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1章

水龍発見だぁぁぁぁぁぁ!!

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1.裕次郎は、鼻歌混じりにウキウキで山道を登って行く。昨日と違い木はほとんど生えておらず、山というよりは丘に近い。
「フンフンフン~ランランラン~」
 途中で、水龍ウォーター・ドラゴンがどこにいるか分からないことに気がつき、足を止める。
「どうやら元気が出たようだな。この先にある湖を縄張りにしているはずだ」
 イザベルは、左側を指差した。その先には、大きな湖が広がっている。ここからは、うまく見えないが、岸辺に何かがいるのが見える。
「あそこに見えるのが、水龍ウォーター・ドラゴン?」
 裕次郎は、指差す。
「そうだ。動きは遅いが、口から水を吐き出す。気を付けた方が良いぞ。とりあえず動き回れ」  
 イザベルはそう忠告する。

2.湖の近くまで来た裕次郎は、木の影から様子を伺う。見た目は大きいサンショウウオそのものだ。のぺっとした顔で、小さくつぶらな瞳をしている。よく見ると可愛らしい。体長は七メートルくらいか。
「いいか、まず足を狙って動きを止めろ。弱ってからトドメをさせ。私はここから見守っているぞ。死にそうになったら助けてやる」 
 イザベルが小声で囁く。
「しようがないわね、私もここにいてあげる。裕次郎弱いし、死んだら可愛そうだもの」
 ルイーゼは、めんどくさそうに腰を下ろす。
「私は豆芝ちゃんと下の方で遊んでますね。終わったら教えて下さい」 
 シャルロットは豆芝を抱えると、すごいスピードで山を下っていった。
 見守ってくれててもいいのに・・・俺が死んじゃったらどうするの・・・裕次郎は少し悲しくなったが、あとの二人を信用することにした。よし、頑張ろう!

3.裕次郎は腹這いになりながら水龍ウォーター・ドラゴン近づいていく。十メートルほどまで距離を詰めると、バッグから水銃と雷刀を取り出す。狙いを付け、銃の引き金を引いた。
「キュィーン」
 銃の先端に丸い水の円ができ、少しづつ大きくなってくる。引き金を離すと、
『バン!』
 と音をたて、鋭い水の針が高速で射出された。
「うわっ!」
 思ったより反動が大きく、水龍ウォーター・ドラゴンの遥か上を通り過ぎていく。まだ気づかれてはいないようだ。次は、狙いを定め引き金を引いた後、直ぐに離した。
『パン!』
 さっきより、威力は弱いが反動も弱かった。狙い通りに水の針は真っ直ぐに飛び、突き刺さる。
「ピィィィィ!」
 水龍ウォーター・ドラゴンが、奇妙な叫び声を上げ、辺りを見回す。どうやら裕次郎を見つけたようだ。体に不釣り合いな大きな口を開け、よたよたと近づいてくる。
 思ったより動きが鈍い。これはいける。裕次郎はそう思い立ち上がる。
『ドカァァァァン!』
 いきなり足許が爆発し、裕次郎は吹き飛ばされた。さいわい、怪我はしなかったが状況が理解できない。水龍ウォーター・ドラゴンを見ると大きく開いた口から煙が立ち上っている。
 ・・・もしかしてさっきの爆発はアイツがやったの?ヤバイ。直撃だったら俺死んでた。
 裕次郎は恐怖のあまり走って逃げようとする。
『ドカァァァァン!』
 さっきまで裕次郎がいた場所が爆音と共にえぐり取られた。どうやら超高速の水を吐き出しているようだ。
「助けてぇぇぇ!」
 裕次郎は泣きながら走り回る。水龍ウォーター・ドラゴンも裕次郎の動きに合わせてゆっくりと体を動かす。まるで固定砲台のようだ。
『ドカァァァァン!』
『ドカァァァァン!』
『ドカァァァァン!』
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
 水龍ウォーター・ドラゴンは、無茶苦茶に水を吐き出す。裕次郎も負けじと、叫びながら無茶苦茶に逃げ回る。
 最初は逃げ回っているだけだったが、少しづつコツをつかんできた。どうやら正面にしか水を吐き出せないようだ。動きは鈍いし、走っていれば当たらない。
 裕次郎は時計回りに走りながら近づいていく。
『ヴォォン!』
 雷刀のスイッチを押し刃を出すと、思いっきり水龍ウォーター・ドラゴンの前足に向かって降り下ろす。
「ピキィィィィィ!」
 苦しそうな鳴き声が響き渡る。裕次郎は両手に確かな手応えを感じた。そのまま回り込み、また斬りつける。
「ピィィィィ!」
 どうやら動きが鈍い為に、うまく裕次郎に水を当てられないようだ。これはいける! 裕次郎は相手の周りを、ぐるっと一周するように切り付けていく。しかし裕次郎は油断し、水龍ウォーター・ドラゴンの正面に来てしまった。
『ドカァァァァン!』
 裕次郎は直撃する直前に雷刀でガードしたが防ぎきれず、吹き飛ばされる。何とか意識は保っていたものの、左半身の感覚がない。ルイーゼ達の方を見ると、助けるために木の影から飛び出してきているのが目に入った。
「手を出すな!!!」
 裕次郎は大声を出し、ルイーゼ達の助けを拒否する。
 ここで助けられては、意味がない。何の為にここまで頑張ったと思っている。
 全てはイザベルが『何でも』言うことを訊いてくれるからだ! 絶対、訊いてもらう! 俺、負けない!
 水龍ウォーター・ドラゴンがゆっくりと口を開け、裕次郎を狙う。その直後、爆音が響き渡る。

