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影の中で動く者たち
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深夜を迎える少し前
男爵会議が終わり、屋敷に戻った頃
俺は微かに感じる違和感に眉をひそめていた。
(…これは……)
原作でも語られてはいたが…早速仕掛けに来たのか、ペレク家の連中め……
ただみんなに悟られる訳にいかないので俺はいつも通りを演じる。
「…にしてもイベルアート家からの招待状か。それに全員分の……」
父上は俺に渡された招待状を手に取り、紙の表裏を確かめるかのように眺めて呟く。
「あそこの家は別に悪いわけじゃないんだけど…よく騙されるんだよねぇ、現にペレク家の連中に利用されてるし」
だからあんまり連れて行きたくはないんだけど…と父上はため息を吐くようにそう言い、申し訳なさそうにしてこちらを向く。
「悪いけど、アクセルだけでも連れてっていいかな?流石に無碍にするわけにはいかないしね」
ここで俺を指名してきたのはおそらく信用しているからであろう。ローレンス達と同等以上の力を待ちかつ、兄程ではないが頭も回る、そんな人物をそばに置くことだけでも安全度は高いから………だが、俺だけ連れて行くのは少しこちらの都合が悪い。
「…父上、それは構いません。ですが、僕は家族全員を連れて行くことをお勧めします」
その発言に父は違和感を覚えたのか目を細めて問いてきた。
「その理由は?」
「…招待状を送ってきたのはイベルアート家ですが、おそらくペレク家が大きく関与しています。ゼノロア様は全員を連れてこいと言っておられました……もし僕と父上だけで行った場合、あそこがソフィア達に何を仕掛けてくるか分かりません」
「…なるほど、だけどそれが罠の可能性はないかい?もし全員が嵌められたりしたら元もこもないと思うけど?」
「それこそ離れ離れになって行動したら危険な気がします。遠く離れているみんなを守りきれる自信がありません。それならいっそ全員で奴らの屋敷に乗り込んだ方が安全です。それにもし罠に嵌ったとしてもあの二人がなんとかしてくれます」
「………ふむ、なるほどね」
父上が手に顎を当て、思案している。もしここで却下されたら最悪なんだが……
「……分かった、みんなにも話してみるよ。
それで許可が貰えたら連れていくってことでいいかな?」
その答えにひとまず安心を覚えながらも父上に頷く。
「はい、それで構いません。ありがとうございます父上」
「なに、折角の息子の提案なんだ。前向きに考えたいってだけだよ……さて私はこれをバレロナ様に伝えてこようかな」
そう言って立ち上がり、父は最後に口元の傷は治しておくようにと俺に伝え、バレロナ様の所に向かっていった。
………そういえば、あの馬鹿に殴られたんだったな。
父上に指摘されて思い出した俺だが特に処置も何もせずにそのまま過ごし、その結果カリナに怒られたのは言うまでもない。
◇
そして深夜
王都の街道という常に人が溢れてかえり、燦々と輝く日光に当たっていた場所は都市部とは思えない静けさを待ち、皎々とした月の光が溢れる場所に変化しており
その中心を俺は歩いていた。
「……ここらへんでいいかな」
俺は誰にも気付かれず、騒ぎが起きないであろう場所にその場に留まり、ただただ月を眺める。
そしてしばらく経った時だ。
シュンッ
風を切り裂くような音が俺の真横から聞こえてくる。おそらく相当の手練れなのだろう。
いつかの時にジークと共に戦ったあの盗賊と比べものにならない程の繊細な技術をお持ちの用だ。
……ただそれだけのこと。
そのまま首を後ろに傾け、俺を狙ったであろう刃物が壁に突き刺さる。
そして次の瞬間、屋根から、夜の空と同化したような黒い服を身にまとった複数の人影が、俺を狙いに飛び出してきた。
ある者はナイフ、針のような物を飛ばし、ある者は、小さな足音すら残さずに近づき、俺を殺さんとばかりに獲物を抜き、またある者は極小の魔法を発動させ、俺に狙いを定める。
そこに共通するのは俺を殺そうとする意思のみがあるだけ。その圧倒的な数の暴力は理不尽の塊でだろうな。
「……まぁそんなの無駄だけど」
俺は指をパチンと鳴らすと周りに得体の知れない何かが纏い始める。
そしてナイフ、針、魔法は俺に到達する前にまるで何もなかったかのように消え去り……
「ぁ、がぁ……」
……そして俺に近づいて殺そうとした複数の人影も同様に、そのまま消え去っていった。
「ッ!」
おそらく俺の纏う空気に驚いたのだろう。
殺そうとする奴ら……暗殺者達は油断も隙も見せないように構え続ける。
「…誰に命令された、かはまぁそんなの聞くつもりはない。誰かは検討はついているし」
そう呟きながら、手を奴らの方に向け、俺も構え始める。
「ただこのまま逃すつもりもない……そこはお互い、理解しようぜ?」
◇
くそっ……なんだこいつは…!
