全てを失う悲劇の悪役による未来改変

近藤玲司

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目前、迫り来る二度目

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「……本当なのですか?」

マエルの問いかけに、ローレンスは顔を険しくさせながらも頷いた。

「あぁ、我が部屋に入った時には誰もいなかった」

そう、ソフィアの行方が分からなくなったのだ。ローレンスはそれを理解した直後、混乱しそうになった頭をなんとか落ち着かせ、即時にマエルや今王都にいるであろうユニーレに報告。

駐屯地にいたマエルはその報告を受け、その場にいた騎士全員に決死の表情でソフィアの捜索を指示し出す。

それに対し、さっきまで模擬戦していた騎士達、特にジークは顔色の悪い表情をさらに青ざめさせて、すぐに街の外に出てソフィアを探す。

その間にマエルは運動に慣れてないであろう身体で全力疾走をして屋敷へと向かう。そして、ソフィアの部屋に息を切らしながらも辿り着き、入った時には……ローレンス以外誰もいなかった。

そして現在、二人はマエルの部屋で対面で向き合いながら座っている。
どちらもあまり余裕がないでいる。三人のケアを自分の健康を顧みずに毎日しており、その一人であるソフィアが何処へ行った。

精神的なダメージが大きいのだろう。マエルはこめかみを手で抑えながら、抑えきれないため息を吐いてしまう。


「まさか、ソフィアの行方が分からなくなるとは…完全に予想外でした」

「すまぬ、我も油断していた。あっちから彼女らを襲うことを予測して、魔法を張っていたのだが、反応がなかった。おそらくソフィアが自らここを出て行った可能性が高い……その可能性を考慮していなかった」

「いえ、仕方ありません。それよりも今はどうするべきかを考えねば……」

マエルがそう呟いた直後、扉が開く音がした。二人が扉の方を見るとそこにはユニーレと……おそらくついて来たのであろうアルマンがいた。

「その様子だと…ソフィアは見つかってないようね」

ある程度予想していたのか、彼女の表情に変化はない。ただあまり気楽に考えてはおらず、既に顔は部屋にいた二人と同じく険しくさせている。

「ユニーレ様…それに、アルマン?どうしてここに?」

アルマンがいると思っていなかったマエルは目を少し見開いて彼に聞いてくる。

「僕も、特別に学園長から休暇を貰いました。ユニーレ様から父上達が苦労なさってると聞いて、いても立ってもいられませんでした」

その返答にマエルは…苦笑してしまう。
アルマンは今、自分の人生を歩んでいる。それの邪魔をするべきではないと思い、あまり干渉させないようにしていたのだが…どうやら予想以上に熱い男だったらしい。

そしてそんな家族思いの息子に育って嬉しいとも思うから少し複雑だ。

「それに、少し気になるものが…」

するとアルマンはマエルにとある資料を見せてくる。それを受け取った彼は疑問に思いながらもその資料を一通り目を通し…眉を顰める。

「……剣や鎧のような武具店の売り上げが急上昇している。しかもこれは……ペレク家直属の……」

「はい。それに、騎士のような剣や甲冑だけではなく、ナイフ、斧、それに甲冑ではなく、レザーの鎧まで……明らかに騎士とは違うものまで買っているのです」

その急な武具の大量購入に疑問を覚える。
ただある程度は予想できる。少なくとも…今のレステンクールに関係していることなのだろうということは分かる。

「それと、奴らが数日前に動き始めたわ。一人二人ではなく、大勢の人を連れてね」

付け加えるようにユニーレは言い放って、それに対してマエルは…少し冷や汗をかく。

「…私たちを襲うつもりか?」

その言葉にアルマンは首を振る。

「いえ、それはありえません。もしそんな大規模な数で襲ってくるのならば、何かの許可証が必要です。それも王族にも許可を貰えるような……バレロナ様曰く、そんなものは貰ってないとのことです」


「では何のために……?私たちは何も関係ない?いやだとしても動きが急すぎる」

その二人のやり取りを見ていた魔女組はお互い目を配らせる。

(…おそらく動き出したのね)

(うむ、アクセルの言った通りであるならば……少しばかり急がねば…)

以心伝心、お互いがかつて同じ存在だったからこそ使えるその技術を通して、彼女らも彼女らで動き始まる。

「…じゃあ私は戻るわね。少しやる事があるから」

まぁ言っても聞こえてないと思うけど。
今もそのペレク家の動きについて話し合っている二人を横目にユニーレは出ていく。

「あぁ…もし可能ならソフィアのことも……」

「そんなの、言われなくてもやるわよ…あの子にはまだ、教えきれてないことがたくさんあるもの」

そう呟き、今度こそ出て行った。

(…さて、マリアの様子は微妙…ジークの精神状態はおそらく限界に近い……どうする…アクセル曰く、魔族が二体いると思われる。
我なら奴ら相手でも容易いが……その間、彼らを守り切れるか…‥)

