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二章 明弘くんの覚醒
『四人目』捜査
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午前07時30分。ある交番に警察署から電話が入った。交番勤務の滝巡査は眠い目を擦りながら自転車をこいで現場に向かっていた
「ガードレールが壊れていると通報があった場所はここか。確かに壊れてるな」
滝巡査は下を確認するため崖から落ちないように身をのりだすが、朝日のせいで海面が反射し、うまく見えない。
「う~ん良く見えないなぁ」
そのとき太陽に雲がかかった。海面の下に静かに眠る車を発見した滝巡査はすぐに連絡した。
「こちら滝巡査です! 確認に向かった崖の下の海に車が沈んでいます! 至急応援を!」
そのとき滝巡査は気づいていなかった。中に水死体が入っていることを......
捜査一課に連絡が入った。事件か事故かはまだ不明だが、死体が上がったらしい。とりあえず現場に向かう。
石田警部はもうすぐ50才を迎えるベテランの刑事だ。頭のてっぺんは薄くなり、最近は腹も出てきた。妻には刑事の貫禄が出てきたと茶化される。
「茂野! 現場に向かうぞ! 準備しろ!」
「ははははい!すぐ行きます!」
茂野刑事はバタバタしながら準備している。石田警部が今指導中の刑事だ。素質はあるようだが、いつも自信が無さそうでやる気もあまり感じられない。まあこれから鍛えていけばいい。
急いでパトカーに乗り込むと、現場に向かう途中で茂野に出動内容を説明する。
「今回はまだ事故か事件かわからん。ガードレールにぶつかって車が海に落ちていたが車の引き上げはもう終わってるそうだ」
「はあ。わかりました」
なんとも気が抜けた返事だ。これがゆとり教育の成果なのだろうか。石田警部はため息をついた。
現場に到着すると鑑識が作業を進めていた。石田警部が状況を訪ねると予想外の答えが帰ってきた。
「恐らく自殺だと思います。アクセルを踏みこみながらガードレールに直撃、ブレーキ跡もハンドルを切った跡もありません。」
「なぜそれだけで決めつける? 居眠り運転かもしれないじゃないか」
「実は最近行方不明になっていた女児が車の中から発見されています。しかも性的暴行を受け、頭を殴り殺されています。それに何より地面の状態から見て明らかに加速しているんです。」
女児を誘拐後暴行。勢い余って殺害。その後ここからアクセルを踏み海に向かって加速、自殺。確かに理にかなってはいるか......石田警部はそう考えていたが鑑識が言いたかったのはそれだけではなかった。
「しかし、自殺にしては気になるところもいくつかあります。」
そう言うと車のところまで刑事達を案内し、説明を始めた。
「まずここを見てください。アクセルペダルのバネが外れているんです。これではアクセルペダルのバネ力が弱くなり、アクセルワイヤの張力だけになります。」
石田警部は車にはあまり詳しくなかったので手帳に書き込みながら尋ねた
「それは衝撃で外れたりする可能性はあるのか?」
「このタイプの車はバネでペダルを吊るしているだけなので外れる可能性はゼロではありませんが......」
鑑識は言葉を濁した。やはり決定的ではないにしろ不自然ではあるということか。
「実はまだ不自然な点があるんです。車の中にあった電球と何かの蓋、それにハンドルに指紋がついていないんです。恐らく拭き取られています」
電球と蓋は犯罪を犯した直後に拭き取った可能性もあるが、ハンドルはガードレールに突っ込んだときに握っていたはずだ。まさか手放しで乗っていたわけもあるまい。石田警部は
「運転していた男性は手袋をしていたのか?」
と、訪ねてみた。
「いえ、素手でしたよ。」
鑑識は答えた。
ここで石田警部は茂野刑事のことを思い出した。すっかり忘れていた。
「おい。茂野。お前はどう思う?」
「他殺じゃないすか、計画的な」
石田警部はなぜそう思うのか半ば呆れながら聞いてみた。
「まずはアクセルペダルのバネを外し、アクセルペダルを氷で固定します。その後車は勝手にガードレールを突き破り、ハンドルにも指紋が着きません。氷も溶けてなくなります。どうです?」
石田警部はなかなか面白いアイデアだと思ったのだが、どうしても不可能だとも気づいていた。
「茂野。面白い発想ではあるが無理だ。まず1つ目はアクセルを固定する氷はどうやって置くんだ?置いた瞬間車は動くぞ。」
「そそそれは......窓ガラスを開けておいてペダルに氷を投げれば解決しませんか?」
「いや。ダメだ。いいか?車は『加速』しながらガードレールをつきやぶっているんだぞ。氷を投げて置いたとしても加速度でどうしても氷は後ろへ行く。万一氷が当たって進んだとしても『加速』はしないはずだ。」
だが茂野はまだ
「いやしかし......」
「それは方法が......」
といっていたので決定的な証拠を突き出すことにした
「茂野。車を見ろ。窓ガラスが開いているように見えるか?」
茂野は車を確認しに行ったが、がっかりして帰ってきた。
「閉まってました......」
「まあそう落ち込むな。とりあえず聞き込みだ。確か仏さんは大学生で名前は透だったな。」
石田警部は早速聞き込みに行こうとすると鑑識に止められた。
「そうそう、1つ言い忘れていました。あまり関係はないと思いますが、運転席の窓ガラスに接着剤のようなものが付着していたんです。」
石田警部はあまり深くは考えずにうなずき、聴き込みに向かった。
聴き込みに向かった石田警部は、透の自宅前に立っていた。
「入るなら早く入りましょうよ」
茂野はチャイムを押しながら俺を見ている。今日は場所の確認に来ただけなのだが......
