5 / 19
5.兄と妹
しおりを挟む
靖之は中学までは野球と水泳に打ち込んでいたが、高校の時に同級生に山登りに誘われてからは、山登りに夢中になり、大学では登山部に入っていた。
ある日のこと、真由子は縁側で綾取りをしたり、飼い猫のルビーが毛繕いをしているのを邪魔したりして、一人で遊んでいたがそれも飽きてきたので、庭で登山靴の手入れをしている靖之に話しかけた。
「ねぇ靖之兄さん、また山に行くの? 山登りってそんなにおもしろいの?」
「うん、おもしろいよ。まぁちゃんもいっしょに山へ行こうよ」
「山に登るのって、大変。遠足で山登りして、足が痛くなったもん。疲れちゃった」
すると靖之はわらった。
「そうか。半日、山に行ったらもう疲れちゃうのか。まだ小さいからなぁ。でもまぁちゃんが大きくなったら、疲れなくなるよ、きっと」登山靴の汚れをブラシでこすりながら靖之は答えた。
「私は山より海の方が好き。だって山って、服も靴も汚れちゃうし、いろいろ困るからイヤだもん……」
その次にいう言葉に、さすがに真由子ははずかしくなって口ごもった。
「山で困ること? あはは、もしかしてまぁちゃん、トイレのことを言ってるのかな? やっぱり女の子は、そうかもしれないね」
「……知らない!」真由子は靖之に言い当てられて、真っ赤になった。靖之はわらいながら
「あのね、まぁちゃん、兄さんや兄さんの友だちはね、山に登ったらお風呂になんか入らないこともあるんだよ」と言った。
真由子は驚いた。
「え? 靖之兄さんはお風呂に入らないの? 何日も? ほんとうに?」
「そうだよ。入らないよ」
登山靴の汚れを落とし終え、靖之は縁側に来ると真由子の隣に腰掛けた。
「靖之兄さん、今度山から帰ってきたら、お家に帰る前に、ぜったいにお風呂屋さんに行ってね。約束して。でないとお家のお風呂が、真っ黒に汚れちゃうもの。そんなお風呂に私、入りたくないわ」
「ひどいなぁ。でもまぁちゃん、山から眺める景色ってね、ほんとにきれいなんだよ。一度まぁちゃんに、見せてあげたいな」
「ダメダメ。トイレもお風呂もないような所なんてきらい、私、ぜったいに行きたくないわ」
真由子がむきになって首を振るので、靖之はいたずらっぽくわらいながら
「そうか。じゃあ、まぁちゃんがいっしょに山に行ってくれないのなら、兄さんはお義母さんといっしょに山に行こうかな。その間、まぁちゃんはお家でお留守番だよ」と言った。
「ダメよ。お母さんを山へ連れていっちゃダメ。ぜったいにダメ」
「どうしてなんだい?」
「だってお母さんが山へ行ったら、私のご飯はいったいどうなるの? 誰がご飯を作ってくれるのよ」
「なーんだ。まぁちゃんはご飯の心配か。お義母さん、きっと怒るぞ。『まぁちゃん、お母さんが何日もお風呂に入れなくて、真っ黒になってもいいの?』って」
そう言うと靖之は、真由子のほっぺたを指でつついた。
ある日のこと、真由子は縁側で綾取りをしたり、飼い猫のルビーが毛繕いをしているのを邪魔したりして、一人で遊んでいたがそれも飽きてきたので、庭で登山靴の手入れをしている靖之に話しかけた。
「ねぇ靖之兄さん、また山に行くの? 山登りってそんなにおもしろいの?」
「うん、おもしろいよ。まぁちゃんもいっしょに山へ行こうよ」
「山に登るのって、大変。遠足で山登りして、足が痛くなったもん。疲れちゃった」
すると靖之はわらった。
「そうか。半日、山に行ったらもう疲れちゃうのか。まだ小さいからなぁ。でもまぁちゃんが大きくなったら、疲れなくなるよ、きっと」登山靴の汚れをブラシでこすりながら靖之は答えた。
「私は山より海の方が好き。だって山って、服も靴も汚れちゃうし、いろいろ困るからイヤだもん……」
その次にいう言葉に、さすがに真由子ははずかしくなって口ごもった。
「山で困ること? あはは、もしかしてまぁちゃん、トイレのことを言ってるのかな? やっぱり女の子は、そうかもしれないね」
「……知らない!」真由子は靖之に言い当てられて、真っ赤になった。靖之はわらいながら
「あのね、まぁちゃん、兄さんや兄さんの友だちはね、山に登ったらお風呂になんか入らないこともあるんだよ」と言った。
真由子は驚いた。
「え? 靖之兄さんはお風呂に入らないの? 何日も? ほんとうに?」
「そうだよ。入らないよ」
登山靴の汚れを落とし終え、靖之は縁側に来ると真由子の隣に腰掛けた。
