全てを失う悲劇の悪役による未来改変

近藤玲司

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アクセルという「男」

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レドのその一言で、ここら一体の空気が凍りついた気がする。
どれくらいかというと、ここが一気に極寒の地だと疑ったほどだ。
あの三人も同様だろう。さっきまでの微妙な表情が驚きのあまりに固まってしまってる。

「なにか答えたらどうなんだ?僕の嫁にしてやると言ってるんだ。ありがたいだろ~?光栄だろ~?」

その空気にさせた当の本人は周りが見えてないのか、それとも自分のことを疑ってないのか、口を引き下げて見下すように笑っている。
...こいつ目の前にいる人物のことが見えてないのか?侯爵家のご令嬢様だぞ?
もう俺はそのバカ加減に頭痛がしてくる。
そして、最初に正気に戻ったのは、姉のマリアである。

「...えっと...その.....ごめんなさい」
あのクールな姉が戸惑いを見せながら、レドに返事を返す。
その返事を聞いて疑問に思ったのか、聞き返してくる。

「ん?なにがごめんなさいだ?僕に謝ることなど、どこにもないだろうマリアよ」

「....」
姉はレドの急な馴れ馴れしい態度と自分を見てくる視線にゾッと寒気を覚え、腕で身体を抱えてる。よく見ると、顔も気味が悪い奴を見ているこのように変わっている。あの姉さんの表情を変えたか...ある意味凄いやつだ。

「あの...レド様?私達はそう簡単に夫婦になれるわけでは...それに、全員に嫁になれと言われると...その....」

次に正気に戻ったナ―シャがレドにそんな風に声を掛けてが、どうやら声は聞こえなかったらしい。

「なに、大丈夫だ。パパに頼めばそんなのなんとかしてくれる。そんなに早く僕の嫁になりたいのか....くくっ可愛い奴め」

「ひっ....」
声にもならない悲鳴をだして顔を青ざめているナ―シャの姿。確か彼女がこういう表情をするのは生理的に無理と感じたときだけだったな。
良かったな、レド。お前は滅多に見ないナ―シャの表情を変えさせただぞ?

「おい、ソフィア、何をボケッとしておるのだ?もっと喜ばぬか?」

「....」
ソフィアはただ黙っている。表情もなにを思っているのかが分からない。ただ一つ分かるのはそこにある感情はただただ嫌悪感というまさに嫌いな人にしか出さない感情だけ。そこにはあの原作のソフィアを彷彿とさせる程の面影を出していた。

この三人から見ても分かるのだが、相当嫌っているのが分かる。
さらに凄いことだレド、お前、初対面で一気に高感度が0どころかマイナスにまで到達したぞ。まぁ元々ないに等しいかもしれんが...

そんなことを思ってるとさっきまで黙っていたソフィアは顔をあげ、レドに告げる。

「お断りします」

「....は?」
ソフィアの表情はあの仮面を被った笑顔を出しているが、その言葉はしっかりと彼にも聞こえるようにはっきりと言った。さっきまでの余裕たっぷりの顔は崩れ、意味がわからないのか今度はレドが呆気に取られている。

「私達はあなたの妻になるつもりもありません。誰かの妻になどなるつもりはありません。そもそもなぜ初対面の相手の、それもなにも分からない相手の妻にならなければならないのでしょうか?その神経を疑うほかありません」

その言葉はレドだけではなく、周りにいた貴族達にも言っているのだろう。
自分のことをなにも知らない癖に勝手に言い寄るな、自分の容姿だけを見続ける奴になど相手をするつもりもないのだと、そう告げているような気がした。
それが他の男爵のご子息共も伝わったのか、顔をそらして気まずそうにしている。

(...あんな表情のソフィアはこの世界でも初めて見たな...あれで対応されたら凹む自信がある)

