座った。

2.馬車っぽい何かは勝手に動きだし、道を走っていく。
「・・・裕次郎、今回の任務について教えてやろう」
「え? あ、うん」
 いきなりイザベルからそう言われ、裕次郎は慌ててベルを膝の上からおろした。
「いいか、本来異世界人どもの国へは入ることが出来ない。何故だか分かるか?」
「・・・えっ・・・いや分かんないです」
「我々の国と異世界人どもの国とは山脈で隔たれているのだ。それに加えあいつらは山を越えられないように魔法をかけている。しかし今から行く敵の砦は唯一山が途切れているのだ。そこを狙う」
「えっ・・・でもそんな明らかな弱点があるのなら厳重に警備しているんじゃないの?」
 裕次郎は単純に疑問に思ったことを訊いてみた。敵もそこを攻められるのは分かりきっているはずだし、逆にこっちがやられるんじゃないの? そう思ったからだ。
 しかしイザベルはわざとらしくため息をつき、首を振った。
「分かっていないな裕次郎は。今回の任務は砦を攻めることだ。しかし宣戦布告などしていない。つまりは奇襲攻撃だな」
「でもそれだけじゃ勝てるかわからない・・・」
 裕次郎はそう言いかけたが、イザベルが話を遮った。
「最後まで聞くのだ。今回は地の利も活かす。あの砦は山に囲まれていることもあり、山水が川を通じて砦に流れ込んでいるのだ。今回はそこに遅効性、だが致死性の毒を流し込む。バカな異世界人どもは我々が攻めてきているとも知らずに綺麗と信じきっている川の水を飲むだろう。そうなれば我々の勝ちだ。どうだ? 良いアイデアだろう?」
 イザベルは自慢げにそう言った。
 しかし裕次郎は思った。
 なんかそれ卑怯っぽくね? と。
 それに毒を流したりしたら砦の人たちは全員死んでしまう。流石にそれはまずいんじゃね? と。
 裕次郎は早速イザベルに訊いてみた。
「で、でも毒なんか流したらみんな死んじゃうし、それにもしかしたら女の子とか子供とかいるかも知れないよ?」
 しかしイザベルはきょとんとした顔をして首をかしげる。
「何を言ってるのだ? 敵は殲滅するべきだろう? 敵だぞ?」
「えっ・・・じゃあ子供とか女の子とかはどうするの?」
「まあ、可愛そうではあるが、敵だから仕方がないな。皆殺しだ。戦場にいる以上情けは無用だ」
「ええ・・・そんな・・・もんなの?」
「ああ。そんなもんだ」
 イザベルはそう言うとうんうんと頷いた。
 裕次郎は、真実を図りかねていた。
 いつものようにイザベルが異常なのか、この世界ではそれが普通なのか、正直分からなかった。
 しかし裕次郎は、バイオン校長のあの言葉を思い出していた。
『しかしだ。そんな猛獣をただ最前線へ送ってしまう訳にはいかない。言わば猛獣使いが必要だ。君もそう思うだろう?』


 続く。

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