「できればチャイムを鳴らす前に言って欲しかったな」
「チャイム、押したかったんすか?」
茂野は半笑いで答えた。こいつは後で説教だな。そう思っているとがちゃりと玄関の扉が開き、中年の女性が出てきた。恐らく母親だろう。寝ていない様子で、目の下にはひどいくまができている。
「どちら様でしょうか。」
「透くんのお母さんですね? 今回の事件を担当している石田と申します。透くんの部屋を確認したいのですが」
そこまで言った所で、震えながら半ばかぶせぎみにその中年女性が尋ねてきた。
「透が人殺しをして自殺したというのは本当なんですか?」
いまにも倒れてしまいそうなので手を貸しながら
「まだ分かりません。可能性があるだけです。真相を確かめるためにも透くんの部屋に案内していたただけると助かりますが」
と、ぶるぶる震えている女性を支えながら言った。
部屋に案内してもらうと、石田警部はなにか証拠がないか探すことにした。
「俺は何かすることあるっすか?」
石田警部は、証拠を探していた手を止めてため息をついた。
「することがないなら母親に手掛かりがないか聞いてみてくれ」
「わかったっす!」
茂野は仕事ができたからか、少し嬉しそうにして階段を降りていった。
一人になって証拠を探していると、ベットの下にオイル缶と何かの充電器が出てきた。オイル缶は蓋が無くなっているのか、オイルがこぼれてしまっている。充電器の方は本体を探してみたが、出てこない。
携帯電話のものではないようだが......
「色々聞いて来ましたよ~」
茂野がいきなり現れ、びっくりしている石田警部を見ながら説明する。
「えっと、透くんがいなくなった日ですけど両親ともでかけていて、帰ってきた時には家には誰もいなかったそうです。」
「何か気になった事はないか聞いてきたか?」
「はい。あんまり関係はないかもですけど、流しにコップが二つ出ていたそうです。出掛ける前に洗い物していたそうなので、透くんが使ったものかと」
コップが二つ出ていることに違和感を持った石田警部は尋ねた。
「それは透くんが二つとも使ったということか?」
「まあ家に透くんしかいなかったそうですから、そうなるでしょうね。」
石田警部は『透くんしかいなかった』の部分が気になりながらも証拠探しを再開した。
決定的な証拠は見つからず、石田警部が唯一怪しいと感じたオイルの缶を袋に入れ部屋を出ると電話が鳴った。忙しいときになんだと画面を見る。上司からだ。
「はい。石田ですが」
「石田くん。君が追っている事件だが、新しい事実が分かった。」
「新しい事実?」
「ああ。まず透くんの死因は溺死だが、その前に頭を強く打っているそうだ。どうもそれが事故で負ったにしては不自然らしい。」
石田警部は電話を持ち変えながら尋ねた。
「不自然とは?」
「頭の傷が1ヶ所では無いそうだ。少なくとも4、5回はぶつけているらしい。『事故』にしては不自然だろう?」
「確かにそれは不自然ではありますが、ないとは言いきれないでしょう?事故の衝撃でぶつけた可能性もありますし」
「実はもう1つ不自然なことがあるのだよ。車の鍵に比較的新しい指紋がついている。もちろん透くんが以外のね。」
それを聞いた石田警部は確信した。これは殺人だ。『アクセルペダルのバネ』『拭きとられたハンドルの指紋』『鍵に着いていた指紋』『頭の打撃跡』。しかし同時に茂野との会話を思い出していた。
(いいか?車は『加速』しながらガードレールをつきやぶっているんだぞ)
「ガードレールが壊れていると通報があった場所はここか。確かに壊れてるな」
滝巡査は下を確認するため崖から落ちないように身をのりだすが、朝日のせいで海面が反射し、うまく見えない。
「う~ん良く見えないなぁ」
そのとき太陽に雲がかかった。海面の下に静かに眠る車を発見した滝巡査はすぐに連絡した。
「こちら滝巡査です! 確認に向かった崖の下の海に車が沈んでいます! 至急応援を!」
そのとき滝巡査は気づいていなかった。中に水死体が入っていることを......
