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後悔
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「………うっ…」
………ここは、どこですか?
そんな呟きと共に徐々に目を開いて意識を取り戻すソフィア。目を覚めるとそこは見覚えのある、だが今はあるはずのない天井が見える。
「……わ、たしは……」
ぼんやりとした記憶を取り戻すように頭を抑えながらも思い出していく。
自分の姉であるマリアのご学友の家に招待され、そこにアクセルと共に一緒に………
そして思い出したのだろう。意識が一気に覚醒するように彼女の顔は青ざめていく。
「ッ!お兄様っ!」
今すぐに探しに行きたい、でもそんな思いと裏腹に身体が言うことを聞いてくれないのか、動かした瞬間、全身に走る痛みに顔を顰めてしまう。
「くぅっ……!こんな痛み、お兄様の想いと比べたら……!」
そう、お兄様と比べたら……おにい、さま……と………
自分の兄であるアクセルのことを思い出した瞬間、彼女の目から一雫の涙が零れ落ちる。
「……お兄様……どうして、ソフィアを……私を、置いていって、しまうのですか………
…………私はただ…貴方と一緒に、いたいだけなのに……」
そんな小さく漏れ出た言葉を吐いて数分後。
しばらくすると、誰かが近づいてきたのか、徐々に足音が聞こえ、そしてノックとともにドアが開かれる。
「……ソフィア、目が覚めたのね」
「…ユニーレ、さん……」
そこにいたのは自分の師匠である存在。
彼女の顔はいつも通り、余裕を醸し出している笑顔を浮かべているが、きっと心配してくれたのだろう。少しクマができている。
本当なら感謝を伝えるべきだ。
だが、今のソフィアにあるのはただ一つ。
「……ユニーレさん……お兄様はどこにいるんですか?」
……兄である、アクセルの事だけだ。
目の前で血を吐いて倒れ、そんな記憶が脳裏に浮かんでしまう。
冷静になれるはずがなかった、そんな彼のことを思い出したら。
「…今は、ここにいないわ」
少し歯切れが悪くなりながらも、ユニーレは答えた。
「…なら、どこにいるのですか?屋敷の外にいるのですか?それとも、いつもの森の中ですか……?あぁ、そうなのですね?お兄様はお昼寝ばかりするのですから仕方ないと思います。早く私が行かなければ……」
自分の記憶とは裏腹に彼女は非現実的な言動を口にする。いないのはきっと外にいるからだ、そう違いない。彼女はあの衝撃な光景を目にして、真実を受け入れたくなかった。
だが、残酷にもユニーレは表情を変えずに現実を突きつけるように告げる。
「…今は意識が不明な状態よ。命が危ういと言ってもおかしくないわ。だからここにはいないわよ」
どこに、とは告げなかった。
今の彼女ならどんな手段を使ってでもアクセルに会おうとするだろう。
だが、その返答で十分だったのか、彼女の顔に光が失うのが目に見える。
「……………………ぇ………………………い、意識が……………ふ、めい……?」
その事実にソフィアはさっきまで起こそうとした痛みで満たしている身体が持ち上がらなくなる。
それは痛みからではない、疲れが来たからでもない……その事実を、受け入れないように守るためだ。
現に彼女は何かぶつぶつと呟いている。
普段、あのお淑やかで無意識に出る笑顔が魅力な彼女には似合わない……深い、深い、闇がソフィアの空気を包んでいる。
「……ぇ?…え?ど、どうして、ですか?