目の前にいる二十にも満たさない青二才とも呼んでもいいガキを前にして俺たちは冷や汗を大量に流している。
ペレク家直属の暗殺部隊である俺たちに命令してきたのはゼノロア様ではなく、その息子であるレド様だ。
こいつを殺してくれと彼は目を血走り、今まで見たことのない怒り、憎悪、嫌悪……様々な感情を宿しながら唾を吐くんじゃないかと思われるほどの大きな声で話し出した。
何故こんなレステンクール家の落ちこぼれのガキにと疑問を抱いたが…そんなの考える必要などない。俺たちは道具だ、ただただ何も考えず上の者の命令に従っていけばいい。
今までも、そしてこれからも……
…だがその結果がこの有様だ。
「あ、あがぁぁぁ……」
くそっまた一人やられた。なんなんだあれは!まるで人の存在そのものを消しているみたいじゃないか……!
奴は魔法とは違う、かと言って異能の力だとあまりにも異質な力と思われる程の何かを操り、俺達はその圧倒的実力差により蹂躙されていた。
奴に近づけば、同じように消滅し、だからと言って遠くに離れれば、得体の知れない物で俺たちの存在を消し去っていく…それに攻撃も奴に到達する前に消えるのだから全く通じない………
「…所詮はこんな程度てことか」
…なんだ
「あんまり期待はしていないから別にいいけど」
……なんなんだ
「だが、動くには少し早くないか?まさかこれも歴史が変わった……でもどこでだ…?」
………なん、なんだ…この
「………まぁそれは、お前らを消した後に考えればいいか」
…………この化け物は……
「……おい、お前は今すぐにゼノロア様に報告を」
すると仲間の一人が俺に屋敷に戻るように促している。
「だ、だが…」
「俺たちは間違っていたんだ!…いやあの方含めて全員が見誤っていた!!」
普通、暗殺者は声を荒げてはいけない、感情を表は出してはいけない。
任務の支障にもなり、それがきっかけで自分の命が奪われることがあるからだ。
だから暗殺者は絶対に私情を出してはいけない……はずなのに
奴はその常識を軽々しく覆してくる。
現に俺たちは…今まで抱いたことのない恐怖を感じてるのだから。
「一番警戒するべきなのはあの英雄《ブリュンヒルデ》じゃない……俺たちが一番警戒するべきだったのは……!」
仲間がそう呟く前に…跡形もなくこの場から消えていった。
「少し黙っててもらえないか?それで誰かに気づかれたらどうするんだよ」
その光景を見た俺は………暗殺者という立場を忘れ、その場から全力で立ち去った。
「む、無理だ……無理だ、あんな化け物に勝つなんて…!」
恐怖心…それが暗殺者を忘れ、立ち去るには十分な理由であった。
そしてそのせいで俺はいつの間にか忘れ去っていた感情を再び芽生えさせてしまった。
——死にたくない
「い、いやだ……いやだ!俺はまだ死にたくない!……まだ…まだ……!」
その後、仲間の悲鳴や阿鼻叫喚が一瞬聞こえたが、そんなことこの時の俺は全く気に留めず、ただその場から離れることだけを考えて全力で走り回った。
そして数キロは走っただろう。
いつの間にか倒れていたその身体をなんとか起こして月光を放つ月を眺める。
「…そうだ……これを、あの方達に」
そう呟き、なんとかペレク家の人達の所へ向かおうとする。
もう暗殺者なんてやめてもう普通に生きよう。そう心に決めた。
「なぁ?俺、さっき言ったよな?」
ゾクッ
聞きたくもない声を耳で聞き取り、そして後ろを向いた瞬間……その場から崩れ落ちてしまった。
身体ももう限界で、これ以上走れそうにない……精神的にももう無理に等しかった。
あぁ…そうか、これが…絶望、なのか。
その場の静けさを切り裂くように、小さなコツコツという足音が地面を軽く叩く。その音がだんだんと距離を縮め、空気に重みを与えていく。
そしてその場に現れたのは…俺が今、最も会いたくない人物であった。
「逃すつもりはない、てな」
あはは…乾いた笑みが浮かんでしまった。
これが……俺の罰なのだろうか?
