上 下
31 / 91
2章

エンドレス?????

しおりを挟む
1.裕次郎は閉じていた目をゆっくりと開けた。目の前には白い天井が広がっている。はるか彼方に見える壁らしき物も、先程見た時と全く同じだ。
「・・・・・・」
 霞がかかったように、頭がボーッとしながらも、体を起こした。
「二回戦ニャよ!」
 体を起こした視線の先には、ヤコがライフルを担いで仁王立ちしている。一気に記憶が戻り、脳天をぶち抜かれた事を思い出した。
 慌てて頭へ手をやるが、痛みもなければ傷ひとつない。脇には先程渡された日本刀が転がっている。
「どういう事ですか!説明してください!」
 全く状況が理解できない上に、いきなり銃をぶっぱなされた裕次郎は、怒鳴りながらヤコを指差す。
「裕次郎はバカニャね~。しょうがないニャ。説明してやるニャ!」
 ヤコはそう言いながら、銃口を向けてきた。
「これはゲームニャ! 裕次郎がヤコちゃんに触ったらクリアニャ! 終わるまで、終わらニャいニャよ!」
 ヤコはそう言った後、嬉そうにニャアニャア笑い始めた。裕次郎はイラッとしながらも納得がいかず、さらに尋ねようとする。
「意味わかんないし!  それに俺さっき死んだ・・・」
『パーン!』
 一発の銃声が響き、裕次郎の体が吹っ飛ぶ。胸に鋭い痛みを感じ、思わず手をやろうとするが、体が痺れたように動かない。地面に倒れているせいか、どんどん寒くなっていく。
「二回戦、ゲームオーバーニャ!」
 ヤコの明るい声を聞きながら、裕次郎は意識を失った。

2.裕次郎はため息をつきながら目を開ける。見慣れた白い天井が、裕次郎を現実に引き戻す。
「三百二十四回戦ニャよ!」
 ヤコの元気な声を聞きながら、ここに来てどのくらい時間がたったのか考える。
 しかし、一年たったような気もするし、一日の気もする。時間の感覚が完璧に狂っていた。
 裕次郎は、もう闘う気力を失っていた。もう何回も、何回も、何回も殺され続けている。魔術を使おうとしても、煙煙スモーキー・スモークを発動した時点で蜂の巣にされてしまった。無理だ。もういい。好きにしてくれ。
 全てを諦め、ゆっくりと目を閉じる。
『パーン!』
 一発の銃弾が裕次郎の命を奪った。

3.裕次郎は意識を取り戻した瞬間、落ちている日本刀を拾い、ヤコを中心にして、ぐるりと回り込むように全力で走る。
「二千五百八回戦ニャよ!」
 相変わらず元気なヤコが声を張り上げる。
 一時は諦めた裕次郎だったが、永遠にこのまま殺され続けるのは我慢ならなかった。
『パーン! パーン!』
 ヤコがライフルを撃ってくるが、疾走している裕次郎には当たらない。
 銃口に全神経を集中させ、着弾予測地点を正確に割り出す。
 しかし、ヤコはスピードに慣れてきたのか、少しずつ着弾点が正確になっていく。
 裕次郎は素早くターンし、ジグザグに走りながら距離を詰めていく。
 しかし、スピードがゼロになる、ターンの瞬間を狙われた。
 銃口が真っ直ぐに裕次郎の額を狙う。ダメだ。このままじゃ殺られる。
 銃弾が放たれる一瞬前に、弾丸が通過するであろう線上に日本刀を添えた。
「バキィン!」
 刹那せつな、日本刀が、ヤコの放った銃弾を真っ二つに割る。裕次郎のこめかみすれすれに、分割された銃弾がかすめていった。
 しかし、銃弾を斬った事実に、ほんの少しの油断と慢心を生む。結果、裕次郎の集中力が途切れた。
「パーン! パーン! パーン! パーン!」
 ヤコは容赦なく裕次郎の体に銃弾を撃ち込んでいく。
「二千五百八回戦も、ゲームオーバーニャ!」
 ヤコの声を聞きながら、体を支えるだけの力を失った裕次郎は倒れこんだ。

4.裕次郎は目をつぶり、精神を落ち着かせていた。これまでの闘いではすべて負けている。ヤコに近づく事はできても、どうしても触る事が出来ない。あと一歩、何かが足りない。そう考えていたとき、突然ある考えが頭に浮かんだ。
 もしかしたらいけるかもしれない。
「四千八百五十一回戦ニャ!」
 ヤコが開始を宣言すると同時に日本刀を構え、最短距離で突っ込んでいく。
『パーン! パーン! パーン! パーン!』
 ヤコが銃を撃ってきた。これまでの戦闘で体得した銃弾予測と銃口の向きを合算し、四発全てを斬り落とした。
 裕次郎はそのまま突っ込んでいく。思った通り、体が軽いヤコは連射は出来ない。四、五発が限界のようだ。
 残り五メートルまで迫ったが、ヤコがピタリと銃口を向け、引き金を引こうとする。
 しかし、裕次郎は慌てずに刀をヤコめがけて投げつけた。瞬間、わずかに銃口がぶれ、発射された弾丸は裕次郎の耳をかすめる。
 あと一メートル、しかしここで銃口がピタリと裕次郎の額を狙う。
「惜しかったニャ」
 ヤコはそう言うと引き金を引いた。
「パーン!」
 銃弾は裕次郎の額めがけて真っ直ぐに飛んでくる。
 しかし、裕次郎は左右の腕で、額を隠していた。狙う場所がわかっていれば、隠すのは容易い。
 銃弾は裕次郎の左右の腕を破壊しながら貫通した。しかし、勢いが殺された分、即死は免れた。意識朦朧としながらも、倒れ込むようにヤコに覆い被さる。
「・・・四千八百五十一回目でクリアニャァァァァ!」
 ヤコが、裕次郎に押し倒されながら叫んだ。
 すると周りが暗くなり、床が消えた。
 裕次郎はまっ逆さまに落ちていき、気を失った。