捜査一課に連絡が入った。事件か事故かはまだ不明だが、死体が上がったらしい。とりあえず現場に向かう。
石田警部はもうすぐ50才を迎えるベテランの刑事だ。頭のてっぺんは薄くなり、最近は腹も出てきた。妻には刑事の貫禄が出てきたと茶化される。
「茂野! 現場に向かうぞ! 準備しろ!」
「ははははい!すぐ行きます!」
茂野刑事はバタバタしながら準備している。石田警部が今指導中の刑事だ。素質はあるようだが、いつも自信が無さそうでやる気もあまり感じられない。まあこれから鍛えていけばいい。
急いでパトカーに乗り込むと、現場に向かう途中で茂野に出動内容を説明する。
「今回はまだ事故か事件かわからん。ガードレールにぶつかって車が海に落ちていたが車の引き上げはもう終わってるそうだ」
「はあ。わかりました」
なんとも気が抜けた返事だ。これがゆとり教育の成果なのだろうか。石田警部はため息をついた。
現場に到着すると鑑識が作業を進めていた。石田警部が状況を訪ねると予想外の答えが帰ってきた。
「恐らく自殺だと思います。アクセルを踏みこみながらガードレールに直撃、ブレーキ跡もハンドルを切った跡もありません。」
「なぜそれだけで決めつける? 居眠り運転かもしれないじゃないか」
「実は最近行方不明になっていた女児が車の中から発見されています。しかも性的暴行を受け、頭を殴り殺されています。それに何より地面の状態から見て明らかに加速しているんです。」
女児を誘拐後暴行。勢い余って殺害。その後ここからアクセルを踏み海に向かって加速、自殺。確かに理にかなってはいるか......石田警部はそう考えていたが鑑識が言いたかったのはそれだけではなかった。
「しかし、自殺にしては気になるところもいくつかあります。」
そう言うと車のところまで刑事達を案内し、説明を始めた。
「まずここを見てください。アクセルペダルのバネが外れているんです。これではアクセルペダルのバネ力が弱くなり、アクセルワイヤの張力だけになります。」
石田警部は車にはあまり詳しくなかったので手帳に書き込みながら尋ねた
「それは衝撃で外れたりする可能性はあるのか?」
「このタイプの車はバネでペダルを吊るしているだけなので外れる可能性はゼロではありませんが......」
鑑識は言葉を濁した。やはり決定的ではないにしろ不自然ではあるということか。
「実はまだ不自然な点があるんです。車の中にあった電球と何かの蓋、それにハンドルに指紋がついていないんです。恐らく拭き取られています」
電球と蓋は犯罪を犯した直後に拭き取った可能性もあるが、ハンドルはガードレールに突っ込んだときに握っていたはずだ。まさか手放しで乗っていたわけもあるまい。石田警部は
「運転していた男性は手袋をしていたのか?」
と、訪ねてみた。
「いえ、素手でしたよ。」
鑑識は答えた。
ここで石田警部は茂野刑事のことを思い出した。すっかり忘れていた。
「おい。茂野。お前はどう思う?」
「他殺じゃないすか、計画的な」
石田警部はなぜそう思うのか半ば呆れながら聞いてみた。
「まずはアクセルペダルのバネを外し、アクセルペダルを氷で固定します。その後車は勝手にガードレールを突き破り、ハンドルにも指紋が着きません。氷も溶けてなくなります。どうです?」
石田警部はなかなか面白いアイデアだと思ったのだが、どうしても不可能だとも気づいていた。
「茂野。面白い発想ではあるが無理だ。まず1つ目はアクセルを固定する氷はどうやって置くんだ?置いた瞬間車は動くぞ。」
「そそそれは......窓ガラスを開けておいてペダルに氷を投げれば解決しませんか?」
「いや。ダメだ。いいか?車は『加速』しながらガードレールをつきやぶっているんだぞ。氷を投げて置いたとしても加速度でどうしても氷は後ろへ行く。万一氷が当たって進んだとしても『加速』はしないはずだ。」
だが茂野はまだ
「いやしかし......」
「それは方法が......」
といっていたので決定的な証拠を突き出すことにした
「茂野。車を見ろ。窓ガラスが開いているように見えるか?」
茂野は車を確認しに行ったが、がっかりして帰ってきた。
「閉まってました......」
「まあそう落ち込むな。とりあえず聞き込みだ。確か仏さんは大学生で名前は透だったな。」
石田警部は早速聞き込みに行こうとすると鑑識に止められた。
「そうそう、1つ言い忘れていました。あまり関係はないと思いますが、運転席の窓ガラスに接着剤のようなものが付着していたんです。」
石田警部はあまり深くは考えずにうなずき、聴き込みに向かった。
聴き込みに向かった石田警部は、透の自宅前に立っていた。
「入るなら早く入りましょうよ」
茂野はチャイムを押しながら俺を見ている。今日は場所の確認に来ただけなのだが......