今までろくな環境で、ろくな仕事も出来ずに
最後にはこんな化け物に喰われてしまう。
本当に社会というのは、理不尽そのものだ。
「…お前には少し、付き合ってもらうぞ」
そう呟いて、目の前にいる化け物は手をこちらに向けて何かを詠唱する。
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
「ぐ、ぐがぁぁあああ…!」
その瞬間、身体が焼き切れるような痛みと熱さが俺を襲う。まるで俺の中にある一つ一つの細胞が消えていってるようにジワジワと侵食していってる。こんなのまるで……
今まで喰らってきた中でも一番……苦痛で
そして辛い。
「この力がどれだけ通用するか……この力がどれだけ制御出来るのか……試させてもらうから、そのつもりでよろしく」
そんな非道的な言動に俺は……
あまりの痛みと衝撃で意識を失った。
これから俺は、この地獄を味わい続かなきゃいけないのかと考えながら……
◇
残りの一人を処理した後、とりあえず俺は戦闘後の後処理をすることにした。
とはいっても血とかは流れてはいない。
今回は久々に虚無の力を使っただけなのだからそもそも血や身体が存在しないので中々に楽だ。
だが、武器とかはそこら辺にあったり、突き刺さったりしていたので目の前にいるそいつを抱えて移動することにした。
「…貴方のそれ、本当に卑怯よね」
すると後ろから妖艶と言ってもいい声が響いた。
「否定はしない。それよりユニーレはどうしてここに?」
その人物は混沌の魔女であり、ゼノロアを一泡吹かせるのに一役買った人物、ユニーレだ。
「一応、貴方の様子を見に行こうとしたのよ。そしたら…もう手遅れって感じね」
「仕方ないだろ?あんまり騒ぐ訳にもいかんし、一番これが手取り早い」
「…私たちを頼るってことはしないのかしら」
少し悲しそうに目線を下に向け、彼女は寂寥感を漂わせて俺に言った。
「頼るってお前らには結構頼ってるつもりだぞ?ペレク家のことや魔石鉱脈のことだって……そんなに頼ってないと思うのか?」
「……貴方の命令なら私はなんでもするわよ」
「ハハッそれは頼もしい。じゃあまた頼ると思うが、その時はよろしくな」
「…えぇもちろん」
話が飛んだな。少しだけ明るくなった彼女に俺は本題を話す。
「数日後、俺たちはイベルアート家に行く」
その言葉に彼女は息を飲んだのだろう、顔はいつも以上に険しくなり、目を細める。
「だから、今の現状を知りたい。ローレンスも交えて話したいがいいか?」
「えぇ、それならもちろんよ。私もあの子もそれなりに状況は整えたから、貴方の知りたいことは分かると思うわ」
「そうか、それなら場所を移そう。誰かに聞かれたりしたら困る……これを上手く使いこなせるか」
彼女が頷くと俺は魔女組がかつて使った転移魔法を使い、誰にも気付かれない森の奥へと移動したのだった。
「あ、そういえば、後処理しなきゃいけないんだった……」
「後処理?あの転がってたナイフや針のことかしら?」
「そうだが……もしかして、やってくれたのか?」
「あら?私がそんなことに手を抜くとでも?」
隣にいる優秀な魔女に流石と言わんばかりに苦笑をしたのは言うまでもない。
◇
ドンッッ!
「…何故だ……何故、誰も僕の所に報告してこない!!」
自慢の品物である高級そうなな大きな机に拳をぶつけ、喚き散らかす。
その人物の名はレド・ペレク
「この僕が命じたのだぞ…早く戻ってこないか!!」
だが、それはかの暗殺部隊の連中には声は届かない。届いたとしてもそこはおそらくこの世界、アトランティスには存在しないだろう。
この時、いつまで経っても戻らないことに疑問を持つべきであった。だが、今の本人にそんな冷静な状況を把握出来るわけがない。
「アクセル……アクセル……!