5.裕次郎は意識を取り戻し、周りを見渡す。どうやらここはお屋敷のようだ。目の前にはヤコが、その奥にはマリアが座っている。横にはイザベルとサキが、肩にはベルが乗っている。何故か、時間はほとんど進んでいないようだ。
「? ? ?」
 裕次郎は状況が全く理解できずに首をかしげる。
「大丈夫かニャ? 気が狂ったかニャ?」
 ヤコが、ニヤニヤしながら、裕次郎と同じように首をかしげてきた。
「・・・説明してくださいよ」
 裕次郎はヤコを思いっきり睨み付ける。ヤコをどんな目に合わせてやろうかと考えていた。
 なにせ俺は、こいつに五千回近く殺されたんだ。それなりのご褒美が必要だろう。
「さっきのはインフィニティ・イリュージョンニャ。簡単に説明すると、超リアルな幻術ニャ。でもヤコちゃんは発動後は干渉出来ないのニャ。裕次郎は、自分の記憶から生まれる敵と闘ったのニャ。」
 ヤコは自慢げに魔法を説明した。裕次郎はそれを聞き、幾つかの疑問が解消する。いつの間にかベルがいなくなった事、殺されても生き返った事、アサルトライフルがあった事。たしかあの銃はAK47だ。前の世界ではモデルガンも持っていた。
 しかし、裕次郎は魔法をかけられた理由がわからず、詰め寄る。
「・・・なんでそんなことをしたの!」
「短時間で、手っ取り早く強くなれるからニャ! たぶん結構強くなってると思うニャよ? 結構死んだニャ?」
「五千回ぐらい・・・」
 裕次郎がそう言うと、今までへらへらしていたヤコが急に真面目な表情をする。
「え? それは本当かニャ?」
「うん。確か四千八百回位だった気がする」
 それを聞いたヤコは、猫耳をペタンと寝かせ、一転、小さく震えた声で話始めた。
「・・・インフィニティ・イリュージョンは最近習得した拷問用の魔法ニャ・・・今回は実験も兼ねて、敵に触るだけで簡単に出てこられるようにしたんだけどニャ・・・せいぜい二、三回位だと思ってャ・・・」
「・・・え?」
 拷問用?なにそれ聞いてない。それやばくない?
「ちょっと。それ本当に大丈夫なんですか? ヤコさん」
 マリアは、裕次郎へ心配そうな表情を向けた後、ヤコを睨み付けながら詰問した。
「正直・・・大丈夫な方が、大丈夫じゃない気がするニャ・・・裕次郎、本当に大丈夫かニャ? インフィニティ・イリュージョン中に、百回死ぬと精神崩壊、千回死ぬと自我が消失すると言われてるニャ・・・ごめんニャ・・・」
 ヤコはモジモジしつつ謝ってくる。裕次郎は唖然とする。 
 なに? じゃあ俺は五回も自我失うほどの拷問にあってたの? 酷くない? っていうか俺凄くない? 鋼メンタルやん。
「なに! 本当に大丈夫なのか? 裕次郎?」
 黙って話を聞いていたイザベルが、心配した表情で見つめてくる。
「うん。多分・・・」
 裕次郎は、今のところ特に異常がない事を確認する。
 大丈夫。自分の名前も覚えてるし、異世界転生してきた理由も覚えてる。モテモテになって、ハーレム作る為だ!
「ごめんニャ、裕次郎。お詫びに、ヤコちゃんにできることがあれば、なんでもするニャ・・・」
 ヤコは体を小さくしながら、謝ってくる。
「別にいい・・・・・・いや! 良くない!」
 裕次郎は、チャンスを決して見逃さない男だ。今、確かに『なんでもする』って言った。『なんでもする』だって!
 キター!!! キタコレー!!!! 二度と起こり得ないと思っていた、『なんでもする』発言いただきました!
 猫耳生えてるし、語尾に『ニャ』がついてるけど、ヤコちゃん美少女だし! いや、この状況だと、猫耳、語尾に『ニャ』はむしろプラス要素ではないか? どうしよう。よっぽど今の方が、理性という名の精神が崩壊しそうだよ!
「じゃあ、今日の夜までに考えておくね。今夜はよろしくね」 
 裕次郎はにやけ顔を必死に手で隠しながら、ヤコを見る。
「わかったニャ!」
 少し元気になったヤコは、にこりと笑い、猫耳を立てた。


続く。
しおりを挟む

処理中です...