おそらく近づいているであろう、彼らの二度目の悲劇が目前に迫っている事を知り、ローレンスの額にに一筋の汗が流れた。







一方、王都では未だ目が醒めないアクセルの様子をナーシャは看病しつつ見守っていた。

「いつも来ていただいてすみません。今は人手が足らなくて……ナーシャ様が来てくださって助かります」

「いえいえ!私がしたくてしているだけなので、特にお気になさらず!」

神殿に務めているシスターにお礼を言われた彼女だが、特に気にしてないように彼女の魅力である屈託のない笑顔を浮かべた。

それを見た周りの人達はその笑顔に心を和ませる。十三歳にもなっても尚、その魅力が消えないことを考えると、これは天性の賜物だと言わざるおえない。

そしてそんな彼女の心の中は笑顔に反して、暗闇のように曇らせていた。

(…アクセル様………)

今も弱々しく動いている心臓。それが彼女の今の原動力であった。やっと出会えた自分の想い人、そんな人物を易々と死なせる訳にはいかなかった。でなければ、自分の心が崩れそうになってしまいそうなのだから。

今も眠っているアクセルの手をナーシャは力強く握った。どこにも行かせないように……

「……早く、帰ってきてください……貴方ならば……その天災にもなりうる毒にも、負けないのでしょう?」

この世界での毒は天災になりうる禁句的な物であった。
そんなものにナーシャはアクセルなら打ち勝てると信じていた。それはまさに夢物語もいい所だろう。だが、彼ならば成し遂げられるという確信のある何かが彼女の中にはあったのだ。


「ナーシャ様、そろそろ……」

すると、護衛である一人の騎士がナーシャに声をかけた。ナーシャは心惜しくもアクセルの手をそっと離した。

「……また会いに来ますね?」

その言葉が帰ってくるわけもなく、シスター達のお礼を受けながらその場を去っていく。


「ナーシャ様、こういうことを言う立場ではありませんが……そこまで無理をなさらなくても……」

その様子を心配しているのか、騎士がナーシャに伝える。彼女はその言葉を嬉しく思いながらも、大丈夫ですと言った。

「アルマン様から頼まれました……あの家に影ながら協力している者達の証拠を集めて欲しいと……それが、アクセル様の助けになるのなら……」

彼女は決意を込めがら、しっかりとした足取りで歩んでいく。

「まずはこの家とこの家を……多少強引にでも構いません。父からは許可をもらっています」

「はっ…!」

そこにいるのは、さっきまでの曇っていた少女ではない。誰よりも誇り高く、そして責任を真っ当しようとしている少女だけだ。





そして今、大勢の騎士を連れて、とある森にまで待機をさせている男がいた。
その男は自分用にテントを騎士達に立てさせ、その中にあった椅子に堂々と座っている。

「ふんっ計画を確実にさせるために、なんとかここまで持ってきてやったぞ。有り難く思うんだな」

そう言うと、テントの中にいたもう一人の男は下品な笑みを浮かべる。

「へへっ…流石はゼノロア様。将来、この国の王になられるお方。太っ腹にも程がありますぜ」

そこには大量の武具が揃っていた。わざわざここまでこんな見窄らしい盗賊に自分の金を消費するなど、誇り高いゼノロアならありえない。

だが、これも計画のためだと言い聞かせ、少なくない金で大量の武具を買ってみせた。

「そんなお世辞は良い。それよりもやってくれるんだろうな?」

確認するかのように聞くが、承知の上なのか、笑みを絶やさないでしっかりと頷く。

「任せてくださいよ。準備に数日は掛かりますが、確実にやらせてもらいやすぜ?」

その答えにゼノロアは隠しきれない歪みを顔に出す

「ならいい。要件は済んだ。さっさとここから出ていけ」

「へへ、冷たいお方だこと」

そう言いながらも椅子から立ち上がり、彼の言われた通りに、そのリーダーであろう盗賊は出て行った。

「くくっ、数日後に奴らが無様に散る姿を想像すると……あぁいい気味だ。全てはお前達から始めたものなのだぞ?後悔してももう遅い」

未だに抑えきれない彼らに対する復讐心が、憎悪が、今の彼の心を踊らしていた。

「……呑気なものっすね」

「ッ!」

背後から声が聞こえそちらを向くと…そこにはいつもの魔族ではなく、滅多に見ないもう一人の魔族が現れた。

「…呑気だと?」

だが、その言葉が癪に触ったのか、額に血管を浮かばせながら後ろにいる魔族に聞く。

「えぇ、俺も一応貴方達には協力しましたが……本当にこんなんで成功するんですかね?奴はあんな物を貰うことで力を貸していますが、正直、割に合わないっすよ」


「……何が言いたい?」


まるで自分そのものを否定されたように言われ、その言葉に怒気が入る。だが、それを全く気にしていないようにのらりくらりとしながら、ゼノロアに言い放った。

「まぁでも、一応短くない付き合いっす。それに免じて、忠告だけはしてあげるっすよ……

その言葉には強烈な印象を与える。まるで心臓を鷲掴みされているような、この結末が見えているような得体の知れない物を感じ、ゾクっとさせる。


「……まっ、気をつけることっすね。俺はあっちで見守ってますから」

そして、そのまま…瞬きの間にその姿は影のように消え去っていった。

「…何が、呑気なものだと…?」

恐怖以上に怒りを感じてるのか、手を力強く握りしめている。

「いいだろう……俺があんな奴らに負けないということを…証明してやる…!」

顔をあげると目を血走らせ、唇を噛み締めながら、魔族に宣戦布告のようにその机は叩かれた。
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