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1章

夢魔召喚だぁぁぁぁぁぁぁ!

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1.「裕次郎、いつまで寝ているんだ!」
 イザベルが裕次郎の体を乱暴に揺する。
「うん・・・なんか、熱っぽくて具合悪い。あと喉もいたい。今日は学校休む・・・」
 裕次郎はそう言いながら、わざとらしく咳をする。
「具合悪いだけで、学校行かないのか?」
 イザベルが、不思議そうな顔をする。
「うん・・・今日学校行ったら俺はきっと、死んじゃうかもしれない」
 裕次郎は精一杯『キツいですよアピール』をした。
「そうなのか? なら私は学校に行ぞ。しっかり休むといい」
 イザベルは、少し疑いながらも豆芝を抱えると学校へ向かった。
 裕次郎は、鎧の音がしなくなるまでベッドで息を潜める。
 よし! 音がしなくなった!
 裕次郎は、すぐにベッドから飛び起きる。もちろん病気は嘘、強いて言えば『仮病』だ。
 早速、夢魔サキュバスを召喚することにした。イザベルは学校に行った。お楽しみの時間はたっぷりとある。
「ぐへへ・・・顕現せよ! 夢魔サキュバス!」
 裕次郎は急ぐあまり、家のなかで召喚してしまった。そのせいで、部屋にもうもうと煙が立ち込める。なにも見えない。
「げほげほ!」
 裕次郎は咳き込みながらも、煙を外へ出そうと窓を開けた。煙はみるみるうちに外へ流れ、視界が晴れる。
「・・・・・・」
 裕次郎の目の前には、少女・・・というには早すぎる幼女がそこにいた。
 もしかしてこれは、最悪のパターンではないだろうか? 薄々こうなる予感はしてなくも無かったんだよなぁ。
「君は誰かな? 種族は?」
 裕次郎は幼女に質問した。 
「わたし、さきゅばす!」 
 幼女は、手を挙げながら、元気よく答える。
 あああああ!! やらかした・・・俺の守備範囲は中学生から20代まで・・・しかし、裕次郎は希望を捨てなかった。
「もしかして、お姉さんに変身できる? できるよね? できるって言って!」
 裕次郎は必死に幼女に詰め寄り、肩をつかむ。
「うわぁぁぁん!」
 いきなり幼女が泣き出した。ものすごくうるさい。裕次郎は慌てて泣き止ませようとする。
「待って! なにもしないから! 泣き止んで!」
 裕次郎は幼女から離れながら、必死になだめる。
「・・・ほんとに? いたいことしない?」
 涙を袖で拭きながら上目使いで裕次郎を見てくる。
 ・・・あ、いいな。ちっこくて、結構かわいい。
 ん? かわいい?
 裕次郎は、自分の守備範囲は実はもっと広いんじゃないかな? と一瞬考えるが、すぐに思い直す。
 いや、流石に駄目でしょ。幼女に発情なんて、モテたい以前に人としてアウトだろう。俺、モテないあまり、少しおかしくなっているかもしれない。
「大丈夫! 痛いことしないから! それで、君は何ができるのかな?」
 裕次郎は幼女に質問する。
  一応悪魔だし、特殊能力とかあるかも。
「あさ、ひとりでおきれる!」
 幼女は腰に手を当て、偉そうにふんぞり返る。今にも倒れそう。
「・・・他には?」 
「んー、ひとりでふくきれるよ!」
 幼女はふふん! と偉そうだ。
「そうなんだ・・・凄いね・・・」
 裕次郎はガックリと項垂れながらそう言った。
「うん! さきちゃん、すごいんだよ!」
 幼女はキャッキャと笑いながら、その場に座る。
「さきちゃん? 君の名前かな?」
「うん!」
「お父さんと、お母さんは?」
「じごくにいる!」
 ・・・そりゃそうだ。悪魔だもん。
 裕次郎は、幼女改め、サキに質問する。
「サキちゃん? お父さんと、お母さん心配してるかもよ? 帰った方がいいんじゃない?」
 裕次郎はそれとなく『帰ってくれ』オーラを出す。しかし通用しなかった。
「かえりかたしらない!」 
 裕次郎は慌てる。
 ・・・これはヤバイ、どうしよう。イザベルになんて言い訳すればいいんだろう。「子供ができた!」とでも言うか? 俺まだ結婚どころが、彼女もいないよ・・・子持ち童貞になっちゃう・・・
「それじゃあ、どうするの?」
 裕次郎は、サキに尋ねる。
「ここにいる! だってよびだされたもん!」
 サキは寝転がりながらそう言った。すると、すぐに寝息を立て初める。
「スースー・・・」
 裕次郎はサキの寝顔を見ながら、『マジでどうしよう』と考えていた。

2.裕次郎は、びくびくしながら、イザベルが帰ってくるのを待っていた。
 ・・・どうしよう。なんて言い訳しよう・・・
 すると、鎧の音が聞こえてくる。その音はどんどん大きくなり、玄関の扉の前で『ピタリ』と止まる。
 『ギィィ』と扉が開く音が聞こえてきた。
「今帰ったぞ! 裕次郎、病気は治ったか?」
 イザベルが扉を開きながら、こちらを見る。
「ごめんなさい! 子供が来ちゃった!」
 裕次郎は土下座しながら、謝る。
「ん? 子供ができたのか。それはめでたいな! 私と裕次郎の子供か?」
 イザベルは、そう言いながら辺りを見回す。サキを探しているようだ。
 ん? なんでめでたいんだ? それに『私』との子供? 何をいっているんだイザベルは。
「なんで俺とイザベルの子供なの?」
 裕次郎は全く状況が理解できない。
「なんでと言われてもな・・・私と裕次郎はしばらく一緒にいただろう?」
「うん」
「男と女が一緒にいると、子供が現れるのは当たり前だろう?」
「・・・え? それどこ情報?」 
「私の父上がそうおっしゃっていた。これから子育て頑張ろうな」
 イザベルはにっこりと微笑みかけてきた。
 ・・・いや、それ絶対嘘やん。やることやらないと子供は出来ないだろ。なんなら教えてやろうか?まあ俺も知らないけど!童貞だし!
 裕次郎はそう思いイザベルに真実を伝えようとするが、もしかしてと、思いとどまる。
 まさかこの世界では、イザベルが言っている事が正しいんじゃないか? 本当に男と女が一緒にいるだけで子供がやって来る。魔法がある時点で、俺の常識は通用しないんだ。もしかして、サキがここに来ることは決まっていたんじゃないか? 俺のせいじゃなくて!
 考えたあげく、裕次郎は一つの決断をした。
「イザベル!」
「なんだ?」
 イザベルは、サキをベッドへ連れていっている途中だった。
「子育て頑張りましょうね!」
 裕次郎はサキを見ながら、そう言った。
「そうだな! 頑張ろう!  そういえば昔、私はルイーゼと賭けをしていたな。懐かしい」
 イザベルが思い出したようにそう言った。
「賭け?」
「ああ。昔の話だが、ルイーゼは男と女が一緒にいるだけじゃ子供は出来ないと言い張っていたのだ。まあ今回の事で私が正しいことが証明されだがな」
 イザベルは、サキをベッドへ寝かせ、毛布をかけながらそう言った。







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