だって、あれは夢で……私はまだ、みんなとラスティアに行っていなくて…これから、向かう所で……え?え?な、なんでもう記憶があるのですか?お、おかしいですね私。きっと夢と現実が混ざり合って記憶が曖昧で……」
そして、手で頭を抑えようとした時、左の薬指にきらりと、光るものに目が入る。
「……これって…お兄様から、貰った……」
忘れるはずがない、兄から貰った大切な、大切な指輪。
普段どこにでもありそうな、寧ろ貴族なら当たり前につけていそうな、そんなありふれた見た目のシンプルな見た目だ。
だが、彼女はそんな指輪を大切に身につけていた。その証拠にそれを見た瞬間、自分の全てを包むかのように触れている。
そしてこれがきっかけなのだろう。
今までのは夢でもなんでもない……現実であるということを……理解するしかなかったのだ。
「………じゃあ、やっぱり、あの時見た、光景は……本当で……」
再びフラッシュバックするかのごとく思い出すあの悲惨な記憶。
「……ぃゃ……ぃや………」
その記憶による精神攻撃に今の彼女が耐えれることなど——
「いやああぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!!!!!!」
——万に一つ、なかったのだ。
ソフィアのそんな悲鳴とも呼べる声を聞いたユニーレはすぐに彼女に近づき、いつもの彼女らしからぬ優しい声でソフィアを慰める。
「ソフィア?大丈夫、大丈夫よ…アクセルはきっと……」
「いやっ!いやぁ!!お兄様ぁあ!!ひとりにしないでぇ!!どこにもいないでぇ!!ソフィアを見捨てないでくださいっ!!お兄様っ!!お兄さまぁ!!おにいさまぁああ!!!」
何かに縋るように目の前の空間に手を伸ばし、身体を暴れさせる。それを見たユニーレには彼女を抑えるように抱きしめるしかなかった。
今の彼女にその声は届かない。
また自分は置いてかれる、また見捨てられる。また……私を一人にさせる。
禁句の魔導書の中に入った彼を待ち続けていた不安、悲しみ、様々な感情がまた蘇るように爆発した。
「ソフィアっ…落ち着きなさ」
「離してっ!」
「っ!?…くっ…!」
振り解くようにユニーレの脇腹に自分の腕を振るソフィア。それを受けたユニーレは苦痛な声を漏らし、彼女から離れてしまった。
「……どうして………どうしてぇ……………どうしてっ!!」
今も大切に身につけている指輪を自分の胸元に寄せ、大事に触りながら、大粒の涙を流すソフィア。
そこから出るのは兄を責める言葉……ではなかった。
「………どうして、いつも私は………お兄様が辛い時に……そばに、居られないのですか……どうして、お兄様の命が危うい時に……何も、出来ないのですか……お兄様が何か大切な物のために奮闘しているのに………そふぃあは……わ、たしは……!」
そこから漏れ出た言葉は、何も出来ない自分に対する卑下の数々。
涙を流す度に出てきた悲しみと同時に出てきた劣等感、そんな思いが彼女の心を支配する。
それを聞いたユニーレは…唇を噛み締めながら、今も組んでいる腕を力強く握りしめる。
彼女も、出来れば止めたかった。最後に彼に自信よく笑って見せたのに……そんな彼の期待を裏切るように彼女もまた、自分を責め続ける。
(…私に、もっと力があれば……)
だが、そんな自責はこれが終わってからだ。
そう割り切ると再びユニーレはソフィアに近づいく。
「ソフィア……気持ちは、痛いほど分かるわ……でもまだ、彼は死んだわけじゃないわ。だから彼が帰ってくるまで、元気に待っていましょう?そっちの方がいいじゃない」
彼女にとってソフィアもまた、大切な存在の一人になっていた。
きっかけはアクセルかもしれない…いやアクセルが自分を連れ出したことで巡り合わせてくれた運命。
真面目で、頑張り屋で、兄に対する想いはとても愚直な…そんな愛弟子の彼女のことをユニーレは放っておくはずがなかった。
だから元気になって欲しい……だが、思いとは裏腹にソフィアから出る言葉は彼女の求めるそれではなかった。
「………なんで、止めなかったのですか?」
「…えっ?」
不意にユニーレに対するその言葉。
初めこそ声は小さかったが、それがどんどんエスカレートするごとに大きくなっていく。
「なんで、その力がありながら…お兄様を止めなかったのですか…!どうして、お兄様がそこまで傷ついて尚、貴方は平気でいられるのですかっ!!なんで……!なんで………」
「ッ!」
「……お兄様って、時々遠くを見るんです…