ア~ク~セ~ルウゥゥゥ~~~!!」
かのペレク家の男爵家の当主は思った。
これでお前らも終わりだと……だが、それは大きな間違いだ。
彼らの崩壊のタイムリミットは刻一刻と迫っているのだから。
男爵会議が終わり、屋敷に戻った頃
俺は微かに感じる違和感に眉をひそめていた。
(…これは……)
原作でも語られてはいたが…早速仕掛けに来たのか、ペレク家の連中め……
ただみんなに悟られる訳にいかないので俺はいつも通りを演じる。
「…にしてもイベルアート家からの招待状か。それに全員分の……」
父上は俺に渡された招待状を手に取り、紙の表裏を確かめるかのように眺めて呟く。
「あそこの家は別に悪いわけじゃないんだけど…よく騙されるんだよねぇ、現にペレク家の連中に利用されてるし」
だからあんまり連れて行きたくはないんだけど…と父上はため息を吐くようにそう言い、申し訳なさそうにしてこちらを向く。
「悪いけど、アクセルだけでも連れてっていいかな?流石に無碍にするわけにはいかないしね」
ここで俺を指名してきたのはおそらく信用しているからであろう。ローレンス達と同等以上の力を待ちかつ、兄程ではないが頭も回る、そんな人物をそばに置くことだけでも安全度は高いから………だが、俺だけ連れて行くのは少しこちらの都合が悪い。
「…父上、それは構いません。ですが、僕は家族全員を連れて行くことをお勧めします」
その発言に父は違和感を覚えたのか目を細めて問いてきた。
「その理由は?」
「…招待状を送ってきたのはイベルアート家ですが、おそらくペレク家が大きく関与しています。ゼノロア様は全員を連れてこいと言っておられました……もし僕と父上だけで行った場合、あそこがソフィア達に何を仕掛けてくるか分かりません」
「…なるほど、だけどそれが罠の可能性はないかい?もし全員が嵌められたりしたら元もこもないと思うけど?」
「それこそ離れ離れになって行動したら危険な気がします。遠く離れているみんなを守りきれる自信がありません。それならいっそ全員で奴らの屋敷に乗り込んだ方が安全です。それにもし罠に嵌ったとしてもあの二人がなんとかしてくれます」
「………ふむ、なるほどね」
父上が手に顎を当て、思案している。もしここで却下されたら最悪なんだが……
「……分かった、みんなにも話してみるよ。
それで許可が貰えたら連れていくってことでいいかな?」
その答えにひとまず安心を覚えながらも父上に頷く。
「はい、それで構いません。ありがとうございます父上」
「なに、折角の息子の提案なんだ。前向きに考えたいってだけだよ……さて私はこれをバレロナ様に伝えてこようかな」
そう言って立ち上がり、父は最後に口元の傷は治しておくようにと俺に伝え、バレロナ様の所に向かっていった。
………そういえば、あの馬鹿に殴られたんだったな。
父上に指摘されて思い出した俺だが特に処置も何もせずにそのまま過ごし、その結果カリナに怒られたのは言うまでもない。
◇
そして深夜
王都の街道という常に人が溢れてかえり、燦々と輝く日光に当たっていた場所は都市部とは思えない静けさを待ち、皎々とした月の光が溢れる場所に変化しており
その中心を俺は歩いていた。
「……ここらへんでいいかな」
俺は誰にも気付かれず、騒ぎが起きないであろう場所にその場に留まり、ただただ月を眺める。
そしてしばらく経った時だ。
シュンッ
風を切り裂くような音が俺の真横から聞こえてくる。おそらく相当の手練れなのだろう。
いつかの時にジークと共に戦ったあの盗賊と比べものにならない程の繊細な技術をお持ちの用だ。
……ただそれだけのこと。
そのまま首を後ろに傾け、俺を狙ったであろう刃物が壁に突き刺さる。
そして次の瞬間、屋根から、夜の空と同化したような黒い服を身にまとった複数の人影が、俺を狙いに飛び出してきた。
ある者はナイフ、針のような物を飛ばし、ある者は、小さな足音すら残さずに近づき、俺を殺さんとばかりに獲物を抜き、またある者は極小の魔法を発動させ、俺に狙いを定める。
そこに共通するのは俺を殺そうとする意思のみがあるだけ。その圧倒的な数の暴力は理不尽の塊でだろうな。
「……まぁそんなの無駄だけど」
俺は指をパチンと鳴らすと周りに得体の知れない何かが纏い始める。
そしてナイフ、針、魔法は俺に到達する前にまるで何もなかったかのように消え去り……
「ぁ、がぁ……」
……そして俺に近づいて殺そうとした複数の人影も同様に、そのまま消え去っていった。
「ッ!」
おそらく俺の纏う空気に驚いたのだろう。
殺そうとする奴ら……暗殺者達は油断も隙も見せないように構え続ける。
「…誰に命令された、かはまぁそんなの聞くつもりはない。誰かは検討はついているし」
そう呟きながら、手を奴らの方に向け、俺も構え始める。
「ただこのまま逃すつもりもない……そこはお互い、理解しようぜ?」
◇
くそっ……なんだこいつは…!