「できればチャイムを鳴らす前に言って欲しかったな」
「チャイム、押したかったんすか?」
茂野は半笑いで答えた。こいつは後で説教だな。そう思っているとがちゃりと玄関の扉が開き、中年の女性が出てきた。恐らく母親だろう。寝ていない様子で、目の下にはひどいくまができている。
「どちら様でしょうか。」
「透くんのお母さんですね? 今回の事件を担当している石田と申します。透くんの部屋を確認したいのですが」
そこまで言った所で、震えながら半ばかぶせぎみにその中年女性が尋ねてきた。
「透が人殺しをして自殺したというのは本当なんですか?」
いまにも倒れてしまいそうなので手を貸しながら
「まだ分かりません。可能性があるだけです。真相を確かめるためにも透くんの部屋に案内していたただけると助かりますが」
と、ぶるぶる震えている女性を支えながら言った。
部屋に案内してもらうと、石田警部はなにか証拠がないか探すことにした。
「俺は何かすることあるっすか?」
石田警部は、証拠を探していた手を止めてため息をついた。
「することがないなら母親に手掛かりがないか聞いてみてくれ」
「わかったっす!」
茂野は仕事ができたからか、少し嬉しそうにして階段を降りていった。
一人になって証拠を探していると、ベットの下にオイル缶と何かの充電器が出てきた。オイル缶は蓋が無くなっているのか、オイルがこぼれてしまっている。充電器の方は本体を探してみたが、出てこない。
携帯電話のものではないようだが......
「色々聞いて来ましたよ~」
茂野がいきなり現れ、びっくりしている石田警部を見ながら説明する。
「えっと、透くんがいなくなった日ですけど両親ともでかけていて、帰ってきた時には家には誰もいなかったそうです。」
「何か気になった事はないか聞いてきたか?」
「はい。あんまり関係はないかもですけど、流しにコップが二つ出ていたそうです。出掛ける前に洗い物していたそうなので、透くんが使ったものかと」
コップが二つ出ていることに違和感を持った石田警部は尋ねた。
「それは透くんが二つとも使ったということか?」
「まあ家に透くんしかいなかったそうですから、そうなるでしょうね。」
石田警部は『透くんしかいなかった』の部分が気になりながらも証拠探しを再開した。
決定的な証拠は見つからず、石田警部が唯一怪しいと感じたオイルの缶を袋に入れ部屋を出ると電話が鳴った。忙しいときになんだと画面を見る。上司からだ。
「はい。石田ですが」
「石田くん。君が追っている事件だが、新しい事実が分かった。」
「新しい事実?」
「ああ。まず透くんの死因は溺死だが、その前に頭を強く打っているそうだ。どうもそれが事故で負ったにしては不自然らしい。」
石田警部は電話を持ち変えながら尋ねた。
「不自然とは?」
「頭の傷が1ヶ所では無いそうだ。少なくとも4、5回はぶつけているらしい。『事故』にしては不自然だろう?」
「確かにそれは不自然ではありますが、ないとは言いきれないでしょう?事故の衝撃でぶつけた可能性もありますし」
「実はもう1つ不自然なことがあるのだよ。車の鍵に比較的新しい指紋がついている。もちろん透くんが以外のね。」
それを聞いた石田警部は確信した。これは殺人だ。『アクセルペダルのバネ』『拭きとられたハンドルの指紋』『鍵に着いていた指紋』『頭の打撃跡』。しかし同時に茂野との会話を思い出していた。
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