私たちを見ているようで、違う…まるで、他の誰かを見ているように……その時の顔が……すごく、寂しそう、なんです…」
おそらく、心当たりがあるのだろう。
ユニーレもまた彼の表情を思い出しては、顔を下に俯かせている。
ソフィアは何も出来ない自分に、後悔していた。
確かに他人にはない特異な物は見つけられた。そして魔法のスペシャリストである彼女達に教えを受けている。
嬉しかった、自分にもあの人の力になれるかもしれない。支えてあげられるかもしれない……だがそれは、妄想でしかなくなった。
自分がどれだけ強くなっても、自分がどれだけあの人と笑っていても、どれだけ自分が彼を支えようと頑張ろうと……彼が見ているのはいつも遠くで、そして私ではない誰か。
それが、どれだけ辛いのか、彼は分かるのだろうか、いや分かるはずがない。そしてその度に映る彼の寂しそうな表情に…いつも胸が締め付けられてしまっている。
何も出来ない自分が……悔しい。
支えてあげられない自分が…うざい。
彼を幸せにさせてあげられない自分が…憎い。
だから力があったローレンス、ユニーレのことが羨ましかった。
彼も二人には何かを頼っているようで……胸は締め付けられるが、それでも、少しでも彼が他人に頼ること姿を見て嬉しかった。
だからこそ、アクセルのことを止めることが出来なかった二人が……ソフィアは許せなかった。
自分自信が一番許せないはずなのに……。
「……お兄様を返して……返してよぉ……」
その言葉にユニーレは……何も、言えなかった。
力ずくでも止めれたはずだ。彼のやろうとしている事に猛反対出来たはずだ。
それくらいの力があったはずなのに…彼女はアクセルを止めることを拒んだ。
彼に嫌われるのが怖かったのかもしれない、彼に見捨てられるのが嫌だったのかもしれない……でも、それだけだ。
結局のところ、彼を辛い道に歩ませてしまったのだから。
その道を否定する気はないと言ったのに…
彼のことを信じていると決めたのに………
その判断が、彼を無意識に傷つけてしまった。
それらを自覚した時、彼女は誰にも気付かれないほどの薄い一筋の雫を流した。
「……これが、後悔、することなのね………ふふっあの人にはいつも……教えられて、ばかり、ね……」
皮肉なものだ。彼がいなくなってから自分の求める変化をまた教えてくれたのだから……
「……ごめんなさい」
その一言はどちらが呟いたのかは分からない。言い過ぎってしまったソフィアなのかか、それとも彼を止めることが出来なかったユニーレなのか…はたまた同時に出た言葉なのか……。
それ以降、彼女達が一言も言葉を発する事はなく、ユニーレはまた来るわねと呟き出て行った。
◇
誰もいない、静寂が支配する廊下を歩き続けるユニーレ。
「……大丈夫であったか?」
そんな彼女に声をかけてきた人物…ローレンスが声を発する。
「………あの様子じゃあ、まだ無理そうね」
「そうか…こちらも同じようなものだ。やはりそう簡単にはいかないものだな」
「……ねぇ」
すると、突如ユニーレの声がもう1人の片割れであるローレンスの耳に入ってくる。
それに対して、彼女は「どうしたのだ?」と疑問を持って聞いてくる。
「……私たちは、あの時…アクセルを力ずくでも止めるべきだったんじゃないかしら」
彼女らしからぬ弱々しい声、そしてまるでその選択に後悔しているかのような様子の彼女にローレンスは驚きの表情をし、そして目を伏せながら顔を下に落とす。
「……もしかしたら我が本気で止めれば、何か変化があったのではないか、我があの糞どもをもっと早く消し去れば、アクセルは、何も考えずに心から笑っていられたのではないか……そんなこと……」
何回も考えたぞ。呟いてもいないのにそんな風に言っている気がした。
「…だが、それでも我は、この選択をした。
それが辛い道だとしても……我は進むと決めたのだ」
そこからはあの弱々しいローレンスはいない。まるで何かを振り切ったように、何かを決意をしたようにな意思を持っている彼女に…弱々しい笑顔をユニーレは浮かべた。
「…強いわね、貴方は」
「お主もそんなこと言うか?我は…彼の意思を尊重したいだけだ」
「……そうね」
「……今は進もう。まだまだやらなければならないことが山程あるのだ」
その言葉に頷き、二人は歩いて行く。
そこにあるのが、たとえ茨の道だとしても……彼女達は歩き続けなからばならない。
それが彼女達の選択なのだから。
………ここは、どこですか?
そんな呟きと共に徐々に目を開いて意識を取り戻すソフィア。目を覚めるとそこは見覚えのある、だが今はあるはずのない天井が見える。
「……わ、たしは……」
ぼんやりとした記憶を取り戻すように頭を抑えながらも思い出していく。
自分の姉であるマリアのご学友の家に招待され、そこにアクセルと共に一緒に………
そして思い出したのだろう。意識が一気に覚醒するように彼女の顔は青ざめていく。
「ッ!お兄様っ!」
今すぐに探しに行きたい、でもそんな思いと裏腹に身体が言うことを聞いてくれないのか、動かした瞬間、全身に走る痛みに顔を顰めてしまう。
「くぅっ……!こんな痛み、お兄様の想いと比べたら……!」
そう、お兄様と比べたら……おにい、さま……と………
自分の兄であるアクセルのことを思い出した瞬間、彼女の目から一雫の涙が零れ落ちる。
「……お兄様……どうして、ソフィアを……私を、置いていって、しまうのですか………
…………私はただ…貴方と一緒に、いたいだけなのに……」
そんな小さく漏れ出た言葉を吐いて数分後。
しばらくすると、誰かが近づいてきたのか、徐々に足音が聞こえ、そしてノックとともにドアが開かれる。
「……ソフィア、目が覚めたのね」
「…ユニーレ、さん……」
そこにいたのは自分の師匠である存在。
彼女の顔はいつも通り、余裕を醸し出している笑顔を浮かべているが、きっと心配してくれたのだろう。少しクマができている。
本当なら感謝を伝えるべきだ。
だが、今のソフィアにあるのはただ一つ。
「……ユニーレさん……お兄様はどこにいるんですか?」
……兄である、アクセルの事だけだ。
目の前で血を吐いて倒れ、そんな記憶が脳裏に浮かんでしまう。
冷静になれるはずがなかった、そんな彼のことを思い出したら。
「…今は、ここにいないわ」
少し歯切れが悪くなりながらも、ユニーレは答えた。
「…なら、どこにいるのですか?屋敷の外にいるのですか?それとも、いつもの森の中ですか……?あぁ、そうなのですね?お兄様はお昼寝ばかりするのですから仕方ないと思います。早く私が行かなければ……」
自分の記憶とは裏腹に彼女は非現実的な言動を口にする。いないのはきっと外にいるからだ、そう違いない。彼女はあの衝撃な光景を目にして、真実を受け入れたくなかった。
だが、残酷にもユニーレは表情を変えずに現実を突きつけるように告げる。
「…今は意識が不明な状態よ。命が危ういと言ってもおかしくないわ。だからここにはいないわよ」
どこに、とは告げなかった。
今の彼女ならどんな手段を使ってでもアクセルに会おうとするだろう。
だが、その返答で十分だったのか、彼女の顔に光が失うのが目に見える。
「……………………ぇ………………………い、意識が……………ふ、めい……?」
その事実にソフィアはさっきまで起こそうとした痛みで満たしている身体が持ち上がらなくなる。
それは痛みからではない、疲れが来たからでもない……その事実を、受け入れないように守るためだ。
現に彼女は何かぶつぶつと呟いている。
普段、あのお淑やかで無意識に出る笑顔が魅力な彼女には似合わない……深い、深い、闇がソフィアの空気を包んでいる。
「……ぇ?…え?ど、どうして、ですか?
