全てを失う悲劇の悪役による未来改変

近藤玲司

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「彼」がいない帰還

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「……では……バレロナ殿、短い間ですが、お世話になりました」

アクセルが毒を取り込んで、意識不明になって数日後、レステンクール領に帰る準備が出来たということで、マエル達は自分達の領地に帰るべく、馬車に乗る準備をしていた。

「あぁいや、マエル殿達との時間はとても有意義な時間でしたぞ……アクセル君はいいのか?」

バレロナがそう聞くと、苦渋を決断をしたのか、苦虫を噛み潰したような顔をして頷く。

「はい……うちと一緒に帰った所でアクセルが助かる可能性はないに等しいでしょう……それに………彼女達に辛い思いをさせるかもしれないので……」

そう言いながら、馬車の中で未だ意識が戻っていないソフィアと今も廃人と化してるマリアの方を向いた。

本当ならマリアは王都に残るべきなのだが、その様子をあまり人に見られる訳にも行かないということで学園長に特別な許可を得てしばらくは実家に帰ることになっている。

それを見たバレロナも悲観した顔に変化する。

「あの子達はアクセル君のこと、とても好まれていましたからな……いや、それはうちのナーシャも同じですかな」

同じく、自分の屋敷の方に目を向ける。
アクセルの容態を見た以降、彼女は未だに部屋から出ていない。

部屋の外から見たはずなのに泣き声が聞こえるのではないかと思うほど、彼女の部屋周りの空気は暗く、濁っている。


自分の娘に何も出来ない自分が情けないのか、顔を険しくしながら、手を握りしめている。

「……アクセル君のことはこちらに任せてくれ。なにかあればアルマン君を通して必ず連絡する」

「はい…アクセルのこと、お願いします」

バレロナとの会話を終え、隣を見ると今もマエルの妻であるリアーヌをシレイは彼女の背中をさすりながら慰めている。

「リアーヌさん……大丈夫です。アクセル君はきっと強い子ですから、ちゃんと戻ってくるはずです」

「うぅ……シレイさん……」

「何かあったら、いつでも来てくださいね?
絶対に力になりますから」

自分の娘も大丈夫ではない状況で辛いはずなのに、それでもリアーヌを慰めているシレイの姿。
強い人だ、マエルはそう思うのと同時にリアーヌの為にここまでしてくれる彼女に感謝した。

「リアーヌ。そろそろ……」

「……えぇ」
今も啜り泣きながら、彼女はシレイに別れを告げ、馬車の中に乗っていく。

「……また、会えるのを楽しみにしていますぞ」

差し出された握手に応えるようにマエルもまた彼の手を握り返す。

「……僕も、またバレロナ殿と会えるのを心待ちにしております」

それだけ告げて、最後に彼が馬車に乗り、自分達の故郷に帰るのだった。

だが、その空気は行く時の緊張感もありながらも楽しみにしていたあの和やかな空気ではなく、いるはずの人物がいないという、なんともいえない損失感と悲しみが漂っている空気。それが馬車の中を支配していた。



