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3章

頑張るぞ

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1.次の日、裕次郎はザークに会う為朝早く登校していた。
 医療病棟の扉を開け、片っ端から部屋のドアを開けていった。正直、少しだけ偶発的破廉恥行為ラッキー・スケベを期待してないこともなかった。朝早いし、着替え中かもしれないし。可能性はあるし。
 淡い期待を持ちながら、裕次郎は一番奥のドアを勢いよく開けた。
「・・・・・・」
 中には機械以外誰もいなかった。他の部屋は全部調べたし、ザーク先生はまだ来ていないのかな?
 裕次郎は部屋を出ようとした瞬間、突然肩に手を置かれた。ビックリして勢い良く振り返る。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
 裕次郎は思わず女の子のような声を上げてしまった。なんとそこには幽霊・・・・・・のようにやつれたザークが立っていた。
「大声を出さないでくれ。寝不足で頭が痛いんだ」
 ザークは崩れ落ちるように椅子に座った。
「それで、なぜこんなに早く登校してきたんだ?」
 裕次郎はそう聞かれ、何のためにここに来たかを思い出した。
 そう。俺は今日の対人戦闘で絶対に勝たなければいけない。その為にはザーク先生の力が必要なんだ。
「次の対人戦闘で、俺の相手を女の子にしないで下さい!」
 裕次郎は頭を下げながら頼んだ。
「は?」
 ザークは、意味が分からないのか、首をかしげたまま目を閉じてしまった。裕次郎は詳しく説明することにした。
「実は俺、女の子相手じゃうまく戦えないんです。でも、今日はなんとしても絶対勝たなきゃいけないんです! お願いします!」
「............」
 ザークは目を閉じたまま、何も言ってくれない。しかし、裕次郎は諦めきれなかった
「ザーク先生! お願いします!」
「............うん?」
 ザークはビクリと体を震わせた後、目を擦りながらあくびをした。
「本当にいいんですか! ありがとうございます!」
 裕次郎はザークの手を握り、ブンブンと握手をした。そして、元気いっぱい部屋を飛び出していく。
 一人残されたザークは首を傾げ、大きくあくびをした。

2.裕次郎はルンルンで廊下を歩いていた。それもそのはず、今日の対人戦闘で勝てば、ルイーゼとデートできるのだ。
「フンフンフン~ランランラン~」
 スキップしながら裕次郎は誰もいない廊下を進んでいく。曲がり角をくるっと曲がった次の瞬間、裕次郎は誰かにぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!」
 裕次郎は謝りながら、倒れた相手を起こそうとした。
「てめえ! 俺様に喧嘩売ってんのか! 殺すぞ!」
 相手からいきなり怒鳴られ、ビクつく裕次郎。恐る恐る視線を下げると・・・
 目の前には、ぶちギレたアジオがこちらを睨んでいた。
「・・・・・・」
 裕次郎は無言で立ち去ろうとする。君子危うきに近寄らず。三十六計逃げるにしかず。逃げることは恥じゃない。
「待てよ!」
 いきなり肩を掴まれ、床に倒されてしまった。
「な、何するんだよ!」
 裕次郎はビビりまくりながらも、アジオを睨みつけた。
「何だ? その目は?」
 裕次郎は必死で考えていた。この状況を切り抜ける最善の策は無いのか・・・そうだ!
「イザベル! 助けて!」
 裕次郎が手を振りながら叫ぶと、アジオは驚いたように振り返った。その隙に全力で走り出した。
「騙しやがったな! 待てコラ!」
 後ろからアジオの怒鳴り声が聞こえてきたが、裕次郎はその声を無視し、全力で逃げ出した。


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