だって、あれは夢で……私はまだ、みんなとラスティアに行っていなくて…これから、向かう所で……え?え?な、なんでもう記憶があるのですか?お、おかしいですね私。きっと夢と現実が混ざり合って記憶が曖昧で……」
そして、手で頭を抑えようとした時、左の薬指にきらりと、光るものに目が入る。
「……これって…お兄様から、貰った……」
忘れるはずがない、兄から貰った大切な、大切な指輪。
普段どこにでもありそうな、寧ろ貴族なら当たり前につけていそうな、そんなありふれた見た目のシンプルな見た目だ。
だが、彼女はそんな指輪を大切に身につけていた。その証拠にそれを見た瞬間、自分の全てを包むかのように触れている。
そしてこれがきっかけなのだろう。
今までのは夢でもなんでもない……現実であるということを……理解するしかなかったのだ。
「………じゃあ、やっぱり、あの時見た、光景は……本当で……」
再びフラッシュバックするかのごとく思い出すあの悲惨な記憶。
「……ぃゃ……ぃや………」
その記憶による精神攻撃に今の彼女が耐えれることなど——
「いやああぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!!!!!!」
——万に一つ、なかったのだ。
ソフィアのそんな悲鳴とも呼べる声を聞いたユニーレはすぐに彼女に近づき、いつもの彼女らしからぬ優しい声でソフィアを慰める。
「ソフィア?大丈夫、大丈夫よ…アクセルはきっと……」
「いやっ!いやぁ!!お兄様ぁあ!!ひとりにしないでぇ!!どこにもいないでぇ!!ソフィアを見捨てないでくださいっ!!お兄様っ!!お兄さまぁ!!おにいさまぁああ!!!」
何かに縋るように目の前の空間に手を伸ばし、身体を暴れさせる。それを見たユニーレには彼女を抑えるように抱きしめるしかなかった。
今の彼女にその声は届かない。
また自分は置いてかれる、また見捨てられる。また……私を一人にさせる。
禁句の魔導書の中に入った彼を待ち続けていた不安、悲しみ、様々な感情がまた蘇るように爆発した。
「ソフィアっ…落ち着きなさ」
「離してっ!」
「っ!?…くっ…!」
振り解くようにユニーレの脇腹に自分の腕を振るソフィア。それを受けたユニーレは苦痛な声を漏らし、彼女から離れてしまった。
「……どうして………どうしてぇ……………どうしてっ!!」
今も大切に身につけている指輪を自分の胸元に寄せ、大事に触りながら、大粒の涙を流すソフィア。
そこから出るのは兄を責める言葉……ではなかった。
「………どうして、いつも私は………お兄様が辛い時に……そばに、居られないのですか……どうして、お兄様の命が危うい時に……何も、出来ないのですか……お兄様が何か大切な物のために奮闘しているのに………そふぃあは……わ、たしは……!」
そこから漏れ出た言葉は、何も出来ない自分に対する卑下の数々。
涙を流す度に出てきた悲しみと同時に出てきた劣等感、そんな思いが彼女の心を支配する。
それを聞いたユニーレは…唇を噛み締めながら、今も組んでいる腕を力強く握りしめる。
彼女も、出来れば止めたかった。最後に彼に自信よく笑って見せたのに……そんな彼の期待を裏切るように彼女もまた、自分を責め続ける。
(…私に、もっと力があれば……)
だが、そんな自責はこれが終わってからだ。
そう割り切ると再びユニーレはソフィアに近づいく。
「ソフィア……気持ちは、痛いほど分かるわ……でもまだ、彼は死んだわけじゃないわ。だから彼が帰ってくるまで、元気に待っていましょう?そっちの方がいいじゃない」
彼女にとってソフィアもまた、大切な存在の一人になっていた。
きっかけはアクセルかもしれない…いやアクセルが自分を連れ出したことで巡り合わせてくれた運命。
真面目で、頑張り屋で、兄に対する想いはとても愚直な…そんな愛弟子の彼女のことをユニーレは放っておくはずがなかった。
だから元気になって欲しい……だが、思いとは裏腹にソフィアから出る言葉は彼女の求めるそれではなかった。
「………なんで、止めなかったのですか?」
「…えっ?」
不意にユニーレに対するその言葉。
初めこそ声は小さかったが、それがどんどんエスカレートするごとに大きくなっていく。
「なんで、その力がありながら…お兄様を止めなかったのですか…!どうして、お兄様がそこまで傷ついて尚、貴方は平気でいられるのですかっ!!なんで……!なんで………」
「ッ!」
「……お兄様って、時々遠くを見るんです…
私たちを見ているようで、違う…まるで、他の誰かを見ているように……その時の顔が……すごく、寂しそう、なんです…」
おそらく、心当たりがあるのだろう。
ユニーレもまた彼の表情を思い出しては、顔を下に俯かせている。
ソフィアは何も出来ない自分に、後悔していた。
確かに他人にはない特異な物は見つけられた。そして魔法のスペシャリストである彼女達に教えを受けている。
嬉しかった、自分にもあの人の力になれるかもしれない。支えてあげられるかもしれない……だがそれは、妄想でしかなくなった。
自分がどれだけ強くなっても、自分がどれだけあの人と笑っていても、どれだけ自分が彼を支えようと頑張ろうと……彼が見ているのはいつも遠くで、そして私ではない誰か。
それが、どれだけ辛いのか、彼は分かるのだろうか、いや分かるはずがない。そしてその度に映る彼の寂しそうな表情に…いつも胸が締め付けられてしまっている。
何も出来ない自分が……悔しい。
支えてあげられない自分が…うざい。
彼を幸せにさせてあげられない自分が…憎い。
だから力があったローレンス、ユニーレのことが羨ましかった。
彼も二人には何かを頼っているようで……胸は締め付けられるが、それでも、少しでも彼が他人に頼ること姿を見て嬉しかった。
だからこそ、アクセルのことを止めることが出来なかった二人が……ソフィアは許せなかった。
自分自信が一番許せないはずなのに……。
「……お兄様を返して……返してよぉ……」
その言葉にユニーレは……何も、言えなかった。
力ずくでも止めれたはずだ。彼のやろうとしている事に猛反対出来たはずだ。
それくらいの力があったはずなのに…彼女はアクセルを止めることを拒んだ。
彼に嫌われるのが怖かったのかもしれない、彼に見捨てられるのが嫌だったのかもしれない……でも、それだけだ。
結局のところ、彼を辛い道に歩ませてしまったのだから。
その道を否定する気はないと言ったのに…
彼のことを信じていると決めたのに………
その判断が、彼を無意識に傷つけてしまった。
それらを自覚した時、彼女は誰にも気付かれないほどの薄い一筋の雫を流した。
「……これが、後悔、することなのね………ふふっあの人にはいつも……教えられて、ばかり、ね……」
皮肉なものだ。彼がいなくなってから自分の求める変化をまた教えてくれたのだから……
「……ごめんなさい」
その一言はどちらが呟いたのかは分からない。言い過ぎってしまったソフィアなのかか、それとも彼を止めることが出来なかったユニーレなのか…はたまた同時に出た言葉なのか……。
それ以降、彼女達が一言も言葉を発する事はなく、ユニーレはまた来るわねと呟き出て行った。
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誰もいない、静寂が支配する廊下を歩き続けるユニーレ。
「……大丈夫であったか?」
そんな彼女に声をかけてきた人物…ローレンスが声を発する。
「………あの様子じゃあ、まだ無理そうね」
「そうか…こちらも同じようなものだ。やはりそう簡単にはいかないものだな」
「……ねぇ」
すると、突如ユニーレの声がもう1人の片割れであるローレンスの耳に入ってくる。
それに対して、彼女は「どうしたのだ?」と疑問を持って聞いてくる。
「……私たちは、あの時…アクセルを力ずくでも止めるべきだったんじゃないかしら」
彼女らしからぬ弱々しい声、そしてまるでその選択に後悔しているかのような様子の彼女にローレンスは驚きの表情をし、そして目を伏せながら顔を下に落とす。
「……もしかしたら我が本気で止めれば、何か変化があったのではないか、我があの糞どもをもっと早く消し去れば、アクセルは、何も考えずに心から笑っていられたのではないか……そんなこと……」
何回も考えたぞ。呟いてもいないのにそんな風に言っている気がした。
「…だが、それでも我は、この選択をした。
それが辛い道だとしても……我は進むと決めたのだ」
そこからはあの弱々しいローレンスはいない。まるで何かを振り切ったように、何かを決意をしたようにな意思を持っている彼女に…弱々しい笑顔をユニーレは浮かべた。
「…強いわね、貴方は」
「お主もそんなこと言うか?我は…彼の意思を尊重したいだけだ」
「……そうね」
「……今は進もう。まだまだやらなければならないことが山程あるのだ」
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その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
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