その様子を見ていた彼らの護衛である騎士達もまた、いつもよりも空気が淀んでいた。
特に……

「………う……ちょう?…………団長!!」

「ッ!……モルク?」


……特に、ジークの様子が一変していた。

「大丈夫すか?団長、あの時から様子が変っすよ?」

「あ、あぁすまない。問題ない……」

そう言いながらも、未だに顔色を暗くさせているジークの姿に声をかけたモルクもその様子を見ていたレイスも苦難な表情を浮かべる。


今まで彼女がこうして雰囲気を、特にここまで暗くなったことなど彼らはほとんど今まで見たことがない。

前にマエルが過労で倒れたと聞いた時に見たくらいだ。

その時は、始めこそ表情が悪かったが、それは束の間のことで、翌日には特に何事もなかったかのようにいつも通りにしていた。

だが、アクセルが意識不明になってから今日までの数日間、彼女がいつも通りに振る舞うことはなかった。

鍛錬の時も、ぼーっとすることが多く、何かぶつぶつと呟いていたり、さらにはモルクがナンパに行くことを止めることがなかった。

これには流石の彼も驚いており、どれだけの異常事態かを彼らは再認識させられていた。

「団長、気持ちは分かりますが、今は信じましょう。アクセル様ならその内すぐに戻ってきますよ」

レイスも彼女を励ますようにそう口にしたが、彼女はあぁ、と返事をしと特に変わりがない。

その様子に二人はお互い顔を合わせ、ため息をついてしまう。

まさか、ウィンドブルムの中でも最も恐れられた人物がここまで豹変するとは思わなかったのだろう。
それほど彼女にとってアクセルという人物は大きかったということを意味してる。

「……はぁ、仕方ないっすね。団長!これあげるんで元気出してください!」

今もぼーっとしているジークにモルクは頭を掻き回しながらもなにかを渡してくる。


「…これは?」

「俺手作りの特製ドリンクっす。とにかく今はこれ飲んでください。ほらっ、いっきいっきっす!」

そう促され、焦点が合わない目をしながらもジークは彼に言われた通りに飲む。


「……にがいな」

たった一言。だが、その一言にモルクはまるで引いているような、レイスは呆れた様子で彼女に伝える。

「…それ、俺も飲みましたが、とてつもなく不味かったですよ?よく平然といられますね」

「……そうなのか?若干苦いとしか…」

「この人、化け物っすね」

その様子にモルクは結論を出したように呟いた。
だが、今の彼女にとってはたったそれだけのことだろう。ジークはどこか遠くを見つめるように目を上の空にさせる。


「……アクセル様……」

それ以降、彼女がレステンクール領から帰るまで一言も言葉を発することはなかった。






そして、特に何事もなく、彼らは自分たちの故郷であるレステンクール領に着き、馬車から降りた後、自分の達の家である屋敷に目指して歩く。

街にいた住民達は、彼らが帰ってきたことに喜んだが、彼らの様子を見て、先ほどまで賑やかだったのが静寂に変わる。

ソフィアがまだ目を覚めなかったり、いつでも逞しかったマリアがリアーヌに支えられながら歩いてたり、何より彼らから漂う空気がどこか不穏であり、それが住民達の心の中に不安を生み出した。

「あ、あの…アクセル様がいないようですが……アクセル様は…?」

すると、住民の1人であるアクセルと同い年ぐらいである娘がマエルに近づいて聞いてくる。


彼女は密かにアクセルに好意を抱いており、
だからこそ彼がいないことに気づくことが出来た。また、彼のことが大好きと評されてるアクセルの妹と姉であるソフィアとマリアの様子が暗いことがより不安な気持ちを増大にさせていた。

