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3章

半分悪魔

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1.裕次郎は、ヤコから衝撃の真実を告げられた。
 どうやら、完全な悪魔になったら自我が消失してしまうらしい。そして、完全な悪魔になる最後の手順が
『悪魔を取り込み、処女を捧げる』
 事らしい。
「処女を捧げるって、具体的には何をすればいいの?」
 嫌な予感が裕次郎の頭の中に浮かんでいた。
「そ、それはニャァ・・・」
 ヤコは顔を赤くしながら耳を折り曲げる。その様子を見た裕次郎は確信した。
「・・・つまり、『ヤっちゃう』て事?」
 恐る恐る聞いてみる。間違いであってくれ。すがるようにヤコを見つめた。
「ニャア・・・」
 ヤコは真っ赤な顔を上下に振った。
 その瞬間、裕次郎は絶望し、項垂れた。
 つまりだ。俺はもう処女とエッチな事出来ないって訳だ。初めては初めてとしたかったな・・・
 裕次郎は、そこまで考えた所で、さらに恐ろしい真実に気がついてしまった。
 それは、
 処女か、そうじゃないかってどうやったら分かるんだろうか。やっぱり聞いてみないと分からないよね? 俺、聞いちゃうの?
『君、やっぱり処女なの? デュフフ・・・』
 って。
 それはあまりにも気持ち悪くないかな? やっぱりドン引きされるよなぁ・・・
 しかも問題はそれだけじゃ無い。
 もし仮に、変態覚悟で聞いてみたとしよう。でも、もし嘘つかれたら? ヤった瞬間、俺悪魔になっちゃうじゃん。速攻で俺の自我イッちゃうじゃん。
「最悪じゃん・・・」
 裕次郎がそう呟くと、ヤコが慰めるように肩に手を置いてきた。
「ま、まあ、悪魔憑きは凄いレアニャよ? さすが裕次郎ニャね」
「うん・・・ありがとう・・・」
 裕次郎はお礼を言うも、複雑な心境だった。その時、ドアが勢いよく開いた。

2.「裕次郎! 大丈夫だったか!」
 勢いよくイザベルが入ってくる。その隣にいたサキが、心配そうな顔をこちらに向けていた。
「うん。特に問題は無かったかな」
 裕次郎がそう言うと、イザベルはほっとしたようにため息をついた。
「私も少し熱くなってしまったからな。すまなかった」
 イザベルは申し訳なさそうに深々と頭を下げてきた。
「だ、大丈夫だよ! ほんとに!」
 謝っているイザベルに、慌ててそう言った。すごく反省してるみたいだ。
「でもママすごかった! パパはんぶんこされたね!」
 サキがにこにことイザベルを見上げている。イザベルはその無邪気な笑顔を気まずそうに見つめていた。
「半分? 何が?」
 裕次郎が尋ねると、黙っているイザベルの代わりに、後ろに立っていたルイーゼが答え始めた。
「イザベルが倒れた裕次郎に向かって斬撃を放ったのよ。ちょうどお腹から半分になってたわよ。死ななくて良かったわね」
 裕次郎は、視線をそらしているイザベルを見つめた。
「・・・ちょっと熱くなり過ぎてしまったな」
 イザベルは、それだけポツリと呟いた。
 裕次郎は言葉を失った。
 胴体斬られるのが『ちょっと』なのか? 俺、殺半分こにされたんだよね? やっぱりイザベルってヤバイ奴なんだなぁ・・・
「・・・まあいいですよ」
 裕次郎は文句を言ってやろうかと思ったが、イザベルは美人だし、特別に許すことにした。
「そうか! ありがとう!」
 イザベルは嬉しそうに微笑んだ後、裕次郎の手を握ってきた。

3.「じゃあ、私たちは先に帰っているぞ。今日は一日ゆっくりと休むといい」
 そう言うと、イザベルはサキを連れて帰っていった。ヤコも、
「じゃあニャ~」
 と、嫌がるベルの尻尾を掴み、帰っていった。
「・・・じゃあ、私も帰るわね」
 ルイーゼもそういって帰ろうとした。
「ちょっと待って!」
 裕次郎は引き留める。どうしても聞きたいことがあったのだ。ルイーゼは「何よ」と振り返った。
「で、デートは無しになったの?」
 裕次郎が聞いてみると、ルイーゼは顔を赤くしながら、指にくるくると髪を巻き付け始めた。
「ゆ、裕次郎負けちゃったじゃない。ダメよ」
 ルイーゼがそう言った瞬間、裕次郎はベッドの上で土下座した。
「もう一回! もう一回だけチャンスちょうだい!」
「い、嫌よ!」
「一回だけだから! そしたら諦めるから!」
 必死に頼む裕次郎に圧されたのか、ルイーゼは渋々うなずいた。
「分かったわよ! ほんとにあと一回だけだからね!」
 ルイーゼはそう言うと、逃げるように部屋を出ていった。
 裕次郎は土下座したまま考える。
 明日は絶対負けられない。ありとあらゆる方法でなんとしても勝たなければ。
 裕次郎はしっかりと心に誓った。

 続く。







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