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2章

新事実???????

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1.裕次郎達はマリアに呼ばれ、お屋敷の前に来ていた。何回も通っているせいか、愛着すら湧いてきている気がする。
「それでは入るとするか」
 イザベルがサキの手を引きながら門をくぐる。裕次郎も後ろからついていく。首にはベルの尻尾が巻き付いている。雰囲気に怯えているのか、いつもより巻きがきつめだ。
「ちょっと苦しい・・・」
 裕次郎は巻き付いている尻尾を軽く叩く。
「ウジ!」
 苦しそうな顔を見ると慌てたように緩めてきた。
「パパ~早く~」
 お屋敷の扉を開け、中に入ろうとしているサキが見えた。

2.「何回も呼び立てて、ごめんなさいね」
 椅子に座っているマリアが、申し訳無さそうな顔をする。
 裕次郎は、前に会った時とマリアの様子が違う気がした。あの時のような自信に満ち溢れていた雰囲気が無い。嫌な予感が頭をかすめる。
「大丈夫です。それより何があったんですか?」
 裕次郎は呼ばれた理由が気になり、詰め寄るように尋ねる。
「実は、裕次郎さんの事が悪い魔法使いにばれちゃいました」
 マリアは少し気まずそうに目を逸らした。
「・・・マジですか?」
 裕次郎は認めたくないあまり、聞こえていたにも関わらず聞き直してしまう。
「......マジです」
 マリアは裕次郎の目を見ないまま、呟くように答えた。
「・・・・・・」
 なんで? なんで俺の事ばれたの? 魔術使わなかったらバレないっていってたやん! 絶対魔法使いに勝てるわけないやん! もう誘拐されて、監禁されて、実験されて、拷問されて、殺されるやん!
 俺の人生ばっどえんどやん!!
「マリアさん!! なんでバレちゃったの!!」
 裕次郎は慌てふためきながら、マリアに聞いてみた。
「......理由を聞いても落ち着いていてくださいね?」
 マリアはそう前置きをして話始めた。
「実はごく一部の信頼できる仲間に、裕次郎さんのことを話したんです。そしたらその中に裏切り者が紛れ込んでいて......」
 終盤のマリアの声は、聞こえないぐらい小さな声になっていた。
「・・・マリアさんのせいなの?」
 裕次郎はポツリとそう呟いた。
「本当にごめんなさい......裏切り者がいるなんて思ってなかったのよ......」
 マリアが、可愛そうなぐらいがっくりと肩を落とした。
「俺、この後悪い奴に捕まっちゃうの?」
 裕次郎は泣きそうになりながら、口をへの時に曲げて尋ねる。
「それは大丈夫です! 十二使徒のヤコに、貴方の警護兼稽古をしてもらおうと思っています! それとイザベル!」
 マリアはいきなりイザベルを見る。
「は、はい! なんですか母上!」
 静かに話を聞いていたイザベルは、いきなり名前を呼ばれ慌てたように返事をする。
「いいですか、イザベルも裕次郎さんを守るんですよ!」
「わかりました母上!」 
 イザベルはいきなり椅子から立ち上がり返事をした。
 それを見ながら、裕次郎はイザベルが家で興奮すると、急に立ち上がる事を思い出していた。  
「それでヤコさん? はどこにいるんです?」 
 裕次郎はイザベルから視線をはずし周りを見るが、それらしい人物は見当たらない。
「もうすぐ来ると思うんですけど......」
 マリアが慌てたように扉の方を見る。裕次郎もつられて視線を動かすと、凄い勢いで扉が開いた。
「慌てて! 跳び出て! ヤコちゃん登場ニャァァァァ!」
 そこには扉をぶち開けた猫耳少女が立っていた。

3.「・・・・・・」
 裕次郎は、いきなり奇声を上げながら入ってきた猫耳少女を観察する。青いワンピースを着ていて、身長は裕次郎の肩ぐらいまでしかない。髪は短めで、二つの猫耳が生えている。印象コイメ、ウザさマシマシといったところか。
「・・・・・・」
 イザベルも扉を見ながら固まっている。
 多分、自分よりブッとんだ奴は始めて見たのだろう。裕次郎は勝手にそう解釈した。
「......ヤコさん。こちらに来て自己紹介して下さい」
 マリアが椅子を指差す。
「わかったニャ!」
 そう言うと突然跳び上がり、椅子の上に着地するとそのまま自己紹介を始めた。
「十二使徒が一人、ヤコちゃんニャ! よろしくニャ!」
 自己紹介を聞きながら裕次郎は危機感を募らせていた。
 多分、この人がマリアさんのいってた警護してくれる人だ。つまり俺は今後、猫耳の生えた語尾にニャアニャア付けるヤベェ奴と一緒にいることになるのか。うん。いやだ。
 裕次郎は、それとなく断ろうと口を開こうとするが、
「お前が裕次郎だニャ!?」
 といきなり椅子から跳び上がり、裕次郎の目の前に音もなく着地する。 
「インフィニティ~イリュージョ~ンニャ~!」
 突然ヤコが叫びながら、なにかを取りだし高く掲げた。するとまばゆい光が裕次郎を包み込んだ後、裕次郎は暗闇に吸い込まれた。

4.裕次郎がはっと目を開けると、白い天井が目に入った。起き上がると、隣にはベルが『ボテッ』と寝転がっている。
「ベル! 大丈夫?」
 裕次郎は声をかけながら体をさする。
「・・・ウジ!」
 意識を取り戻したベルは素早く肩に這い上がってきた。
「目が覚めたニャ?」
 いきなり後ろから『ニャ?』と声をかけられて、若干イラッとしながらも、振り返る。
「マリアから修行を頼まれたニャ! ここで頑張るニャ!」
 ヤコは当然のようにそう言うと腰に手を当てる。
 裕次郎は、状況を全く理解できない。疑問が募るばかりだ。
 何が起きたの? ここどこ? マリアさんはどこ? イザベルはどこ? サキはどこ? なんで語尾にニャ付けるの?
「日本刀ニャ~!」
 ヤコが刀を取り出し、裕次郎に向かって投げてきた。裕次郎はなにも考えずに刀を受け取った。
「アサルト~ライフルニャ~!」
『ニャ~!』とまた聞こえた裕次郎は、ヤコの方を見た。すると何故か銃のような物を持っている。すぐに銃口をこちらに向けてきた。
 ・・・え? あれライフル? この世界ライフルとかあったっけ? なんで? ていうか俺死んじゃう?
「パーン! パーン! パーン!」
 乾いた音が響き渡ったが、既に裕次郎の耳には聞こえていなかった。

 続く。




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