目の前にいる二十にも満たさない青二才とも呼んでもいいガキを前にして俺たちは冷や汗を大量に流している。
ペレク家直属の暗殺部隊である俺たちに命令してきたのはゼノロア様ではなく、その息子であるレド様だ。
こいつを殺してくれと彼は目を血走り、今まで見たことのない怒り、憎悪、嫌悪……様々な感情を宿しながら唾を吐くんじゃないかと思われるほどの大きな声で話し出した。
何故こんなレステンクール家の落ちこぼれのガキにと疑問を抱いたが…そんなの考える必要などない。俺たちは道具だ、ただただ何も考えず上の者の命令に従っていけばいい。
今までも、そしてこれからも……
…だがその結果がこの有様だ。
「あ、あがぁぁぁ……」
くそっまた一人やられた。なんなんだあれは!まるで人の存在そのものを消しているみたいじゃないか……!
奴は魔法とは違う、かと言って異能の力だとあまりにも異質な力と思われる程の何かを操り、俺達はその圧倒的実力差により蹂躙されていた。
奴に近づけば、同じように消滅し、だからと言って遠くに離れれば、得体の知れない物で俺たちの存在を消し去っていく…それに攻撃も奴に到達する前に消えるのだから全く通じない………
「…所詮はこんな程度てことか」
…なんだ
「あんまり期待はしていないから別にいいけど」
……なんなんだ
「だが、動くには少し早くないか?まさかこれも歴史が変わった……でもどこでだ…?」
………なん、なんだ…この
「………まぁそれは、お前らを消した後に考えればいいか」
…………この化け物は……
「……おい、お前は今すぐにゼノロア様に報告を」
すると仲間の一人が俺に屋敷に戻るように促している。
「だ、だが…」
「俺たちは間違っていたんだ!…いやあの方含めて全員が見誤っていた!!」
普通、暗殺者は声を荒げてはいけない、感情を表は出してはいけない。
任務の支障にもなり、それがきっかけで自分の命が奪われることがあるからだ。
だから暗殺者は絶対に私情を出してはいけない……はずなのに
奴はその常識を軽々しく覆してくる。
現に俺たちは…今まで抱いたことのない恐怖を感じてるのだから。
「一番警戒するべきなのはあの英雄《ブリュンヒルデ》じゃない……俺たちが一番警戒するべきだったのは……!」
仲間がそう呟く前に…跡形もなくこの場から消えていった。
「少し黙っててもらえないか?それで誰かに気づかれたらどうするんだよ」
その光景を見た俺は………暗殺者という立場を忘れ、その場から全力で立ち去った。
「む、無理だ……無理だ、あんな化け物に勝つなんて…!」
恐怖心…それが暗殺者を忘れ、立ち去るには十分な理由であった。
そしてそのせいで俺はいつの間にか忘れ去っていた感情を再び芽生えさせてしまった。
——死にたくない
「い、いやだ……いやだ!俺はまだ死にたくない!……まだ…まだ……!」
その後、仲間の悲鳴や阿鼻叫喚が一瞬聞こえたが、そんなことこの時の俺は全く気に留めず、ただその場から離れることだけを考えて全力で走り回った。
そして数キロは走っただろう。
いつの間にか倒れていたその身体をなんとか起こして月光を放つ月を眺める。
「…そうだ……これを、あの方達に」
そう呟き、なんとかペレク家の人達の所へ向かおうとする。
もう暗殺者なんてやめてもう普通に生きよう。そう心に決めた。
「なぁ?俺、さっき言ったよな?」
ゾクッ
聞きたくもない声を耳で聞き取り、そして後ろを向いた瞬間……その場から崩れ落ちてしまった。
身体ももう限界で、これ以上走れそうにない……精神的にももう無理に等しかった。
あぁ…そうか、これが…絶望、なのか。
その場の静けさを切り裂くように、小さなコツコツという足音が地面を軽く叩く。その音がだんだんと距離を縮め、空気に重みを与えていく。
そしてその場に現れたのは…俺が今、最も会いたくない人物であった。
「逃すつもりはない、てな」
あはは…乾いた笑みが浮かんでしまった。
これが……俺の罰なのだろうか?