目に見えない凍てつく空気を放っているソフィアに圧巻を感じたが、そんなことを全く感じない目の前の人物は顔を真っ赤にさせながら怒鳴るように声を荒げた。

「こ、この僕が言ってるのだぞ!!それをお前は断るというのか!!」

「そう言ってるではありませんか」
だがそれに臆さないのがソフィアという人物だ。表情を変えずにレドに返している。
その姿はまさにソフィアという一人の貴族の器を感じてしまう...それほど今の彼女はとてつもない、意思と強さがあった。

「...ごめんなさい、私も貴方の嫁になるのはちょっと....」

「....私も、それにお父様からもお断りの返事がくるでしょうし....男の人を前にするとちょっと....」

ソフィアの姿に前を押されたのか、二人も同調するように答える。
それを聞いたレドはまるで子供の癇癪のように騒ぎ出し―――


「な、なんだよ....なんだよ!!せっかく僕が頼んでやったのになんなんだよその態度は!!女は女らしく男に尻向けて鳴いとけば言いんだよ!!!」

すると目の前にいたソフィアの手を強引に引っ張り彼女を殴ろうとする。

「きゃっ」
流石に予想外だったのだろう。対応できずにすぐに捕まってしまい、その暴力から自分を守るように捕まってない腕で顔を守り目を瞑る。その場にいた姉さんはソフィアを守るようにその鍛え上げた身体で動こうとした.....だがその前に俺は数メートルは離れているであろう距離を一瞬で移動し奴の腕を掴む。

「....お、お兄様...!」
ソフィアはきっと目を開けたのだろう。俺の姿を確認すると歓喜をも呼べる声を出して呼んでいる。ソフィアや二人を守るように...レドの前に俯いたまま立ち塞がる。


「....なんだ、お前?」
相当苛立ってるのか、声に怒気を含ませ、見下しながらこちらを向いていた。
......だが、おそらくこいつよりも俺のほうが怒っているだろうな。

....こいつ........ソフィアを.........

今すぐにでも消し去ってやりたい、そんな思いが煮えたぎる程湧き出てるのが理解できた....どうやら俺も相当なシスコンらしい。
だが、それはよくないと本能が告げ、一気に頭の中を空っぽにして、冷静になることにした。

(...もしここで俺がこいつを殴ったらどうする?ここで力を発揮したら.....俺まで目をつけられてしまう...それは駄目だ。こいつを倒すのも、あのクソ野郎共を潰すのは簡単だ....だが、今ここでそれをやれば裏で操ってる奴らを探せなくなる...)

そう考え、俺は湧き出る怒りを一気に抑え、ならどうするかと試行錯誤をして考える。
ここで違和感を出さずに....そして奴らの思い通りに動かすためには....やるしか、ないか。
決意を固め、俯いた顔を再び上げレドを見る。
さて....アクセルファンとしての見せどころだ。
こいつを....いやここにいる全員を騙せられるのか....

...やってやるよ、これで逃げたら、アクセルファンとして自分が許せなくなる。


「..おい、聞こえないのか?なん「...て...さい」....あ?」


―――アクセルファンスペシャル奥義④

「....や、やめてください...!」

―――原作なりきり演技

「ぼ、僕の!、い、いい妹を傷つけるのは!ややや、やめてください!!」
いつも通りの堂々とした態度ではない、弱々しく、一度でも怒鳴れば心が崩れてしまうのではないかと思うほどの...アクセルの姿。

いつもの姿を知っているソフィア、マリア、ナ―シャは今の俺の姿を見て驚いてるだろう、さっき以上に顔を固め、こちらをずっと凝視している。だが、それは彼女たちだけで、周りは、そしてレドはなにも違和感を感じないので、そのまま会話が続く。

「いまから躾をするところなんだ!邪魔するな!!」

「ひぃっ....で、でもそれでも傷つけるのはよくないというか、なんというか...」

レドが怒鳴りつけると、掴んでる手を振り解くように乱暴に振って距離を取り、
俺は怖がっているかのようにブルブルと身体を震い始める。
アクセルというキャラは確かに純粋で優しい人物であるだろう。しかし、本当の姿は他人の表情を見続け、周りを不愉快な思いにさせないように、行動しているだけの
怖がりなおどおどしている少年だ。