4.辺りに爆音が響き渡り、水龍ウォーター・ドラゴンの口から煙が立ち上る。すると、水龍ウォーター・ドラゴンの体がゆっくりと傾き始め、大きな音を立てて倒れた。
「良かった・・・何とかうまくいった・・・」
 裕次郎は大きなため息を付いた。昨日、ルイーゼの『斥力球ホワイト・ホール』を見ていなかったら危なかった。あれをヒントに水龍ウォーター・ドラゴンが口を開いた瞬間、火属性爆弾を投げ入れたのだ。
 これてイザベルは俺のいいなりだ。グフフ。
 裕次郎は痛む体を何とか引きずりながら、水龍ウォーター・ドラゴンにトドメをさす為、ゆっくりと近づいていく。
 しかし。
『ザバァ』
「ピィィィィ」
『ザバァ』
「ピィピィ」
 湖から、大量の水龍ウォーター・ドラゴン達が岸に這い上がってきた。直ぐに裕次郎に気が付き、口を開ける。
 ・・・嘘やん。ここまで来て、ダメなの? 俺、頑張ったのに・・・でも 無理。このままじゃ絶対死ぬ。
 裕次郎は、大声で叫ぶ。
「助けて!! 死んじゃう!!」
 イザベルとルイーゼが木の影から飛び出してきた。

5.クエストが終わり、裕次郎達は裏庭ガーデンの入り口までやって来た。
「しかし、裕次郎があんなに頑張るとは思わなかったぞ!」
 イザベルが、感心したように裕次郎を見る。
「・・・・・・」
 裕次郎は遠くを見つめていた。凄いチャンスを逃してしまったと、後悔でいっぱいだった。
「裕次郎、なにボーッとしているの? まさかイザベルに、変なお願するつもりだったの? サイテー」 
 ルイーゼが、にやにやしながら聞いてきた。こいつ、絶対わかって聞いてる。
「そうなのか?」
 イザベルが、裕次郎から離れながら顔をしかめる。
「最低です・・・そう思いますよね?豆芝ちゃん・・・」
 シャルロットがごみを見る目で裕次郎を見る。
「わん・・・」
 豆芝も、何となくバカにした目で見てくる・・・ような気がする。
 何で? 願いも訊いてもらえないのに、俺さげすまれてるの? おかしくない?
「違うよ! そんなことない!」
 裕次郎は必死にごまかす。
「じゃあ、何をお願いしようとしてたのよ?」
 ルイーゼが、にやにやしながらまた聞いてくる。
「それは・・・なに美味しいもの食べたいなとか、そんな感じ・・・」
 裕次郎は苦し紛れにそう答えた。
「そうか。なら今日帰りに、何か食べに行く事にしよう」
 イザベルが、なんだ、そんな事か、と言いたげに裕次郎を見る。
「ほえ?」
 意味が分からない裕次郎は変な声を出す。
 あれ? 俺クエスト失敗したよね? 何で?
「どうした?裕次郎はよく頑張ったと思うからな。願い事は訊いてやるつもりだったのだ」
 イザベルが腰に手を当てながらそう言った。
 ・・・マジか・・・ちくしょう・・・俺の人生で、一度あるかないかのチャンスを棒に振るってしまった・・・
 裕次郎はがっくりとうなだれる。
「ププ・・・良かったじゃない、お願い訊いてもらえて」
 ルイーゼが、笑いをこらえながら裕次郎の肩をバシバシ叩く。痛い。
・・・もういいや。美味しいもの食べて、寝よう。裕次郎は諦めた。
「わかった。ありがとうイザベル」
「ああ。いくらでも食べて良いぞ。ルイーゼ、シャルロット、お前たちも来るだろう?」
 イザベルがルイーゼ達を見ながらそう言った。
「そうね。今日は特に予定もないし、良いわよ」
 ルイーゼはやっと笑いが収まったようだ。だいぶ疲れている。
「私も行きたいです。豆芝ちゃんも行きたいみたいです」
 シャルロットは、豆芝を抱きかかえる。
「そうか。なら、全員で行くとするか」
 イザベルが、笑いながらそう言った。


続く。



















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