今までろくな環境で、ろくな仕事も出来ずに
最後にはこんな化け物に喰われてしまう。
本当に社会というのは、理不尽そのものだ。
「…お前には少し、付き合ってもらうぞ」
そう呟いて、目の前にいる化け物は手をこちらに向けて何かを詠唱する。
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
「ぐ、ぐがぁぁあああ…!」
その瞬間、身体が焼き切れるような痛みと熱さが俺を襲う。まるで俺の中にある一つ一つの細胞が消えていってるようにジワジワと侵食していってる。こんなのまるで……
今まで喰らってきた中でも一番……苦痛で
そして辛い。
「この力がどれだけ通用するか……この力がどれだけ制御出来るのか……試させてもらうから、そのつもりでよろしく」
そんな非道的な言動に俺は……
あまりの痛みと衝撃で意識を失った。
これから俺は、この地獄を味わい続かなきゃいけないのかと考えながら……
◇
残りの一人を処理した後、とりあえず俺は戦闘後の後処理をすることにした。
とはいっても血とかは流れてはいない。
今回は久々に虚無の力を使っただけなのだからそもそも血や身体が存在しないので中々に楽だ。
だが、武器とかはそこら辺にあったり、突き刺さったりしていたので目の前にいるそいつを抱えて移動することにした。
「…貴方のそれ、本当に卑怯よね」
すると後ろから妖艶と言ってもいい声が響いた。
「否定はしない。それよりユニーレはどうしてここに?」
その人物は混沌の魔女であり、ゼノロアを一泡吹かせるのに一役買った人物、ユニーレだ。
「一応、貴方の様子を見に行こうとしたのよ。そしたら…もう手遅れって感じね」
「仕方ないだろ?あんまり騒ぐ訳にもいかんし、一番これが手取り早い」
「…私たちを頼るってことはしないのかしら」
少し悲しそうに目線を下に向け、彼女は寂寥感を漂わせて俺に言った。
「頼るってお前らには結構頼ってるつもりだぞ?ペレク家のことや魔石鉱脈のことだって……そんなに頼ってないと思うのか?」
「……貴方の命令なら私はなんでもするわよ」
「ハハッそれは頼もしい。じゃあまた頼ると思うが、その時はよろしくな」
「…えぇもちろん」
話が飛んだな。少しだけ明るくなった彼女に俺は本題を話す。
「数日後、俺たちはイベルアート家に行く」
その言葉に彼女は息を飲んだのだろう、顔はいつも以上に険しくなり、目を細める。
「だから、今の現状を知りたい。ローレンスも交えて話したいがいいか?」
「えぇ、それならもちろんよ。私もあの子もそれなりに状況は整えたから、貴方の知りたいことは分かると思うわ」
「そうか、それなら場所を移そう。誰かに聞かれたりしたら困る……これを上手く使いこなせるか」
彼女が頷くと俺は魔女組がかつて使った転移魔法を使い、誰にも気付かれない森の奥へと移動したのだった。
「あ、そういえば、後処理しなきゃいけないんだった……」
「後処理?あの転がってたナイフや針のことかしら?」
「そうだが……もしかして、やってくれたのか?」
「あら?私がそんなことに手を抜くとでも?」
隣にいる優秀な魔女に流石と言わんばかりに苦笑をしたのは言うまでもない。
◇
ドンッッ!
「…何故だ……何故、誰も僕の所に報告してこない!!」
自慢の品物である高級そうなな大きな机に拳をぶつけ、喚き散らかす。
その人物の名はレド・ペレク
「この僕が命じたのだぞ…早く戻ってこないか!!」
だが、それはかの暗殺部隊の連中には声は届かない。届いたとしてもそこはおそらくこの世界、アトランティスには存在しないだろう。
この時、いつまで経っても戻らないことに疑問を持つべきであった。だが、今の本人にそんな冷静な状況を把握出来るわけがない。
「アクセル……アクセル……!
ア~ク~セ~ルウゥゥゥ~~~!!」
かのペレク家の男爵家の当主は思った。
これでお前らも終わりだと……だが、それは大きな間違いだ。
彼らの崩壊のタイムリミットは刻一刻と迫っているのだから。
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