それに対して、マエルは少し寂しそうな笑顔を浮かべながらもその娘に答える。

「アクセルはね……今は王都にいるんだ。
どうやらやる事があるらしくてね、しばらくはこっちに帰ってこないらしいんだ」


「そ、そうですか……」

娘は少し、残念そうに顔を俯くが、事実を知らない彼女にとってはそれがいいだろう。
なにせ、今にも命が危ういと知ったら、きっと不安な気持ちを爆発させるから。

また、それが住民達に伝播していって、それがまたこの街の問題になるかもしれないと考えたマエルは真実を隠した。

そして、彼女の問いに答えた後、再びその重い足取りでマエル達は歩き出した。



歩いて数分、経っただろうか。
周りに人がいなくなった時に、屋敷が見えた頃、彼らの目の前に帰りを待っているかのように立っている人物が見える。


「遅かったわね、何かあったんじゃないかって少し心配しちゃったわ」

大人びた雰囲気を出し、妖艶のような声を発したのは、混沌の魔女の一人であるユニーレ。

「…ただいま戻りました、ユニーレ様、ローレンス様」

どうしようもない暗い感情をなんとか顔に出さないように笑顔を浮かべて、いつも通りを演じるマエル。


「その呼び方はやめいと何度も言ってるであろうマエルよ?いつになってもその呼び方には慣れんわ」

ユニーレが幼くなった姿、しかしその威厳は彼女と並んでも遜色ない程の出しているその人物は混沌の魔女と呼ばれるようになった要因、ローレンス。


「ハハ、それは少し無理な相談ですね。ご先祖様達に恐れ多いです」

「まぁ好きに呼びなさい。それより」

彼女らはマエルの様子に特に気にすることはなく、ジークに背負られているソフィア、リアーヌに支えられているマリアに寄りかかり、彼女達を背負い抱える。

「お主も辛かろう?今は自分の身体と心を気にせい。ソフィアは我に任せて、自分の持ち場に戻れ。後ろにいるお主らもご苦労だったな。ゆっくり休んでおってくれ」

それに対してジークは少し躊躇していた。
アクセルにみんなを託されたのにこれで終わっていいのだろうか、と。

ただ二人は彼女のことを考えたのだろう。
ローレンスにお礼を言い、ジークを支えながら、歩き始める。

「ほら、団長?ひとまず今日は帰りましょう?自分の身体が大事っすよ」

「そうですよ。貴方まで倒れたら誰があそこを支えるつもりなんですか?」

「…………そう、だな………すみません…ソフィア様のことお願いします」

だが、彼女も思う所があったのだろう。
二人に帰るように促され、ローレンスの善意を受け取り、そのまま帰って行った。

「貴方もよリアーヌ?まずは身体を休めなさい。この子の事は私がなんとかしておくから」


「……ごめんなさい、ユニーレ様。では私は少し早く戻りますね」

彼女も精神的な疲れが限界に来たのだろう。
足をフラフラとさせながらも、なんとか屋敷に戻っていく。

「お二人とも…」

その様子にマエルは驚いていた。それと同時に申し訳なさを感じていた。自分がしっかりしないといけないのに、周りがよく見えていなかったと感じるほどには。

「……アクセルのことは聞いた。故に我らの心配は不要だ」


歩きながら突然ローレンスはそんなことを言うのだから、またまた驚く。だが、それならここまで平然といられるのは納得できると彼は考えていた。

「……ご存知、だったのですね。申し訳ありません……私がいながら…‥」

「大丈夫よ。あの人が自分で選んだ道だもの。それをとやかく言うつもりはないわ」

何も気にしてなさそうにユニーレは呟く。
今はその言葉が自分の罪悪感を更に増しているように感じてしまう。

アクセルのことは支えると決めたはずなのに、それがマリアを庇って意識不明という羽目になってしまったと。

変わることなら変わってあげたい。でもそれができない彼は情けないと感じるほかなかった。


「マエル、自分を責めることについて我は何も言うつもりはないが……それは——」

ローレンスは彼女らを見ながら呟く。

「——こやつらを、なんとかしてからだ」


「……そうですね…………お二人は、強いのですね」

アクセルがいないのに、彼女らは自分の出来ることをしようとしている。それは簡単なことではないはずなのに…
そんな二人に尊敬していると、二人はまるでそれが当たり前かのように語る。


「アクセルは必ず帰ってくるわ」

「あぁ、だからあやつが戻っても心配かけないように、我らは我らの出来ることをするだけだ」

その返答に……彼は失念していた。
どうしてアクセルが戻らないと感じていた。
そうだ、彼は不可能だと思っていた彼女らを救って帰ってきたではないか。
それならこれほどのこと、きっと造作もない。
彼ならば、無事に帰ってくる……それを親が信じないで、誰が信じるのだ。


そう思うや否や彼は、
表情を変え……そして、いつも通りに自分のやるべき事をやることにした。


「……行きましょう、アクセルならきっと帰ってきます。それまでに私たちがなんとかしなければ」

その様子に二人は微笑みながらお互い顔を合わせる。やはり、親は子に似るものだ、とそう考えながら…彼らは自分たちの屋敷に戻るのだった。
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