「うるさい!!お前も殴られたいのか!!そこをどけ!!!」

「い、いやです!!そ、ソフィアも...お姉ちゃんも僕の大事な人だから.....ど、どうか殴らないでください....!」

その言葉を吐いた途端、後ろで「お姉ちゃん...!?」と驚愕な表情を見せた後、すぐに顔を幸せそうに破綻させて、身体をもじもじとさせている姉がいた気がするが....気のせいだろう。

お姉ちゃんはやりすぎたか?いやでもたしかアクセルって元々お姉ちゃん呼びだったような気がするが.....ここで廃ればアクセルファンの名が腐る。妥協は良くない。

ただそう思っている間にだんだんとエスカレートしていく。
「ぁぁああああ!!!どいつもこいつも邪魔しやがって僕の言いなりになっとけばいいんだよー!!!」

ドンッ!
瞬間、痛みが頬に走り、視界がグルっと暗転した

「へぶぅ...」
殴られる時も情けなく....それが、ファンとしてできることだ。
決まった...心の中でそう思っていると後ろにいた三人が悲鳴じみた声を出して駆け寄ってくる。

「お兄様!!」「「アクセル(様)!!」
その様子はもはや大げさとしか言えない。前もそうだったけど姉さんが涙目だもん。
ソフィアは俺を心配すると同時にレドを睨みつけ、ナ―シャは今すぐバレロナ様を呼ばんとばかりに声をあげようとする。

「よくもお兄様を...!」
「あ、アクセル!血!口元に血が...!?」
「誰か父を――!」



「―――やめて!!!!」
その一言で先程までザワザワと騒いでいた周りの貴族、目の前にいる馬鹿、そして俺のために動こうとしてくれた三人がこちらを注目して水面下のように皆黙っている。

「...バレロナ様には、言わないでください」

「っ!ですがアクセル様....!」

何かを言おうとしていたが、ナ―シャの方を向いて訴えると、彼女はなんとも言えない表情をして、黙り込んだ。

「お姉ちゃん、僕は大丈夫だから気にしないで?ソフィアも僕は平気だから」
そう言いながら立ち上がり彼女らにお礼をする。
アクセルという男はひどく自分のことで大事になることを恐れている。
自分のことで誰かに迷惑を掛けたくないのだ。
だから先程みたいに原作でもこうしてみんなに黙ってもらえるように声を荒げた。

そうして今も声を出さず目をパチリパチリと瞬いているレドに頭を下げ、おじきをした。

「....お願い、です。みんなを....どうか.....傷つけないでください.....」



「っ!」
目の前の人物にレドは驚くほかなかった。当たり前だ、今まで自分の言ってることに反対する者はいたが、ここまで露骨に拒否されたことなどなかったから。
自分の思い通りに出来ないことにレドは苛立ちを隠せず歯を食いしばりながら、アクセルのことを憎たらしく睨んでいた。

(くそっ!何なんだこいつ!僕がどれだけ言っても言うことが聞かないじゃないか!!生意気な!!)
そう思い、彼に再び殴ろうとした.....否、出来なかった。
今、自分が求婚した三人の目がこちらを修羅のごときその姿でこちらを向いているからだ。

もしその人に何かやったら、ただじゃおかないと言わんばかりに。
他人に今まで見たことのない彼女らの圧倒的な圧にレドは怯んでしまった。

(くっ....なんだよ.....なんなんだよ....!!)
自分ではどうすることも出来ないことに悔しさを覚え、レドはその場を去っていく。

「....覚えてろよ、アクセル・アンドレ・レステンクール....!」
そしてその現状を作った彼に恨み、憎しみを持ちながら――




「....終わった、か」
とりあえずなんとかこの場を乗り切った俺はふぅと息を吐き、いつも通りに戻す。
会場もさっきまで静かだったが、少し経つといつも通りに貴族らしい会話があちこちから聞こえてきた。

そしてそれは今も彼女らを諦めきれない貴族も同様で、再び近づいていく。

「マリア!?大丈夫か――」

「ソフィア、僕の愛を――」

「―――ちょっと黙って貰える?」
「―――少し黙ってて貰えますか?」

しかし二人の今まで感じたことのない強烈な圧とどす黒い雰囲気を感じ、彼らは冷や汗を出して近づけずにいる。お前ら...少しは頑張れよ....

