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1章

魔法学校に到着だぁぁぁぁ!

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1.「朝だぞ!早く起きないか!」
 イザベルの凛とした声が頭の中に響いてくる。そうか。俺は眠ってしまっていたのか。
 裕次郎は、まだ眠りだがっている体を無理やりに起こしながら目を擦る。
「すいません。眠ってしまいました。今何時ですか。」
「もう朝の七時半だ。しかし、ぐっすりと眠っていたな。よほど体が疲れていたのだろう」
 イザベルは『うんうん』とうなずきながら一人で納得している。なぜか顔以外、全身鎧で武装して。
 何でこの人は早朝に鎧を着ているんだ? 普通は戦場とかで着るよね? ここは町中、しかも小さな部屋の中だ。
 絶対じゃまやろ。トイレはどうするの? いちいち脱ぐの? いくら考えても答えは出そうにない。裕次郎は直接聞いてみることにした。
「イザベルさん?」
「なんだ?」
 イザベルは『ガシィーン、ガシィーン』と音を立てながら裕次郎に向き直った。
「なんで、こんな朝早くから鎧着てるんですか?」
「それは私が騎士だからだ。」
 ・・・全く説明になってない。騎士は全員朝の七時半に鎧を着て、部屋でロボットみたいな音を立てているというのか。そんなわけない。もしそうなら騎士はアホしかなれない職業になってしまう。それ以前にイザベルは昨日、私は学生だと自分で言っていたではないか。
裕次郎は、やっぱりイザベルは残念な人だったのか。と納得しながら頷いた。
「そうですか。そうなんですね。それで今日は魔法学校に行こうと思うのですが案内してもらっても良いですか?」
「いいぞ。今から行こう」
「・・・今すぐですか?」
「そうだ。何か問題があるか?」
 裕次郎は困惑した。まさかイザベルは、この鎧のまま学校にいくのだろうか? 恐る恐る聞いてみることにした。
「イザベルはその格好のまま行かれるんですか?」
 イザベルは呆れたように顔を左右に降る。
「まさか。そんなわけないだろう。」
 よかった。学校に鎧は着ていかないんだ。裕次郎は、ほっとため息をついた。
「そうですよね。それじゃあ着替え終わったら玄関の方で」
「ああ。分かった」
 イザベルはそう言うと『ガシィーン、ガシィーン』と音を立てながら部屋を出ていった。

2.裕次郎は玄関で絶句していた。イザベルの姿が、先程の姿よりもさらに武装した鎧を着て待っていた。いや、正確にはイザベルかどうかはわからない。
 だって全部鎧だし。完全武装だし。
 裕次郎は困惑しながらもイザベルに質問する。
「イザベルさん? ちょっといいですか?」
 イザベルが『ガシィーンシュピーン、ガシィーンシュピーン』と先程よりも沢山の音を奏でながらこちらに向き直る。
「なんだ?」
「えっと、さっき、イザベルは着替えると言いましたよね?」
「そうだな」
「何で、また鎧なんですか?」
「この鎧は外出用だが? さっきの鎧は家用で私の私服だが?」
 は? 私服の鎧? なにそのワード。鎧に外も内も無いだろう。裕次郎はさらに質問した。
「もしかしてイザベル、着るものほとんど鎧しか無いんじゃないですか?」
「失礼だな君は。甲冑かっちゅうも持っているぞ」
 ・・・甲冑? なにそれ鎧やん。だんごむしとフナムシ位の違いしかないやん。どっちがどっちかわからんやん。
 裕次郎は、イザベルって美人なのに残念だな、と思ったが、これ以上深く追求しなかった。
「それじゃあイザベル。案内をよろしくお願いします」
 イザベルは返事をする変わりに鎧を『ガシィーンシュピーン』と鳴らしながら歩いていった。

3.裕次郎は、イザベルに連れられて魔法学校やって来た。恐ろしく広い。学校というより一つの町みたいだ。 辺りを見回すが、古くさい感じではなく、むしろ最新式、といった感じた。
「私は授業を受けるから、ここで一旦いったんお別れだ。裕次郎は左の方にある建物で、魔法適正を診てもらうといい。適正があれば学校に通うことになると思うが、そのときはよろしくな」
 イザベルはそう言うと、右側に見える大きな建物へと歩いていった。
 裕次郎は反対側の建物に入っていく。ここまで少し、いやだいぶ予定と違うが、ここからは決まっているようなものだ。『魔法適正最強、俺最強』。よし。間違いない。
 裕次郎は意気揚々と扉を開けた。
「たのもー!!」

3.大声を上げ、勢い良く扉を開けた裕次郎だったが、中を見た瞬間、後悔した。
 何故なら、中はとても静かな雰囲気で、まるで病院の様だった。どこからか「チッ」と舌打ちが聞こえてきた気がするが、気のせいだろう。 キョロキョロ辺りを見回しながら、受付のような所に座っていた女性に声をかけた。
「すいません。魔法適正を計測したいんですが?」
 受付の女性は、めんどくさそうに裕次郎を一瞥いちべつすると、紙を渡しながら、
「はあ。それではこれに名前と必要事項を書いて計測室に行って下さい。廊下の突き当たりを右です」
 裕次郎は紙を握りしめ、廊下を歩いた。ここからが、ここからが本当の異世界転生。そう思いながらドアを開いた。

4.中の部屋には色々な機械が乱雑に置かれ、真ん中には椅子が、一番奥には机が置いてあり、誰かが座っている。その人物は、裕次郎が入ってきた瞬間声をかけてきた。
「はい。君が適正を診てほしい......誰だっけ?」
 裕次郎は紙を渡しながらその人物を観察する。緩やかなウェーブがかかっている髪は肩ぐらいまで伸ばしている。あまり寝ていないのか目の下にはくまが出来ていて、焦点もイマイチ合っていないようだ。とてもまともには見えない。裕次郎は少し不安になった。そんな不安をよそに、その女性は勝手に話を進める。
「えーっと裕次郎君だね。私の事はザークと読んでくれ。じゃあ早速始めようか」
 ザークはそう言うと、机の中から正方形の物体を取り出した。大きさはルービックキューブぐらい、色は真っ黒だ。その物体をいきなり裕次郎に投げ渡してきた。
「じゃあこれを握って、魔力を注ぎ込んで。五秒間計るから全力でね」
 裕次郎は訳もわからず、受けとった瞬間、その黒い物体が光を放ちながら、裕次郎の体にある『何か』を強烈に吸い上げているのを感じた。五秒たった後、突然黒い物体は停止した。
「これはどういう意味があるんです?」
 全く意味が分からなかった裕次郎は、ザークに困惑しながら質問した。
「ああ、それは五秒間だけ君の魔力を最大量吸収したんだよ。体内魔力量が多い者ほど、一秒あたりの最大魔力放出量も大きい。その関係性はほぼ比例しているんだよ。」
 成る程。説明が終わると、すぐに裕次郎はザークに魔力量を尋ねた。
「それで、俺はどうなんですか? ものすごい魔力を秘めている、そうですよね?」
「そんなに焦らずともすぐに結果はわかる。......こっ、これは!」
 ザークが驚いたような声を上げる。
「驚いた。君の魔力量数値は常人を遥かに越えている。恐るべき才能だ。大賢者級魔法使いの五倍、いや十倍はある」
 !! キターーーー! ついに来ました! 恐るべき才能を秘めた俺、裕次郎は数々の困難を乗り越え、ハーレムを作り、モテモテウハウハな生活を・・・
「じゃあ次は属性のテストをしようか」
 妄想を遮るように、ザークが裕次郎に話しかけた。まだテストは終わっていなかったようだ。
「属性?」
「君、属性を知らないのか? 魔法には属性が存在し、使える属性が人により、異なるのだ。まあ、最低でも1つ、普通は4つ程は使える。心配は要らない」
 よかった。まさかここまできて使えない、と言われたら、どうしようかと裕次郎は思った。
 ザークがさらに説明を続ける。
「それでは属性について説明する。魔法には『火属性』『水属性』『雷属性』『氷属性』『風属性』『闇属性』『光属性』の計七属性。それと、もう使用者が存在しない通称『絶滅属性ロスト』。その適正を計測するんだ。」
 ・・・これは間違いなくフラグだろう。俺は全属性+絶滅属性ロストも使える最強の魔法使い。そんな俺がモテないはずもなくウハウハな生活を・・・
「それじゃあテストを始めるようか」
 裕次郎の妄想をザークが遮ってそう言った。

5.ザークが机から色とりどりの石を八個取り出した。その中から一つ取り出し裕次郎へ見せる。
「これは魔法石で、触ると属性適正が分かる石だ。他にもその石をつかって魔法を発動させたり、いわゆる便利アイテムというやつだ」
 試しに裕次郎は赤色の魔法石を握ってみる。すると、みるみる熱を帯び始め、いきなり発火した。どうやら適正があるようだ。
 ザークは腕を組みながら、難しい顔で炎を見つめながら頷いた。

6.裕次郎は浮かれていた。『火属性』が反応しただけではなく、『水属性』『雷属性』『氷属性』『風属性』『闇属性』『光属性』の計七属性全てが反応していた。
 そんな裕次郎を見てザークが呟いた。
「こんなことが......信じられん」
 調子に乗った裕次郎は『絶滅属性ロスト』も試してみた。しっかりと、魔法石を掌で握りこむ。
「・・・・・・」
 なにも起きない。流石に『絶滅属性ロスト』は、無理だったか。まあしかし、他は全て他の魔法石は全て反応したし、問題はないだろう。裕次郎は、これから起こるであろうハーレムを妄想した。
 裕次郎がそんな事を考えていると、厳しい表情のザークが呟いた。
「こういう事もあるのか......」
 調子に乗った裕次郎は満面の笑みでザークに話しかける。
「まあ、七属性を操り、大量の魔力を持つこの俺が凄いことは分かります。しかし、そこまで驚かなくても良いんじゃありませんかぁ?」
 ザークが裕次郎を見つめた。その表情は固く、落胆しているように見える。そして信じられないような言葉を口にした。
「君は何を言っているんだ? 君が使える属性は『絶滅属性ロスト』だけ。後の七属性は使えないよ。魔法石が反応していたじゃないか」 
・・・ん? 属性が使えない? 何を言っているんだこいつは。俺が凄すぎて頭パッパラパーになったんかな? 
 意味がわからない裕次郎は詳しく説明を求めた。
「詳しく説明してください?」
 ザークが哀しそうに俺を見つめながら説明を始める。やめて。そんな目で俺を見ないで。
「いいかい? さっき、魔法石は魔法が発動出来ると言ったね?」
「はい・・・」
「魔法石は本来、魔法が使えない者が多少ではあるが、魔法の恩恵を受けられるようにつくられたものだ。その効果は魔法が使えない者でも、魔法石を握りさえすれば魔法が発現というものだ。まあ、ごく微弱だがな。反対に、例えば火属性の適正を持っている人物が、火属性の魔法石を握ってもなにも反応しない。その人物の魔力を魔法石が吸収、蓄積するからだ」
「・・・・・・」
「その仕組みを応用して、属性テストは考え出されたのだ」
 なにそれ?じゃあ俺、七属性全部使えないやん。俺くそ雑魚やん。
 しかし裕次郎は思い出した。『絶滅属性ロスト』の事を。それを見透かしていたかのようにザークが説明する。
「君は『絶滅属性ロスト』しか使えない。この属性は、記録上は今現在君しか使えないはずだ。その真の属性名は『煙属性』だ」
「その属性は強いんですか?」
 裕次郎はすがるように質問した。しかし、その答えは残酷だった。
「いや、とてつもなく弱い。君の魔力を消費し白煙を出す。それだけだ」
「毒ガスとか、可燃性のガスとかですか?」
「違う。魔力で作った白煙を出すだけだ。効果値は無い。しかし、君は魔力量は桁違いに多い。広範囲にわたって煙らせるはずだ」
 なにそれ。魔力量多くても意味無いやん。ただのもくもくしてるだけのケムリ野郎やん。俺の魔法超絶雑魚やん。
 なんだよ。異世界転生しても良いことはまるで無しかよ。魔術もダメ、魔法もダメ。ダメダメやん。
「うぇぇぇぇぇぇん!! びぇぇぇぇぇぇん!!」
 裕次郎はこらえきれず、泣き出してしまった。
 慌てたザークが必死にフォローする
「も、もしかしたらいい使い道があるかも知れん。例えば晴れの日が嫌だったら曇りにしたり......。『絶滅属性ロスト』。かっこいい響きじゃないか」
 単純な裕次郎は泣き止み、なきはらした目でザークを見つめる。
「・・・本当?」
「ああ本当だとも。それじゃあ君、検査結果を書類化するから待合室で待っていてくれ」
「・・・ヒック・・・わかりました」
 そう言うと裕次郎は、鼻をすすりながら部屋から出ていった。 
 ザークは、裕次郎が出ていった扉を見つめながら呟いた。
「『煙属性』か......あの属性は、実際使える者はいるにはいるらしいが、あまりに役立たずな為、誰も使わない。その為に『絶滅属性ロスト』と呼ばれるようになってしまったのだ......


続く。


















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