「靖之兄さん、今度山から帰ってきたら、お家に帰る前に、ぜったいにお風呂屋さんに行ってね。約束して。でないとお家のお風呂が、真っ黒に汚れちゃうもの。そんなお風呂に私、入りたくないわ」
「ひどいなぁ。でもまぁちゃん、山から眺める景色ってね、ほんとにきれいなんだよ。一度まぁちゃんに、見せてあげたいな」
「ダメダメ。トイレもお風呂もないような所なんてきらい、私、ぜったいに行きたくないわ」
真由子がむきになって首を振るので、靖之はいたずらっぽくわらいながら
「そうか。じゃあ、まぁちゃんがいっしょに山に行ってくれないのなら、兄さんはお義母さんといっしょに山に行こうかな。その間、まぁちゃんはお家でお留守番だよ」と言った。
「ダメよ。お母さんを山へ連れていっちゃダメ。ぜったいにダメ」
「どうしてなんだい?」
「だってお母さんが山へ行ったら、私のご飯はいったいどうなるの? 誰がご飯を作ってくれるのよ」
「なーんだ。まぁちゃんはご飯の心配か。お義母さん、きっと怒るぞ。『まぁちゃん、お母さんが何日もお風呂に入れなくて、真っ黒になってもいいの?』って」
そう言うと靖之は、真由子のほっぺたを指でつついた。
5
あなたにおすすめの小説
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
【完結】時計台の約束
とっくり
恋愛
あの日、彼は約束の場所に現れなかった。
それは裏切りではなく、永遠の別れの始まりだった――。
孤児院で出会い、時を経て再び交わった二人の絆は、すれ違いと痛みの中で静かに崩れていく。
偽りの事故が奪ったのは、未来への希望さえも。
それでも、彼を想い続ける少女の胸には、小さな命と共に新しい未来が灯る。
中世異世界を舞台に紡がれる、愛と喪失の切ない物語。
※短編から長編に変更いたしました。
友達の肩書き
菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。
私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。
どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。
「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」
近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。
恋愛の醍醐味
凛子
恋愛
最近の恋人の言動に嫌気がさしていた萌々香は、誕生日を忘れられたことで、ついに別れを決断。
あることがきっかけで、完璧な理想の恋人に出会うことが出来た萌々香は、幸せな日々が永遠に続くと思っていたのだが……
[完結]優しすぎた選択
青空一夏
恋愛
恋人の玲奈とコンサートへ向かう途中、海斗は思いがけない出来事に遭遇する。
たいしたことはないはずだったその出来事とその後の選択は、順風満帆だった彼の人生を狂わせた。
十年後、理由の分からない別れを抱えたまま生きる海斗の前に、忘れていた過去と向き合うための期限が訪れる。
これは、優しさから選んだはずの決断が、取り返しのつかない後悔へと変わった物語。
これは、すべてを手に入れてきたはずの人生を歩んできた男が、たった一度の選択で、一生後悔することになったお話。
※本作は他サイトにも掲載しています。
月下の香り
紫さゆり
恋愛
高宮瑠璃子は幼い頃、母を亡くし、母方の祖母の文代と暮らしている。
父の高宮総一郎は、瑠璃子に毎月多額の養育費を仕送りするほかは、進学、進級、誕生日やクリスマスなど年に数回、瑠璃子に会いにくるといった交流である。
そんな父が、ある日亡くなる。
瑠璃子は、父の戸籍に不審を抱き、恋人の藤島正巳と一緒に……
大人の恋の物語です。
【完結】灰薔薇伝 ― 祈りは光に還るー
とっくり
恋愛
「灰が散っても、祈りは光に還る」
戦で傷ついた騎士と、彼を救った修道女。
罪と祈りの十日、孤独の十年――
灰薔薇の咲く風の丘で、
二人の想いは時を越えて静かに息づく。
滅びゆく国、信仰と禁忌の狭間で、
一人の女が“赦し”を信じ、
一人の男が“生きる”ことを選んだ。
灰薔薇の香りは、愛でも奇跡でもなく、
祈りそのものだった。
彼らに下される運命は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる