上 下
3 / 91
1章

魔法使えたぁぁぁぁぁぁぁ!

しおりを挟む
1.ザークから待合室で待っているように、と言われた裕次郎は絶望していた。それもそのはず、異世界でスーパー大魔術を使いモテモテハーレムを作るはずが、どこでどう間違ったのか魔術は使えず、魔法も役立たずの『煙属性』しか使えない。これじゃあまるで三輪車にロケットエンジンを乗せたみたいだ。そんなのただ排ガスを撒き散らすだけだ。煙だけに。どうしてこうなったんだ。
 そう考えながら裕次郎は、思い出したくない前世の記憶を思い出していた。
『裕次郎は勉強もできない、スポーツもできない。じゃあ何ができるの?』
『人生やり直した方がいいんじゃない?』
・・・俺、人生やり直してもダメっぽい・・・
 再び裕次郎は泣きそうになり、必死に涙をこらえる。
「裕次郎さん、計測室の方までお願いします。ザーク先生がお待ちです」
 受付の女性の声が響き渡った。

2.計測室の中に再び入ると、ザークがすでに椅子に座っていた。計測結果の紙を持っている
「待たせて悪かったな。今回の魔力適正の結果が出た。適正はAプラスから、Fマイナスまでランクをつけられており、Bランク以上で適正ありと診断される。」
 ザークはそう言うと紙を裕次郎に渡した。
 裕次郎は、さっきの結果は間違いであってくれ。これが本番、さっきまでは何かの冗談。そう思いながら、震える手で検査結果を確認する。
『火属性魔法適正Eマイナス』『水属性魔法適正Fマイナス』『雷属性魔法適正Fマイナス』『氷属性魔法適正Fプラス』『風属性魔法適正Eマイナス』『闇属性魔法適正Eプラス』『光属性魔法適正Fマイナス』『煙属性魔法、通称絶滅魔法ロスト。適正Aプラス』『魔力量。Aプラスの10倍以上の魔力量の為、検査不能。暫定的にSSSプラスとする』
 ・・・魔力量やべえな。でも他の属性魔法適正、ゴミクズやん。俺才能ないやん。もう帰って、飯食って寝よう。
 涙を必死にこらえて計測室を出ようとする裕次郎を、ザークが引き留める。
「まだ話は終わっていない。君には明日からこの学校に通ってもらう。いいな?」
 ・・・は?何で? 属性魔法適正ゴミクズの、俺が何で?
 意味がわからない裕次郎は動揺しながらも詳しく尋ねる。
「属性適正が無いのにどうして?」
「それは、君が魔力適正の平均結果がAマイナスだからだ。結果がBマイナス以上の者は強制的に魔法学校に通わなければならないんだ」
「でも俺、魔法の才能無いですよね?」
「才能あるなしの問題ではないのだ。結果が全て。君の魔力量が桁違いで平均を引き上げているんだ。まあ君なら属性適正が全てFマイナスでも魔法学校に行かなくてはいけなかっただろうな」
「でも煙属性は、全く役に立たないんですよね?」
「そんなことはないぞ。晴れの日を曇りにしたり、視界を悪くしたりできるはずだ」 
 ・・・冷静になって考えてみると、そんなことして何か意味あるのか?『ああ~日差しがつよいわぁ~、日焼けしちゃう。そうだ! 太陽さんに、雲をかけよう。そ~れ、モクモクモク! それ、モクモクモク!』とかするのかな? バカかな?
 情けなさ過ぎて、悲しくなった裕次郎は、
「・・・分かりました。明日また、学校に来ます」
 とだけ言うと、ふらふらと頼りない足どりで扉に向かった。

3.裕次郎は帰り道を疲れはてた顔で、とぼとぼ歩きながら今後について考えていた。お先真っ暗だ。魔法学校に入学したとしても、まともな魔法は使えない。魔法が使えないといじめられるかもしれない。どうしよう・・・
「これから、どうしようかな・・・」
 そう呟いた所で、後ろから変な音が聞こえてくる。
『・・・ピーン・・・ピーン・・・』
 裕次郎は特に気にするでもなく、とぼとぼと歩く。その音はさらに大きくなり、はっきりと聞こえてくる。
『ガシィーンシュピーン! ガシィーンシュピーン!』
 ああ。この音は、イザベルが着ていた鎧の音じゃないか?そう思いながら、後ろを振り替えると・・・
  全身武装の鎧が全力疾走でこちらに走ってくる。
「ああああああああ!!  怖すぎぃぃぃぃ!!」
 裕次郎は叫びながら全力で走った。あの鎧は、恐らくイザベルだろう。だが、しかし、もし違ったら? あの鎧は危ない奴で、捕まったら殺されるとしたら? 全身完全武装で顔も見えない。確かめようがない。何より、超怖い。
「あああああああああ!!!」
 捕まらないように、叫びながら本気で走る裕次郎。
「ガシィン! シュピン! ガシィン! シュピン!」
 鎧は無表情で、気持ち悪いほど正しいフォームで走ってきている。そして恐ろしく速い。あまりの怖さに裕次郎はさらに絶叫する。
「ぎゃあああああああああああ!!!!!」
「ガシュピ!! ガシュピ!! ガシュピ!! ガシュピ!!」
「ああああああああああああああ!!!!」
「ガシュ! ガシュ! ガシュ! ガシュ! ・・・ガシィ!!!」
 あっ・・右肩を掴まれた・・俺死んだ・・・
 裕次郎は恐ろしいほどの力で肩を掴まれた。必死に、
「やめてぇ! 殺さないでぇ!」
 と、命乞いする。
「何を言っているんだ、裕次郎。君を見かけたから、走って来ただけではないか。」
 イザベルが頭の鎧を取りながら、不思議そうに裕次郎の顔を覗きこんだ。
「イザベル!」
 裕次郎は涙目でイザベルを睨む。
「どうした?そんな怖い顔をして?」
「俺、すごく怖かったんですよ! 全身鎧で追いかけられて!」
「何をいっているんだ? 鎧を着ているのは騎士だけだ。騎士は正義、恐れる必要など何もない」
「・・・そうなんですね」
 何を言っても無駄だ。そう感じた裕次郎はそれ以上、深く追求しなかった。

4.「それで、魔法適正はどうだったのだ?」
 イザベルが遠慮なく聴いてくる。裕次郎は無言で検査結果を手渡した。
「どれどれ・・・ほう、凄いじゃないか!こんな魔力量の数値は見たことがない!」
 イザベルはそう言いながら、属性適正の項目を見始めた。
「プッ・・・」
 !!! 今こいつ笑わなかったか?絶対バカにしただろ今! 『プッ』ていった!
 裕次郎は目に涙を溜めてプルプルと震える。それに気づいたイザベルは必死にごまかす。
「違うんだ! 決して笑ったわけではない! そう、くしゃみが出そうになっただけだ!」
「本当?」
「ああ!騎士道に誓って! それより『煙属性』とやらを見せてくれないか?」 
「・・・いいですけど、呪文とかなにも分かりませんよ?」
「大丈夫だ!教科書があるから、それを見ながら唱えればいいだろう」
 あれ? イザベル、教科書持ってたっけ? 何も持ってなかったような? そう思いながらイザベルを見ると、鎧の中から教科書を出している最中だった。