その様子を見て呆れをだしてため息をついていると、その隣でナ―シャが声を掛けてきた。

「...なぜ、あのような真似を?」
彼女の目を見ると、そこにはいつものおおらかな目とは違う、鋭い目つきでこちらを睨みつけてくる。
そこには憤怒の色を宿し、ふざけた回答したら許さないと言ってるようであった。

「....なぜと言われましても、大事にすれば面倒でしょう?」

「....私達が傷つけられたら、あなたは黙って見ることができますか?」

「まぁ無理ですね」

「なら...!」



「だから、これは僕の我儘ですよ。ナ―シャ」

そう言って彼女の方を目を見てしっかりと向き合う。
すると彼女は何か言いかけたものが出すことが出来ないように、声を詰まらせている。

....まぁ、この人達を騙すのは無理そうだ。
残っている姉妹の方を向き、感じてしまう。

怒りを宿し、悲しみを宿し、そして俺を心配してくれている
.....そんなぐちゃぐちゃな思い、が


その空間が気まずさで支配されていると、急に音楽が会場全体に流れてきた。
これは....

「...ダンスパーティ、ですか」

「はい、せっかく一年の集まりなのにこのまま食事だけ、というのも勿体ないでしょう?それならこうした娯楽を楽しんだほうがいいと思いまして」

さっきまで怒りを宿していたとは思えない表情でナーシャはいつものおおらかな目で説明している。

周りも音楽を聞いて分かったのだろう。少しずつペアを組んで曲に会わせて踊り始めている。

「!こ、今度こそ...マリア、僕と踊ろう!」

「あぁこのメロディー、僕達を祝福しているように感じないかいソフィア?
さぁ一緒に踊ろう」

「おい、マリア今度こそ付き合え!踊りくらいいいだろ!」

「ねえソフィアお姉ちゃんあんな奴放っておいて踊ろうよ~なんならこのまま抜け出しちゃう?」

....なんか、もうこいつらのメンタルを称賛する他ないな。
いやだってさっきまで臆していたのに、音楽を流せばすぐこの態度だ。

「....今は聞かないでおきましょう。あなたの答えを」
そう言い、俺に手を差し伸ばしてくる

「その代わり、今回は一緒に踊ってもらいますよ、騎士《ナイト》様?」

その回答に俺は―――苦笑してしまう。

「あはは...なら付き合うしかありませんね」
その手を受け取ろうとして――固まってしまう。

その後ろでとてつもない圧を感じてしまうからだ。

「...全く、あの二人は....こんなときぐらいアクセル様を独り占めさせてくれないかしら」

ナ―シャの言ってることにまたもや苦笑してしまうが、それで彼女は手は引っ込めない。

「...ですが、ふふっ今回だけは一歩リードさせてもらいますよ」

彼女の元気ぽさを体現した笑顔がこちらを射止めてくる。
そういえばこの人、メインヒロインだったな、と思い出しその芯の強さを実感し、
今度こそ彼女の手を受け取った。


「――では、僭越ながらこのアクセル、ナ―シャ様をリードさせていただきます」



「あっ....ふふっはい、では私をリードしてくださいね?」
こうして、ナーシャとともにダンスパーティーを楽しみ、無事、男爵会議が幕を閉じた。





深夜 カロナイラ家の屋敷

「...さて」
俺はさっきまで横になっていたベットの中から飛び出し、いつもの服装に変え
部屋から出ていく。



「....いるんだろう?」


――――暗闇に潜む大蛇に目を向けながら

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