5.裕次郎とイザベルは近くの河川敷に来ていた。魔術と違い、魔法は呪文が決まっているようだ。裕次郎は教科書の『煙属性』のページを見る。『煙属性は、あらゆる属性魔法の中で最初に開発された属性です。しかし、今では何の役にも立たず、意味のない属性として絶滅属性ロストと呼ばれています』
「・・・・・」
 裕次郎は無言でページをめくる。あった。煙属性の呪文は・・・『煙煙スモーキー・スモーク』なんかあんましかっこよくない・・・まあ、初級魔法だし、こんなもんか。
 裕次郎は気持ちを落ち着かせ、掌を前につき出し、呪文を唱える。
煙煙スモーキースモーク!!」
 その瞬間、左右の掌から煙が立ち上る。『モクモクモクモクモク・・・』
・・・これで終わりだ。モクモクモクして、終わり。これで俺の魔法終了。
 イザベルの方を見ると、先ほどは外していた頭の鎧を、何故かまたかぶり、小刻みに震えている。
 裕次郎はイザベルに近づいていき、話しかける。
「イザベル?」 
「・・・・・・」
 聞こえなかったのか?もう一度声をかける。
「イザベル!!」
「・・・ごほんごほん、すまない。少しのどの調子が悪くてな。『煙属性』、珍しい魔法だな。いいと思うぞ」
 イザベルが頭の鎧をかぶったままそう言った。  
 裕次郎は、その言い方に少しムッとしてイザベルに尋ねた。 
「そういうイザベルはなんの属性を使えるんですか?」
「ああ、私は七属性使えるぞ」 
「・・・・・・」
 聞くんじゃなかった。少し後悔しながらも、意地になってさらに尋ねる。
「本当ですか?じゃあ実際にやってみてくださいよ。火属性魔法と雷属性魔法、見せてくださいよ」 
「まあ別に構わんぞ。私は高等部二年だから中級も使えるんだ。見せてやろう」
 イザベルはそう言いながら左手を前につき出す。
火炎球ファイヤー・ボール!」
 前方につき出した左の掌から球状の炎が現れる。と、みるみる大きくなり直径一メートルほどに成長した。
「ハッ!!」
 イザベルの掛け声と共に、成長した炎が前方に勢い良く飛び出す。五十メートルほど飛ぶと爆発、炎上した。正直、かっこいい。
雷針サンダー・スピアー!」
 次は雷属性か。イザベルが呪文を叫ぶと、左手が雷におおわれる。そして勢い良く左手を右上から左下へ力強く降り下ろす。すると左手に帯電していた雷が勢い良く前方に飛び矢の形に変化する。超高速で放たれた雷の矢は、青空に消えていった。いいなあ。これもかっこいい。
 惨めになってきた裕次郎は、
「イザベル、有り難う。かっこ良かったです」
 とだけ小さく言った。すると、その様子を見たイザベルは、少し考えた後こう言った。
「裕次郎。煙属性は役に立たないと言われているが、私はそれは違うと思うぞ。もし本当に何の役にも立たないのであれば、そもそも存在するはずかない。魔法は魔術とは違い、人がつくった物なのだから。それとも裕次郎は自分が持っている属性を信じてやらないのか?」
裕次郎はそれを聞き、たまらずまた泣いてしまった。しかし、その涙は決して悲しさだけではなかった。
「ヒック・・・わかりました。俺、煙属性で頑張ってみます。明日から魔法学校にも行きます」
「そうか。それじゃあ、明日からは同じ学校の生徒だな。よろしく。」
イザベルはそう言うと右手を差し出し、握手を求めてきた。裕次郎はしっかりと握手をした。鎧がごつごつして少し痛かったが、構わずに強く握り返した。
「それであの、イザベル、話があるんだけど」
 手を離しながら裕次郎はそう言った。
「なんだ? 話とは」
「実は俺住む所が無くて、出来ればで良いんですけど、しばらく泊めてくれると助かります」 
「なんだ。そんなことか。私は別に構わないぞ。前にも言ったと思うが、君の事は友達と思っているからな。肩を掴まれ、揺さぶられるのはもうごめんだが。」
 イザベルは、そう言うと歩き始めた。裕次郎も歩き始める。イザベルの鎧が『ガシィーンシュピーン』と音をたてた。


続く。










しおりを挟む

処理中です...